検証と研究
「昨日はブランコを作ったし、今日は何をしようか……」
火曜日。
ログインをしてライアに魔石を渡しながら考える。
ブランコの改善、杖の補正値の検証、ハイポーションのレシピの研究……。
昨日は遅くまで掲示板を見ちゃったから、今日はできるだけ早く寝て体力を回復したい。
「杖を作ればレベル上げをする際の予備武器にもなるし、今日はそれで行こうかな」
ちなみに杖の使用回数が減るのは、『打撃武器として使用した時』『杖の魔玉を通じて魔法を使用した時』『攻撃を杖でガードした時』とのことだ。
打撃武器として使用した時ってことは、杖の中には殴り杖……いわゆる物理特化の杖もあるんだろうか。殴りヒーラーみたいな。
……ちょっとそれも気になるけど、使うのは魔法職のライアなんだから、ちゃんとした魔法杖を作ろう。
ということで、アトラスさんから頂いた3種類の鉱石を、町で3つずつ魔玉に加工してもらう。
同じ魔玉でも、補正値のブレがあるだろうしね。
サンプルは多い方がいいけど、時間の兼ね合いもあるしとりあえずは3つにしておこう。
ライアにはブランコと滑り台で遊んでもらい、俺は杖の加工を始めた。
2時間ほどで魔法少女的ステッキの原型を9つ作り、それぞれに魔玉をはめ込んでいく。
そして小さな鉱石、普通の鉱石、特大鉱石と鉱石別に分けて比較してみる。
更に属性鉱石と、タケシの言ってたレアドロップ品も参考に挙げてみよう。
【小さな鉱石】
・ランクD、魔力+25、魔防+6
・ランクD、魔力+31、魔防+3
・ランクD、魔力+28、魔防+5
【普通の鉱石】
・ランクD、魔力+30、魔防+5
・ランクC、魔力+37、魔防+6
・ランクD、魔力+26、魔防+10
【特大鉱石】
・ランクD、魔力+31、魔防+6
・ランクC、魔力+40、魔防+6
・ランクC、魔力+38、魔防+8
【属性鉱石(ランクCの木材使用)】
・ランクC、地属性+20、風属性-20、MP+22、力+6、魔力+52、魔防+23
【レアドロップ】
・ランク?、魔力+42、魔防+11
補正値に結構ブレはあるけど、小さな鉱石はランクDのみ、普通はDとC、特大でもDとC……みたいな感じだろうか。各3つだから母数は少ないけど、特大の方がランクCになる確率が高そうだ。
しかし、属性鉱石で作ったものはこれだけ盛られてるのに、ランクB扱いではないのが意外だな。意外とランクCの評価幅って広いのか?
検証数は少ないものの、見た感じランクDは魔力と魔防の合計値が40未満、ランクCは40以上ぐらいだろうか。
それにしても、ランクCになりさえすれば、レアドロップ品と並べる強さなのか……。
ものづくりを宣伝するゲームだから、自分で作ったものが強めになるのかな?
「とりあえず、これは明日アトラスさんに報告するとして……」
寝るまでにもう少し時間があるから、ハイポーションのレシピの研究もしておこうかな。
ポーションの回復量は50、ハイポーションは100。
単純に考えれば薬草の数を2倍にすれば……と思うけど、それは先人がやってるだろうな。念のため一応は確認するけど。
ハイポーションの内容量はポーションと同じ……容器も同じみたいだし、薬草の効能をより凝縮した感じだろうか。
とりあえず考えられるのは……。
①魔法水+薬草2つ、作成時の魔力はポーションと同じ
②魔法水+薬草2つ、作成時の魔力2倍
③魔法水+薬草2つ、作成時の魔力2倍以上
④ポーションとポーションを混ぜ合わせる(内容量が増えるから×?)
⑤ポーションに更に薬草を混ぜ合わせる
こんな感じだろうか。
とりあえず順番にやっていこう。
・
・
・
「やっぱりそう簡単にはいかないか……」
そりゃそうだ。そんなに簡単なら既に誰かがレシピを見つけているはずである。
……となると、まだ他の要素が必要なのかそれとも……。
「ふぁぁ……」
思わずあくびが出る。
時計を見たらもう23時前である。
「……お風呂に入って寝るか。寝てる間にいい考えが浮かぶかもしれないし……」
なぜか起きた瞬間に閃くこともあるからね……。
寝てる間に脳が情報を整理してくれるからとかどこかで聞いた気がする。
「ライアー、そろそろ寝よう?」
「きゅー!」
俺はライアと一緒に布団に入り、今日はログアウトするのだった。
……なお、翌日の朝は何も閃かなかった……。
**********
「ほう、これがそれぞれの鉱石で作った杖か」
「はい、サイズはライアサイズになってますが……人間サイズでも同じような性能でしょうか?」
「いや、違うぞ?」
「へ?」
アトラスさんの思ってもなかった返答に、思わず変な声が出てしまう。
使ってる鉱石も変わらないはずなんだけど……。
「これよりステータス補正値は5~10ほど低いし、ランクはほぼDだな」
「ええ……何か違うところがあるんでしょうか……」
「ま、見た目は結構違うが……」
「あっ」
そうか、よく考えたらサンプルに買った杖よりもだいぶデザイン変えたもんなあ。
椅子も手を加えていくと使用回数が増えたし、武器は補正値が上がるんだろうか。
「つまり、人間サイズでも同じデザインにすれば……」
「ああ、他の杖よりも性能が上がる可能性はあるな」
「分かりました、やってみます」
これで性能が上がったら、『武器でも手を加えたら性能が上がる』というのがほぼ確定だな。
「……あれ? 今までデザインを変更した武器を作った人って、そんなにいないんですか?」
「ああ。というのも、使用可能回数があるから武器が壊れる上に冒険者の方が数が多いだろ? 凝った武器を作るよりも、自動作成機能を使ってどんどん作り出す方が儲かるぐらい、供給が追い付かない事態になったことがあるんだ」
「職人不足ですか……」
「ま、正直モンスター狩ってた方が儲かるからな……あまりにも供給が追い付かないもんだから、武器を売ってくれるNPCが増えたんだ。今では武器研究をしている職人もいるだろうが……話は聞かないな」
「なるほど。それならこの杖の情報をまとめてどこかに投稿すれば、もしかしたら作る人も増えるかもしれませんね」
「ああ、そうなってくれるようにコウには期待してるぜ」
「で、できる限りはがんばります」
俺はアトラスさんと別れた後、残った各7個の鉱石を普通サイズの魔玉に加工してもらった。
そして、ホームに帰って杖づくりを再開する。
「さすがに人間サイズだと木材を使う量が増えるな……」
ただ、大きい分加工はしやすい。
ライアサイズの杖だと細かい加工にかなり時間がかかるからなあ……。
それでも、ライアが喜んでくれるからがんばって作れるんだよね。
そんなことを考えながら、まずはデザインは普通の杖を3つ作る。
次に、デザインは魔法少女な杖を3つ作る
そして、それぞれに特大鉱石から作った魔玉をはめ込み、ステータスを確認する。
ライアサイズの杖のステータスも並べて比較してみた結果が以下だ。
【特大鉱石(人間サイズ、普通デザイン)】
・ランクD、魔力+24、魔防+2
・ランクD、魔力+26、魔防+5
・ランクD、魔力+25、魔防+3
【特大鉱石(人間サイズ、魔法少女デザイン)】
・ランクD、魔力+28、魔防+6
・ランクC、魔力+36、魔防+5
・ランクC、魔力+37、魔防+4
【特大鉱石(ライアサイズ、魔法少女デザイン)】
・ランクD、魔力+31、魔防+6
・ランクC、魔力+40、魔防+6
・ランクC、魔力+38、魔防+8
確かに、デザインが凝っていた方が補正値が高いような傾向がある。
……しかし、ライアサイズの方が全体的に合計値が上のような……。
これはまた別の理由だろうか? ブレの範囲内だとは思うけど。
魔玉のもとにした鉱石はどれも同じ……ん? 同じ?
あれ? 鉱石は同じなのに魔玉のサイズが違う……?
……もしかして、魔玉に隠しステータスで密度みたいなものがあって、それがステータスに関係してくるとか?
加工しているところは見られないので何とも言えないが、もしそうならペットモンスター系の装備が若干強くなる仕様なのかも。
とりあえず、『武器でも手を加えたら性能が上がる』というのはほぼ立証できたと思う。
あとは試行回数だけど……掲示板で協力者を募ってもいいかもしれない。
その場合、謝礼とかが必要かもしれないけど……。
なんにせよ、明日アトラスさんに報告しよう。
残った時間はハイポーションの研究に費やしたが、結局何の成果もなし。
さすがに先人たちが全然作れないだけある……。
ちなみに失敗ばかりしてるのをライアに心配され、頭をなでなでされるのだった。
いい子だ……。
**********
「──ということなんです」
「なるほどな、ランクが変わるぐらい補正値が変わることがあるのか」
「ここまで変わったら売値も結構変わりますよね?」
「もちろんだ。レアドロップ品並みの性能となれば1.5倍から2倍程度に跳ね上がるだろう」
「そこまでですか……」
ほんの少し手を加えただけでそこまで変わるなんて……。
これなら自分で作ろうとする人も増えるかな?
「それにしても一番貴重な属性鉱石の魔玉で杖を作っても、ランクBにならなかったんですよね。これが意外と言いますか……」
「まあ、まだ近場だけでしか採取できないからな。これから先、新しい鉱山が発見されれば、もっと性能がいい鉱石が手に入るようになるかもしれない」
「……そういえば、クォルトゥス鉱山は一番最初の鉱山でしたからね。まだ序盤でランクB以上が作れたらそれはそれでバランスが崩壊しますね」
「ま、ランクCが作れるだけでも結構変わってくるんだけどな。なにせ現段階で行けるダンジョンのレアドロップ品と同じぐらいの強さだろう?」
「確かに。これは作り方を公開すれば武器づくりが盛んになるかもしれませんね」
「ああ。特にペットモンスターが実装されて、必要な装備がおよそ2倍になったからな」
確かに。ペットモンスターにも装備をさせるならそれだけ需要も増えるか。
タケルのクロウ……カラスのモンスターみたいな装備させづらい子もいるけど、そういう子向けの装備も考えられるだろうし……。
「中には自分でうちの子の装備を作る人も出てくるかもしれませんね」
「ま、そうしたら愛着がわくだろうしな」
「うちの子ってかわいいですしねえ……」
「そうだな。そして装備作りが盛んになれば鉱石の値段も上がって……」
「抜け目がないですねえ」
「はっはっは、褒めるな褒めるな」
実際にペットモンスターで杖を装備できる子も結構いるみたいだし、動画で杖を出してからはサークル掲示板などで問い合わせを結構受けるんだよな。
今回試しに作った杖はフリーマーケットで売り出す予定ではあるけど、全然足りないだろうなあ。
「ちなみに増産する予定なので、各種鉱石を売って頂きたいのですが……」
「おう、大丈夫だぜ……って、特大鉱石だけじゃないのか?」
「ええ、ランクCだと高価で手が出ないって人もいるかもしれませんし、使用回数のこともあるので普段使いはランクD、ボスなどではランクCと使い分けできた方がいいと思いまして」
「あー、確かにそれもそうだな。よし、それじゃ持ってる鉱石全部コウに売ろうか」
「か、買いきれますかねえ……アトラスさん、相当ため込んでる気がしますし……」
「はっはっは、まあお値段は勉強させてもらうぜ。鉱石掘りブームを作ってくれたコウだからな」
それはありがたい……けど、他の人に売ればもっと儲かるはずなのに。
「ところでアトラスさんのペットモンスターはどんな子なんです?」
「おれのはシルフって言う風の精霊だ。戦闘では風魔法での援護をしてくれるし、だいぶ戦いやすくなったな」
「それじゃあ……シルフちゃんにこれをどうぞ」
俺は今回作ったライアサイズの杖をアトラスさんに渡す。
「おいおい、いいのかよ。これオークションとかで売ったら相当な額になるぜ?」
「それはアトラスさんもでしょう? 鉱石ブームなら俺に売るんじゃなくて、他の人に売ればそれだけ儲かるでしょうに」
「ははっ、それを言われちゃあ反論できねえな。それじゃあ、ありがたく頂いておくぜ」
こうして、俺はアトラスさんに杖を譲り、鉱石を安く売ってもらうのだった。
おかげでしばらく杖を作る際の魔玉には困らないな。
**********
「──さて、今日もハイポーションのレシピ研究だけど……」
魔法水の量や薬草の個数、注入する魔力の量など、考えられることはほとんどやったはず。
となると、マジックポーションには純水を使うように、発想の転換が必要なのかなあ。
ポーションと比べるとハイポーションの回復量が2倍なんだから、素材も2倍に増やせばって考えが間違っていたのかもしれない。
「きゅー?」
「ああ、ごめんね。ちょっと考え事をしてたんだ」
うーん、ライアに心配かけるぐらいなら、研究は一時中断でもいいかもしれない。
ポーション(失敗作)の数もそろそろ3桁になりそうだし……。
俺は心配してくれてありがとうと、ライアの頭を撫でる。
「きゅー♪」
うーん、癒される。
こういう時、1人でなく2人で一緒にいるのがありがたいなと感じる。
……ん? 2人?
「……ごめん、ライア。ちょっと協力してくれる?」
「きゅー!」
俺は魔法水に薬草を2つ入れて準備する。
「ライア、俺とタイミングを合わせて魔力を送り込んでくれる?」
「きゅっ!」
「それじゃあ……いくよ」
俺は合図をすると、2人同時に魔法水に魔力を注ぎ始めた。
すると、ポーション(失敗作)の色ではないポーションができあがる。
「もしかして……」
俺はできあがったもののステータスを確認する。
【ハイポーション:飲むことでHPが100回複する、ポーションの上位アイテム】
「……っっ……やったー! ありがとうライア!」
俺は思わずライアを抱きしめる。
「きゅぅぅぅぅ……」
ライアは少し恥ずかしそうな声を出す。
……あ、興奮しすぎて思わず……。
「ご、ごめんごめん。嬉しすぎてつい……」
「きゅーぅ」
ライアは迷惑じゃないよ、みたいな感じの声を出す。顔がちょっと赤くなってたけど……。
いくら家族みたいなものだからって、スキンシップ過剰過ぎたかな。反省。
【INFO:新しいレシピを発見しました。一週間以内に申請することで、特許を取得することができます。また、取得する、しないに関わらず、選択肢を選んだ時点で全プレイヤーにレシピが公開されます】
空気を読んだのか、少し遅れてインフォメーションが表示される。
……自分で言っておいてだけど、空気を読むシステムってなんだよ。
とりあえず保留にしておき、一日考えてから申請しよう。
今日ももう遅いし、正確に判断するのは寝てからの方がいいと思ったからだ。
……まあ、興奮したせいですぐに寝るのはちょっと難しいだろうけど。
それにしても『2人じゃないと作れない』ってのがミソだったんだな。
特許システムがあるから『全部1人でやらないと損』っていう考えが、ここまで発見を遅らせたのだろう。
まあ、俺が気づけたのもライアのおかげ……そう考えると、ペットモンスターの実装って結構いろいろな方面に影響を与えてるんだな。
そう考えながら、興奮冷めやらぬまま、今日はログアウトするのだった。




