遊具を作ってみる
「きゅー♪ きゅー♪」
俺が昼食を済ませてから再ログインをすると、さっきの杖がよほど気に入ったのか、ライアは肌身離さず持っている。
がんばって作ったので、気に入ってくれて嬉しいな。
さて、今日は午前中に出歩いたし、午後はホームでのんびり過ごそうかな。
ライアには杖で遊んでもらって……ん? 遊ぶ……。
ふと気づく。
そういえばワールドクリエイターズ内での、ペットモンスターの娯楽ってあるのだろうか?
ペットモンスターが実装されたばかりなので、おそらくないと思うのだが……。
「一応、最新情報に詳しいタケルに連絡してみるか」
とりあえずメッセージを送って、ボイスチャットもしくは対面での話を希望してみる。
すると、すぐにチャットでメッセージが届く。
『おー、今なら大丈夫だぜ』
「いいのか?」
『ああ、ちょうど持ち込み制限ダンジョンのボス部屋の前にあるセーフティーエリアで休憩中なんだ』
「セーフティーエリア……ああ、RPGでいうところのボス前にある、セーブできたりテントで回復できたりするアレか」
『お察しの通りそういう類のものだな。……で、ペットモンスターの娯楽の話だったか』
「ああ」
『このゲーム、モンスターはかなりの種類いるから個別に作るのは大変そうだし、それにペットモンスターは実装されたばっかりだからなのか、そういう話は聞かないなあ』
「そうか、ありがとう」
『ま、ライアちゃんならコウと一緒にいるだけで楽しそうだから、町を散策するのもいいんじゃないか?』
「そうだな、思いつかなければそうしてみる。んじゃ、武運とレアドロップを祈るよ」
『おう、サンキュー』
そうか、娯楽はないんだな……。
それなら作るのも手か……ええと、俺が昔遊んでたもの……。
ゲームとかはこの世界にないので、こどもが遊ぶと言ったら公園だよなあ。
となると、鉄棒、ブランコ、滑り台、砂場、ジャングルジム……などなど。
鉄棒やジャングルジムは素材的に難しいかな……。
ブランコは丈夫な紐さえ手に入ればどうにかなるかな? ライアは小さいから紐への負担はそんなにかからないだろうし。
滑り台は木だけで作れそうだな。ライアサイズの滑り台なら机に引っ掛ける形のものを作れば、移動するのも作るのも楽そう……かな?
ただ、ライアは浮遊できるから滑り台って遊んでて楽しいだろうか……?
まあ、とりあえず作ってみて様子を見てみよう。ダメだったら他のプレイヤーの子に譲ってもいいし。
まず、角度を決める。緩すぎず、急すぎずだから25度ぐらいか?
分度器がないので感覚でやるしかないんだけど……。
そして、机の縁に合うように木材を削り取っていく。
削る箇所に目印を入れて、実際に削って机の縁と合わせて確認して……を繰り返してピッタリ合うように調整する。
床側の方は、別の木材を台座のようにして、そこにはめ込む形にしてみる。
滑っているときに左右から落ちないように、本体部分は中を削って凹の形にしてもいいんだけど、それだと削り方によってはお尻が痛くなるだろうから、サイドに手すりを付けるようにしてみよう。
本体側に穴を開け、手すりと接合して手すりを面取りで丸くして……。
安定性のために支柱も付けておこうかな。
──とりあえず、これで完成かな?
「ライアー、ちょっと来てくれるー?」
「きゅー?」
「ちょっと机の上からこの滑り台で下に滑ってみて」
「きゅー」
ライアはふわりと浮き上がり、机の上に乗る。
そしてそこから滑り台を使って床にスーッと滑っていく。
「きゅー! きゅー!」
楽しかったのだろうか、目を輝かせながら俺の方を見てくる。
良かった。楽しんでくれたなら作った甲斐があるなあ。
その後もライアは何度も何度も滑り台を使って遊んでくれている。
俺も昔は何回も登り降りして楽しんでたなあ。
下から滑るところを逆走して登ろうとしてる子もいたっけ。懐かしい。
……そうだ、これだけライアが楽しんでくれるなら、他の子も喜ぶかな?
これを特注で数を作るのは骨が折れそうなので、どこかに設置してみるとか……?
とりあえず、配信をしてドリアードがペットモンスターの人に聞いてみよう。
ええと、30分後に配信開始を予告して……これでよし、と。
そういえば滑り台を作ったときに出たこの端材、何かに使えないだろうか。
長さ的には矢にすればちょうどいいぐらいだけど、俺は矢じりを作れないんだよなあ。
どこかに売ってたりするんだろうか。それとも鍛冶も鍛えてみるか?
と、そんなことを考えながら配信開始までライアが滑り台で遊んでるのをゆっくりと見守るのだった。
**********
「久しぶりの配信ですね。今回はこちらの相談です」
俺は滑り台を紹介すると、ライアに実際に滑ってもらう。
『滑り台を売り出す、ということですか?』
『うちの子も楽しんで遊びそうだからぜひ欲しい!』
『ライアちゃんの喜ぶ顔が眼福過ぎる……』
反応はよさそうな感じだ。
実際にペットモンスター用の遊具がないから需要は結構あるだろうな。
「売り出してもいいのですが、公共の場に置く……つまり公園みたいな形にすれば、ペットモンスター持ちのプレイヤーの交流の場にもなっていいかなと思っているのですが……そういう場所は存在する、もしくは売り出されていますか?」
『空いてる土地はあるだろうけど、結構高かったような気がする』
『誰かのホームに設置してみるとか? でもそれだと大人数で押しかけることになるしなあ。それにログインしてないと使えないしな……』
『もし土地を買うなら、自分は投げ銭でお金出しますよ』
『俺も俺も』
『まずは土地の値段を確認した方がいいかも』
なるほど、空き地はある感じか。
大きさにもよるだろうけど、同好の士が集まれる場所にできそうかも。
問題は……土地の値段か。
「ありがとうございます、では後からライアを連れて町を散策するときに確認してきます」
『了解です。もし買えそうならまた配信してください』
『その時は応援しますので!』
『ところで……ライアちゃんが手に持ってるのは何です? ちょっと前は持ってなかったような……』
あ、気づかれたか。
結構細かいところまで見てくれてる人いるんだなあ、ありがたい。
「これはライアのために作った杖です。これを作るために午前中は鉱山で採掘してました」
『フリーマーケットなどで買わずに自掘り……愛の成せる業よ……』
『あそこ、なかなかお目当ての鉱石が出ないんだよなあ。そのせいで最近さっぱり行ってない』
『分かる』
『ところで、武器ステータスはどんな感じなんです?』
「あ、作って満足しちゃったので、そこまで確認してなかったですね。……ライアー、ちょっとその杖をみなさんに見せてくれるー?」
「きゅー!」
滑り台で遊んでたライアがふわりと浮き上がり、こちらに来てくれる。
遊びに夢中になってても、声をかけると来てくれるのは親として嬉しいな。
「では……こちらになります」
【魔法少女的ステッキ:ランクC、地属性+20、風属性-20、MP+22、力+6、魔力+52、魔防+23、魔法少女が使うようなかわいらしいステッキ】
『は?』
『おいおいおい、今ある強武器の上位武器だわコレ』
『何を使ったらこんな強い杖が? ていうか販売して欲しいんですが?』
……なんなんだろうこの反応。
杖なんて初めて作ったのに上位武器……?
「ええと、材料は杖部分にCランクの木材、魔玉に地属性鉱石を使っています」
『属性鉱石!?』
『えっ!? ライアちゃんのために0.5%を!?』
『愛が深すぎる……』
『愛の強さ=作る武器の強さ。これが宇宙の真理だったか』
みなさーん、ちょっと暴走し始めてますヨ。
どうどう。
「……もしかして、普通の杖はここまでいかないんですか?」
『複数ステータスが上がるなんてそうそうないよ』
『属性が上下するのも珍しい……けど、これは地属性の魔玉の影響かな』
『モンスターのレアドロップ枠の杖でもここまでのはない。それが作れるなんて……』
『ちょっと鉱石掘りいってくる』
『俺も俺も』
うーん、属性鉱石はそれなりに掘り当てられてるような感じだったし、それで杖を作ってたら同じようなものができてると思うんだけどなあ。
……ちょっと杖づくりにも興味がわいてきたぞ。
「俺もいろいろな杖を作って検証してみますね。ところでなんですけど……」
『ん?』
『なになに?』
「魔法少女的ステッキ。説明文というかアイテム名、これが言いたいだけですよね?」
『あー』
『運営はお茶目さんだなあ、ハハハ』
『草生えそうだったけど寒くて草枯れた』
『水というか氷属性まで兼ねていたとはな。運営には恐れ入る』
『一応、自分が作ったアイテムは名前が変えられるから、気に入らないなら変えてもいいかも』
……最後に意外といい情報を聞けたな。
とりあえず、土地探しと杖づくり、午後はこの2つをやろうと決めて、配信を終えたのだった。
**********
「うーん、土地は買えるけどお高いなあ」
見つけた土地は町の端っこの方、そこそこの広さでお値段は8万Gだ。
動画の閲覧数ボーナス、投げ銭、ポーションオブドリアードの特許収入……これらがあるから買えなくはないけど、マジックポーションや杖の研究開発費が削られるなあ。
でも……。
「ねえライア、ライアは同じドリアードの子と遊べたら楽しい?」
「きゅー!」
ライアは嬉しそうな身振りで俺に気持ちを伝える。
よし、それなら話は早い。
俺は即金で土地を購入、そしてホームで『階段式の滑り台』を作ることにする。
ホームにある木材だけではおそらく足りないので、町で仕入れて大量に家に持ち帰る。
そして1個目の滑り台を作り、2個目以降は自動作成機能を使って、合計7個の滑り台を作る。
その後、さっきの配信動画に固定コメントで、購入した土地の場所と試遊開始の時刻をお知らせする。
開始時刻は18時と少し遅くなるが、コメント投稿からしばらくしてからでないと、人が集まらないと思ったから。
……だったのだが。
**********
「うわあ……まさかこんなに集まるなんて……」
その数、おおよそ500人。
ほとんどの人がドリアードを連れているが、ちらほらウンディーネと思しき子など、小さな人型のペットモンスターを連れているのが見られる。
同じ小さな人型だから滑り台自体は楽しめそうかな。
「では、時間となりましたので、自由に土地へ入場できるように設定しました。順番を守ってお楽しみください。……なお、自分は追加で滑り台を作ってきますので、しばし不在となります。」
購入した土地には他人が出入りできないように、入場設定が可能になっている。
……ま、そうしないと勝手にタンス開けられたり壺を割られたりするからだろうけど……。
ただ、こういったみんなが楽しむためのスペースは誰でも出入りできるようにしないとね。
開催が終わったら自分しか入れないようにして、片付ける予定だ。
自分がいないときに滑り台の使用回数が尽きて壊れたら、補充もできないからね……。
その後、俺は最終的に30の滑り台を作ることに。
というのも、人が多すぎて途中で滑り台の使用回数が尽きたためである。
いろいろと大変だったけど、多くの人から声をかけてもらった。
「同じドリアード愛好家の人とフレンドになれました。ありがとうございます」
「うちの子を毎日遊ばせてあげたいので、よろしければ滑り台の作り方動画をお願いします」
「生ライアちゃんが拝見できて眼福でした」
「うちの子の喜びようを見て、ものづくりに興味が出てきました。自分でも何か作ってみたいです」
などなど、挙げればキリがない。
これでものづくりの楽しさが広まればいいなと思う。
──そして、開催から2時間経った20時頃。
「もし、そこの御方。少々よろしいですかな?」
「はい、俺でしょうか?」
「ええ。……私は町長のパイス=エインズと申します。こちらが賑わっているとの噂を聞きつけてきたのです」
「も、もしかして何かやってしまいましたか……?」
確かに500人……いや、途中から人が増えたのでもっと多いだろう。
そんな数の人がこんな狭い土地に集まっているのだ。不信感を抱かれてもおかしくはない。
「いえ、皆様が楽しまれているのを見て、ぜひ人間のこどもサイズにしたものを他の空いている土地に設置して頂きたく……もちろん代金はお支払い致します」
「なるほど。それでしたら──」
俺は、俺一人ではさすがに町全体の分は作り切れないこと、ギルドに依頼した方が多くの人に報酬が行き渡って経済が活性化するのではないかということを町長に伝える。
「ふむ、確かに。それでは後日マスターギルドに依頼を出しておきます。そして、また新しい遊び道具が思いつきましたらご連絡ください。そちらも合わせて依頼するようにします」
「分かりました。できる限りご協力致します」
「ありがとうございます。今回は急な訪問でお騒がせしました、それでは」
こうして、町長は帰っていった。
ブランコとかいろいろな遊具があるけど、俺だけじゃ作れないものも多い。
これはまた相談した方がいいかな。他の人が提案してもよさそうだし……。
「──それでは、そろそろ交流会を終了したいと思います。本日はありがとうございました」
俺はそう締めくくると、周りからたくさんの拍手が聞こえてくる。
それだけ楽しんでくれた人がいるということなので、とても嬉しい。
また、こういう機会が作れたらいいな。
その後、一旦ログアウトして遅めの夕食を食べてから、会場の後片付けをしたり、滑り台の作製動画を撮ったりなど、忙しくすることに。
全ての作業が終わったのは22時。
マジックポーションのレシピの研究や杖のステータスの研究もしたかったけど、いろいろやって今日は疲れたのでこの辺でログアウトしよう。明日からまた仕事だしね。
こうして、ゆっくりしようと思っていた日曜日の午後は慌ただしく過ぎていったのだった。




