クヴァーナ砂漠
「ここからが砂漠か……」
ヴァノリモ大森林を南西に抜けて草原を5分ほど進んで行くと、草の量が減っていき、次第に土が剥き出しになり、更にその先は広大な砂漠が広がっていた。
ここまでモンスターには出会ってないけど、いったいどれぐらいの強さになるんだろうか?
ヴァノリモ大森林を西に抜けたキヴァナ峡谷には、俺たちどころか他のプレイヤーが勝てないようなモンスターがいたけど……もし、こちらの砂漠もそうならまだ来るべきところではないのかもしれない。
「とりあえず、勝てないと思ったら即逃げるためには……ライア、ニアと代わってくれる?」
「きゅー!」
俺はペットモンスターをライアからニアに変更する。
ニアは金切り声で敵を混乱させられるほか、沈黙で敵のスキルや魔法を封じることができる。
混乱させて逃げるもよし、敵の足が遅いなら遠距離攻撃を封じて逃げるもよし、という判断だ。
それでも逃げ切れないようなら……俺が先に倒されればニアやエファが傷つくことはない。
痛い思いはして欲しくないしね。俺たちプレイヤーは大きな痛みは感じないようになってるし。
……なお、小さい痛みは感じるようになっている。俺のペットモンスター以外の女の子がいる時に、下手するとライアやレイに抓られるし……。
「よし、それじゃあ行こうか。エファは空から偵察をお願いできる?」
「もっちろん! 足場が悪いと思うから、コウたちも気を付けてね!」
「ふぇ!」
こうして、俺たちは砂漠に一歩を踏み出した。
すると……。
【INFO:新規エリア、『クヴァーナ砂漠』が発見されました。全体地図に追記されます】
……あ、全体に報告が行くんだ。
キヴァナ峡谷の時もこんな感じだったのかな。おそらくその時はちょうどログインしてなかった時だったから、こういうメッセージを見るのは今日が初めてだ。
……今頃は掲示板が賑わってるのかなあと思いながらも、今は自分たちの安全が先だ。砂漠だから遠くまで見渡せるとはいえ、突然地面からモンスターが出てくることもあるだろうし……。
サソリとかワームとかが思い浮かぶな……あとはアリジゴクみたいなやつとか?
「コウー!」
俺があたりを警戒していると、上空から戻ったエファに声をかけられる。モンスターだろうか?
「どうしたの?」
「あっちに湖みたいなのがあるよー! ここからは坂で見えないかも!」
湖ってことはオアシス……? 動物とかだけでなく、モンスターも集まって水を飲んでいるのだろうか。
うーん、ちょっと気になるけど、モンスターがいたら戦闘になりそうかな。
「エファ、湖にはモンスターがいそう?」
「うーん、周りにはいなかったかな。砂漠にもいなかったし、この辺はモンスターが少ないのかも?」
確かに過酷な環境だろうし、生物自体が少ないという可能性もあるか。
他は砂漠が続くからこれといった所はないし、俺たちはオアシスを目指して出発した。
**********
「……本当にモンスターも動物もいないな……」
俺たちはオアシスに到着すると、警戒しながら周りの生物の有無を確かめる。
しかし、不気味なほどに静まり返っていて、草や木の葉が揺れる音だけが小さく辺りに響いていた。
「あ、この草は見たことがない草だなあ……よっと」
俺は草を引き抜いてステータスを見てみることにした。
【冷草:ランクD、砂漠に生える小さな草。暑さから身を守るために、自身を冷やすことができる不思議な能力を持っている。これを食べると暑さを和らげることができる。効果時間:1時間】
へー、面白い生態だなあ。
その地域に合った生存戦略ってやつなのかな。何個か持って帰ろう。
「コウー、こっちには実があったよー!」
「ふぇー!」
エファとニアは木の実を見つけてきてくれた。バスケットボールぐらいの大きさの、少し大きい実だ。
俺は実を受け取り、こちらのステータスも見てみる。
【ホッコの実:ランクD、硬い殻に覆われた実。割ることで中身を飲むことができる。ココナッツジュースのような味がする。降水量が少ないクヴァーナ砂漠では、貴重な水分が補給ができるものとして重宝されている】
なるほど、殻を割れば飲めるのか……。
そう思って割ろうとしたのだが、素手では無理。ハンマーを使ったら、袋を開ける時に盛大にぶちまけてしまったスナック菓子のごとく飛び散りそうだし……とりあえず持って帰ろう。
あとはオアシスの水も素材として使えないかな?
「よし、ちょっとビンに入れて……と」
【オアシスの水:ランクD、普通の水……のように見えて、ほんのり火属性を帯びていて少し暖かい気がする。相反する属性のはずなのになぜ火属性が付与されているのか、恒常的に議論が飛び交っているとかいないとか。ファンタジー世界なんだからあってもいいじゃん! という結論が出るのはいつのことやら】
メタなこと言ってるなあ。
まあ、水なのに火属性っていうのは確かに不思議だな。これを使って何か作れないかな? とりあえず、ある程度は持って帰ろう。他の生物が飲むだろうから、控えめにビン5つ分ぐらいで。
詰め終わったらもう少し辺りを探索して……。
「ん……?」
俺が水を汲んでいると、ガサッと後ろの草が揺れる音がする。
「モンスターか……?」
「ふぇ?!」
「どこ!?」
俺が声に出して振り向くと、ニアとエファが戦闘態勢に入る。
俺もビンを放り出して武器を取り出す。
「シュー……」
草から姿を現したのは、サソリのモンスターだった。
おそらく見た目の通り殻が硬いだろうから、剣などよりもハンマーが有効か。
ただ、接近戦だと尻尾の針で刺される可能性があるし、針に毒があるかもしれない。
ここは……。
「ニア、金切り声をお願い!」
「ふぇ! ────ッ!」
「シュ?!」
こちらに向かってきていたサソリがその場で茫然と立ち尽くす。どうやら混乱が効いたようだ。
混乱したモンスターは同士討ちを始めるけど、このサソリは一匹だけだから攻撃対象がいなくて立ち尽くしているのだろう。
「よし……これで!」
その隙に俺はハンマーに持ち替えてサソリに重い一撃を入れる。
これで少しでも効いてくれれば……。
「シュ……」
無傷!? 確かに防御は強そうだと思ったけど、まさか無傷とは……。
つまり魔防が低いタイプか。でも、水属性の強い攻撃魔法は習得してないから……。
「ニア、もう一度お願い! 効いたら逃げよう! エファは隠蔽魔法で俺たちを消して!」
「ふぇ!」
「よーし、いっくよー!」
そしてニアがもう一度金切り声を発動し、サソリを混乱させる。
その隙に隠蔽魔法で姿を消した俺たちはオアシスから急いで離れ、ヴァノリモ大森林近くの草原まで戻ってきた……ところで隠蔽魔法の効果が切れる。
そういえば隠蔽魔法は姿は消えるけど匂いなどは消せないので、嗅覚の強いモンスターだと効果がないんだよな……砂漠や湿地だと足跡も残るし、結構使いどころが限られるなあ。まあ、強すぎるとナーフされるしこれぐらいがいいのかな。
「とりあえず収穫はあったし、帰って試してみようかな」
冷草が3つ、ホッコの実が1つ、オアシスの水がビン4つ……まだ見たことなかったアイテムだし、何か新しいものができればいいんだけどなあ……数が少ないから大事に使おう。
……あ、緊急事態とはいえビンを1つ放り出したままだった。不法投棄になっちゃうな……。今度行った時に残ってたら回収しよう。
**********
「……よし、それじゃ持って帰った素材を使っていろいろ試そう」
今日はティルナノーグ……ギルドで作業を行うことにした。
ホームよりこちらの方が設備レベルが高いので、調合も成功しやすくなるからだ。初見の素材だと確率で失敗したのか、そもそも調合方法が間違っていたのか分かりづらいしね。
あと、ギルド内はギルドメンバーのペットモンスターもいるので、ライアたちの遊び相手も増えるのもありがたいところだ。
さて、まずは冷草から始めてみよう。
ポーションみたいな感じで、飲むと冷却効果が出るアイテムになると予想して……。
1:ポーションのように、冷草+魔法水で調合してみる
2:マジックポーションのように、冷草+純水で調合してみる
これのどちらかかな……? 冷草は3つしかないので、この2つ以外の可能性があれば今回の調合成功は難しいだろう。
とりあえず1の方法で調合してみよう。
冷草をすり潰し、それを魔法水の中に入れてかき混ぜて……と。
更にできた混合水をろ過して魔力を送り込んで……お、色が変わったけど、この色は……。
【ポーション(失敗作)】
ですよねー。
薬草を使ってないのにポーション扱いになるのか……成功したら〇〇ポーションになるのかな?
次は魔法水を純水に変えてみるか。
「ダメかぁ……」
純水でもできたのは同じようにポーション(失敗作)だ。
うーん、冷草はあと1つしかないし、今回はやはりダメかな……?
冷草の効果は面白いんだけどなあ。砂漠の暑さを和らげるので、ポーションとして飲みやすくすればNPCにも好評だろうし……。
なお、プレイヤーは暑さ寒さはそれほど感じられなくなっている。というのも、実際の部屋の温度が分からなくなったらまずいからという理由だそう。風邪をひく可能性があるからしょうがないところ。
ただ、課金要素でゲーム内温度も感じられるようになるとか。VR世界を感じられるから人気の課金要素の一つらしい。利用は自己責任だそうだけど。
「んー……冷却かぁ……ん? もしかして……」
俺はアイテムボックスから水属性の杖を取り出した。
そして、冷草をすり潰して魔法水に投入し、ろ過をして……。
「ここで水属性の魔力を注入すれば……」
そう、冷草は属性は明記されていないものの、効果は水属性っぽい。
それなら水属性の魔力でそれを増幅みたいなことができれば……。
俺は冷草と魔法水の混合液に水属性の魔力を籠める。
すると、失敗作ではない色……透き通った水色のポーションができあがる。
【クールポーション:ランクD、飲むとしばらくの間、暑さを和らげることができるポーション。ポーションと名前は付いているが、回復はしないので注意。こういう便利アイテム現実でも欲しいなぁ。効果時間:2時間】
運営さん、願望出てますよ。俺も欲しいけどさ。
……とりあえず特許申請は後回しにしよう。またうっかりお出ししてこの素材どこにあるんだ?! って騒がれるし。まあ、既にクヴァーナ砂漠の行き方は掲示板で騒がれてると思うので今更感はあるけど。
「あ、コウさん。今日はこちらで作業されているんですね」
「レックスさん。そうですね、こちらの方が設備レベルが高いのでちょうどいいと思いまして」
「……あれ? そのポーション、見たことが無い色ですけど……もしかして……」
「ええ、クヴァーナ砂漠で手に入れたアイテムで作ったものです」
「あ、やっぱりアレはコウさんだったんですね」
やっぱりって。俺の行動、バレバレ過ぎ……?
「掲示板で凄い話題になってますよ。でも、どうやってもヴァノリモ大森林を抜けられないって……」
「ああ、やっぱりそうなりますよね……実は……」
俺はクヴァーナ砂漠への行き方をレックスさんに伝える。
「なるほど……そして、行けたとしてもモンスターが強すぎるわけですね」
「モンスターの数自体は少ないみたいなので、素材を採ってすぐに帰る方法もありますが……それだと素材の入手数が少ないので、ある程度の戦力は必要ですね。ヴァノリモ大森林を南西に抜ける方法は明日動画を撮って公開しますので、あとは攻略班に任せましょう」
餅は餅屋。攻略は攻略班。
ということで、攻略班に丸投げしてしまおう作戦。実際に俺よりもレベル高い人がゴロゴロいるだろうしなあ。
そして、アイテムの特許は動画公開と同時に行うようにしよう。
「しかし、トレントの島もキヴァナ峡谷もクヴァーナ砂漠もモンスターのレベルが高いということは、どれも次の次ぐらいの目的地なんでしょうか」
「キヴァナ峡谷は分かりませんが、トレントの島もクヴァーナ砂漠も偶然発見したものですし、ゲームで船を入手して遠出したらとんでもない強さの敵がいた、みたいな感覚ですね……」
「あ、分かりますそれ。村や町があったら強い装備が買えて楽しいんですよね」
「ですです。最近のゲームだと浅瀬で船が通れなくされてるなどで、せっかくの船なのに行動範囲が限定されちゃうんですよね」
その後、調合は一旦ストップしてレックスさんとゲームのあるある話をすることに。
そして、他のギルドメンバーも合流して話は弾み、時間はゆったりと過ぎていくのだった。




