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仲直り

「きゅー! きゅーっ!」

「る、るぅ……」


 ホームに帰ると、ライアは速攻でレイに文句を言っている。

 うーん、そこまでしなくてもいいと思うんだけどなあ。

 これは少し長引きそうだと思って、タイガさんたちにはいったんフリーマーケットへと行って時間を潰してもらうことに。


「はいはい、その辺にしてあげて」

「きゅー……」


 俺はライアを後ろから抱いてレイから遠ざけると、頭を撫でて落ち着かせる。


「もし、俺と出会う順番が、ライアとレイで逆だったらライアはどうしてたと思う?」

「きゅー……」


 想像をしているのだろうか、ライアは少し伏し目になる。

 しばらく考えた後、ライアは俺の方を見てごめんなさいと頭を下げる。


「……ね、その時拒否されたら悲しいでしょ?」

「きゅぅ」

「だから、俺は2人が仲直りしてくれると嬉しいな」

「きゅー……」


 ライアはレイの方を見る。

 そして俺の手から離れて、レイの傍に行って頭を下げる。


「きゅー、きゅっきゅ」

「るー……るぅ」

「きゅーきゅーっ」

「るーるーっ」



 そして、しばらく会話をしていたかと思うと、2人が俺に手招きをする。

 どうやら仲直りしてくれたかな?


「よかった、仲直りしてくれて──」


 俺は2人の傍にきた瞬間、ライアは左頬に、レイは右頬にそれぞれ口づけをする。


「ちょっ……ライア、レイ……?」

「きゅーっ!」

「るーっ!」


 2人は喜びながら、ライアは左腕に、レイは右腕に抱き着いてくる。

 ……もしかして、俺は1人しかいないから、身体を半分ずつシェアするって結論でも出たのだろうか。

 まあ、2人が仲直りできたのならこれで一件落着なのか……な?


「るーっ♪」


 俺の右腕にぷにっと柔らかいものが当たる。

 ちらっとレイの方を見ると、レイの剥きだしのマシュマロが腕に押し付けられている。


 ……そういえば、ゴタゴタしてて気にしてなかったけど、レイは植物部分以外は普通の女の子だ。ライアみたいに肌が人間と違う色というわけでもなく。

 そしてモンスターだから服を着る習慣などもなく……。


 俺は慌ててアテナさんに『タスケテ』とメッセージを送ると、すぐにアテナさんがホームへの入場申請を出してくれるのだった……。




**********




「はい、採寸が完了しましたのですぐに作りますね」

「ありがとうございます……さすがに目のやり場に困るので……」

「コウさんって結構純情なんですね、普通だと男の人なら喜びそうなんですけど」

「お恥ずかしい……あと、うちの子の裸を他の人に見られるのも嫌なので」

「なるほど、確かにそれはありますね。……ところで」

「ところで?」

「この子、どこでペットにしたんですか!?」


 アテナさんは目を輝かせながらレイのことを見る。

 そっか、アルラウネも人型だし、アテナさんの目的である人型の衣服を自分の子で作れるとしたら知りたいよね。


「ええと、アドヴィス森林ですね。ペットにできる方法はまだ確立はされていませんが……」

「ヒントでも大丈夫なので聞きたいです!」

「それなら、あとから動画を出してもらえるように相談しておきますね。それと、機会があればアテナさんを連れてアドヴィス森林に行ってもらえないかも相談しておきます」

「ありがとうございます! ワクワクしながらレイちゃんの服を作りますね!」


 あの時の一件はタイガさんたちが録画していたらしく、いろいろと試行してペットにする方法が確立できたら公開したいと言っていた。

 それなら、試行ついでにアテナさんを連れてアドヴィス森林に行ってもいいかもしれない。

 そう思いながら俺はレイを連れてホームに戻るのだった。




**********




「大丈夫だ。むしろ試行回数が増やせて、こちらとしてもありがたい」


 と、タイガさんは即答である。

 アルテミスさんも同意して頷いている。


「それなら、迷いの森に行った後にアドヴィス森林に行きましょうか?」

「うむ、詳細が分かってペットモンスターを増やせるようになれば、プレイヤー全体の戦力が増えてイベントでも有利になるだろう」


 確かに。

 どんなモンスターが襲来するか分からないが、もしアルラウネが有利属性なら心強い。


「ところでコウさん、アドヴィス森林での経験値はどうでしたか? レイさんは倒してないのでそこまでレベルは上がっていないかもしれませんが……」

「それに関しては……俺もライアもレベル20まで上がっていましたね。元が10だったので一気に上がった感じです」

「10レベルアップか……それなら、ペットにしたときも倒した時同様の経験値がもらえるということか」

「そうなんですか?」

「うむ、儂のギルドでレベリングした時も、倒した上でそこまで上がっていたからな」

「なるほど、それはありがたいですね」


 おかげで俺もライアもレベル20になれたし、新しいスキルも習得できた。

 ライアの新しいスキルは『陥没』と『隆起』だ。

 陥没は地面を陥没させて穴を作るスキル。村を作る時に水路……堀を作る際に有用だろう。

 隆起は逆に地面を地面を盛り上げるスキル。高台を作って高所から弓で狙撃する場合などに有効かな。

 地形を変化させるだけあって、使用するMPは30と結構多い。

 また、シードバレットのスキルLvも2に上がった。


 ちなみにレイのレベルは1。

 推奨レベル25のアドヴィス森林で仲間になったのに1ということは、新規加入では1になるのかな。

 そのうちレイのレベリングもしてあげないとなあ。


「ところでコウさん」

「なんでしょうか?」

「その……今の両手に花な状態を録画しても……」

「ダメです」

「そんなあ……それではしっかり目に焼き付けておかないと……」


 アルテミスさんは鼻血を垂れ流しながらじっとこちらを見る。

 それはそれでなんだか落ち着かないんですけど!


「そういえばアルテミスさんはライア推しのはずでは?」

「いえ、今はライアさん推しからコウさんのペットモンスター箱推しに切り替わりました」

「は、はあ……」


 変わり身が早い!

 まあ、自分としても2人ともかわいいと思うけど。若干親バカ入ってるかもだけど。


「……さて、コウ殿。迷いの森にはどちらを連れていくのだ?」

「そうですね、レイはまだ服ができていないのでライアですかね。未知のエリアに行くかもしれないのなら、レベルが高い方がいいですし。……ということで、悪いけどレイはお留守番をしててね」

「るー……」


 レイの頭のアホ毛がしょんぼりと垂れる。

 ……そこで感情表現できるんだ。


「その代わり、服ができたら町に行ったり、外に出たりしようね」

「るー!」


 今度はアホ毛がエクスクラメーションマークのようにピンと直立する。

 ……嬉しいと尻尾を振る犬キャラみたいだな……。


 そんな感じでレイを宥めてから迷いの森……ヴァノリモ大森林に向かうのだった。




**********




「──ここだ。ここからがどの道を通っても入口に戻されるヴァノリモ大森林の奥地……通称『迷いの森』の始まりだ」


 鬱蒼とした森を進んでいき、前回レベリングをした場所を通り過ぎていくこと十数分。

 肌に感じる空気が変わったような気がする場所が、迷いの森の入口という。


「それでは『導きの蝶』を使ってみましょうか」


 導きの蝶はアイテムボックス内では『だいじなもの』に分類される。

 どうやら使ってもなくならないようなので、安心して使用できるな。


 俺が導きの蝶を使うと、蝶はふわりと飛び上がり、ゆっくりと森の奥へと飛んでいき始める。


「よし、モンスターを倒しながら蝶を追うぞ」

「コウさん、モンスターには気を付けてください。レベル20もあれば大丈夫ですが、奇襲で致命的な一撃を喰らうこともありますので……」

「分かりました。焦らず進んでいきます」


 忠告通り、俺はモンスターの奇襲に注意を払いつつ、モンスターと戦いながら蝶を追って奥へ奥へと進んでいく。

 迷いの森と言われる場所からはウルフやクロウの高レベルモンスターが出現する。

 素早いので速さが低い俺では普通は苦戦しそうだが、ライアのバインドで動きを封じられるため、ほぼノーダメージで掃討できている。


「ふむ、いいコンビだな」

「欠点を補いあえるわけですね。尊い……」


 アルテミスさんが何か言った気がするが、気のせいということにしておこう。


 ……そんなこんなで蝶を追い始めて20分ぐらいだろうか。

 急に蝶が行き止まりがあるかのように動きを止め、俺の元へと戻ってくる。


「もしかして、ここが迷いの森の最奥……?」

「いや、まだ奥へと続く道がある。この道は儂らも見たことが無い……ここから先が深層だろうか」


 タイガさんは深層へと一歩踏み込む。


「ぬっ!?」


 何かに気圧され、タイガさんが一歩後ずさる。

 ランカーギルドのリーダーで、プレイヤーの中でも上位レベルのタイガさんがそんな反応を見せるのは意外だ。


「……敵意を感じますね」


 アルテミスさんは弓を構える。


 しかし、こちらから踏み込まない限りは襲って来ないのだろう。物音ひとつせずに静まり返っている。


「これは……ギルド(ビースト・ネスト)のフルメンバーで来た方がいいだろうな」

「わたくしもそう思います。ですが、ある程度の偵察はしておいた方がよさそうですね。モンスターの種類が分かれば攻略に有利になるでしょう」

「……頼めるか?」

「もちろんです。リーダーはコウさんとホームへお帰りください」


 確かに、偵察なら機動力に優れたアルテミスさんが適任だろう。


「アルテミスさん、お気をつけて」

「きゅー、きゅーっ!」

「ふふ……ライアさんの応援とは……凄まじいバフですね」


 アルテミスさんは鼻血を垂れ流しながらライアの応援に応える。でも……。

 デバフ! デバフになってますから! アルテミスさんに限っては!


 ……本当に大丈夫なんだろうかといぶかしみながらも、俺たちは帰路に就いた。




**********




 しばらくして町に帰り着くと、タイガさんは自分のギルドへ、俺はホームへとそれぞれ帰るため、解散となった。

 今回の情報をギルドメンバーに共有するのだろう。アルテミスさんが合流すれば更に情報が集まり、攻略をしていく感じかな。


 俺がホームに帰ってすぐ、アテナさんからメッセージが届いた。

 どうやらレイに着せる服が完成したそうで……手が早いなあ。


 そして、すぐにホームへの入場申請が届き、承諾する。



「お待たせしました! 早速レイちゃんに着せちゃいましょう!」


 テンション高いなあ。おそらくそれだけ楽しみなんだろう。

 レイはライアと違って人間サイズ……だいたい中学生ぐらいかな? ……だから、妹に服を作ってるみたいな感覚なんだろうな。


「レイちゃんは胸が大きいのでカップ付きのチューブトップと、パレオみたいなスカートにしてみました。花の中に蜜が貯まっているので、ギリギリまで短い感じで作ってみましたので、着せてみてあげ……」

「さすがに今回はお願いします」

「えーっ」


 ……さすがに人間と同じ肌色の、中学生ぐらいの大きさの子に俺が着せるのはね……。

 おそらくレイは気にしないだろうけど、俺は気にする。めっちゃ気にするよ。


「しょうがないですねえ……それじゃレイちゃん、ちょっといい?」

「るーっ」

「これを着てもっとかわいくなれば、コウさんが惚れ直しちゃうからじっとしててね」

「るー!」


 ……扱いがうまいなあ。

 とりあえず俺は着替えが終わるまで中で錬金でもしておこう。




「コウさーん、レイちゃんのお着替え終わりましたよ」


 呼ばれたので見に行くと、かわいい服を着たレイが嬉しそうにしている。

 おっと、忘れないうちに『装備記憶』しておかないと、


「どうですか? かわいいですよね?」

「もちろんです。これで外に行けるようになったね、レイ」

「るーっ!」


 レイは大喜びでアホ毛をぶんぶんしている。

 うーん、どういう仕組みなんだろう。


「それでは代金を……それと、アドヴィス森林の件は伝えておきました。今は自分のギルドに帰られてますが、メッセージを送れば来てくれるはずです」

「分かりました、ありがとうございます。これで私も……うふふ」


 ……やっぱりアテナさん、服を作ることが絡むとちょっとキャラが変わる気がする。


「ところで、アテナさんのペットモンスターってどんな子なんです?」

「私のですか? 私のはポルターガイストの一種で、モンスター名はシールドという盾の子です」

「た、盾ですか?」

「はい。私の職業と相性がいいのでありがたいんですよね」

「アテナさんの職業ですか。服飾関係……ではないんですよね?」

「ええ、私の職業は人形使い(ドールマスター)です。魔力で人形を動かして連携して戦う職業ですね……こんな感じに」


 アテナさんはアイテムボックスから剣と盾を持つ、人間の半分ぐらいの大きさの人形を取り出し、魔力で剣を振り回させる。

 その動きは人間と遜色なく、充分にモンスターと戦っていけるだろう。


「この職業をマスターすると、ゴーレムなども操れるようになると職業説明書に書いてありましたね。ただ、ゴーレムを作る必要があるので、簡単なことではないのですが……」

「大器晩成型な職業なんですね……でも1人で2人分の動きができそうなので、ものにできたら強そうです」

「そうですね、現在でも私は魔法、人形は物理で攻撃できるので対応できる敵の幅が広いんですよね」

「なるほど……そこに更にペットモンスターも加わって……」

「そういうことです。ただ、MP消費が激しいのでマジックポーションが必須で、アイテムの費用がバカにならないんですよね……」


 なるほど、一長一短だな……。

 そうしておかないと、プレイヤーの職業が偏るから当然のバランス調整だろうけど。


「……ん?」


 タイガさんからメッセージが来る。

 どうやらアドヴィス森林の件のようだ。


「アテナさん、俺のフレンドがアドヴィス森林の件でお話ししたいそうです。今こちらに来て頂いても大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です!」


 俺はタイガさんにメッセージを送り返し、タイガさんとアルテミスさんがホームへやってくる。


「初めまして、アテナと申します」

「初めまして、わたくしはアルテミス、こちらがリーダーのタイガです。今回はアルラウネをペットモンスターにしたいとのことでしたが……」

「はい、私も人型のペットモンスターが欲しくて……」

「いいですよね、人型のペットモンスター……」

「いい……」


 んん? なんか初めて会って即共感してるけど……。ま、いっか。


「それで、今回は俺とタイガさんとアルテミスさん、それにアテナさんで4人パーティーを作ってアドヴィス森林に行く形でよろしいですか?」

「うむ。ちなみにアテナ殿のレベルは……」

「私は20です。時々レベル上げをしているのですが、推奨レベル25の所にこれで大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です、コウさんはレベル10でアドヴィス森林に行ってましたし」

「分かりました、がんばります!」


 こうして、俺たちは再びアドヴィス森林に行くことになるのだった。




**********




「るー♪」

「か……かわいい……、いい服を作ってあげるからね、ティアちゃん……」


 その後、同じようにアテナさんもアルラウネをペットモンスターにすることに成功する。

 それにしても名前を付けるの早いなあ……。俺とは大違いだ。


「ふむ、これなら他の者がやっても同じだろうな」

「ええ、あとからギルドメンバーを連れて来ましょう」

「それで全員がペットモンスターにできたら確定ということで公表だな」


 更に、導きの蝶もアルラウネにポーションを与えた人が取得できるということも、アテナさんが導きの蝶を手に入れたことで確定した。

 これでしばらくはここが人気スポットになるだろうな……。



 その後、タイガさんのギルドメンバー全員がアルラウネをペットモンスターにすることに成功。

 導きの蝶の情報も合わさって、今日の掲示板はお祭り騒ぎだ。


 なお、先行して深層に入ったアルテミスさんは、接敵してすぐに引き返したそうだ。

 というのも、深層のモンスターがドリアードだったらしく、ライアを思い出して戦えなかったとのこと。

 ……ライアを好きすぎるのも考え物だな、と思いながら土曜の午後の時間は過ぎていくのだった。

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― 新着の感想 ―
ライアちゃんとレイちゃん、仲直りしたんですね。ヨカッタヨカッタ。 そして増えるペットモンスター。連れ歩けるのが1体だけというのは早々に改善してほしいですよね。
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