ギルド設立
「きゅー!」
「おはようライア。それじゃレイの所に行こうか」
日曜日。
昨日はいろいろな事があったので、早めのログアウトをして体と脳を休めた。
おかげで今日はスッキリと目覚めることができた。
「るー♪」
レイはアルラウネということもあり、畑で寝ている。
植物のため地面に根を張り巡らせて、立ったまま寝ているのだが……そんな姿勢でよく寝られるなあ。
……いや、電車の吊り革につかまって寝てる人もいるから意外といけるか?
さて、俺はライアの大好物の魔石を2人に与える。
レイの反応は……アホ毛がゆらゆらゆっくりと揺れてるので好物って感じだろうか。
やはり好みはそれぞれなんだな。
食事を終えるとシーソーで少し遊んでから、俺は忘れてた案件……ボトルメールに関して掲示板で情報収集する。
その間はレイには畑のお世話をお願いして、ライアはブランコや滑り台で遊んでもらう。
レイのサイズに合わせた遊具も作らなくちゃな。足が花になってるので特注品になるけど……。
「ええと、これかな……」
俺はティノーク海岸のスレを開く。
その中を『ボトルメール』の単語で検索してみる。
『ボトルメール、いったいいくつ種類があるんだ……』
『ボトルメール、とりあえず1~8は見つかってるみたいだな。数字が大きくなるにつれて出現率が低くなってる』
『ボトルメールは8までは俺も持ってる。9はないけど、他のを集めるとほぼ正方形になってるから、全部で9種類か?』
『ていうかさ、こんなに大量に流すなんて、ボトルメールじゃなくてスパムメールだよ』
なるほど、結構集まってるんだな。
それにしても最後の書き込みにちょっと笑ってしまう。
ボトルメール流す方はどんなに労力使ってるんだよってなる。下手すれば同じ内容を何万通だぞ?
【INFO:ホームへの入場申請があります】
ん?
こんな朝早くに誰だろうかと思って名前を見るとタケルだ。とりあえず受諾っと。
「よー、コウ。やってるかー?」
「おう、アルラウネをペットモンスターにしたから、今日は遊具を作ろうかと思ってな。シーソーは昨日作ったから他のやつを……」
「ああ、確かに普通の遊具じゃ遊べそうにないもんな。ところで、ハイポーションもお忘れなく」
「もちろんだ。ある程度貯まったら渡すわ」
「ま、イベントのサブクエストの納品に使うだろうから、余ったらでいいぞ。ちなみにハイポーション以外はもう納品上限だ」
「……は?」
え? 嘘だろ? 今日はまだ予告されてから3日目だぞ?
そう思いながらウィンドウを開いて確認するとマジだった。
ちなみにハイポーションはこんな感じ。
・ハイポーションの納品 16/1000
新しく作られたものか、それともドロップで既に手に入れてたものか。
どちらにせよめちゃくちゃ少ないな……。
「作れるプレイヤーがいるにしても、自分の分を優先だろうから数が出てないのかもな。貢献度ポイントを稼ぐためだけに作るのも結構な手間だしさ」
「貢献度ポイント?」
「ああ、イベント中の行動によって貢献度ポイントが貯まるんだ。上位入賞者は豪華景品がもらえるんだぜ」
「あ、もしかしてタケルが俺にVR機器をくれるきっかけになった、イベント景品のVR機器って……」
「そういうこと。今回は何がもらえるか楽しみだぜ」
うーん、俺も昨日のうちにある程度納品しておくべきだったなあ。
戦闘には参加できないだろうから、余計にね。
「……ん? 馬防柵って材料が結構な数必要そうだし、自動作成するにしても1回は作る必要があるけど、もう500集まったのか。意外とものづくりする人が多いのか?」
「イベントの時だけ本気出す勢がいるからな。普段は冒険者やって素材集めしてるから素材は潤沢なんだよ。コウみたいにものづくり中心なのはなかなか見かけないな。ただ……」
「ただ?」
「最近コウがいろいろ作ってるだろ? それに触発されてものづくりメインになるプレイヤーもそこそこいるって噂だ。遊具の納品依頼も割とすぐに埋まったしな」
「そうだったのか……」
そういえば回復する椅子に始まり、ドリアードの椅子、杖、滑り台やブランコなどの遊具、ポーション各種など、いろいろ作って配信もしてきたな……。
それでものづくりに復帰してくれるプレイヤーが出てきてくれたのなら嬉しいところだ。
……そして、町長の遊具納品依頼もう片付いてたのか。ただ、使っていたら壊れるし、そのうち追加依頼が来たら自分も納品しよう。
「ところでコウ、お前はどこかのギルドに入らないのか?」
「あー……そういや考えたことなかったな。まあ、こういうゲームのギルドとなるとノルマとかありそうだし、のんびりやるにはソロでいいかなって」
「まあ、確かに上位のランカーギルドはノルマがあるところも多いな。ただ、誰かと一緒にいることで気づいたりすることもあるから、入ってみるのもいいかもしれないぜ? もしくは自分で作るとかな」
「自分で……か」
「そうすりゃリーダーは自分だから、ノルマとかそういう縛りもなくせるからな。もし作るなら最低2人からだから、覚えておくといいぞ」
「分かった、ありがとう」
そうか、自分で作るってこともできるのか。
ただ、そうなると活動時間とかもある程度は合わせる必要があるだろうし、なかなかなあ。
【INFO:ホームへの入場申請があります】
「ん?」
「どした?」
「ああ、入場申請があったんだ。うちの畑で育ててるアイテムの納品の件だな」
「オレは大丈夫だから、先に対応してあげてくれ」
「おう、ありがとう」
俺は入場申請を受諾する。
「おはよう、コウ殿。早速だが──む?」
「……コウに用があるのはタイガ、お前だったか」
「うむ、邪魔なようなら用事が終わったらすぐに出ていこう」
「オレは別に構わねーよ。なんならちょっと話してみたかったんだ、コウがいいならだけどさ」
「あ、俺は構わないけど……2人は知り合いなのか?」
「いや、お互いランカーギルド所属だから、ライバルの情報はちゃんと集めてるってぐらいだ」
ああ、そういえばタケルもランカーギルドだったな。
あんまり険悪な雰囲気ってわけでもないし、ゆっくりしてもらうか。
「それでは、俺は畑の収穫に行ってくるので、ごゆっくり……」
「うむ、手間を取らせてすまない」
「まさか、こんな形でサシで話すことになるとはな……」
「それは儂も同意見だ。さて、何から話すか……」
俺は話し始めた2人を見て、畑へと向かうのだった。
**********
「タイガさん、収穫が終わりましたよ」
「うむ、ありがとうコウ殿」
「おー、コウ。タイガは意外と面白いやつだな。動画を見る限り凄い堅物だと思ってたんだけどさ」
「それは確かに皆に言われるな……今後は努力しよう」
あれ? 10分ぐらいですごい打ち解けてる?
確かにタケルのコミュ力は高いって常々思ってたけどさ。
「タイガさん、それではこちらになります」
「うむ、それでは…………こ、これはッ!?」
タイガさんがとある力の実を持ち、驚きの声をあげた。
「ランクC……?! 確か渡した種はランクDだったはずだが……」
「あ、それはレイ……アルラウネのユニークスキルで、ランクが10%の確率で上がるんです」
「おいコウ、ランクが上がるユニークスキルなんて今まで発見されてないぞ? まあ、ペットモンスターの実装自体最近だけどさ……」
「……嘘だろ? つまり、レイのユニークスキルはレアスキル……?」
確かに強い効果だなって思ってたけど、まさか発見されてすらいなかったなんて。
……そういえば。
「タイガさんのギルドメンバーもアルラウネをペットモンスターにしたと聞きましたが……その中にも該当のスキル持ちの子はいませんでした?」
「ああ……ライア殿と同じ成長促進のスキル持ちはいたが……」
「あとは、動画を見てペットにした人たちの中にいるかどうか、ですかね」
「ま、掲示板には書き込まない人もいるし、持ってるのを秘密にする人もいるから分かんねえな。ただ言えるのは……」
「言えるのは?」
「ここの畑、オレも利用させてくれ! なんなら拡張費用も負担する!」
まさかの拡張費用負担宣言。
決してお安いわけではないのだが……初回5000Gだったから、2回目は更に上がってるはず。
「うむ、儂も拡張費用を出そう。ぜひ畑の拡張をお願いしたい」
「タイガさんまで!?」
……まあ、確かにランクCの力の実などが今後定期的に手に入るとすれば破格なのか。
でも、俺の畑なんだし費用を負担してもらうのはちょっと気が引ける。今後、畑に何らかの仕様変更があるかもしれないし。
「畑は拡張しますが、費用は大丈夫です。今はお金に余裕もありますし、今後、畑の仕様変更がある可能性も考えると、自分が払っておいた方がいいでしょうし」
「確かにそういう可能性はあるか……それなら、『育った植物の販売価格-種の販売価格』だけコウに払うってのはどうだ?」
「ふむ、問題なければそれで儂も同意しよう」
「分かりました。ただし、お金をいただくのは畑の拡張費までにしておきましょう」
「コウ……もっとがめつくなってもいいんだぞ? まあ、そこがコウのいいところではあるんだが」
「確かにコウ殿はそういう所があるな。アルラウネをペットにする方法の動画など必ずバズるのに、儂らに譲ったぐらいだしな」
「コウ、そこは自分でアップしてちゃんとそれに見合った報酬を受け取ろうぜ……」
いや、アルラウネをペットモンスターにできたのはタイガさんとアルテミスさんの協力があったからだからね? ……ということで、それを説明したらタケルは納得してくれた。
その後、畑を拡張してタケルとタイガさんから種を預かって植えるのだった。
**********
「ギルド設立、かあ」
畑に種を植えた後、俺はタケルの話を思い出していた。
確かにものづくりギルドを作って切磋琢磨していけばお互いの技術向上にいいかもしれないし、できないことを補い合っていくこともできるし……。
そう考えたらギルドを作るのもありかもしれないな。
「きゅー?」
「あ、ちょっと考え事をしていたんだ。それじゃ、今日もいろいろやっていこうね」
「きゅー!」
俺はその後、ドリアードサイズやアルラウネサイズのシーソーを作り、自動作成機能で何個か増産する。
今日の夜ぐらいにまた試遊イベントでもやってみようかな。
【INFO:ホームへの入場申請があります】
おや? 今日は結構な頻度で申請があるなあ。今回の申請者は……アテナさんだ。
「コウさん、実はこの子……ティアの服を作ってみたんです。それで、同じデザインのをレイちゃんサイズでも作ったので、よろしければ並んでもらって撮影したいのですが……」
「あ、大丈夫ですよ。それではレイを呼んできますね」
「はい!」
それにしても、アテナさんも楽しそうにものづくりしてるなあ。俺も見習わないと。
俺もそのうち簡単な衣服か飾りでも作ってみようかな?
「レイ、アテナさんが新しい服を作ってくれたんだって。着てみる?」
「るーっ♪」
レイはアホ毛を嬉しそうにぶんぶんさせながら、浮いて後をついてくる。
それにしても何度見ても不思議な移動方法だ。
「お待たせしました。それでは着替えさせてあげてください」
俺はレイの装備を解除すると、アテナさんに引き渡す。
「分かりました、お任せください。……さ、レイちゃん、かわいくなろうね……うふふ」
「る、るーっ……」
ちょっと気圧されたのか、若干後ずさりするレイ。
でも、アテナさんの出した服に目を輝かせ始めて……。
「るーぅ……」
「……君も、大変なんだね」
その様子を見てため息をつくアテナさんのアルラウネ……ティアちゃんに声をかける。
そして、流石に着替え現場を覗くのはまずいので、俺は一旦退散するのだった。
「はぁ……やっぱり2人かわいい子が並んでると映えますね……」
その後はレイとティアちゃんが2人並んでの撮影会が始まった。
2人には試しに作った長椅子に座ってポーズを取ってもらっている。
……せっかくなので俺もちょっとだけ撮影しようっと。
「うーん、確かに2人ともかわいいんですけど……」
「どうかしましたか?」
「こう……家具もかわいいのがあればもっと映えるかなあと思いまして……」
「なるほど……」
そういえば、今までは実用性重視で椅子とかではそういうことはしてなかったなあ。
魔法少女みたいな杖ぐらいだろうか、デザインを重視したのって。
……確かに、いろいろな人がいれば、こういう気付きもあるのか。
「そういえばアテナさん、ギルドには入られてます?」
「いえ、私はソロでやってますね。服飾がメインですし、レベル上げはしますけど、それも服作りのためのHP上げのためですし」
「なるほど……でしたら、俺がものづくりのギルドを設立したら、加入して頂けますか?」
「ものづくりギルド、ですか。興味あります」
「考えているのは、ノルマとかそういうのは一切ない、ものづくりをしていくギルドです。今回、アテナさんの言葉で新しいことに気付けましたし、アイデアを出し合ったり相談したりできるものがいいかなと考えています」
椅子に映えを求めるのは、男の俺じゃ気付けなかっただろうし。
逆に、俺も何かアテナさんにアドバイスできるかもしれない。
趣味嗜好が違うからこそできる何かもあるかもしれない。
「ぜひ、参加させてください!」
「分かりました、それでは後ほどギルドを設立するための準備をしますね。他にもこんな人がいればいいな……というのはありますか?」
「そうですね……椅子のフレームを金属で作ったら、光が反射して煌びやかな感じになるかもしれないので……金属を加工できる人、とかですかね」
「なるほど、それなら……」
俺はフレンド一覧を確認する。
どうやら、アトラスさんはギルドには未加入のようだ。
鍛冶師は自分の作業で忙しそうだしどうかな……と思いつつメッセージを送ってみる。
『楽しそうだな、いいぜ』
……と、メッセージが返ってきた。
そして、すぐにホームまで来てくれる。
「──ということでよろしくな、アテナちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
うん、2人の相性は悪くなさそうだし、これなら大丈夫だろう。
さて、そうなると……。
「ギルド名、考えないとですよね」
俺はネーミングセンスがないから2人頼りのつもりだったのだが……。
「あー……おれもセンスないんだわ。アトラスって名前もギリシア神話から取ってるし……」
「わ、私もアテナはギリシア神話からで……」
あれ? 何だか雲行きが怪しいぞ?
「でも、アルラウネのティアちゃんはいい名前だと思ったのですが」
「あ、ちょっと泣き虫っぽかったので涙なんです……シールドの子はルシードっていう、アナグラムですし……」
「じゃ、じゃあアトラスさんのシルフの子は……」
「シィルっていうけど、最初の2文字を取ってから間に『ィ』を入れただけだな……」
……場に若干のお通夜ムードが流れる。
「そ、それでは宿題ということにして、後日改めて決めましょう」
「で、ですね……」
「だな……」
3人揃っても決められないとは……3人寄れば文殊の知恵とはいったい……。
こうして、ものづくりギルド(仮)はとりあえず設立……設立? したのだった。




