フェアリーシロップの素材
「おーっすタケシ。トレントの島の進捗はどうだ?」
「あー、それな。浅い階層でレベル上げしつつ、少しずつ先に進んでたんだけどさあ……」
「……その調子だと、うまくいってないみたいだな」
「そういうこと。昨日ようやく5階層に行ったんだが、一気にモンスターが強くなってさ……地属性の武器、水属性軽減の防具を装備してても、一撃で半分ぐらいHPを持っていかれるし、攻撃がそんなに効かないんだ」
「つまり、軽減はできてもヤバいダメージ叩き出されてるってことか。軽減がなかったら……」
「一撃死だろうなあ」
オイオイオイ、なんだよその難易度。
タケシたちのパーティーはワールドクリエイターズでもトップクラスのレベルのはずなんだが……。
「ま、浅い階層でも経験値が充分に入って美味しいから、レベルが上がりづらくなるまで稼ぐのもよさそうかな。あとは色々なダンジョンがあるから、自分たちに合った稼ぎダンジョンを見つけるのもいいぞ」
「なるほどな。それなら引き続き地属性の武器をバイスに頼んでおくわ」
「おう、よろしくな。それと……」
「ん? 何かあったか?」
「EXマジックポーション! よければあれも融通して欲しいんだよ。ダンジョンではスキルを使いまくるから、即ガス欠するんだ」
ああ、なるほどね。
敵が強い分、スキルメインで戦わないと余計なダメージを受けてレベル上げ効率が悪くなるのか。
「……しかし、よくあれが俺だと分かったな」
「妖精を仲間にしてるって言ったら、今はコウのギルドだけだろ。分からいでか」
「ああ、それもそうだったな……タイガさんからもメッセージ来てるから、半々でいいか?」
「やっぱりそっちからも来てるか……まあ、もうマジックポーションじゃ足りないレベルだからなー」
タイガさんもタケシもレベル100を超えているので、近接系なのにもうMPが500とかになってるんだよな……近接系ですらそこまで行くなら、魔法特化なら50とか全然回復量が足りないわけだ。
アテナさんも人形を動かすのにMPを使うので、今回のEXマジックポーションは重宝しているとか。
「ま、妖精を仲間にできる人が増えたら市場に出回る数も増えるだろ」
「だといいけどな。オレの見立てでは、しばらく自分の在庫を確保するプレイヤーが多いから、あんまり出回らないと思ってるかな」
「確かに、売る分だけじゃなくて、自分で使う分も確保しなきゃいけないのが生産者の辛いところだな」
イベントガチ勢もおそらく在庫確保に回るだろうし……あれ? 思ったよりも市場に出回る数が少なくなるな?
「そういうわけで、オレのギルドはちょっと高めに買い取らせてもらうぜ。まあ、まだ市場での値段がどれぐらいになるか分かってないけどさ」
「だよなあ……蜜によってフェアリーシロップの効能も変わって、EXマジックポーションの効能も変わるしさ」
「は? それ初耳なんだが? ……あ、もしかして、アイテムの説明文に書かれているあれか? いつもの冗談半分な文だと思ってスルーしてたんだが」
「説明文芸に慣れるとそうなっちゃうよなあ。正にオオカミ少年」
運営もそろそろまともな文にした方がいいのでは? と思う気持ちもあるが、いいぞもっとやれと思う気持ちもある。
まあ、アイテム説明文が面白かったり、妙に凝ってるRPGって印象に残ったし、それをインスパイアしてるのかな。
……天然でやってる可能性もあるが。
「ま、それはまたゲーム内で聞くとして……そろそろライアちゃんの商品がゲーセンに入荷されるんだよな。コウも獲りに行くのか?」
「ああ、試供品はもらえるみたいだけど、こういうのは自分で獲ってこそゲーマーってもんだろ」
「……お前、昔っからそういうところあるよな。オレも同じこと考えるだろうけど」
俺はそっと手を差し出すと、ガシッと握り返される。お互いゲーマーなのに変わりないからな。
……そんなことをしていると、始業の鐘がなる。
「おっと、それじゃ続きは業後のゲーム内で」
「おう、今日も頑張ろうぜ」
**********
「コウー、邪魔するぜー」
「コウ殿、今日はよろしくお願いする」
「こちらこそよろしくお願いします」
その日の夜、ホームにタケシ……もといタケルと、タイガさんが訪れる。
……あれ? メッセージではアルテミスさんも来る予定だったはずだが……。
「ところで、アルテミスさんは欠席ですか?」
「いや、ここに入ってきた途端に皆に出迎えられてな。鼻血を吹いて倒れた」
「あー……」
以前のライア、レイ、スコールの3人だけでなく、今回はブラウン、ニア、エファがいるんだよな……倍に増えてたらアルテミスさんも保たないか。
まあ、タイガさんがギルドの代表だし、アルテミスさんがいなくても何とかなる……はず。
「いったんアルテミスさんは置いといて、EXマジックポーションの話をしましょうか」
「いいのかコウ、庭が血溜まりになるぞ」
「……そんなに吹いてたのか……」
「儂が後始末をするので、今はそっとしておいて欲しい……すまぬ、コウ殿」
アルテミスさんは相変わらずだ……でも、戦闘になるとホントかっこいいんだよなぁ……こういうギャップがあるのが好きな人もいるとは思うんだけど、ギャップあり過ぎじゃないか?
「では、EXマジックポーションについてですが……エファー、ちょっといいー?」
「はーい! 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
「何か今凄い懐かしいフレーズを聞いたような……」
「と、とりあえずスルーで。エファ、フェアリーシロップは増産とかできそう?」
「んー、レイお姉ちゃんの蜜だけだと1日で10人分だけど、他の蜜ももらえるなら20か30は作れそう、かも!」
となると、ライアたちが食べるぶんを差し引くとエファだけだと15~25/日ぐらいか。
フィアの妖精たちのフェアリーシロップもあるけど、毎日手に入るエファのフェアリーシロップで考えた方が良さそうだ。
一応、自分の分もある程度は確保しておきたいから……。
「それなら、だいたい1日10個ずつの提供になりますかね」
「うむ、儂としてはそれで充分だ。……が、対価が払えるかどうかになりそうだが……」
「ああ、それはオレも思ってた。イベントが終わってマジックポーションの値段は落ち着いてはきたけど、今でも300~500Gだからな。効果的が4倍だから値段も4倍となると……」
「最低額の300G×4×10個……12000Gか。うわあ……思ったよりも高いなこれ……」
動画がバズって最大の報酬をもらって50000Gと考えると、かなりの高値だなこれ。
これを常飲しないとダメなダンジョンってヤバいだろ。
「なあタケル。今潜ってるダンジョンでモンスターを倒すとどれぐらいGをもらえるんだ?」
「1体で300G、ドロップアイテムも換金すれば400Gだけど、4人で分配するから実質100Gか」
「……もしかして、妖精を仲間にして自分で作る方がいいんじゃ……」
「それも考えてたんだけどな、まだまだ仲間になってくれないんだよなあ」
「うむ、コウ殿のギルドのようにすんなりとはいかないようでな」
「んー……何か理由があるのかな。エファは分かる?」
ちょうどエファがいるので話を振ってみる。
あの時はレイの蜜だけだとばかり思ってたけど……。
「ボクはコウがたーっくさん遊んでくれたのと、アルラウネの蜜が欲しいからついていきたいなーって思っただけだよー」
「なるほど、確かに蜜はあげたけど遊んではなかったな」
「ふむ、試してみよう。エファ殿、助言感謝する。よければこちらを」
「わー、アルラウネの蜜だ! ありがとー! えーっと……」
「儂はタイガと申す」
「ありがとータイガおじちゃん!」
「おじちゃ……」
おじちゃんと呼ばれてしまったタイガさんが項垂れてしまう。
無邪気って怖い。
「じゃあボクからもこれ!」
「これは……フェアリーシロップ。エファ殿、良いのか?」
「うん! 次に来たときはこの蜜で作ったものもあげるねー」
「……コウ殿、後日また来てもよいかな?」
「ええ、もちろんです」
次に来た時にはおじちゃん呼びしないように言っておこう……。
「……さて、それではアルテミスの血溜まりの後始末をして帰るとしよう」
「あ、俺も手伝います」
その後、自分で後始末をしていたアルテミスさんに『KAWAIIハーレムを作るなんてずるいです! こんなの即死トラップと同等じゃないですか!』と言われてしまうのだが……。あの、スコールとブラウンはかわいいけど男の子ですよ……?
まあ、他の4人が女の子だからハーレムと言われるのも無理はないかもしれないが……。
**********
「そういえばエファ、ビーのハチミツやドリアードの樹液でもフェアリーシロップって作れるの?」
今までは花の蜜やアルラウネの蜜で作っていたものの、他のものでも作れないかエファに聞いてみる。
レイの蜜やアルラウネさんの蜜にも限界があるので、その辺を知っておけば増産もできるかなと思ったのだ。
「えっ、ビーのハチミツやドリアードの樹液もあるの!? もちろん作れるよ! 出して出してー!」
……ここでクイーンビーのハチミツやクイーンドリアードの蜜を出したら驚かれるだろうか。
とりあえずは普通にビーのハチミツを渡してみよう。
「わー、やったー! 早速ボクの家に持ち帰って……の前に、ちょーっとだけ食べていい……?」
「そうだなあ……実際に食べてみて分かることもあるだろうし、いいよ」
「やったーっ! コウは優しいから好きー!」
エファは手に掬ったビーのハチミツをペロリと舐めると、羽を羽ばたかせて喜ぶ。スコールの尻尾みたいだなあ……。
エファは小さいので、ビーのハチミツを食べてもあんまり減らないし、これだけ喜ばれるなら食事として出してもいいかもしれない。
そして、クイーンビーのハチミツやクイーンドリアードの樹液も食べさせてあげたいな。
今度出かけて二人を紹介しようかな。
「それじゃ今度ビーのハチミツを採りに行く時についてくる?」
「いいの? よーし、それなら頑張ってフェアリーシロップを作るよー!」
……果たして、上位種を見たらどれだけ驚いてくれるんだろうか……今から楽しみだ。
ちなみにビーのハチミツの場合、効果は『MP130回復』になるようだ。なるほど、ビーのハチミツを使えば、フィアの妖精たちの最高品質と同レベルになるのか……。
しかし、ハチミツも蜜を加工したものなのに、そこから更に加工できるのか……フェアリーシロップは奥が深いな……。
それにしても、こうやって知られてない知識を埋めていくのは楽しいな……あとで動画を作って共有しておこう。
**********
「ねーねー、今日はどこ行くのー?」
「今日はヴァノリモ大森林の中にある、ビーの巣だよ。そこでハチミツを採取するんだ」
「なるほどー。がんばろーね、ニア」
「ふぇ!」
今回はニアと一緒にでかけている。近くにドリアードの集落もあるし、久々にクイーンドリアードさんに会わせてあげたいというのがあるためだ。
……まあ、クイーンドリアードさんは的当てで不在にしている可能性が高いけど。
「あ、お義父さまですの!」
「ひぇっ! く、クイーンビー?! ……って、お義父さま……??」
「ええと、話すとちょっと長くなるんだけど……」
俺は今までの経緯をエファに話す。最初は驚いていたけど『コウならまあそうなるかあ』と言って納得してしまった。あれ? 俺、仲間にまでたらし扱いされてる???
「エファちゃんはワタクシのハチミツが欲しいんですの?」
「も、もちろんですの!」
あまりに動揺してしまったせいか、口調まで真似てしまうエファ。これはこれでかわいい。
「かわいい妹のためですの! ワタクシ張り切って作っちゃいますの!」
「あ、ありがとうですのお姉さま!」
「お義父さま、ワタクシ妹のためにがんばりますの! それではたーっくさん作ってきますの!」
そう言うとクイーンビーは急いで巣に戻っていった。
……さて、ビーのハチミツはどうしたものか。在庫はあるから、今日はクイーンドリアードさんに挨拶に行こうかな? それなら的当て会場の方に向かった方がいいかも。
「おお、コウか。久しぶりじゃのう」
「ご無沙汰しております。今日はクイーンドリアードさんにエファを紹介したくて……エファ?」
「ひぃぃ……クイーンドリアードまで知り合いなの……? コウって何者なの……」
「おーおー、縮こまっていると小さい身体が更に小さくなるのう。なに、取って食いはしないから安心せい」
「ひゃ、ひゃい……」
エファは借りてきた猫のようにおとなしくなっている。
……まあ、レベル3000超えの上位種だもんなあ……。一方でニアはいつも通りに接している。ペットモンスターになる前からの知り合いだもんな。
そうだ、ここはクイーンドリアードさんにひとついい印象を……。
「クイーンドリアードさん、これをどうぞ」
「これはなんじゃ?」
「エファが作ったフェアリーシロップです。とても甘いのでぜひ試してみてください」
「ふむ……」
クイーンドリアードさんはツタを使ってフェアリーシロップを掬い、ペロッと舐めとる。器用だなあ……。
ちなみにこれはアルラウネさんの蜜を使ったものなので、今作れる中では最上級のものだ。
「ふむ、エファよ。よい仕事をするではないか。気に入ったぞ」
「あ、ありがとうございましゅ……」
「のう、コウよ。これは何で作ったものなのじゃ?」
「そのフェアリーシロップはアルラウネの上位種の蜜が原料ですね」
「ふむ、あやつか……。コウよ、ワシが渡した樹液はまだ持っておるか?」
「もちろんです」
あまりにも貴重過ぎて使えなかったんだよなあ……全部そのままアイテムボックスに入っている。
樹液もだけど、枝もまだ手付かずなんだよね……。貴重過ぎて使えない。
「よし、エファよ。次はワシの樹液で作ってみぬか? 樹液はコウが持っておる」
「ひぇぇ……そ、そんな貴重なものを……」
「ん? いくらでも採れるから貴重ではないぞ? まあ、お主らからしたらそうなのかもしれぬが……。ということで、頼んだぞ」
「は、はい……!」
こうして、クイーンドリアードさんの樹液でフェアリーシロップを作ることになったエファ。
果たしてどんな効果のものができあがるのだろうか……今から期待で胸を膨らませるのだった。




