贈り物
「コウ、今日の帰りにゲーセン寄ろうぜ」
「ん? 今日は何かあったか?」
「おいおいおい、ライアちゃんのプライズが並ぶ日だろ」
「あ、そういえばそうだったな」
すっかり忘れてた。サンプル品をもらってたからな。
それなら自分でも取りに行かないと。自力ゲットしてこそのゲーマーだし。
「よし、それなら今日の業務は早く終われるようにするか」
「乗り気だな。いいぞ。あ、それとコウに売ってもらった水属性の武器のおかげで砂漠の攻略も順調だぞ」
「それはタケシのレベルが高いのもあるだろ」
「まあな。トレントの島でのレベリングが効いたぜ。砂漠のモンスターはトレントの島のダンジョンのモンスターよりレベルが高いみたいで、もっと経験値がもらえるようになったんだ」
「なるほどな……ドワーフの造る地属性武器がトレントの島の水属性モンスターに強く、トレントの島で手に入る水属性の素材で造った武器が砂漠の火属性のモンスターに強い……って連鎖してるのか。まあトレントの島では地属性も手に入るんだけど」
つまり、次は砂漠で火属性の素材が手に入るのか……そうなってくると、砂漠の次は風属性のモンスターが出る地域につながるのかなあ。
RPGでどんどん世界が広がっていくのはワクワクするものだ。
「おっと、そろそろ業務開始か。終わったら予定通りゲーセンだな」
「おう、それじゃあタケシ、お互いがんばっていこうぜ」
**********
「結構在庫減ってんなあ……ライアちゃん人気だな」
「ありがたいことだ……って言いたいけど、ちゃんと自分でも取らないとな」
「よし、まずはオレからやるぜ」
「おう、存分にテクニックを盗ませてもらうわ」
ライアのフィギュアが置かれていた台は、いわゆる橋渡し台。
フィギュアといえばこの設定ばっかりなんだよなあ……取り方が分かってないと全然取れないやつ。
……にも関わらず、タケシは1000円以内にゲットしてしまう。これがタケシの実力……。
「次はコウだな。がんばれよ」
「ああ、俺も1000円以内に取れるようにしたいところだ」
この日のために動画を見たり実践したりとやれることはやった。
あとはちゃんと再現できるか、だ。
「ええと……横移動はこの辺で、奥は……」
クレーンを降ろしていくと、両アームで箱を抱えて持ち上げる。いわゆるバランスキャッチだ。
「おい、狙ってたのか?」
「いや、まったくそんなつもりはなかったんだが……」
そして、アームから箱が落ちて棒にバウンドすると、奇跡的にそのまま橋の間に落ちていく。
まさかの1手である。
「やるじゃねーか、まさか一発で取るなんてな」
「ま、運が良かっただけだ」
「その運は宝くじで使いたかったな」
「ははっ、まったくだ」
……その後もアクリルスタンドなど、一通りのグッズを取り終えると、自販機でジュースを買って近くの椅子に座って休憩する。
ふと近くのモニターを見ると、ワールドクリエイターズの動画が映し出されていることに気付く。
「へぇ、こうやって映像を流して購買意欲……というかプレイ意欲を引き出してるのか」
「ワールドクリエイターズ側も宣伝になるし、お店も宣伝になるし、いいじゃないか」
「……あ、コウが出てきたぞ」
「……あー、ライアの映ってる動画の使用許可求められたけど、なるほどこうやって使ってるのか」
複数の動画を繋げ合わせて、見事に商品のプロモーションを作り出している。こういうものづくりもいいなあ。
そのうち俺もワールドクリエイターズ内で撮った動画を組み合わせて、うちの子紹介でも作ってみようかな。
「おい、この子かわいいよな」
「VRMMOのキャラみたいだぞ。ほら、そこでPV流してる」
「へぇ……他の子もかわいいし、VR機器持ってるし、ちょっとやってみようかな」
などと言う会話が聞こえてくる。
こうやってプレイヤーが増えていくのか……どこかで会うこともあるのかな。
その時には生でライアを見せてあげたいところだ。
「……よし、それじゃちょっとダンスして帰ろうぜ。次は新しいやつやってみないか? ほら、アレ」
「アレって……」
タケシが指し示したのは、目の前のキャラに合わせて動くダンスゲームだ。
今までやってたのは足でノーツを踏むやつだけど、今度は全身使うやつか……難易度が高そうだ。
「ま、やるだけやってみるか」
「お、てっきり『俺には合わない』って言うと思ったのに」
「うーん、実際にやってみないと分からないこともあると思ったしさ。ワールドクリエイターズもそうだったろ? まさか毎日プレイするようになるとは思ってなかったからな」
「何にでも挑戦するのはいいことだぜ。さ、それじゃあ見せてもらおうか、社畜のコウの性能とやらを!」
「社畜じゃねーよ!」
……などと冗談を言いながらゲームのプレイを始める。
最初は全然できなかったものの、何回かプレイしていくと徐々に踊れるようになり、段々楽しくなってくる。
更にはノーツを踏む方のゲームでも見た動きが出てきて、なるほどこうやって実際のダンスに取り入れるのか……などと思いながら数クレ楽しむことに。めっちゃ汗をかきながら。
「おう、結構楽しそうで何よりだ」
「いい運動になるなコレ。手まで使うからより運動強度が高そうだ」
「更にこれ、3Dアバターが購入できて、そのアバターにも踊ってもらえるんだ。ほら、こういう風にな」
タケシのプレイ画面に出てきたのは、俺も知ってるとあるゲームのキャラクターだ。
確かにこれはいいな……このキャラはこんな踊りするキャラか? とかいう疑念はさておいて。
その後もプレイごとにキャラを変えるタケシ。さては結構な額を課金してるな?
と、設置されている扇風機の風にあたりながら考える。ま、本人が楽しいならいいことだ。自分もうちの子のアバターとか出たら買っちゃいそうだし。
「……よし、それじゃそろそろ帰ってワールドクリエイターズするか」
「だな。あ、ちょっとライアちゃんの筐体に行ってみるか? どれだけ減ってるかチェックしようぜ」
「まあ、俺としてもライア人気はどれだけか気になるところだが……」
俺たちが挑戦した時でもそこそこ減ってたけど、この短時間でどれだけ出て行ったのかも気になるのは確かだ。
俺たちはクレーンゲームコーナーに足を運ぶと、とある女性がプレイしていたところだった。数もさっきから5か6は減っていて、そろそろ在庫が尽きそうといった感じか。
「ん? あの子、以前オレたちがダンスゲームやってた時にこっち見てた子じゃね?」
「よく覚えてるなタケシ……」
「ま、人の顔を覚えるのは営業の基本だしな。……なんか苦戦してるみたいだし、助言してあげたらどうだ?」
「俺がか?」
「まあな。女の子に声をかけるのに慣れないと、ずっと彼女いない歴=年齢のままだぞ。ライアちゃんたちにはモテモテなのにさ」
「一言多いんだが?」
「ま、オレとしてもコウにはいい人が見つかって欲しいからな。ということで……すみませーん」
「ちょっと待てよ?!」
タケシのフットワークが軽すぎる……。よく初対面の人に声を掛けられるな……。
そして、なぜかタケシではなくて俺が取り方を教えることに。
幸い、ライアのフィギュアの箱があるので、筐体内の箱と同じ向きにしてアームをどこに移動すればいいのかを説明しながらプレイすること数回……。
なんとか女性はライアのフィギュアを獲得することができたのだった。
「あ、ありがとうございました。どうしてもライアちゃんが欲しかったので……」
「お、お役に立てたのなら何よりです」
「あなたもライアちゃんを取っている……ということは、ライアちゃんがお好きなんですか?」
ここで、『ライアをペットモンスターにしてます』とかは言えないしなあ……。
「そうですね。元気いっぱいなところがかわいいと言いますか……」
「分かります! ライアちゃんもですけど、レイちゃん、スコールちゃん、ブラウンちゃん、ニアちゃん、エファちゃんのフィギュアも欲しいですよね!」
まさかの全うちの子ファン!? かなり濃い人だな……。
「あ、よければワールドクリエイターズでフレンドになって頂けませんか? なかなか話ができる人がいなくて……」
「分かりました、それではアプリを立ち上げて……」
……まあ本人とバレちゃうけど、うちの子をそこまで好きな人の提案を無下にはできないしね。
俺はアプリからフレンド申請をするのだけど……。
「……あれ? 『既にフレンドです』? キャラ名は『アテナ』……って、アテナさん?!」
「えっ、『コウ』って……もしかして、コウさんなんです?!」
まさかのアテナさんである。そんな偶然ってある!?
「いつもライアたちがお世話になってます」
「こ、こちらこそ……すみません、いろいろ好き勝手着せ替えしてしまって」
「いえ、おかげ様でこうやって商品になったというのもありますし……これからもうちの子をよろしくお願いします」
「こここ、こちらこそです……」
……タイガさんといいアテナさんといい、世間って案外狭いんだなあ……そう思う一件だった。
**********
「……まさかコウさんと現実でお会いするなんて思ってませんでした。うちの周りにはゲームセンターが無くて、一番近くてライアちゃんが置いてあるゲームセンターを探してたらあそこだったんです」
「こちらも驚きました。……そういえば、アテナさんならサンプル品を運営からもらってると思ったのですが、どうして2個目を……?」
「もちろん、着せ替えをして遊ぶためです! 現実でも趣味で服を作ってますからね。ライアちゃんは小さい頃の1/1フィギュアなので、参考になるんですよー」
「なるほど……だから服飾スキルが高いのも頷けます。ところで、今日はマーメイドクイーンさんへの服の納品ですか?」
「はい。あんな数の深水の鉱石を頂いたら、さすがに数着だけでは足りないので……」
砂漠の攻略に使えるということで、世は正に深水の鉱石ブーム時代。
防具に使えば水属性を軽減できるし、完全に供給が足りていないのが現状だ。
だから、現状の深水の鉱石の値段はかなりのものとなっている。俺も追加で納品しに来たぐらいにこちらの提供するものと価格が釣り合っていない。
「そういえば、マーメイドクイーンさんは水中で生活していますけど、服は防水加工できるんですか?」
「いえ、そういうのは無いんですけど、マーメイドクイーンさんが水を操作できるから、濡れた服もすぐに水を外に出せるんですよ。だから問題ないみたいです」
「てっきり水属性を付与したら水を弾くようになったり、速乾性が備わったりするのかなと思ってましたが……意外と力業なんですね」
まあ上位種らしいと言えば上位種らしいんだけど……。
「おっ、コウとアテナもいたのか」
「アトラスさんとレックスさん。もしかしてお二人も……」
「はい、追加の納品です。深水の鉱石が高くなり過ぎてて怖いので……」
「やっぱり……」
武器に使うにしても防具に使うにしても数が圧倒的に足りないので、オークションに出したら速攻売れてしまうのが現状だ。
なので、とんでもない利益になってしまっているわけで……。
「おお、4人とも集まってどうしたのだ?」
「実は追加の納品と思いまして……」
「ほう、それなら深水の鉱石をもっと与えねばな」
「い、いえ……実はですね……」
俺は深水の鉱石について、人間界で起きていることをマーメイドクイーンさんに伝える。
「なるほどな……稼げるならそれに越したことはないと思うが……」
「さ、流石に罪悪感がですね……」
俺の言葉に他の3人がうんうんと頷く。
原価+作業費を計算しても、その10倍ぐらいの値段で売れちゃってるので……。
「ふーむ、面白いやつらだ。……そうだな、それならこれを受け取るがいい」
マーメイドクイーンさんは手をかざしたと思うと、俺たちの身体が光に包まれる。
あまりにも眩しすぎて目が開けられなくなり、しばらくして光が収まったところで目を開けてみる。
「マーメイドクイーンさん、いったい何を……?」
「うむ、余を召喚できるようにしておいた」
「「「「しょ、召喚?!」」」」
4つの心が1つになれば、1つの叫びは100万パワー。
……などとふざけている場合ではなく。
召喚? マーメイドクイーンさんを???
これ、とんでもない贈り物なのでは……?
「コウたちなら間違ったことには使うまい?」
「え、ええ、確かにそれはそうなのですが……」
「ならよい。さて、それでは今回のものを受け取ろうか」
「は、はい。私からはこの水着を──」
その後、俺たちは順番にマーメイドクイーンさんに納品物を渡していく。
俺は揺りかごと遊具、アテナさんは水着と服、アトラスさんは予備の三叉槍、レックスさんはパズルなどなど。
特にアテナさんの作った水着を気に入ったらしく、特に気に入ったデザインのものを複数、更に注文したようだ。
ちなみに水着はいわゆるビキニ。下半身が魚であるため、やはりワンピースよりもこういったものの方がいいらしい。下半身にはパレオを巻いて、上品さも忘れない。
そして、それを見ていたマーメイドたちも同じ水着を欲しがり、アテナさんは嬉しい悲鳴をあげていた。
その後、ダンジョンから出て召喚スキルを確認することに。
それを見て俺たちは驚愕する。
クールタイムはなんと1日。更に、すべてのスキルの消費MPが最大MPと同じ値で、かつ4人全員で使わないとダメなようだ。
本当に奥の手、ってやつだなコレ……まあ、マーメイドクイーンさんが上位種だから、乱発できたら戦闘バランスが崩れるし当然でもあるかな?
こうして、砂漠の攻略の手助けになりそうなスキルを、思いがけず1つ手に入れてしまうのだった。




