フリーマーケット②
「もうそろそろ11時か……」
タイガさんとアルテミスさんの2人と別れてから、ホームでライアとのんびりしていた。
フリーマーケットが12時からだから、まだしばらくは時間があるなあ。
「きゅー……」
ライアは寝転がりながら太陽の光を一身に浴びている。
さっきドリアードの椅子を作って、MPを消費したので疲れたのだろう。
ちなみに、寝転がってるのはこっそり作っていたライア用の簡易ベッド。
ログアウトするときは一緒に寝るけど、ゆっくりするときはこうやって使ってくれている。
いやあ、こういう何もない時間も意外と楽しいものだな。
「さて、今日のフリーマーケットは何を中心に見ていこうかな……」
この前商店街に行ったときに見た、ワールドクリエイターズとコラボしている焼肉大河の肉を探してみようか。
それとも、レシピ研究しようとしているマジックポーションの実物を買ってみようか。
はたまた、特に何も考えずにのんびり散策か……。
「ふあ……」
気持ちのいい日光を浴びて、少しあくびが出る。
ライアの方を見ると、少しうとうとしている。
……かわいいから、こっそり動画に撮っておこうかな。
これをアルテミスさんに見せたらどんな反応をするだろうか。
……そんなこんなで1時間ほどをゆったりと過ごした。
**********
【INFO:フリーマーケット、開催します】
そのアナウンスと同時に、人がワッと一気に雪崩れ込む。
みんなそれぞれお目当ての品があるのだろう。
「さて、俺たちはゆっくり見て回ろうか?」
「きゅー♪」
そんな人たちを遠目に見ながら、俺たちはゆっくりと入場する。
「なるほど……杖、かあ」
俺はとあるスペースの前で立ち止まる。
そこには魔法職用の杖が数本並べられていた。
「おっ、あんちゃん魔法使いかい?」
「いえ、俺は近接系なんですけど……こちらのライアが魔法系なんです」
「ほう、ドリアードの子か。……悪いねえ、ペットモンスターサイズの装備はまだ置いてないんだ。実装されたばかりだから、どれぐらいの需要があるか見込めなくてな……」
確かに、ペットモンスターによって大きさはまちまちだし、サイズが合わないと売れないだろうしな……。
人間ならある程度の身長差はあれど、基本的に誰でも使えるしね。
「なんなら、自分で作ってみるのはどうだい?」
「えっ、俺は鍛冶師じゃないんですけど、できるんですか?」
「ああ、杖は木材ともう一つ……魔玉さえあれば簡単に作れるんだ。木製の杖の中に、こうやって魔玉を入れてだな……」
お店の人は杖の先端を取り外し、魔玉を取り出して俺に見せてくれる。
なるほど、こういう風に魔玉を固定する構造にするのか……。
「ちなみに、魔玉は魔力を収束して放出するためのものだから、完全に隠したら意味がないんだ。ここは気を付けてくれよ」
「分かりました、ありがとうございます。ところで、魔玉はどうすれば入手できますか?」
「そうだな……売っていることもあるけど、エインズの町から北に行ったところにある『クォルトゥス鉱山』でツルハシで掘っても入手できる」
「く、くぉ……?」
「クォルトゥス鉱山、だな。言いづらいから通称はまんま鉱山と呼ばれてる。ヴァノリモ大森林も言いづらいから付いた通称が迷いの森だしな」
「……やっぱりみんな言いづらいって思ってるんですね……」
「まあな。……ちなみに鉱山で掘る場合、まれにランクの高い鉱石が見つかってさ。一攫千金を狙って掘ってるやつも多いぞ」
「何から何までありがとうございます。では、こちらの構造の異なる杖を研究のためにそれぞれ1つずつ頂きますね」
「まいど!」
ライア用の杖、か。
小さいから加工が難しそうだけど、喜んでくれそうだし、がんばって作ろう。
そのためにもまずは魔玉を手に入れないと。
そして、引き続きうろうろしていると、魂が抜けてそうなぐらいぐったりとしたアテナさんを見かけてしまう。
「ど、どうされました?」
「あ……コウさん、ですか……。実は、ドリアード用の服を販売していたんですけど、開場して10分も経たないうちに売り切れてしまいまして……。今、こことホームを往復しながら、ポーションをがぶ飲みして自動作成機能で服を量産してたんです……」
うわあ。
想像しただけで修羅場すぎる。
「最初はどれだけ持ち込んでたのですか?」
「ええと……とりあえず100着だったんですけど……。あの動画以降、フォロワーが急激に増えて1万人を超えまして……その中で買ってくれるのは1/100ぐらいかなって思って100着にしたんですけど……想定外の売れ行きでしたね……」
100着が10分で完売。
ドリアードがペットモンスターの人がそんなにもいるのか……。
「すぐに売り切れてからは量産を始めたのですが……それでも追いつかなかったんですよね。今はようやく落ち着いてきたところです」
「きゅー……」
元気のないアテナさんを見て、ライアがふわりと傍に寄り、頭を撫でる。
「ふふ、ありがとうライアちゃん。時間ができたらまた服を作ってあげるからね」
「きゅー♪」
やっぱり仲が良いなこの2人。
女の子同士ってのもあるんだろうか。
「それでは私はもう少し服を量産して様子をみますね」
「ええ、お邪魔しました。それではまた」
それにしてもアテナさん、フォロワーがそんなに一気に増えたんだ。
……そういえば最近、フォロワーの数とか見てなかったな。
【フレンド数:4 フォロー数:0 フォロワー数:22万】
……。
俺は見なかったことにしてそっとステータスを閉じた。
**********
その後、マジックポーションを1つ購入してから、フリーマーケット途中で一旦ログアウトして昼食を食べる。
そして再度ログインしてホームでまったりしていると……。
【INFO:ホームへの入場申請があります】
ん? 誰だろう?
名前を見るとタケルだったので、すぐに許諾する。
「おう、のんびりしてるとこすまないな」
「ああ、何かあったのか?」
「……これを見てくれ」
タケルは動画を再生して俺に見せる。
「ん? これは俺の動画か?」
「そうだ。それじゃこれを見てくれ」
タケルはコメント欄を開いて見せる。すると……
『俺も椅子と服をプレゼントしたら、うちの子が錬金術をしてくれるようになりました! ありがとうございます!』
『うちもです! これはもう隠しステータスに好感度みたいな項目があるのは確定ですね』
『神に感謝』
『これでポーションオブドリアードが市場に出回るようになると思うけど、相場が気になるな』
おお、錬金術に興味を持つドリアードが増えたのか。
「これで持ち込み制限ダンジョンの踏破者も増えるかな?」
「ああ。ちなみにボスドロップやクリア報酬にもレア枠があるはずだから、ドロップ検証も捗るな」
「それは何よりだ……ん?」
【INFO:新しいレシピ『ポーションオブウンディーネ』が発見されました】
ウンディーネといえば……水の精霊か?
ドリアードは木の精霊だし、精霊の魔力の籠ったポーションは精霊の数だけあるんだろうか。
「コウ、今のINFOで流れたレシピのコメントが追加されたみたいだぞ」
俺はタケルの開いている動画を覗き込む。
『うちの子はドリアードではなくウンディーネですが、この動画を参考にさせていただき、拙いながら自作の椅子と服をプレゼントしてみました。すると、ウンディーネも錬金術に興味を持ち、なんとポーションオブウンディーネを作ってくれました! 貴重な情報をありがとうございます!』
なんと投げ銭の最大額である1000Gを惜しみなく投げてくれた。
ポーション10個の利益が450Gってことを考えると、かなりの額である。
「この調子だと、他の精霊でもありそうだよな」
「ああ。これからどんどん持ち込み制限ダンジョンの攻略が楽になってくると思うぜ。これもコウのおかげだな」
「人の役に立てたなら幸いだ。……こうやって、ユーザーに直接感謝されることって現実だとあんまりないからありがたいな」
「ま、オレらの仕事のほとんどって会社やら上司やらがユーザーとの間に入るからな。新鮮な体験だ」
「……さて、ドリアードの好感度が上がってきた人が増えたなら、これも公開しなきゃな」
「ん? これってなんだ?」
俺は自分の動画一覧を開き、ドリアードの椅子の作成動画をタケルに見せた。
「オイオイオイ、一歩先行ってるのかよお前」
「ま、偶然だけどな。それに確実に特殊効果が付与されるかはまだ分かってないが……」
「それでも充分過ぎるほどの内容だ。これは他のプレイヤーが見つける前に出した方がいいだろう」
「ああ。とりあえず声が入っちゃってるフレンドに許可を取ってからアップするよ」
「そうだな、確かにそれは大事だ。じゃあオレはフリーマーケットに戻るよ」
「おう、またな」
俺はその後、タイガさんとアルテミスさんにメッセージを送り、2人とも許可をくれたのだった。
それと同時に動画の編集を始め、余分な前後の部分をカットした動画をアップする。
そして、慣れない動画編集に少し疲れたので、ライアと一緒にうたたねを始めるのだった……。
『MPが回復する椅子!?』
『嘘だろ!? ……いや、マジだこれ』
『ちょっと参考にしてやってくるわ』
『おk、できたら報告ヨロ』
『ダメだ、うちの子はやってくれない……』
『うちもだ……ポーションオブドリアードは作れたのに……』
『もっと好感度を上げる必要があるのか? ちょっと動画に質問してくる』
……という掲示板のやり取りがあったのを知るのは、うたたねから目覚めた後だった。
**********
「……なんか、すごいことになってるな……」
1時間ぐらい後に目覚めたころには、再生回数は1万を突破、コメントも1000件ほどきている。
コメントをフィルタにかけて似たコメントを排除すると、だいたいはドリアードの椅子の作製方法についての質問だった。
『うちの子は椅子に魔力を注いでくれません。好感度不足でしょうか?』
『服や椅子をプレゼントしたのですが、それでも足りないようです。効率の良い好感度の上げ方があるのでしょうか?』
『魔力を注いでる時のライアちゃんの表情、ちょっとキリっとしてて、普段のかわいい時とのギャップ萌え』
などなど。なんだ最後の。
これぐらいならリアルタイム配信で答えなくてもよさそうだな。
固定コメントにして『魔石を与える時に反応が違うことがあるので、おそらく好物があるのかもしれません』……送信、っと。
そしてそのコメントに大量の返信が付く。
『好物……? 何それそんなの知らない……』
『ずっと安価な同じ魔石与えてたけど……』
『動画! 動画はないんですか!?』
……これはさすがにアップした方がいいかな?
まだ調査途中だけど、普通・好物・大好物の三種類はあるわけだし。
ただ、今の俺の動画編集技術だと分からないことがあるので……。
「お待たせしました。コウさん」
本日2度目、だいたい4時間ぶりのアルテミスさんとの再会である。
俺は動画の編集でこういうことはできるかと質問する。
「なるほど、同じ反応は同じ画面にまとめて、更にどの魔石かテロップも入れたい、と」
「そうです。可能でしょうか?」
「もちろんです、それをするにはここをこうして……」
アルテミスさんは俺に説明しながらも、手際よく動画を編集していく。
「うっ」
「ど、どうしたんですか!?」
突然アルテミスさんの手が止まる。何かあったのだろうか。
「い、いえ……1画面にたくさんのライアさんが表示されて……わたくしには少々刺激が強すぎました」
「そ、そうですか……それでは自分が代わりましょうか?」
「面目ない……お願いします」
そっか、推しが大量に表示されたらそうもなるよね。
……なるかな?
まあ、それはさておき。アルテミスさんの操作を観察していたので、ちょっとぎこちないながらも編集作業を進めていく。
「──ところで、テロップの入れ方なんですけど……」
「それはここをこうして……」
・
・
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こうして、30分後にはなんとか動画が完成した。
「お疲れ様です。これでいつでもアップできますね」
「ありがとうございます。そして、連日お時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
「いえ、わたくしなら大丈夫です。世に出る前のライアさんの動画を先に見られることができたのですから」
「あ、それならこういうのはどうですか?」
俺は、さっき撮ったうとうとしているライアの動画をアルテミスさんに見せる。
「────ッッッ!?!?」
勢いよく顔面から地面にダイブするアルテミスさん。……ちょっと刺激が強すぎただろうか。
……10秒ほど経ったのち、アルテミスさんはゆっくりと身体を起こす。
「コウさん、これは……R-18指定しないとまずいですよ!」
「なんで!?」
「脳内のライアさん濃度が高くなりすぎて危険が危ないです」
「そこまで」
……アルテミスさん、弓を使って戦闘しているときはクールでかっこいいのになあ。
なんでライア関係になるとここまでポンコツムーブをしてしまうのか。
「……こほん。と、とりあえず、貴重な動画をありがとうございました。今回の報酬はこれだけで充分です」
「よ、よろしいのですか?」
「はい、コウさんでしか見られない貴重な表情です。それだけの価値はあります」
「あ、ありがとうございます……」
「それではわたくしはこれで。またいつでもお呼びください」
アルテミスさんは自分のホームへと戻っていく。相変わらず嵐のような人だ……。
……と、とりあえず動画をアップして、あとはライアと一緒にものづくりを楽しもうかな。
こうして、慌ただしい土曜の一日は終わりを告げた。
明日も休みなので、次はライアの杖を作るためにくぉ……なんとか鉱山に出かけてみよう。
道中では戦闘もあるだろうから、護衛依頼を出さないとな……。
あ、ライアの杖のデザインどうするかな……買った杖のデザインをそのまま縮めてもよさそうだけど……。
などなど、そんなことを考えながら今日は早めのログアウトをするのだった。
活動報告にライアのキャラデザのラフをアップしました。
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