クヴァーナ砂漠の攻略
「おっ、砂漠の攻略が進んでるな……」
マーメイドを召喚できるようになったプレイヤーたちが、フラワーイーターたちの棲んでいた砂漠の南にある森を解放してからしばらくして、今度は深水の鉱石で造られた武器を用いて砂漠のモンスターたちを各個撃破していった。
サソリのモンスター……通称スコーピオンはやはり魔防が弱く、マーメイドの杖を装備しての水魔法が効果的。
ワームは人間の3倍ほどの大きさで攻撃力が高いが動きが鈍く、防御・魔防がどちらも低いため、距離を取っての魔法で処理できる。
ヘビのモンスター……スネークは毒を持っていて動きが素早いものの、やはり防御・魔防が低く、バインドなどで拘束すれば簡単に倒せる。
トカゲ……リザードは素早く防御が高いが、やはり魔防が低いため、こちらも魔法が効果的だ。
リザードマンやラミアは人型で強いものの個体数自体が少なく、他のモンスターを一掃した後に戦うのが定石なようだ。リザードマンは魔法に、ラミアは物理にそれぞれ弱いのが特徴か。
ちなみにラミアは一部のプレイヤーに人気で『俺、君の尻尾に巻かれたい……ロールミー!』とラミアに叫んで引かれたプレイヤーもいるとか。操られてるっぽいモンスターを引かせるって……ネットって広大だなあ。
……さて、それぞれのモンスターの対処法も分かり、召喚モンスターのマーメイドの混乱の歌という、砂漠のモンスターの大群への特効スキルも入手し、砂漠のマッピングがどんどん進んでいく。
そして、砂漠を西へ西へと奥地に向かって進んでいくと、遠くに三角錐の建物……ピラミッドと思しきものが見えたらしい。
しかし、そこまでの道中に大量のモンスターが待機している上に、結界のようなものが張られていて状態異常攻撃が通用しないらしい。つまり、マーメイドの混乱の歌が効かないため、物量に押されてピラミッドへと進めない状態なのだ。迂回しようにも、ピラミッドの周りは岩石砂漠となっていて迂回ができず、モンスターが大量にいる道を通るしか辿り着く術がない。
そこで数には数を……ということで、プレイヤー側も物量で押し切ろうと考えているらしく、今度の土日に大規模侵攻を行うための人員を募集しているのだとか。
「結界がある、ということは結界を張っているモンスターがいる? もしくは、結界を作り出すアイテムがあるのか……?」
もしアイテムなら面白そうだ。そのアイテムを手に入れて解析できれば、プレイヤーに有利な空間が作れるアイテムを作製できるかもしれない。
正直なところ、戦うのは得意ではないけど、最先端のアイテムに触れてみたいというのはある。まだアイテムだと確定したわけではないのだけど。
モンスターだとしても、そのモンスターをペットモンスターにできれば補助要員として大いに有用だろう。
「後方支援でもいいなら参加希望を出してみるかな……?」
こうして、俺も大規模侵攻に参加することになるのだった。
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「あれ……アテナさん? それにアトラスさんとレックスさんも……?」
「おう、コウも大規模侵攻に参加するのか?」
「はい、俺は後方支援ですけど……アトラスさんたちはどんな役回りですか?」
「おれとレックスは戦闘、アテナは後方支援だ」
「なるほど……ところで、4人揃っているならアレが使えますね」
「ああ、アレか……」
アレとは先日マーメイドクイーンさんからの贈り物である、マーメイドクイーンさんの召喚スキルのことだ。
これを発動させれば、おそらくモンスターは一掃できるだろうが……。
「ただ、アレを使ったら質問攻めにあいますよ? あと強すぎて味方を巻き込みかねませんし」
「……だよなぁ」
「それに、結界内のモンスターを倒したら増援が出現する可能性もあるので、最終手段に取っておくのがよさそうですね……」
正直、習得手段が分からないので、質問されても動画をアップすることしかできなさそうだけど……。
マーメイドクイーンさんに気に入られる、ぐらいで習得できるとは思わないんだよな……。『間違ったことには使うまい?』と言われたあたり、人となりも見ていそうだし。
召喚スキルのため、という目的で近づいたら機嫌を損ねそうなんだよね。
それに、こういうイベント戦? の場合は増援についても考えておかないといけない。
後ろに敵の本陣と思しきピラミッドがあるわけだし、戦況が思わしくない場合に増援が出現する可能性は高い。しかも、そちらが本隊というのは充分にあり得る。
なので、できるだけマーメイドクイーンさんの召喚は使わない方向で進めていくことに。モンスターの群れと同じぐらいの人数がいれば、戦力は拮抗するぐらいだろうか。
ただ、プレイヤー側にはアイテムと言う便利なものがある。モンスターがアイテムを使っているところは見たことないし、拮抗しても徐々に押し返していけるはず。
問題は結界がアイテムだった場合、モンスターもアイテムを使う可能性がある、という所だろうか。
それと、敵勢力の全容が分からないので、結界内にも伏兵や増援がいる可能性を考えると、何も考えずに召喚をぶっぱするのは得策ではないだろう。クールタイムも1日とかなり長いし。
「おお、コウ殿。コウ殿も参加するのか?」
「タイガさん。後方支援ですがよろしくお願いします」
「お久しぶりです。コウさんに造って頂いた弓と矢でわたくしも頑張ります。……そして、先日のライアさんのグッズ……とてもいいものでした……フフフ……」
アルテミスさんは思い出し鼻血を出している。……相変わらずだなあ。戦闘前にHPが0にならなければいいんだけど。
ともあれ、タイガさんたちというプレイヤー側の最高戦力がいれば心強い。タケルも参加しているみたいだし、なんとかここを突破できそうかな。
「ちなみに飾る用、保存用、布教用の3つを取りました。ライアさん以外の子も待ち遠しいですね……」
「アルテミスさん、鼻血鼻血」
「おっと失礼……それでは吉報を届けられるように頑張ってきます」
「きゅー!」
「ライアさんに応援された……ああ……」
アルテミスさんはその場に倒れ、あっつい砂漠の砂に焼かれている。本当に大丈夫なんだろうか……。
一応、気候による状態異常やスリップダメージはないから大丈夫なんだろうけども。
他にもユニコさんたちも来ているらしく、戦闘はリアルタイム配信されるようだ。
既に視聴者も集まってきていて、大掛かりなイベントになりそうな予感がする。
しかし、ここまで人が集まってもモンスターたちは微動だにしないんだよな……。
結界内から出ようともしないので、本当に統率が取れているようだ。
さて、どういった戦略でこれを崩していくのか……。
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「──おそらく、モンスターたちは『状態異常を防ぐため結界内で行動する』という思考で動いていると思われます。そのため、補給が必要になった方は結界内から離脱し、後方支援の方たちに助けを求めてください。もし追ってくるモンスターがいれば、結界から出た瞬間にマーメイドで混乱させて、同士討ちで戦力を削っていくのが得策でしょう」
「結界の外から遠距離攻撃はいかがでしょうか?」
「それは試してみたのですが、どうやら距離による威力減衰が起こる場所まで距離を置いているようです。そのため、攻撃ができても大したダメージが与えられず、こちらが消耗するだけになります」
「なるほど、それなら結界内に突入しなければこの場所を突破できないわけですね」
「その通りです。他に質問はありませんか?」
「……無いようですね。それでは14時から作戦を開始します!」
「「「おーっ!」」」
「よーし、行くぜみんな!」
「儂らタンクは先陣が切り拓いた道を守ることに集中するぞ!」
タケルたち先陣は黒いモヤで覆われた結界内へと踏み込んでいく。
先陣が切り拓いた道は、タイガさんがリーダーのタンクたちが守り抜き、戦線を押し返されないようにするようだ。
弓や魔法職などの後衛部隊はタンクの後ろに位置取り、タンクと先陣の援護を行う。伏兵にも気を払い、タンクは西4:北3:南:3の割合で後衛部隊を囲むように陣形を組んでいる。
俺たち後方支援部隊は結界の外でリアルタイム配信を見ながら、必要があればチャットで助言を行う任務にあたっている。
「……相変わらずタケルは強いな……」
水属性の双剣を手に、素早い動きで敵に切り込み、反撃の機会を与えずなぎ倒していく。
それについて行っている他のプレイヤーの動きも極まっているように感じる。これがトップランカーの実力か……。
このまま何事もなく突破できるかと思ったのだが──。
「……ん? タケルたちの動きが鈍った……?」
最初は動き回ることによる疲れかと思ったが、剣を振る速度が目に見えて落ちている。動くスピードも鈍っており、モンスターに捕捉され始めている。
それはタケルだけではなく、他のプレイヤーたちもだ。徐々に被弾も多くなってきている。
『動きが鈍っているようですが、何か敵の攻撃がありましたか?』
『いや……変わったことはないが……モンスターたちが増えてギャアギャアうるさいぐらい……』
『視聴者ですが……怨霊のような声が聞こえているような……』
『怨霊……もしかして、呪術──』
『……ぐっ?! か、身体が重い……?』
先行していた部隊の一人が膝をつく。まるで巨大な重りを乗せられているかのように身動きができなくなる。
そして、その隙を突かれてリザードマンの槍で一突きにされ、その場に倒れ伏した。
更に一人、また一人と傷つき倒れていく先行部隊たち。
「ちっ、これを使っているやつはどいつだ?!」
タケルはモンスターたちの隙間を縫って、呪術と思わしきスキルを使っているモンスターを探していく。
こういうのは敵の後方の安全な場所に陣取っているのが定石だが……。
「……こいつか?!」
タケルが見つけたのはシャーマンのようないでたちをしたリザードマンだ。
周りには護衛のリザードマンが3体ついており、大きな盾でシャーマンを守護している。
更にタケルの後方から他のモンスターが追いつき、多勢に無勢。シャーマンの呪いを受けて弱体化されたところをリザードマンにやられてしまう。
『……くっ、これ以上は被害が拡大するだけだ! 全軍、撤退せよ!』
先陣部隊が壊滅したのを受け、タイガさんは撤退命令を出す。
追ってくるモンスターたちをタンクが受け止め、魔法と弓で援護してジリジリと戦線を下げていく。
シャーマンたちは追ってくる気配はなく、タイガさんが殿となってタンクと後方部隊はなんとか結界の外へと生還する。
モンスターたちも結界の外へと追ってくる気配はなく、結界の外に出たところを混乱させるという戦法も通用しなさそうだ……。
先陣の部隊のプレイヤーはデスペナルティでホームへと送還され、今回の大規模侵攻は失敗に終わってしまうのだった。
**********
『やはり敵の戦力が把握できていなかったな……』
『シャーマンのリザードマンも、重装備のリザードマンもここで初登場か』
『動画を見返して確認したが、呪術を受けるとステータスがおよそ2/3程度になってしまうようだ』
『となると、シャーマンを倒すのが先決か』
『周りの護衛も手強そうだし、かなりの戦力を割かないと突破できなさそうだな……』
『更に、シャーマンは1体だけではなさそうだな……敵の位置が把握できるスキルでもあればいいんだが』
『もしくは、結界内全体を攻撃できるスキルとかな』
『ははは、そんな夢みたいなスキルないだろ』
……あるんだなあ、これが。
マーメイドクイーンさんの召喚スキルのうちの一つに、広範囲に攻撃できる『フローズンランス』というものがあるのだ。
……名前からして氷の槍で攻撃するスキルだと思うんだけど、槍で広範囲とは……?
ともかく、一度これを使ってみて現状を打破できるか試したいところだが……。
『明日の大規模侵攻はどうする?』
『そうだな……今回で得た知識はあるし、ダメ元でもやるのがよさそうだ』
『だな。シャーマンを倒すためにスピードアップをかけて突っ込んでみるか』
『よし、そうと決まれば準備するか』
そして、翌日……。
「それでは各部隊……」
「あの、少しよろしいでしょうか、ユニコさん」
「ああ、コウさん。どうされましたか?」
「実は少し試してみたいことがありまして……1日に1回しかできないことなのですが……」
「そうですね、よろしければ試して頂ければ助かります。何かしらの突破口が欲しいところですので」
「ありがとうございます。……それではアテナさん、アトラスさん、レックスさん」
「「「はい!」」」
俺たちは結界の前に立ち、4人全員のMPを全て解き放ってマーメイドクイーンさんを呼び出す。
『お、おい! あれ、マーメイドクイーンじゃ……』
『何もない所から現れたけど……召喚スキルなのか?!』
……やっぱりそうなりますよねー!
あとから質問攻めにあうだろうけど、まずは攻略が先決だ。
「……ふむ、なるほどな。この結界内のモンスターを一掃すればいいのだな」
「それではよろしくお願い致します」
「うむ。……水よ……」
マーメイドクイーンさんが天高く手を掲げると、結界の上空に結界と同程度の大きさの水の塊が現れる。
『砂漠という水がほとんどない場所であの量の水を……?!』
『あれをそのまま落とせば結界内も無事じゃないだろうな……怖……』
「極寒の刃と成りて敵を貫けッ!!」
マーメイドクイーンさんが詠唱をすると、上空の水が無数に分裂して槍の形になって凍り、結界内へと雨のように降り注いでいく。
……名前から想像してたのと違う! 違い過ぎる!! もしマーメイドクイーンさんが敵になったら、こういう規格外なスキルを相手にしないといけないのか?!
「……ふむ、一匹討ち漏らしたものがいるが、まあこんなものか」
「あ、ありがとうございました」
「礼はまた頼むぞ」
「は、はい……」
対価はMPだけじゃないのね……次に訪問するときは何かを奉納しないと……。
しかし、一匹討ち漏らした……? この威力のスキルで……? ボスモンスターがいるのだろうか。
「ユニコさん、一匹以外は全滅したようですので、結界を突破できそうです」
「……まさかこれほどとは……。皆さん、結界を張っている正体を突き止める部隊、結界を突破して先を調査する部隊、残ったモンスターを見つける部隊に分かれて調査を行いましょう!」
「「「了解!」」」
俺は結界が気になるので、MPを回復した後に結界を張っている正体を突き止める部隊として動き出した。
そして……。
「……ん? あれは……」
横穴になっているところに、何かしらの動いているものが見えた。
一緒に行動しているアトラスさんたちと共に横穴に踏み入ると、そこには褐色の毛並みをした猫の獣人がいた。
もしかして、討ち漏らしたモンスターというのは……。
「ふにゃっ?! も、もしかして……さっきの魔法を使ったやつらにゃ……?」
「えー……あー、まあそんな者です」
「ひぃっ……こ、降参するから痛くしないで欲しいにゃ……」
……もしかして、俺があの魔法を使ったと思われてる?
まあおとなしく投降してくれるのならありがたいのだが。
こうして、俺たちは一人のモンスター(?)を確保するのだった。




