ものづくりギルド、始動します
「──まあ、名前を考えるのは宿題として、あとは運営への申請だな」
「あ、申請が必要なんですね」
「ああ、ちなみに申請に必要なものは──」
・ギルド名(後から変更可能)
・リーダー(後から変更可能。リーダーの最終ログインが30日以上前になると、サブリーダーがリーダーに変更される)
・サブリーダー(人数は自由。1人は必須)
・人数上限(最低2人、最大50人。後から変更可能)
・活動内容
・加入審査の有無
「こんな感じだな」
「なるほど……ギルド名は後で変更できるなら、とりあえず『ものづくりギルド(仮)』で登録しておきましょうか? お二人の意見はどうでしょう?」
「私は問題ないです」
「おれもだ。……まあ、早めに変更しないと内でも外でも『ものづくりギルド(仮)』で定着しかねないが」
「ぜ、善処します……」
と、とりあえずギルド名はいったん『ものづくりギルド(仮)』で……。
リーダーは俺、サブリーダーは2人とも任命しよう。
「人数上限になった場合、何かデメリットはありますか?」
「他のプレイヤーが加入申請ができなくなるぐらいかな。人数をあまり増やしたくなければギリギリでいいと思うぜ」
「なるほど、大人数になり過ぎても運営が難しそうですし、慣れるまではこの3人……あとはアテナさんやアトラスさんのフレンドで入りたい人がいたら上限を増やす、みたいな形がよさそうですかね」
「了解だ。ま、おれはものづくりメインのフレンドはいないけどな。たまに野良パーティー組んで狩りに行くぐらいだ」
「私もフレンドは特注品を注文してくれる人ばかりですね……完成のメッセージ連絡が必要なので」
なるほど、それなら3人上限でよさそうだ。
木工、鉄工、服飾デザインと分野がそれぞれ違うので、それぞれの視点からのアイデア出しとかよさそうかも。
「活動内容は……仮ギルド名の通り『ものづくり中心の活動をします』でいいですかね。加入審査の有無は……加入申請があったらリーダーが加入するかどうかの判断をする、みたいな感じですか?」
「ああ、そんな感じだ。ちなみにサブリーダーに加入権限を付与することもできるぞ」
「それなら全員に付与する形にしましょうか。……では、これで申請をしてみますね」
「ど、ドキドキします」
「それにしても、アトラスさんギルド設立にお詳しいですね」
もしかして、過去にギルドを設立したことがあるのだろうか。
「あー、実は昔ギルドを立ち上げようと思ったんだけどよ。調べていくうちに面倒くさくなってな……おれ、管理者には向いてねえわってなって止めたんだ」
「確かに運営するのって難しそうですしね……ん?」
そんなことを話していると、ギルド設立完了の運営メッセージが届く。
「……早くないですか?」
「ま、最近はだいたいのプレイヤーがギルドに入ってるから、作るプレイヤーが少なくなったからな。……それじゃ、一回ギルドエリアに行ってみるか? ペットモンスターも全員連れていけるようだぜ」
「あ、それじゃ私はホームに戻ってルシードとティアちゃんを連れてきますね」
「おれもシィルを連れていくか。それじゃまた後でな」
「分かりました。それでは」
俺はライアとレイを連れて行こう。
ついでにシーソーの試運転もしてみようかな。シィルちゃんは風の精霊のシルフだし、ライアと同じぐらいの大きさだろうから、普通にシーソーを遊べそうだ。
ティアちゃんはレイと同じアルラウネだから、普通にシーソーで遊べるだろうな。
……そんな微笑ましい光景を想像しながら、俺は2人を呼びに行くのだった。
**********
「おおー……」
「きゅーっ!」
自分のギルドに移動してすぐに驚きの声が出る。
想像していたよりも遥かに広い。
まずは集会所みたいな寄り合い処がある。
そして、木工や鉄工、服づくりができる作業場が別々にある。
ちゃんと庭もあり、ここでも交流ができそうだな。
正に至れり尽くせりだ。
「おおー……結構広いですね」
「おっ、なかなかいい所じゃないか。ちょっと見て回ろうぜ」
俺は2人と、2人のペットモンスターたちを連れて各所を見て回る。
どうやら、作業場は拡張が可能らしく、ギルドメンバー数が増えると拡張可能になるようだ。
更に、庭には滑り台やブランコやシーソーを設置できるので、ペットモンスターたちの交流の場としても使えそうだな。
「……施設はこんなところか。ホームの作業場と比べても遜色ないな」
「そうですね、私のホームと同じぐらいの大きさでしたし、『ギルドメンバーが集まれるホーム』みたいな感じですね」
「ホームと違ってフレンドでなくてもいいので、使いやすそうですよね。……それじゃ、軽く自己紹介しておきます?」
「そうですね、ペットモンスターは初顔合わせの子もいますし……」
ということで自己紹介が始まる。
俺は自分とライアとレイを紹介する。だいたいお馴染み、みたいな感じだったかな?
アトラスさんはシィルという、風の精霊であるシルフを紹介してくれる。
「シィルは風の精霊だけあって、風魔法が得意だ。鍛冶をするときには風を起こしてもらってるな」
「りゅー」
シィルちゃんが俺たちに丁寧にお辞儀をする。真面目な子なのかな。
「シィル、ちなみにお前の杖を作ってくれたのはあのコウなんだぜ。お礼を言っておきな」
「りゅーっ!」
シィルちゃんはアトラスさんの肩からふわっと浮かび上がって、俺の前に来てぺこりと頭を下げる。
「りゅー、りゅーっ」
そして、杖を大事そうに抱えて嬉しそうな表情をする。
喜んでもらえて何よりだ。
「あ、そうだ」
「ん? どうした?」
「シィルちゃんって妖精みたいな綺麗な羽が特徴的じゃないですか。この杖のドリアードの葉っぱを模した部分、シィルちゃんの羽っぽい飾りにしたらよさそうだなって」
「お、いいじゃねえか」
「あ、それでしたら、杖と合わせて私が服を作りましょうか? 魔法少女なシィルちゃん、とてもかわいいと思うので……」
「りゅーっ♪」
そんな会話が聞こえてきて、シィルちゃんはとても嬉しそうだ。
早くもギルド内でコラボが始まって、俺としても嬉しい。
「では次は私ですね。この子はルシードと言って、シールドのモンスターです。喋ることはできませんが、私を守ってくれる優しい子です。そしてこちらはティアと言って、レイちゃんと同じアルラウネですね」
ティアちゃんはぺこりと頭を下げる。
ルシードくん? ちゃん? ……盾に性別ってあるっけ? は、ふよふよと浮かびながらひっそりと佇んでいる。
「ほう、珍しいペットモンスターだな。どうやって敵を攻撃するんだ?」
「ええと、縁が尖っているのでそこで攻撃しますね。ですが、基本的には私を守ってくれる行動がメインになります」
「なるほどな。それなら縁に沿って取り付けできる刃があれば攻撃力も上がりそうだな」
「それなら攻守どちらもできる子になりそうですね」
「確かにそういうのもアリですね……勉強になります」
「よし、面白そうだしあとで作ってみるか」
こうして、またしてもコラボ装備ができあがっていく。
いろいろな意見が出るのは楽しいな。
「ティアちゃんには自分が杖を作ってみますね。レイとおそろいな感じか、それとも別なのがいいですかね……?」
「それなら同じ杖がいいですね。服も揃えているので、双子っぽい感じの絵が撮れそうです」
「分かりました。それではギルドの作業場の使い勝手も気になるので、後から作りましょう」
……ということで、俺はレイとティアちゃんのおそろいの杖、そしてリィルちゃんの杖を。
アトラスさんはルシードくんちゃんの取り付け用の刃を。
そしてアテナさんはシィルちゃんの服を、それぞれ作ることに。
完成を待ってる間は暇だと思うので、俺はギルドの庭に遊具を設置して遊んでもらうことにした。
「それじゃみんな、楽しんでくれると嬉しいな」
俺は遊具を設置すると、遊び方を知らない子に向けて簡単に遊び方を説明する。
そして実際に遊んでもらって、反応を見ることに。
「るーっ!」
「るぅ……♪」
レイとティアちゃんはアルラウネ同士でシーソーを楽しんでいる。
体重もほぼ同じなのだろう、少し動くことでシーソーは左右にぎったんばったんしている。
「きゅーっ!」
「りゅーっ」
ライアとシィルちゃんも同じくシーソーで遊んでいる。
こちらも同じぐらいの体型のため、シーソーは忙しく動いている。
「…………」
そしてルシードくんちゃんは……1人でひっそりとブランコに揺られている。
盾がブランコで揺られるって……なんかシュールだな……。
「あ、ルシードも楽しんでますね」
「えっ、分かるんですか?」
「はい、なんとなく、ですけど。そうじゃないと、自分でブランコを揺らしたりしないでしょうし」
なるほど、確かに。
気に入ってもらえたなら作り手としても嬉しいな。
「それじゃみんな、俺たちはいろんなものを作ってくるから、楽しんでね」
こうして俺たちはそれぞれのものづくりを始めるのだった。
……ルシードくんちゃんが最後の辺、滑り台でスーッと滑るのを見てしまい、シュール過ぎて少し吹き出しかけたのは内緒だ。
**********
「よし、これで全員完成だな」
「はい、楽しかったです」
「早速みんなに試着……と言いたいところなんですけど……」
ちらっと遊具の方を見ると、まだまだ遊び足りないと言わんばかりに楽しんでいる皆が見える。
……邪魔しちゃ悪いかなあ。
「水を差すのもアレだからな。せっかくだから3人共同で何か作ってみるか?」
「あ、それなら……ベッドとかいかがですか?」
「ベッド、ですか?」
「はい、一度はいろんな人が作ってみたものの、ランクD……つまり支給品と同じランクしか作れなかったと聞きました。ですが、力を合わせたらもしかしたら……と思いまして」
「おお、楽しそうじゃねえか」
「私もそう思います」
それなら……と、俺はどういう風に作るかを説明する。
「俺は木の部分を作るので、アトラスさんには補強用の金具を、アテナさんにはシーツをそれぞれお願いしたいのですが……よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だぜ」
「私もです。サイズはシングル用で大丈夫ですか?」
「はい、それでお願いします」
「よし、それじゃ作り始めるか」
こうして、ギルド設立後の初の共同作業が始まるのだった。
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・
「よし、これはこう取り付けて……」
「そして最終的にシーツをかけて……」
「……これで完成、ですかね?」
【INFO:作業を完了しますか? 完了した後は手を加えることはできません】
お、完成判定がでてきた。
掛け布団はなくても大丈夫ということは、掛け布団はまた別のカテゴリなんだな。
「さて、それではステータスを開きますね」
「「……」」
2人が固唾を飲んで見守る中、俺はステータスを開く。
【丈夫なベッド:ランクC、全回復にかかる時間:7時間、補強されている丈夫なベッド。思いのほか長持ちする】
「「「──っっ……」」」
「「やったー!」」
「よっしゃあ!」
ランクはC、そして全回復にかかる時間が支給品のランクDに比べて-1時間とかなり優秀に感じられる。
使用回数は100回。ログアウトのたびに使用回数が減るなら、使える期間はだいたい3か月未満だろうか。
「やったじゃねえかコウ! 今まで誰も作れてなかったランクCだぜ!」
「これを量産できれば引く手あまたですよ!」
「アトラスさんとアテナさんのおかげですね、俺一人じゃ完成させられなかったでしょうし……」
……複数人でのものづくりって、こうやって喜びを共有できるのがいい所だな。
連携を取るのは難しいけど、うまくできた時の喜びはひとしおだ。
「よし、それじゃ早速量産するか?」
「それもいいですけど、まずは……」
「ん?」
俺が視線を庭の方に向けると、向こうからもそろそろ自分たちのものができたかな? という視線が投げかけられる。
「あー、悪い悪い。少し興奮しちまって忘れてた」
「それでは、みんなに着せて撮影会やりましょう! うふふ……」
こうして俺たちは自分たちのペットモンスターが待つ庭へと歩いていくのだった。
そして、その日の夕方から、遊具交流会というプチイベントを開催。
用意した新しい遊具はみんなに好評で、人間サイズのものは町長にも1つ納品して、今後の依頼を約束されたのだった。
……あと、イベント開催中によく「『ものづくりギルド(仮)』、設立されたんですね! 今後が楽しみです!」と声をかけられた。
やばい……早いところ正式名称を決めないと、本当に『ものづくりギルド(仮)』で定着してしまう!
……と危機感を感じるのだった……。