新規エリア
「お、おはよー……なんとか作れたよ……」
翌朝、ワールドクリエイターズにログインすると、エファからクイーンドリアードさんの樹液を使ったフェアリーシロップを渡される。
なんだか凄く疲れてるようだけど、作るのにそんなに神経を使ったのだろうか。
「お疲れさま。ちょっと町に出掛けて気分転換する?」
「うん。でも、すぐに持って行かなくていいのかな?」
「たぶん、まだヴァノリモ大森林にいるんじゃないかな。朝はドリアードの集落で長として仕事をしているみたいだし」
……まあ、それが終わったら速攻で的当てとかを遊びに、外までやってくるんだけど。
長の威厳ってナンダロウネー。
「そういえば、味はどんな感じ?」
「さ、流石につまみ食いなんかしたらボクが食べられちゃうよぉ!」
「うーん、それならステータスを見るだけにしておこうかな」
【フェアリーシロップ:ランクA+、舐めるとMPが最大MPの40%分回復する。クイーンドリアードの樹液から作られたもので、まさかの割合回復である。このまま使っても強いが、やはり更に手を加えると……おっと。凄まじいまでに甘みが強く、他の何かに混ざったとしてもクイーンドリアードのように自己主張が強すぎるため、常に味の主役になる存在だ】
「……?」
説明文を思わず二度見する。
「…………???」
割合回復? これ、MPが高くなればなるほど回復量が凄まじくなるやつだ……。
更に手を加えると効果が強まるのか? ウソだろ?
さすがにこれをオークションにでも出そうものなら……戦が始まる。うん、しばらく存在は隠しておこう。そうしよう。そうしなければならない。そうすべきだ。
「ねーねーコウ、問題が無いなら早く行こうよー」
「あ、う、うん。今回はみんなで散歩しながら食べ歩きしようか」
「やったー!」
「きゅ?!」
「ら!」
俺たちの会話を聞いてみんなが集まってくる。そういえばライアたちは耳が長い、いわゆるエルフ耳みたいな耳なんだけど、やっぱり集音力が凄いのかな。
その後、みんなで町を歩きながら欲しがるアクセサリーを買ったり、食べたい食べ物を買ったり……のんびりとした時間を過ごした。
そして……。
**********
「おお、これは物凄く甘くて……いくらでも欲しくなるのう」
「お、お褒めに預かり光栄ですぅ……」
「うむうむ、後からご褒美をあげないとのう」
「おおお、お気遣いなくぅ……」
普段おちゃらけているエファが畏まり過ぎてる……クイーンドリアードさんはそこまで圧は強くないはずなんだけどなあ。……ライアたちが特殊なだけなんだろうか。以前クイーンドリアードさんに食って掛かったりしてたし。
「コウよ、使った分の3倍ぐらいを次に渡すので、待っておいてくれ」
「分かりました。それまでは他の蜜でフェアリーシロップを作っておきます」
「それの対価は樹液か枝で払わせてもらおうかの」
……さすがに価格差が凄すぎるんですけど!?
クイーンドリアードさんの素材は売ったことはないけど、いったいどれぐらいの値段になるんだろう……今度、ドワーフの杖の店で聞いてみようかな?
「それとじゃな」
「何でしょうか?」
「そろそろ的当てで遊ぶ金がなくなってきてのう……いい稼ぎ話は無いものか」
いえ、貴女の素材を売ればおそらくそれだけで一攫千金ですけど!?
でも、急に出して市場をざわつかせていいものか……。キングウルフさんの歯の時は数万Gになったけど、それ以上に貴重だろうし。
「あ、それなら情報を売って頂けませんか?」
「情報とな?」
「俺たちもまだ知らないヴァノリモ大森林の情報です。クイーンビーの巣を見つけたのも最近ですし、森にはまだまだ様々な場所があると思うんです」
「ふぅむ……それなら、森を南西に抜けてしばらく行ったところに砂漠がある、というのでもいいかの?」
「森って南西に抜けられるんです?」
「うむ、あの森は特殊な手順でしか抜けられない場所があるからのう……それを教えるということで良いか?」
「はい、それではこれを……」
俺はアイテムボックスから2万Gを取り出し、クイーンドリアードさんに手渡す。
砂漠かあ。暑いというか熱いから火属性のモンスターが多く出そうだ。ペットモンスターでも今まで火属性のモンスターはあんまりいなかったから、そこでペットにできるのかな。
「おお……これだけあればしばらく遊べそうじゃのう。よしよし、次の機会に同行して抜け方を教えよう」
「ありがとうございます」
「コウ、我も資金が尽きかけてきていてな……歯はまだ抜けないから、何かいい案はないか?」
「キングウルフさん。……そうですね、体毛が伸びてきているので、それを切って売りに出してはいかがでしょうか?」
……キングウルフさんも金欠なのか。
この上位種たちいっつも遊んでるからな……。
「体毛が売れるのか?」
「はい、布団にするとかできそうですし、あとはお守りとして持っておきたいという人もいそうですね」
「それなら切ってもらえるか?」
「そうですね……それでは人を募ってみましょうか。俺はトリミングはできないので」
これだけプレイヤーがいれば、トリミングできる人もいるはずだしね。ウィンドサーフィンに詳しい人がいるんだ、ペットのトリミングを仕事でやってる人もおそらく多数いるだろう。
さっそく掲示板にキングウルフさんの写真と共に仕事の募集をしたところ、めちゃくちゃ依頼が殺到した。
中には『お金を払いますのでやらせてください!!!』と言う人まで出てくる始末。
キングウルフさんは大きいので数人がかりでやると思うし、複数人を採用ということで……なお、人選はキングウルフさんに手伝ってもらった。
その後、トリミング代と体毛のオークション代が入ってきて、キングウルフさんの懐も潤うのだった。
「はぁ……コウの人脈が凄すぎて、ボク驚きっぱなしだよぉ……寿命縮まっちゃう」
「ご、ごめんごめん。ライアたちはそういう反応をしなかったんでつい……」
「うう……もう上位種の知り合いはいないよね……?」
「あとはシルフの上位種ぐらいかなあ。エルダートレントさんとアルラウネさんには蜜をもらう時に会ったし」
「まだいるのー!?」
うーん、なかなか新鮮な反応だ。
ペットモンスターとNPCでここまで反応が違うものなんだな。
**********
「よし、それではついてくると良い」
「ありがとうございます」
「きゅー!」
「おお、ライアも喜んでくれるか。お主はかわいいのう」
「きゅ!」
後日、俺はクイーンドリアードさんの案内でヴァノリモ大森林を南西に抜けることに。
西に行くとキヴァナ峡谷だから、山を隔てて気候が変わってるのかなあ。
それにしても、ライアとクイーンドリアードさんが並んで和気あいあいとしてるのは、親子みたいに見えるなあ。
「うう……失礼が無いようにしないと……。ライアちゃんは何であんなに自然にできるの……」
一方、エファはいまだにビクビクしている。
あの後もたくさんフェアリーシロップを提供したので、クイーンドリアードさんには気に入られているはずなんだけど。
「おお、そうじゃエファ。次から砂漠に抜けるにはお主の力が必要じゃから、ちゃんとするんじゃぞ」
「え、ええっ?! ぼ、ボクがですか!?」
「うむ、まああやつらに出会えば分かるぞ」
エファの力が必要……? いったい何なんだろう?
南西に抜けるには導きの蝶でも無理みたいだし、何か秘密がありそうだ。
……その後もしばらく森の中を歩き、とある場所でクイーンドリアードさんが歩を止める。
「きゅ?」
「ライアよ、不思議かの? これはただの木に見えるがのう……」
クイーンドリアードさんが指し示した木は、本当に普通の木に見える。樹齢30年ぐらいの少し細めのような、どこにでもある木だ。
俺から見てもこれといって特別な感じはなさそうなんだけど……。
「ほれ、お主ら。姿を現さぬか」
「「「……ぴー!」」」
クイーンドリアードさんが声をかけると、先ほどまであった木がなくなり、複数の妖精に似たモンスター? たちが出現する。
この子たちが木の幻影を見せていたのか……?
「クイーンドリアードさん、この子たちは……?」
「うむ、こやつらはピクシーじゃよ」
「ピクシー……確か、旅人を迷わすことが好きな……」
「おお、知っておるのか。コウは博識じゃのう」
ピクシーは妖精の一種で、ほぼ妖精と同等扱いされるゲームも多い。
緑の服を着ていること、旅人を迷わすのが好きであることが特徴だ。
しかし、こうも立て続けに妖精種が出てくるとはなあ……。フェアリーはNPCだから、ペットモンスターとしての妖精種なのかな?
「さて、コウよ。例のモノは持ってきておるな?」
「はい、こちらに」
俺がアイテムボックスから取り出したのは、レイの蜜で作ったフェアリーシロップ。
これをクイーンドリアードさんの指示で、ピクシーたちにプレゼントする。
「ぴ!」
「ぴーっ♪」
「おお……凄い勢いで減ってく……」
香りに惹かれたのか、いつの間にかフェアリーシロップの周りには10人とちょっとのピクシーたちが集まっていた。
そして、フェアリーシロップを食べ終えると、もっと欲しそうな目で俺を見てくる。
「さて、ピクシーよ。もっと先ほどの食べ物が欲しいか?」
「ぴーっ!」
「ふむ、それならこやつ……コウを砂漠への道に案内してやれ。そうすれば褒美としてもらえるぞ」
「ぴっ!」
「よし、ワシはここまでじゃな。後はこやつらに任せて、ワシは的当てで遊んでくる」
「ありがとうございます、クイーンドリアードさん。それではピクシーの皆さん、お願いできますか?」
俺がピクシーたちにお辞儀をすると、ピクシーたちはゆっくりと幻影の木があった先へと俺たちを導いてくれる。
そして、十分ぐらい進んで行くと、次第に木が少なくなって開けた土地が姿を現す。
「ぴっ!」
「ありがとうございます。それではお礼にこれを……」
俺は木で作ったお皿を3枚出し、その上にフェアリーシロップを乗せていく。
すると、すぐにピクシーたちはフェアリーシロップを食べ始める。
「ところで、次からはクイーンドリアードさんがいなくても、フェアリーシロップを出せばここまで連れてきてもらえますか?」
「ぴー!」
「『もちろん!』って言ってるよ。コウ、コウだけじゃなくて他の人たちでも案内してもらえるように頼んでみる?」
「あ、それはいいね。それじゃエファ、交渉を頼めるかな?」
「うん!」
エファはピクシーたちがフェアリーシロップを食べ終えるまで待ち、交渉を始める。
ピクシーたちもフェアリーシロップを気に入ったのか、即OKを出してくれた。
「ええと、ボクが作れるフェアリーシロップを3人前用意して、さっきの木の辺りで渡せばいいって」
「なるほど、ありがとう。……あ、そうだ」
「どうしたの?」
「協力してくれるお礼をしたいと思って……たぶん人数分あるはず……」
俺はアイテムボックスから緑色のリボンをピクシーの数だけ取り出す。
そして、それをピクシーたちに渡していく。
「ぴーっ!」
「『ありがとう』だって。緑色が好きみたい」
「こちらこそ連れてきてくれてありがとうございます。それでは、次に会う時のためにフェアリーシロップを準備しておきますね」
「ぴー!」
こうして、俺たちはピクシーたちに見送られながら、砂漠エリアへと進み始めたのだった。




