ペットモンスター愛好会
「ようコウ、配信とイベント見たぜ」
「ああ、あれのおかげで遊具の製作作業が忙しくなりそうだな」
「それもいいことだが、杖の方が気になってな。なんであんな高補正値の杖ができてるんだよ……」
「ランカーギルド所属のタケシまでそう言ってるってことは……やっぱ何かおかしいのか」
「まあな。オレのギルドの魔法使いが使ってる杖だと、魔力+42、魔防+11だったかな」
ん? 杖なのにMP補正がない?
属性補正は属性鉱石の影響と思われるから分かるけど、魔法使いに大事なMPの補正がないのはいったい……。
力はまあ……おまけみたいなものだろう。
「その杖の魔玉って何でできてるんだ?」
「調べたいところだけど、レアドロップ品だからそこまでは分からないんだよな」
「へえ、素材の詳細までは不明なのか」
「ああ、そこまで分かったら量産できちまうからな。例えばポーションより強力な効果を持つハイポーションなんかもドロップするダンジョンがあるが、レシピは分からないんだ」
「なるほどなあ。プレイヤー側で見つけるしかないのか」
「ハイポーションのレシピが分かれば回復手段が更に増えるし、一度に回復できる量も増えるんだけどなあ」
マジックポーションもだけど、ハイポーションもまだレシピが見つかってないということか。
そっちの研究もいずれ進めたいな。
「そういえば、ドリアードの椅子や滑り台や今回のステッキ、まだ誰も作ってなかったっぽいけど、特許申請はできなかったんだよな。何か理由があるんだろうか」
「あー、それな。どうも現実でもあるものは特許申請できないっぽいんだ。ドリアードの椅子は椅子で、滑り台は普通に現実にあるものだし、ステッキも杖の一種だからな」
「なるほどな……確かにポーションは現実にはないもんなあ」
強いて似たものを挙げるなら栄養ドリンクだろうか。
でも速攻で回復するわけではないしな。
「ポーションオブドリアードが申請できたのは、同じポーションでも製法や材料が違うからだろうな。『ドリアードの魔力が必要』って言う特殊な作り方だし。……ま、特許システムのこういう理由のせいで、錬金術師が人気で他のものづくり系の職業が不人気って言うのはある」
確かに、同じお金をかけて開発するなら、特許を取れる錬金術師に人が流れちゃうだろうなあ。
それだけで実入りが全然違うし。実際に俺もポーションオブドリアードが収入源の一つだしな。
「やっぱり刀鍛冶とか武器系統のもダメなのか。まあ杖がダメで剣や刀がいいってなったら格差があり過ぎるからな……」
「そういうことだ。そのうち改善されることを祈ろう。……ところで、コウはこれからはどんなものを作る予定なんだ?」
「ええと……やりたいことは色々あるんだけどな……」
「ほう、それは気にな……」
タケシの声を遮り、始業の鐘が鳴る。
そうか、もうそんな時間か。
「それじゃ、続きは昼飯の時だな」
「ああ、考えをまとめておくよ」
**********
「さっきの会議、いい感じに人をまとめてたじゃないか。いつの間にそんなスキル身に着けたんだよ」
「たぶん、ワールドクリエイターズでイベントやったから、その経験からかなあ……」
「前のプレゼンといい、結構いい影響が出てるみたいだな。紹介したオレも鼻が高いぜ」
「ああ、そこは感謝してる」
「……おいおい、そこはツッコむところだろ?」
「ま、実際にいい影響を受けてるんだ。普通に感謝はするだろ?」
「じゃあ今度何か奢ってもらうか」
「おう、それじゃ缶コーヒー一本な」
「案外セコイ手を使うな……」
「ハハハ」
と、他愛のない会話をしながら、食券を購入して着席する。
「で、やりたいことはどんなことなんだ?」
「そうだな……こんな感じだ」
①新しい遊具の作製
②杖の補正値の検証
③マジックポーションのレシピ探し
④ハイポーションのレシピ探し
⑤アドヴィス森林の探索(要:レベル上げ)
「ふーん、なるほどな……ん? 最後のアドヴィス森林はどういうことだ? 推奨レベルからだいぶ離れてるだろ?」
「クォルトゥス鉱山に行く途中、ライアがアドヴィス森林に反応したんだ。それで何かあるのかなって思ってさ」
「ほう、それは気になる話だ。で、レベルが足りないからレベル上げもしたいと」
「レベリングを手伝ってもらうにしても時間がかかるから、次の土日あたりになるから優先度は低めかな」
実際、レベルを5から10まで上げるのに2時間だったから、推奨レベルの25まで上げるとなると更に時間がかかるだろう。必要経験値もどんどん増えるだろうし。
それに、消耗品費が自分持ちだからお金も必要だし……土地を買ったばかりなので懐が寂しい。
「それなら平日は製作がメインになるか。レシピを見つけるのは大変だろうけど、特許が取れたらかなり儲かるからな……ん?」
タケシのスマホに通知が入る。同時に俺のにもだ。
「おいおいおい、ついにマジックポーションのレシピが発見されたのか……先を越されたな、コウ」
「マジかあ……でも、これで冒険が楽になるからいいんじゃないか?」
「それはそうだな。……ええと、材料は『純水』と『魔草2つ』か」
「ポーションと違って『魔法水』を使わないんだな」
「ああ、ただ単に『マジック』と頭についただけだと思って、みんな『魔法水』を使ってたんだろうな」
なるほど、そこが落とし穴だったってことか。
でも、それだけでこんなに発見が遅れるか?
「更に薬草のHP回復が25だろ? それを魔法水と薬草で錬金してポーションにしたら回復が50になるよな」
「ああ、効能が上がって倍になってるな」
「魔草はMPを25回復、マジックポーションはMPを50回復だ」
「……ってことはポーションと同じように、魔草1つと魔法水1つで錬金しようとした人が多いのか」
「で、めちゃくちゃ失敗を重ねて、純水に変更して、更に魔草を2つにしてようやくってことだ」
「はー……錬金って奥が深いな……ってこれ、魔草2つ消費するのと同じ回復量だけどいいのか?」
「ああ、持ち込み制限ダンジョンへの持ち込みとかマジックポーション1本で魔草2つ分だから素早く回復できるとかがあるから、かなり有用だぞ」
「飲んだ後にガッツポーズしないと回復しないとかは?」
「ない。ていうかそれいつの話だよ」
「ハハハ」
それにしてもポーションとマジックポーションで同じようなレシピじゃないんだなあ……ポーションオブドリアードと違って……。
……ん?
「もしかして、ポーションオブドリアードと同じようにドリアードに任せたら、マジックポーションオブドリアードみたいなのができるんじゃ……」
「そう思うよな。でも掲示板見てみろよ」
『ポーションオブドリアードと同じようにできないか試したけどダメだった……』
『まあそんなにうまい話はないよな……』
『MP回復手段はやはり貴重なもの扱いなのか、それとも全然違うレシピなのか……』
「……考えることはみんな一緒か」
「だな」
……その後はタケシと昼食を食べながら、ワールドクリエイターズの雑談を続けるのだった。
**********
「さて、と。今日は何をしようかな……」
マジックポーションは既にレシピが判明したし、やりたいことは4つに絞られた。
寝るまでの短い時間でやるなら、やっぱり遊具の作製かな。
帰り道にある公園で実物を見てきたけど、作る流れはこんな感じかな。
支柱の土台を作る。
2つの木材をクロスさせる形で支柱を作る。接合はそれぞれの木材の凹の形に削った部分を重ねる。
支柱と土台を接合。
2つの支柱の間に、丸太のように角を取った木材を通す。
座る部分を作る。
座る部分を紐などで支柱の間に通した木材に吊るす。
「……木材はあるけど、紐を持ってないからまずは買いに行こうかな。ライアー、町に買い物に行こうー?」
「きゅー♪」
ライアに声を掛けると、滑り台で遊んでいたのにすぐに俺の肩に飛びついてくる。
お出かけするのが楽しいんだろうな。
本当はお昼とかの日光が浴びれる時間帯に連れて行ってあげたいけど……。
「もしライアの欲しいものがあったら何か買う?」
「きゅー!」
「それじゃ、いろいろ見て回ろうね」
「きゅっ!」
こうして、俺たちは町に買い物に出かけるのだった。
**********
「──よし、必要なものは揃ったかな?」
ブランコに使う紐のほかに、そろそろ在庫がなくなりそうだった薬草の種、マジックポーションを作るための魔草の種と純水、魔法水、ライアの大好物の魔石などを購入した。
魔石はライアに好きなものを選んでもらったのだが、見事に大好物のものばかり。
やっぱり好物の存在はあるんだな。他の人の動画を見るに、個々によって好物も違うみたいだし、細かい設定だなあ。
ちなみに魔草が収穫できるようになるのは4日後だけど、ライアのスキルのおかげで3日か。
フリーマーケットに出せるように、帰ったら薬草の代わりにいくらか植えておこう。
……さて、これでしばらくは買い物に来なくても大丈夫だけど……町に来るとライアが喜ぶから時々は来ようかな。
「おう、偶然だなお二人さん」
「アトラスさん!」
ホームに帰ろうとしたら声を掛けられ、振り向くとクォルトゥス鉱山でお世話になったアトラスさんだった。
「その節はお世話になりました、ありがとうございます」
「いいってことよ。それはそうと、コウのおかげで今鉱山が大人気でよぉ」
「え? そうなんですか?」
「ああ、高補正値の杖を作っただろ? それで、自分も属性鉱石を掘り出したいってやつが大量に来ててな。取引も活発なんだ。ポーションの値段が150Gまで高騰してるから、稼ぎたいならブームが終わるまでに来てみな」
「情報ありがとうございます。まさかそんなことになってたとは……」
まさかの1.5倍の値段である。
手持ちもそこそこあるし、売りに行くのもありかな……?
12本売ればポータル移動の往復金額にもなるし。
「ちなみに属性鉱石の値段も爆上がり中だ。今だと倍の値段で1個3000Gだな」
「ひぇっ……」
「ま、それだけ価値があるって周知されたんだ。しばらくは下がらないだろ」
「でも、今までにも結構な数の属性鉱石が掘られてて、それで武具も作ってるはずなのに、どうして今ごろ騒がれ始めたんでしょう?」
「それは確かに謎だな……偶然、高補正値の杖になったのか、それとも理由があるのか……それを確かめるために買い集めてるやつもいそうだな。もしコウも何か分かったら動画にしてみるといいかもな」
「はい、後日杖を作って検証しようと思ってます」
「ほう、それならこいつを持っていきな」
アトラスさんは小さな鉱石、普通の鉱石、特大鉱石をそれぞれ10個ずつ俺に渡す。
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、コウのおかげで、こっそりため込んでた属性鉱石でガッポリ稼がせてもらったからよ。そのお礼だ」
「ありがとうございます。もし杖のことで何か分かりましたら真っ先にお知らせします」
「おう、期待してるぜ。買い物中に呼び止めてすまなかったな」
「いえ、大丈夫です。こちらこそ素晴らしいお土産をありがとうございました。それでは」
「ああ、またな」
こうして、俺はアトラスさんと別れ、ホームでブランコ作りを始めるのだった。
**********
「ええと……ここをこうして……うーん、ライアサイズのだと紐をきつく結ぶのが意外と難しいな……」
ホームに帰ってからはブランコの製作に勤しんでいる。
やはりミニチュアサイズだから各所各所で難しい部分はあるのだが、ライアが喜んでくれると思ったらやる気はどんどん出てくる。
作ってる途中に、支柱のクロス(Xの上のV部分)に丸い木を乗せるのではなく、クロスした部分に穴を開けて木を通したら安定するな……とか、改善点は出てくる。
安全性を考慮したらそちらの方がよさそうだしやってみるか……を繰り返していたらもう22時である。
「ちょっとだけゲリラで買った土地を開けるかなあ。……と、その前にライアに遊ばせてあげよう。ライアー」
「きゅー」
「ほら、ここに座って、紐を持ってみて」
ライアが紐を持ったのを確認して、俺はライアの座ってる板をゆっくり引き、手を放してブランコを動かす。
「……きゅー? ……きゅー♪」
最初は戸惑っていたものの、振り子のように揺れるのが楽しいのか、ずっと揺れ動くのを楽しんでいる。
そんなライアを見ながら、自動作成機能でブランコを5個作り、以前の動画に固定コメントで試遊の件を書き込んでおく。
その間もずっとブランコで遊んでいたライア。これもお気に召したようで嬉しいな。
**********
「こんな時間に、しかも急に予告してすみません。よろしければ使ってみての感想や、改善点などをいただけると助かります」
「大丈夫です! 我ら、ペットモンスター愛好会! いつでも馳せ参じます!」
「うちの子のためなら何でもします! 合法な範囲内で!」
「では早速試遊させて頂きます名誉会長!」
……ん? 名誉会長???
まあ気のせいだろうと聞き流しておくことにした。
「……そうですね、慣れてないと後ろに体重が寄ってしまい、落下する危険があると思います。椅子のように背もたれがついていると安心ですね」
「紐だと使っていくうちに千切れる可能性がありますね。鎖でも錆びたら危ないですが……。まあ、ワールドクリエイターズでは使用可能回数内であれば壊れませんので、ここは大丈夫でしょう。ただ、鎖にすると使用可能回数が増えるかもしれません。材料価格は上がってしまいますが……」
などなど、いろいろな意見が出てくる。
これを参考にして改良していきたい。
「貴重なご意見ありがとうございます。これを参考に改良して、より安全で長く使えるものを作りたいですね。……ところで、ペットモンスター愛好会とは……?」
ちょっと気になったので聞いてしまおう。
俺もペットモンスター……ライアは好きだし。
「ペットモンスターが戦闘の背中を預けられる相棒、戦闘はさせずに愛でる対象など、愛の形は様々ですが、ペットモンスター好きなら誰でも入れるものです」
「活動としましては、ペットモンスターの有益な情報の共有、ペットモンスターへの接し方の研究、ペットモンスターが喜ぶものの研究、うちの子かわいい動画の投稿など、ペットモンスターメインの活動です」
「コウさんのライアちゃんの好物動画なども真っ先に共有して拡散してました。有益な情報をありがとうございます」
なるほど、名前通りの活動をしてるんだな。
それにしても楽しそうな集まりだなあ。
「これはギルドみたいなものなんですか?」
「いえ、ギルドとは少し違いまして……ギルドは複数掛け持ちはできない設定なのですが、異なるギルドでも同好の士は集まりたいよね……ということで要望を出して作られた『サークル』的なものですね」
「ちなみにギルドもサークルも独自の掲示板があり、メンバーでないと見られないようになっています。ペットモンスター同好会だと、種族ごとにスレが立ったりしてますよ」
いいなあ、それ。
俺の知らないドリアードの情報もあるのかも……。
「あの、俺も参加できたりしますか?」
「もちろんです! 神が降臨なされた……」
「か、神とはいったい……?」
「ペットモンスターの貴重な情報を次々公開されていたので、我々からすれば神のような存在です」
「ちなみにライアちゃんは女神です」
「は、はあ……」
……大丈夫だろうか。やっていけるだろうか、俺。
でも、物は試しだし、せっかくの縁なのでサークルに入ることに。
そして、ブランコの試遊会が終わったあと、ホームに戻ってサークルの掲示板を開くと……。
『うちの子のここがかわいい!(写真・動画付き) 3スレ目:レス数765』
『ドリアードに関するスレ 2スレ目:レス数573』
『どうすれば最初にもらった卵以外でペットモンスターを増やせますか? 4スレ目:レス数890』
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などなど、各モンスター別のスレなどがてんこ盛り。
こんなにペットモンスター好きがいるのは嬉しいな。
そして、これを見始めたら絶対沼だろうなあ……と思いながら、そろそろ就寝時間なのでそっと掲示板を閉じるのだった。
まあ結局、ドリアードのスレだけなら……と見始めちゃって、次の日眠たい目を擦りながら仕事をするハメになったんだけどね……。
確かに有益な情報が揃っていたので、ペットモンスター愛好会の名前は伊達じゃないんだなと思うのだった。




