イベント予告
「よし、今日はハイポーションの作製動画を撮って、それからハイポーションの特許を取得して……あれ?」
花金の金曜日。
動画の一覧を見ていると、撮った動画の数が保存最大数になっていることに気づく。
確かにいろいろと撮っていたからなあ。保存数を増やすには……やっぱり課金かあ。
ええと……動画の保存数を10枠増やすごとに300円か。
動画って結構な容量になるから、まあ妥当っていうか安めな感じかな?
……あ、一応Gでも可能なんだ。3万G……なら払えなくもないな。
これからハイポーションの特許で更に収入が増えることを考えたら、こちらの方が圧倒的にお得だろう。
ということで、保存数を増やしてから動画の撮影を開始することに。
**********
「──これがハイポーションの作り方になります。なお、2人で作るためなのか、自動作成機能は使用できないようです。そこにはお気を付けください」
よし、こんな感じでいいかな。
しかし自動作成機能が使えない錬金もあるとはなあ……今後も2人以上で作るものが増えるかもしれない。
マジックポーションもハイマジックポーションみたいな感じで、2人以上の魔力が必要になるかもしれないし……考え出したらキリがない。
「お疲れ様ライア、今日の魔石はこれだね」
「きゅー♪」
俺はライアに大好物の魔石を渡す。
あれからもいろいろ試してみたけど、大好物なのはやはり少なかった。
また、大好物以上の反応は見つからなかったので、しばらくは大好物のもの数種類でローテーションしていこう。
人間でも好物が続くと飽きちゃうしね。
「さて、あとは動画を編集してアップして……ん?」
【INFO:ホームへの入場申請があります】
誰だろうと思って相手の名前を見てみるとアテナさんだった。久しぶりだなあ。
俺は申請を受諾すると、アテナさんが訪ねてくる。
「お久しぶりですコウさん。ようやく特注品の納品がすべて完了しまして……」
「お、お疲れ様です」
なんだか少し疲れているような感じなのだが……大丈夫だろうか。
「それで、ようやくこれを作れたんです! ぜひライアちゃんに着せてあげてください」
「これは──」
アテナさんが手渡してくれたのは、緑を基調とした、各所にフリルのついたかわいらしい服。
どことなく、魔法少女っぽさを感じるけど、もしかして……。
「もしかして、この杖に合わせて……」
「はい、これで魔法少女ライアちゃんの完成です!」
さっきの疲れた表情はどこへやら。
少々興奮したような感じで、若干早口で服のことを話し始める。
「──と、こんな感じのイメージで作ってみました。いかがでしょうか?」
「な、なるほど。それなら実際にライアに着てもらって判断しましょう」
「そうですね、やっぱり着てくれる本人の感想が一番ですし」
「ライア、ちょっとこっちに来てくれる?」
「きゅー……きゅー!?」
ブランコにゆらゆらと揺られて遊んでいたライアがこちらに来る。
そして、服を見た瞬間大喜びだ。自分のものだと分かったんだろう。
「それじゃちょっとじっとしててね。……『全装備解除』、と」
俺は新しい服を着せるために今着ている服を脱が……もとい、装備を解除する。
そして、アテナさんに教えてもらいながら新しい服をライアに着せる。
……もうアテナさんにやってもらってもいいのにとは思うんだけど、ライアがプレゼントだって喜ぶからしょうがない。ということにしておく。しておかないと絵面がまずい。
今回の服もボタンで留める形だ。
かわいらしさを重視しているらしく、今回はボタンの形がハート型になっている。
ほかにも各所にフリルがあったり、小さなリボンが付いていたり、小さな宝石のようなものまで……ん? これはもしかして……。
「これ、魔玉ですか?」
「あ、バレちゃいましたか。実は杖以外にも使えないかなって前々から思ってまして……それで今回、一番目立つ胸元のリボンにつけてみました」
「なるほど……って、ここまでのものだと、結構な製作費なのでは……?」
「ライアちゃんが着るなら最高のものを作らなきゃ! って思ってたら、こう……ズブズブと沼に沈んでですね……」
「あー、なんとなく気持ちは分かります」
凝りだしたらとことんやっちゃうってたまにあるよね。
自室を自分で飾れるゲームで、レアなアイテムばかり飾ってみたりとか。
「ええと……これで足りますか?」
「さ、さすがにこんなにはいただけませんよ!?」
俺が差し出したのは5000Gだったんだけど……さすがに労力が凄いだろうし……。
「でも、ライアもすごく気に入ってるようですし……一点ものですしね」
「う、うう……で、では、3000Gでしたら……」
「分かりました。それではお納めください」
「あ、ありがとうございます」
アテナさんはちょっと遠慮がちに3000Gを受け取る。
もっと自信を持ってもいいのに。
……そういえばステータスってどんな感じなんだろう?
「あ、ちょっとステータスを確認してみてもいいですか?」
「はい、大丈夫です……というか、私もまだ確認してませんでした。完成したから早速ライアちゃんに……って思ってすぐに来てしまいましたので……」
「アテナさんもライアが好きなんですね……ありがたいことです」
……この服をアルテミスさんに見せたらどうなるだろう、とふと思う。
今度、動画を撮って送ってみようかな。動画保存数に余裕もできたし。
「それではステータスを……っと」
【魔法少女のような服:ランクC、MP+11、生命力+5、魔力+10、魔防+35、魔法少女のようなかわいらしい服。これでキミも魔法少女だ★】
あのう、説明文さんなんかはっちゃけてませんか? 誰が書いてるんだよコレ。
……それはさておき、複数のステータスが上がるのって珍しいんじゃ……。
「あの……もしかしてこれ、かなりすごい服なのでは……」
「ええと……確かに今までの服とは性能が段違いですね……」
もしかして、服も杖と同じで手を加えればそれだけ性能が上がるのだろうか?
『愛の強さ=作る武器の強さ。これが宇宙の真理だったか』って、以前動画で言われたけど、あながち間違ってないのかもしれない……。
俺はそのことをアテナさんに伝える。
「なるほど……」
「それと、魔玉を使ったのもあるかもしれませんね」
「確かに今までは使っていませんでしたね。今回使ったのは普通の鉱石だったのですが、もっと上のランクのものを使えば、更に性能が上がる可能性がありそうですね」
これで普通の鉱石だったのか……。
ということは属性鉱石を使えばもっと……? と思ったが、更に属性補正が付いたら、風属性にめちゃくちゃ弱くなりそうかな……。
地属性特化するときにはよさそうだけどね。
「うーん、創作意欲がどんどん湧いてきました! 同じ服でいろいろ試してみますね!」
「それならこれをどうぞ」
「これは……よ、よろしいのですか?」
俺はアテナさんに各種鉱石を5つずつ渡す。
昨日アトラスさんからたくさん買ったやつだ。
「はい、その代わりですが……できた服は次も俺が買い取らせて頂きたいんです。普段使いと戦闘用で使い分けたくて……」
「分かりました、それでしたらお安い御用です! もちろん、今回の鉱石分値引きさせて頂きます。それでは、すぐに製作作業に取り掛かりますね!」
「む、無理はしないでくださいね? 製作にもHPかなり使いそうですし……」
「大丈夫です、ポーションがあるので一日中作っていられますよ! それでは、また出来上がりましたらよろしくお願いします」
そう言ってアテナさんはホームへと戻っていった。
……24時間働けますか? って聞かれたら、『働けます!』って返しそうな勢いだったなあ……。
何にせよ、ライアが喜んでくれて何よりだ。
**********
その後、動画を編集して予約投稿を使う。
予約時間は21時半。特許申請はそれより5分ほど前にしよう。
「……さて、これで今日の作業は終わりにして……ライア、ちょっと近場に散歩に行く?」
「きゅー♪」
最近は検証や研究でホームにいる時間が長かったので、気分転換にライアと近場に散歩に行くことにした。
エインズの町の東には海があり、綺麗な浜辺もあるとか。
最初は植物のライアに海ってどうなの? 潮風とか大丈夫? と思っていたけど、実際にドリアードを連れて行った人が掲示板にいたのだが、特に問題はなかったらしい。
一応帰宅後に水で洗ってあげたとのことだ。
それなら大丈夫かなと思い、今日は近くの海岸……地名を確認したらティノーク海岸と言うそうだ……へと足を運ぶ。
ちなみに、モンスターは出現しないらしく、ゆっくりできそうだ。
「きゅー♪」
浜辺へ到着すると、ライアのテンションが上がる。
今日は綺麗な満月で、月明かりが海を照らしていて幻想的な光景だ。
更に、雲一つない空には満天の星空が広がっている。……この星空は現実のものと同じなのか、それともこのゲーム独自のものなのか……。
そんなことを考えていると、ライアがふわりと浮き上がり、海へと近づいていく。
「ちょ、ちょっと待ってライア。もし海に入るなら服を脱がないと……濡らしちゃったら大変だしね」
「きゅっ」
あっ、と言うような表情になるライア。
どうやらテンションが上がって、服を着たまま海に入ろうとしていたのに気づいてくれたようだ。
俺はライアの装備解除をすると、行っておいでとライアを送り出す。
ライアは波打ち際で波と戯れてとても楽しそうにしている。
うん、連れてきてよかったな。と思っていると……。
「きゅ?」
ライアが何かに気づく。
ライアの向いた方向に視線を向けると、瓶のようなものがある。
俺はそれを拾い上げて中を確認すると、紙のようなものが入っている。
「ボトルメール……かな?」
紙を取り出して開いてみると、何分割かされたうちの一つなのか、文字が途切れ途切れになっている。
ステータスを見てみると……。
【謎の紙②:ランクD、どこかの誰かが流したボトルメールに入っていた紙。すべて集めたら何かが分かるかもしれない】
へえ、こんなイベント? もあるんだ。面白いな。
ほかに見つけた人がいないか、後で掲示板を覗いてみよう。
【INFO:設定時刻になりました】
あ、もう21時25分か。
俺は遊んでて特許申請を忘れないようにアラーム機能を使っておいたのだ。
こういう便利ツール入れてくれてるのも助かるよな……と思いながら、特許申請を行った。
「さ、それじゃそろそろ帰ろう?」
「きゅー」
こうして俺たちは帰路に就こうとした……のだが。
【INFO:ハイポーションとマジックポーションのレシピが発見されたため、イベント『エインズの町防衛戦』が、3週間後に開催されます】
まさかの新イベント予告である。俺にとっては初のイベントだ。
それにしても、新しいレシピの発見がイベントのトリガーになるのは珍しいかもしれない。
俺は少し駆け足になりつつ、期待に胸を膨らませながらエインズの町に戻るのだった。
**********
ホームに戻ると共通掲示板とサークル掲示板を確認する。
どれも新イベント一色で、すぐに1000レスがついて、次のスレを立ててるぐらいの勢いだ。
とりあえず、まずは新イベントの内容を確認しよう。
【エインズの町防衛戦】
巨大なモンスターがエインズの町を目指して侵攻している。
君たちにはこのモンスターを撃退、もしくは撃破して町を守って欲しい。
普通のモンスターに比べ、HP、攻撃力などが段違いに高いので気を付けてくれ。
また、このモンスターに同調して、おそらく未発見のダンジョンからも通常のモンスターが侵攻してきているようだ。
モンスターの発生源を調べて新しいダンジョンを見つければ、今後役に立つものが見つかるかもしれない。
多くのモンスターがいて危険ではあるが、こちらの調査も行って欲しい。
なお、物資が不足しているため、生産職には物資の補給をお願いしたい。
物資の対価はモンスター撃退後に支払うことを約束する。
【メインクエスト】
・巨大モンスターの撃退、または撃破
【サブクエスト】
・未発見ダンジョンの調査
・物資の補給
※イベントの進行によって追加される可能性あり
……要するにレイドボスみたいなモンスターを倒せばいいのか。
それに戦闘職以外のプレイヤーも活躍できるように、調査や補給のクエストもあるんだな。
……巨大モンスターは3週間もかけて移動するってどんな遠くにいるんだよとか、その移動途中で戦った方がいいのでは? とかいう野暮なつっこみは止めておこう。プレイヤー側に準備期間が必要なのは確かだしね……。
それはさておき、俺の場合は……物資の補給になるか。詳細を見てみよう。
【物資の補給】
下記の通り、エインズの町の兵士への納品をお願いする
・剣の納品 0/500
・杖の納品 0/500
・槍の納品 0/500
・盾の納品 0/1000
・鎧の納品 0/1000
・ポーションの納品 0/10000
・ハイポーションの納品 0/1000
・マジックポーションの納品 0/5000
・馬防柵の納品 0/500 ※戦闘開始前のみ
※1プレイヤーの最大納品数はそれぞれ50とする
※戦況によっては追加納品をお願いする
……なるほど、戦線を維持するための兵士への物資の補給か。
結構な数だけど、アクティブプレイヤーが多いから達成はできそうかな。
俺はポーションとハイポーション、マジックポーションの納品をメインでやっていこう。
っていうか馬防柵あるのか……休みの日に作ってみようかなあ。レパートリー増えるし。
「よし、そうと決まればちょっと作っておこうかな……」
と思って作業場に移動すると、メッセージを3件ほぼ同時に受信する。
差出人はタケルとタイガさんとアトラスさん。
内容はすべて同じで、動画を見たのでハイポーションを納品して欲しいというもの。デスヨネー。
アトラスさんはどのギルド所属か分からないけど、タケルもタイガさんもランカーギルド所属だからなあ。そりゃあ物資が多いことに越したことはない。
『数人から要望がありましたので、数が集まり次第納品させて頂きます』……送信、っと。
よし、しばらく忙しい日々が始まるな……平日は早起きしてHPとMPを使い切ってから出社しよう。
……そういえば、ベッドで寝るとHPとMPが回復するけど、いいベッドを作ったら全回復までの時間が短縮できるのでは……?
今は8時間で100%回復することになっている。ちなみに少しでも回復するには10分のログアウトが必要だ。
これがデスペナルティが重いって言われてる原因かな。
よし、明日はHPは馬防柵とベッドの試作に、MPはハイポーションの作製にそれぞれ使おう。
あとは掲示板でボトルメールに関して調べて……結構やることが多いけどワクワクするなあ。
俺は明日を楽しみにしながら、今日はハイポーションをMPの許す限り作ってログアウトするのだった。




