命名
「助けてくれタケシ、名付けが……名付けが難しすぎる……」
「あー……そういえばギルドを設立して、ギルド名が『ものづくりギルド(仮)』だったな」
「そうなんだ、全然ギルド名が思いつかなくてさ……何かこう、考え方を教えてくれ……」
「そうだな……人の場合は神話などから取る場合が多いが……」
アテナさん、アトラスさん、アルテミスさんはこのパターンだな。
タイガさんは虎の獣人だから、そのままタイガーからだろう。
「ギルド名ってなると、そのギルドの方針に合う神話の地名だとか、人物名をもじって付けるのがアリかな」
「ギルドの方針……か」
「ま、その仮の名前から見るに、ものづくりメイン……クラフター中心で構成するんだろ?」
「ああ」
「それならものづくりの神様にあやかってみるとかかな。調べたら結構名前が出てくるんじゃないか?」
「そうだな、ありがとう」
とりあえず方針は決まった……かな?
今日の仕事が終わったらネットで調べてみるか。
「……ところでオレは、ランクCのベッドが作れたというのが気になるんだが」
「あー……確かに回復手段のランクアップは大きいよな」
「もし在庫が余ったら融通してくれよ。市場価格より色を付けるぜ?」
「分かった。まずは在庫が確保できるように、今日から力を入れて作っていくよ」
「おう、期待してるぜ」
今のところ作ったランクCのベッドは、俺たち3人が使用している。
アトラスさんはHPが高いし、アテナさんは衣服の作製でかなりHPを使うみたいだから重宝しているとか。
俺は……今のところ支給品のベッドで事足りてるが、ものづくりが本格的になっていったら、7時間での回復は休日に重宝するだろうな。
「……ん?」
「タケシ、どうかしたのか?」
「コウ、これ見てみろよ」
「どれどれ……おお、いいアップデートじゃないか」
タケシのスマホに届いたプッシュ通知は、ワールドクリエイターズの次回アップデート情報。
アルラウネがペットモンスターにできるようになって、要望がたくさん届いたのだろう。
内容はこんな感じだ。
・町などの非戦闘地域では、ペットモンスターを何匹でも連れて歩ける
・戦闘が起こる地域では外に出せるのは1匹のみ。ただし、戦闘中を含めいつでも交代が可能(ただし戦闘中の場合は3分のクールタイムあり)
「へえ、これはありがたいな」
「ああ、それにいつでも交代できるから戦略の幅も広がるぞ」
「つまり、ペットモンスターの数が増えれば増えるほど有利になるのか……」
「ま、今のところペットにする方法が分かってるのはアルラウネだけなんだが……そのうち増えていくだろう。ちなみにこんなアップデートもあるぜ。コウ向きじゃないか?」
「ん? どれどれ……」
・詠唱システムの導入につき、詠唱の内容を募集します
「ええと……?」
「今は魔法の名前……例えば『ファイア』と言うだけで発動するだろ?」
「ああ、いわゆるほぼ無詠唱みたいな感じか」
「それに前置きの詠唱を付けると、威力が上がるシステムなんだ。で、それの詠唱内容を募集するって話だな」
「……で、それのどこが俺向きなんだ?」
「ん? 昔、ファンタジー魔法の詠唱を暗記して披露してただろ? えーと、なんだっけ……闇よりも……」
おおおおおおい!? 何俺の黒歴史掘り返してくれてんの!!!!!
「それ以上は止めろ。タケシが左手に包帯巻いて『鎮まれ俺の左手……!』ってやってた話するぞ?」
「ぐっ……分かった、休戦協定を結ぼうじゃないか」
俺たちはがっしりと握手をして休戦協定を結んだのだった。
……それと同時に始業の鐘が鳴る。気を取り直して、今日も一日がんばるか。
**********
「おう、来たかコウ」
「お先に始めてます」
仕事を終えて帰宅してログインすると、既にアテナさんとアトラスさんは活動を始めていた。
俺ももう少し早く来ることもできたんだけど、ちょっとやることがあったので19時過ぎだ。
「ええと……アトラスさんは斧を、アテナさんは帽子、ですか」
「ああ、木材の切り出しには斧を使うだろ? 武器に使う木材を自分で調達してみようと思ってな」
「私はオシャレ目的の帽子ですね。服と合わせてコーディネートするのが楽しいんです」
なるほど、それぞれに想いがあるようだ。
木材の切り出しが自分のギルド内でできるようになれば、いつでも木材を調達できるかな。
帽子の方はコーディネートにもいいし、麦わら帽子みたいな帽子があれば、日差しの軽減もできると思う。
ライアやレイは植物系のモンスターなので、日光は遮らない方がよさそうだけども。
「ところで、ギルド名を考えてきたのですが……」
「おお、楽しみだ」
「どんな感じになったんですか?」
2人の期待の視線が突き刺さる。
……神話ネタなのでありきたりかもしれないけど……。
「『ティルナノーグ』です」
「んん? どこかで聞いたことがあるような……」
「確か、神話ですよね?」
「はい、ケルト神話に出てくる楽園『ティル・ナ・ノーグ』から取ってます。現在クラフターはちょっと不遇気味ですけど、ここがクラフターたちの楽園になれたらいいなという想いから付けましたが……いかがでしょうか?」
ペットモンスターのおかげで作成できるものが増えて少しずつ改善はされてきているが、まだまだクラフターは不遇気味だ。
そんな人たちの拠り所となれたらいいなって。
「……いい名前じゃねえか」
「ふふ、実際にそうなれるように頑張らないとですね」
「では……」
「ああ、ギルド名は『ティルナノーグ』でいこうぜ」
「分かりました!」
ということで、早速ギルド名を『ものづくりギルド(仮)』から『ティルナノーグ』へと変更する。
これでようやく落ち着ける……と思ったのも束の間。
「それじゃ早速ベッドを作ろうぜ。おれのフレンドが欲しがっててさ」
「私も同じ服飾関係のフレンドから頼まれてまして……」
「あ、実は俺もフレンドから頼まれて……」
……これは、しばらくは忙しい日々が続きそうだ。
一応、製作過程を動画に残して、他の人でも作れるように公開はしたのだが……。
やはり、ベッド、シーツ、金具を全て個人で作るのは難しいようで。
自分では作成できない材料を売って欲しいと動画にコメントが付いたり、一方で同じように複数人でギルドを立ち上げて自分たちで作ってみたという報告を頂いたり。
おかげで動画もバズり、閲覧収入という臨時収入も手に入ることに。
さすがに自分1人で全部受け取るのはダメなので、相談してみることに。
「それなら、設備のレベルアップに使うのがいいんじゃねえかな」
「そうですね、ほんの少しなんですけど、質が良いものが作れるようになるらしいです。1レベルアップだとほぼ実感できないぐらいの差らしいですが……」
どうやら、ギルドの設備のレベルアップができるらしい。
ホームの設備もレベルアップできるが、ギルドの場合だと全員が使えるから効率はこちらの方がよさそうだ。
もちろん俺も使うからこちらを優先して上げていくつもりだが……。
「うわ……結構高いんですね」
お値段はなんと30000G。
初回でこれってことは2回目以降は更に増えるんだろうな……。
ま、永久に質が上がる……かもしれないと思ったら安いものなんだろうけど。
「先行投資ってやつだな。実際にはあんまり効果が見えないらしいが……」
「それでも、ランクが上がる可能性があると思ったら安いと思いますね」
「なるほど、それなら……」
俺は木工、鉄工、服飾それぞれの作業場のレベルを1ずつ上げる。
「おいおいおい、いいのかよ!? 動画の閲覧収入は1動画の上限は50000Gだぞ!?」
「一応、ポーションオブドリアードとアルラウネ、ハイポーションの特許収入もありますし、アトラスさんのおっしゃる通り、先行投資ってやつですよ。俺にも恩恵はありますしね」
「わ、私がんばってコウさんを支えます!」
「おいおい、アツいなあお二人さんよ。ま、おれはいいコンビだと思うけどな」
「ちょっ、茶化さないでくださよアトラスさん」
「そ、そうですよ。コウさんにはライアちゃんとレイちゃんという正妻がいるんですから!」
ん? 正妻? しかも2人も?
ちょっとツッコミを入れたいところだが、話が更に抉れそうなので止めておこう……。
「……ま、冗談はさておき、ベッド以外も作るものを増やしたいな」
「……えーと……それでは、矢とかいかがでしょうか?」
「ほう、矢か。コウは使わないのにいいのか?」
「はい。実は今まで使った木材の端材がありまして……もったいないので全て取っておいてあるんですけど、これを使って作りたいなと思いまして」
「なるほどな。どういう分担にするんだ?」
俺は本体部分を、アテナさんは羽根部分を、アトラスさんは鏃をそれぞれ担当するのがいいと決めた。
そして製作を開始しようとしたのだが……。
「きゅー?」「「るー?」」「りゅー?」
新しいものを作ろうとしているのが分かるのか、ライアたちが寄ってくる。
生まれたばかりで好奇心旺盛な年ごろなんだろうし、見学してもらうことに。
「これから作るのは矢というもので、ライアはアルテミスさんが使ってるのを見たことがあるかな?」
「きゅー!」
「そうそう、あの弓から放って敵を攻撃するやつだね。尖っている所が多くあるし、作業中は危ないからちょっと遠くで見ていてね」
「きゅーっ!」「「るーっ!」」「りゅーっ!」
元気よく返事をするみんな。うーん、かわいいな。
そして聞き分けがよくて助かる。実際に近くだと危ないしね。
そして、みんなが遠くに移動すると、ルシードくんちゃんがみんなの一歩前に出る。
……もしかして、作業中は危ないって言ったからみんなを守ってくれているのだろうか。
「……いい子ですね、ルシードくんちゃん」
「コウさん、ルシードでいいですよ。確かに性別は不明ですけど……」
「でもよその子を呼び捨てって言うのもなかなか……」
「なるほど……それなら。ルシードー? コウさんにもルシードって敬称なしで呼んでもらってもいーいー?」
ルシードくんちゃんはその言葉にピクリと反応すると、ゆっくりと身体を縦に振る。
これは同意……ってことでいいのだろうか。
「……ということで、今後はルシードで大丈夫です」
「わ、分かりました。努力します」
ちょっと慣れないけどがんばろう……。
**********
「──よし、こんな感じかな」
俺はできあがった各部位を組み立てていく。
アーチャーの人は戦闘では大量に使うものなのに、結構仕組みが複雑で量産って大変なんだな……。
「……ん? シィルちゃん? どうしたの……」
「りゅーっ……」
俺が完成した矢を手に持っていると、シィルちゃんが近づいてきて鏃に魔力を送り始めた。
これって……。
「おい、シィルは何を……?」
「おそらく、ドリアードの椅子と同じ……精霊による祝福だと思います」
「それってもしかして……」
俺は矢のステータスを開いてみる。
【風の矢:ランクC、風属性を帯びた矢。属性が付与されているため、物理攻撃が効かないモンスターにも効果がある】
どうやら、シィルちゃんの魔力が宿った矢になって、風属性が付与されたようだ。
確か、フリーマーケットでNPCが稀に売っているとか以前聞いたような……。
「おいおい……属性矢が作れるなんて初めて聞いたぞ」
「今までシィルちゃんはこういう行動はしなかったんです?」
「ああ、今回が初めてだ。ドリアードの椅子は知ってたが、こういうこともできるんだな……」
「俺も初めて知りました。これが量産できれば戦闘が有利に進められそうですね」
「そうだな。……シィル、お前はすごいな」
「りゅーっ♪」
アトラスさんに褒められつつ撫でられて、シィルちゃんはご満悦だ。
「きゅーっ!」
「「るーっ!」」
……ん?
ライアたちが何か主張してる……?
「……ライアちゃんたちもやってみたいのではないでしょうか?」
「なるほど……それならあと3本作ってみますか?」
「おう、おれなら大丈夫だ」
「私もです」
「それでは……」
俺たちはその後3本の矢を作った。
すると、ライアもレイもティアちゃんも矢に魔力を籠め、地属性の矢……大地の矢が3本作られることとなる。
観察していたところ、1本作るのにMPを10消費するようだ。
「まさかこんなに簡単に属性矢が手に入るなんてな……」
「んー……でも何か条件があると思うんですよね」
「確かに、今まではこういう行動はしなかったしな……」
「ライアちゃんたちはシィルちゃんを見て対抗心を燃やしたのもあるかもしれませんね」
「うーん……また明日も矢を作ってみますか? 同じように属性矢を作ってくれたら、動画に撮ってみましょう」
「了解だ」
……しかし、属性矢を確定で手に入れられるようになったら、弓矢を使うアーチャーの評価が上がるだろうな。
相手に合わせて属性を変化できるし、物理攻撃を受けない敵にも対応できる。
問題はこれ、1発撃ったら終わりなところなんだよな。
当たったら消滅するから、完全に使い切りだし。……まあ、それでも強いことに変わりはないか。
「ところでこの矢はどうするんだ?」
「そうですね……魔力を籠めた子で分けますか」
「それでは風の矢をアトラスさん、大地の矢2本をコウさん、1本を私で……」
「おれはフレンドにプレゼントするか。自分では使わないしな」
「私もです」
「それじゃあ、俺は──」
「──ええっ! この大地の矢を頂けるんですか?!」
「はい、俺は使わないですし、アルテミスさんは普段からお世話になってますしね」
俺の知り合いのアーチャーといえばアルテミスさんだ。
腕も確かだし、ちゃんとした場面で使ってくれるだろうという信頼がある。
「ところでこれはどうやって手に入れたんですか?」
「ええと、それは──」
俺は大地の矢の入手経緯を説明する。
「……なるほど、コウさんとライアさんやレイさんの共同作業の結果による、愛の結晶と」
「言い方」
「使ってしまうのがもったいないですね……家宝にしないと……」
「ちゃんと使ってくださいね? こういうのは使ってなんぼですから」
「………………分かりました」
……なんだろう今の間は。
とりあえず使ってくれる? ならいいのか……な?
「では今日からこれは抱き枕代わりに……」
「危ない危ない」
鼻血を垂れ流しながら矢を抱きしめるアルテミスさん。
本当に大丈夫なんだろうかと思いながらも、喜んでくれてるなら作った甲斐がある……だろう。多分……。