トレントの島のダンジョン
「さて、村の準備はできたし一旦情報を整理しておくか」
この島の各ダンジョンに棲息するモンスターは……。
ロックバード。水属性と地属性の複合属性を持つ鳥のモンスター。
素早い動きで空から繰り出されるストーンバレットが厄介。
リザードマン。魔法は使わず、肉弾戦で戦うトカゲのモンスター。
剣や槍を使い、胸当ても付けていて好戦的。群れて行動することが多い。
サハギン。いわゆる半魚人で、銛を使って戦うモンスター。
この中ではレベルが低めで、タケルいわく経験値稼ぎにはもってこいだとか。
ウンディーネ。全員配布のモンスターの卵から孵って、既にペットモンスターにしている人がいる。
水の精霊のため、水属性の攻撃魔法の他に、回復魔法も使う万能型。接近戦では槍を使うようだ。
人魚。女性の上半身と魚の下半身を持つ、人魚姫などでも有名な人型モンスター。
水属性の魔法を使うほか、その歌声で混乱を誘うテクニカルなタイプ。
……人魚で歌って、セイレーンと混同してないかな? それともローレライがモデルなのだろうか。
ちなみにセイレーンというのは女性の上半身、鳥の下半身をしていて、歌声で船乗りを惑わすモンスターだ。
今のところセイレーンの目撃談はないけど、そのうち出てきそうかも?
あと、女性の上半身、鳥の下半身といえばハーピィもいるけど、そのうち出てくるかなあ。
ペンギン。かわいい。
……もとい、ペンギンが出てくるダンジョンは地面が凍っていて、とても戦いづらい。
更に、ペンギンはその氷の上を滑って体当たりをしてくるため、まるでボウリングのピンのようにパーティー全員が倒されることもあるとか。
しかも群れているため、一旦体勢を崩してしまうと袋叩きにあってしまうらしい。ペンギン……恐ろしい子!
ダンジョンの構成については下記の通りだ。
・ロックバードが単独で出現するダンジョン
・階層ごとにサハギンとリザードマンが交互に出現するダンジョン
・階層ごとにウンディーネと人魚が交互に出現するダンジョン
・ペンギンが単独で出現するダンジョン
……これならサハギンでレベルを上げて、人魚かウンディーネをペットモンスターにする方法を探すのが良さげかな。その2人が需要も高そうだし……。
既にウンディーネをペットにしている人もいるから、どちらかと言えば人魚の方が需要がより高いかな?
……まあ、まだペットモンスターにできると決まったわけではないのだけど。
ちなみにサハギンやリザードマンは魔防が低く、ライアたちのシードバレットが効果が抜群なため、やはりサハギンが最初の相手に適任か。
「……よし、それじゃあみんなが来るまでは、アルラウネさんたちの村に遊具を設置したり、新しいものを作ったりしよう」
俺はアルラウネさんの村に遊具を補充するほか、本土でやっている的当ての的を量産して、トレントの島から出なくてもアルラウネたちが的当てを楽しめるようにした。
……これがかなり好評で、すぐに的が足りなくなって増産することになる。
また、運営からも連絡が入り、こちらの島の的当ても運営が管理をしてくれることとなった。本土だけにしかないと、差が出てしまうからだろうか。
これで的当ての的の心配をすることがなく、アルラウネたちが楽しめる施設になるのだった。
……ちなみに、アルラウネさんも称号欲しい族なようで、蜜を俺に売って遊ぶためのGを稼いだり、キングウルフさんたちみたいに動画のチャンネルを俺が開設したりなどした。
アルラウネさんは姉御肌なのが一部のプレイヤーに人気らしく、大量の投げ銭する人がいるようだ。
そういう人たちにはお礼として、アルラウネさんの蜜を渡そうかな。あとで相談しよう。
こうして、島での時間は過ぎていき……。
**********
「コウさん、ここに村を造ったんですね」
「ええ、村というかキャンプ場ですが……これで本土に戻らなくても冒険を中断できます」
「お、あっちには的当てがあるのか。だいぶ盛況だな」
「なかなか本土に渡る機会もないですしね。楽しめるものが増えたのならいいことです」
「コウさん、どのダンジョンに潜るかは決めてますか?」
「はい、それは……」
俺はみんなにサハギンとリザードマンのダンジョンでレベル上げをしてから、ウンディーネと人魚のダンジョンに潜ることを伝える。
どうやらみんなもそのつもりだったらしく、諸手を挙げて賛成してくれた。
「よし、それじゃあレベル100を目指すか!」
「そうですね、タケルのパーティーもここで120ぐらいまで上げてると聞きましたし……かなり経験値が稼げそうです」
俺たちの平均レベルはだいたい80。ミミック狩りで結構上がったんだよね。
ここからサハギンなどを狩って更に20上げれば、ウンディーネや人魚の攻撃も長く耐えられるようになり、ペットモンスターにする方法の調査もしやすくなるだろう。
「そういえば、みなさんは人魚の歌対策はしていますか?」
「ああ、バンシーの花冠が混乱無効だからな」
「ぼくはティノーク海岸のボトルメールイベントをこなして、抗混乱ポーションなどを作れるようになりましたね。……効果時間が短いので、バンシーの花冠の方が良さそうですが……」
「いや、そうとは限らねえぜ。ポーションを使って別の装備にすればバンシーの花冠の使用回数が下がらないし、バンシーの花冠よりも強い頭装備を付けられるからな」
耐性重視の装備ってわりと脆かったりするんだよね……だから、強力な装備を付けられつつ混乱を防げるポーションの存在はありがたい。
……まあ、効果時間が切れたのを忘れて混乱する恐れがあるといえばあるけど。
「アトラスさん、そう言って頂けると助かります。50個作ってきたので配っておきますね」
「おう、ありがたい」
「ありがとうございます。それでは俺も杖を配っておきますね」
「凄い……こんなに高補正値の杖が造れるなんて……」
「俺の場合、素材のおかげなんですけどね。それと、抗混乱ポーションはペットモンスターに使うのもありだと思いますね。さすがにバンシーの花冠を全員分は持ってないので……」
イベント装備だからなあ。追加でバンシー……ニアに作ってもらうこともできるんだろうか? ペットじゃない時限定とか、そういう期間限定みたいな可能性もあるし。
ちなみに普通のRPGの期間限定イベントやアイテムはあまり好きではない。取り逃さないように攻略サイト見ないといけなくなるし……。大作RPGだとクリアまでに数十時間かかるとか普通にあるしね。やり直すのもかなり面倒だと思う。
「それなら、人魚のダンジョンにはフェアリーなども連れて行かない方が良さそうだな?」
「そうですね、抗混乱ポーションを追加で作るにしても限度がありますし……」
「えーっ、ボクも行きたいー! でも、コウに迷惑はかけたくないし……」
「エファ、それならアルラウネのみんなの遊び相手になってもらえるかな?」
「あ、それならいいよー! よーし、ボクが的当て最強ってことを教えてあげなきゃ!」
エファはそう言うと、的当ての会場へと飛び去って行った。
ここのアルラウネたち、ロックバードを大量に狩るぐらいに戦闘狂の子も多いし、的当ても得意そうだけど……まあ、エファも的当ては上手だし、いいライバル関係になれればいいな。
と思っていたらエファが途中で引き返してくる。
「……あ、ごめーん。お金を持っていくの忘れちゃった。ちょうだーい」
「とりあえず3000G渡しておくから、なくなったらまた言ってね」
「はーい!」
そういえばエファはNPCだからお財布は別々なんだよね。忘れてた。
とりあえず3000あればしばらくは持つだろう。たぶん。
「では、サハギンでのレベル上げはペットモンスターあり、人魚ではペットモンスターなしでいきましょう。そして、ウンディーネをペットモンスターにできないか試すときは、2回目にレックスさんにウィンちゃんを連れてきてもらうようにしましょう」
「了解です! 前回来た時は話ができませんでしたが……今回は話ができるといいのですが」
「そういえば、エファたちフェアリーはモンスターの言葉が分かるんでした。人魚の時に抗混乱ポーションを使ってついてきてもらうのもいいかもしれないですね……」
「あー、そうだったな……とりあえず、おれたちでいろいろ試して、ダメだったらついてきてもらうか?」
「ですね! それではサハギンのダンジョンから行きましょう!」
「「「おーっ!」」」
**********
それから数日間、平日の間はみんなで時間を合わせてサハギンのダンジョンでのレベル上げに費やした。
動きは割と単調で、遠距離攻撃の手段を持たないから一方的に攻撃できる。
つい『圧倒的じゃないか、我が軍は』と言いたくなるぐらいに。
それぞれのペットモンスターを入れ替えながら戦い、全員がレベル100になるまではそう時間はかからなかった。
レベル上げをしている時にダンジョンの入口でよく他のパーティーと会ったけど、これだけ効率が良ければ人気スポットになるのも頷けるな……。島まで来る手段が限定的で、更にこの島に村を造るのはちょっと難しいから、今はこれでもまだ一部のプレイヤーだけらしいが……。
そして、他のパーティーに会うと『ウンディーネか人魚、どうにかペットモンスターにしてください! お願いします!』とよく言われた。やっぱり俺、そういう人で通っているのか。
「それでは、そろそろウンディーネと人魚のダンジョンに挑んでみましょうか?」
「いよいよですね! 待っててウンディーネちゃん、人魚ちゃん……うふふ……」
「おーいコウ、またアテナが遠い世界に行ってるぞ」
「まあいつものことですので……」
「ウィンと同じ種族の子たちと戦うのは気が引けますが……どうにかしてペットモンスターにする方法を見つけたいですね。そして、ウンディーネの魅力を多くのプレイヤーに……!」
アテナさんだけでなく、レックスさんまで熱くなっている……モンスター愛が深いなあ。
とりあえず、2人には落ち着いてもらってからダンジョンに入っていこう。
「ふぇーん、コウー……アルラウネたち、みんな強すぎるよぉ……」
エファは意気込んで的当てに参加したものの、他のアルラウネたちが強すぎて凹んでいる模様。
そりゃ動き回るロックバードを相手にシードバレットを当てて倒す子たちだ。経験値が違う。
「それなら、アルラウネを頼っていろいろと教えてもらったらどうかな? いい経験になると思うし、アルラウネたちも妹ができたみたいで嬉しいんじゃないかなあ」
「そして、ボクが成長してみんなを追い抜かしちゃうんだ! よーっし!」
切り替えが早いなあ。
でも、アルラウネたちとの交流がエファのいい刺激になればいいな。
「さて、それでは行きましょうか」
「ううむ……ここまで何も見い出せないなんて……」
俺たちはウンディーネと人魚が出現するダンジョンの第一階層に踏み込み、多くのウンディーネを相手にした。
そして、武器を破壊してみる、あと少しで倒せるという所で手を止めて回復してみる、武器をしまって説得を試みてみる、プレゼントを渡してみる……などなど、さまざまな方法を試してみたが、ウンディーネをペットモンスターにすることはできなかった。
そして、目の前には次の階層への階段が。
「コウ、どうする?」
「一応、人魚の階層に足を踏み入れてみましょう。どんな階層なのか知っておけば、装備の対策もできますしね」
ウンディーネの階層では足場が岩ということもあり、水属性の魔法が使われると転倒しやすく、思っていたよりもかなり苦戦してしまった。
そのため、少しでも階層の雰囲気を知っておけば、次に来た時に対策が立てられると思ったので、少しでも探索はしておきたい。
……あとは、人魚がどんな子か気になるというのもある。
「よし、それなら装備をバンシーの花冠にしておくか」
「そうですね、それとHPとMPも回復しておきましょう」
俺たちは態勢と耐性を整えつつ、次の階層に降りて行った。
「なるほど……ここはこういう造りですか」
頭上には鍾乳石があり、音が響く洞窟のような場所だ。
足元は水の浸食で小さな川ができており、うっかり足を滑らせたらハマってしまいそうだな……。
重装備だと行軍自体が大変そうなので、軽装が推奨される環境だろう。
「……ん? 何か聞こえませんか?」
鍾乳石から垂れる水の音や、川の流れる音に混じって、人のような声が聞こえる。
それはめまぐるしく音色を変えて、まるで歌のような……。
「もしかして、これが人魚の歌……?」
「ああ、確かに。でも、混乱の状態異常になるような歌とは思えませんね。私はこの歌、ずっと聴いていたいです」
「確かに。それでは少しここに留まりましょうか」
俺はアイテムボックスから椅子を取り出し、設置する。
もちろん、どこからモンスターが現れてもいいように、東西南北すべての方向を見られるように背中合わせにしている。武器も持ったままなのが少々落ち着かないが、立って聴くよりも楽なはず。
そのまま、3分ほど人魚のものと思しき歌を聴いていると、歌声が突然止まる。おそらく、歌い終えたのだろう。
いつ戦闘になるか分からない緊張感はあったものの、俺たちは凄い充足感に満たされていた。
そして、ついうっかりその歌の主に拍手をしてしまう。つられて他のパーティーメンバーたちも。
「……れっ?!」
遠くで声がする。……うわぁ、やっちゃったかな……。
俺たちは椅子を片付けて引き返そうとしたが、声の主の方が速かった。
「れーっ!」
川から水飛沫があがったかと思うと、人魚が川から顔を出した。
しかし、敵意はないようで、水面からこちらのことを興味深そうにじーっと見ている。
「……もしかして、さっき歌を歌っていたのはキミ……?」
「れ!」
はいそうですと言わんばかりに、人魚は片手を上げる。
「ええと、途中からずっと聴いてたんだけど……迷惑だったかな?」
この子に、夜道でメロディーを口ずさんでいたら背後から自転車に追い抜かれた時……みたいな恥ずかしさがなければいいんだけど……。
「れー」
人魚は首を横に振る。どうやら問題ないようだ。
それなら……。
「今度うちの子たちにも聴かせてあげたいんだけど……次に来た時にも聴かせてもらっても大丈夫かな?」
「れ!」
元気に手をあげてくれる。どうやら許諾してくれたようだ。これは割と好印象を与えられた……のかな?
次はエファやライアたちも連れてきてあげよう。
こうして、初めての人魚との遭遇は悪くない? 結果となるのだった。




