フェアリーシロップ
「コウさん、わたしたちも妖精が仲間になってくれました!」
「おめでとうございます! これで皆さんも妖精の里に入れるようになりますね」
とある日、ついに他のギルドメンバーたちも妖精を仲間にすることができたとの報告を聞いた。
これで妖精を仲間にする方法も確立できたし、動画で公開してもよさそうだ。
「ただ、一つ問題がありまして……」
「問題ですか?」
「はい、誰が動画をアップすればいいのかと思いまして……」
「あー……」
確かに動画での収益を得ることができるだろうし、初めての妖精を仲間にする方法の公開になるので、満額の50000Gは保証されているようなもの。
8人全員が一気にアップしたら視聴数が割れるかもしれないしなあ。難しいところだ。
「わたしとしてはコウさんにアップして頂いて、ギルドの資金にするのが良いと思うのですが」
「俺ですか? でも、動画を撮影したのは皆さんですし……」
「いえ、妖精に会う方法を発見したのはコウさんですし、皆納得してますよ」
うーん、アルラウネの蜜を利用する方法を提案したのは俺ではあるけど……。まあ、ケンカにならないのであれば俺がアップすることにしよう。
「分かりました、それでは後ほどアップしておきます」
「ありがとうございます! それではわたしたちはホームに妖精さんの寝床を造ってきますね!」
「あたしは服!」
「オレは装備を整えるかな」
ギルドメンバーは俺に動画を渡すと、妖精にいろいろと造るためにホームへと戻っていった。
みんな表情が生き生きしてたなあ。それだけ妖精が仲間になるのが楽しみだったのかな。
「……他のプレイヤーも待ってるだろうし、俺も動画の編集をして早くアップしよう」
その後、妖精の会い方、仲間の仕方など、項目ごとに分けてアップすると、早速多くのプレイヤーたちがフォーリア森林へと向かって行った。
運営はフェアリーサークルの取り合いが起きてしまうと思ったのか、フォーリア森林は一時的にダンジョンのようにパーティーごとに異なる空間へと飛ばされるようになったみたいだ。落ち着いてきたら元の仕様に戻るかな。
……しかし、対応がここまで早いってことは、運営にもこの動画チェックされてるんだなあ……。
そしてすぐに再生数は満額報酬の視聴数になり、ギルドの資金が潤うのだった。
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「ありがとうございます、コウさんのおかげで素敵な部屋が全員に造れました」
「気に入って頂ければ幸いです」
「ティタちゃーん! ティタちゃんの部屋は一番おっきい部屋ねー!」
「族長だもん、一番おっきい部屋が一番威厳ありそうだし!」
「あ、ありがとう……」
後日、俺たちは妖精の里、フィアに来て妖精全員分の部屋を造り終えた。
やはりそれぞれに好みがあるようで、一部屋一部屋拘った造りにしたので、結構な時間がかかってしまった。
でも、喜んでもらえるなら生産者冥利に尽きるなあ。
「それで、お部屋を造って頂いたお礼なのですが……」
「それはエファがついてきてくれるお礼ですので大丈夫ですよ」
「いえ、流石に全員分のアルラウネの上位種の蜜を頂いた後に、お部屋まで頂いてお礼もなしは私……いえ、私たちの気が済みませんので……」
うーん、確かに自分がティターニアさんの立場なら俺もそう思うだろうな。
それなら……。
「……分かりました、それではフェアリーシロップを頂くことは可能でしょうか?」
「え、ええと……? フェアリーシロップは貴重なものでもありませんが……それでよろしければいくらでもご用意しますので」
「いえ、俺にはフェアリーシロップが大量に必要になりますので、助かります」
「分かりました、それでは木の箱に詰めますので、少々お待ちください」
ティターニアさんは妖精たちを呼び集めると、それぞれの妖精が貯め込んでいるフェアリーシロップを箱に詰め込むように指示を出した。
なし崩し的に族長になったとはいえ、ちゃんと族長してるなあ……真面目なんだろうな。
そしてしばらくの後、俺はフェアリーシロップの入った箱を50個も渡される。
これで当分の間フェアリーシロップでの開発には困らないだろう。
「ありがとうございます、有効活用させて頂きますね」
「お役に立てれば幸いです。足りなくなったらいつでもいらしてくださいね」
「分かりました、重ねて御礼申し上げます」
……よし、これでフェアリーシロップでのアイテム開発に取り掛かれるぞ!
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「そういえば、説明文に気になることが書いてあったな……」
俺はフェアリーシロップの研究をする前に、それぞれの箱に入っているフェアリーシロップのアイテム説明文を表示する。
というのも、『採取した蜜によって効能が変化する』らしいので、全部が全部同じようには使えないはずなんだよね。
……そんなこんなで全てのフェアリーシロップを確認したところ、『MP100回復』『MP80回復』『MP130回復』『HPとMPが50ずつ回復』など、本当に効能が様々だ。
一番数があるのは『MP100回復』なので、まずはこれを使って研究していこう。
とりあえず考えられるのは、ビーのハチミツのようにマジックポーションの効果を上げるといったものだが……。それなら魔草と純水にフェアリーシロップを足して、マジックポーションを作ってみようかな。
ということで、魔草2つと純水をかき混ぜ、その後に隠し味としてフェアリーシロップを……と。
これを全体が均一になるようにしっかりかき混ぜて……。
……ん? なんだかマジックポーションの色がいつもより澄んでいるような……。
一応完成でいいのかな。ろ過しながらビンに詰めて……と。
【EXマジックポーション:ランクC、飲むとMPが200回復する。EXはエクストラの略。こんな素晴らしいマジックポーションを飲めるとは、あなたは特別な存在なのでしょう。でも量産できるから特別ではないかもしれない】
「……は?」
なんということでしょう、ハイマジックポーションをすっ飛ばしてその上のEXマジックポーションを!?
しかも回復量が尋常じゃなく高い。ハイマジックポーションの2倍とは……。
「と、とりあえず特許申請をして……と。…………あ」
そういえば申請したら材料や作り方が全体公開されるんだった。気が動転して忘れてた。
つまり、フェアリーシロップのことも公開されるわけで……。
「やらかしたな……」
掲示板を覗くと、やはりフェアリーシロップについての話題で賑わっていた。
どうやって手に入れるのかとか、これを大量に作れたらダンジョン攻略が楽になるとか。
……まあ、妖精を仲間にする動画は公開したし、仲間になってくれるまでの辛抱ということにしておこう。
「……さて、それでは他の効能でも同じように作れるか試してみよう」
俺は続けて『MP80回復』『MP130回復』『HPとMPが50ずつ回復』のフェアリーシロップの順に、確かめていくのだった。
結果としては、『MP80回復』だとランクDでMP170回復のEXマジックポーションができて、『MP130回復』だとランクBでMP250回復のEXマジックポーションができて、『HPとMPが50ずつ回復』の場合は作製に失敗する……だった。
それにしても、フェアリーシロップの種類によってここまで差が出るんだな……エファにいろいろな蜜を渡せば、狙ったフェアリーシロップが作れるようになるのだろうか?
……いやあ、新規アイテムでのものづくりって楽しいな……。
しかし、『HPとMPが50ずつ回復』のものはどうやって使えばいいんだろうか?
普通に飲んでもそれなりに強いはずなのだが……うまくすれば効果を底上げできるはずなんだよな。
ポーションとマジックポーションの合わせ技みたいなものなので、薬草+魔草+魔法水or純水に更に加えてみるか?
でも、『HPとMPが50ずつ回復』するフェアリーシロップの数自体が少ないから、まずは蜜によるフェアリーシロップの効能の差を研究してみようかな。狙ったものが作れるようになれば量産化もできるし。
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「おっはよー! 今日もたくさんフェアリーシロップができたよ!」
「ありがとう、それじゃあ早速もらっていくね」
俺は毎朝ちょっと早く起きて、フェアリーシロップを回収してから仕事に行くようになった。
どうやら前日に渡した蜜で作るようで、レイの蜜の場合は『MP100回復』になるようだ。
また、進化をしていないアルラウネの蜜をお店で買って試したところ、そちらは『MP80回復』になった。また、花の蜜でも同じように『MP80回復』、または『MP100回復』と、花によって違うようだ。
それなら『MP130回復』はどうやって作るんだろうか……今度行った時に妖精たちに確認してみるかな。
「そうだエファ、今度はアルラウネさん……アルラウネの上位種の蜜でフェアリーシロップを作ってみてくれない?」
「いいよー! ボクも進化した後だから食べる必要もないしね! ……うーん、おいしい……」
「つまみ食いしてる……」
「……はっ! だ、大丈夫、少し減ってもちゃんと作れるから……ね?」
「うん、それじゃあお願いするね」
まあ、つまみ食いしたくなる気持ちは分かる。
だって、アルラウネさんの蜜ってとても甘くて美味しいからね……想像したら涎が出てきた。
……ごほん。それでは一旦仕事に行ってこよう。
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次の日、エファからフェアリーシロップを受け取ると、即座にステータスを確認する。
【フェアリーシロップ:ランクB+、舐めるとMPが200回復する。上位種のアルラウネの蜜から作られたもので、回復効果が凄まじい。このまま使うのもいいが、更にこれに手を加えると……おっと、口が滑った。
ちなみに、アルラウネの蜜よりも更に甘みが強くなっているので、これだけで普通のお菓子よりも甘さ欲が満たされる。食べすぎ注意。ただし食べすぎるほど量が作れないので、食べすぎることはないだろう】
「……はー、まさかEXマジックポーションと同等のフェアリーシロップとか……」
100回復のフェアリーシロップですら200回復のEXマジックポーションになるんだ。単純に2倍以上の回復効果を持つEXマジックポーションが作れる可能性は高い。
早速これでEXマジックポーションを作りたい……のだが。
「きゅ……」「るー」「……がう」「らー!」「ふぇ!」
後ろで食べたそうに待っている5人がいる。
確かにエファからもらった時から、甘い匂いがあたりに漂ってたからなあ。
「……それじゃ、みんなで食べようか?」
甘みが凝縮されているためなのかレイの蜜で作る時よりも量が少ないので、みんなで食べたら開発に回せる量は残らないだろうなあ。
でも、みんなが笑顔になってくれるなら、これ以上のことはないかな。
「おいしさはボクが保証するからね!」
作ったエファが言うのなら相当な甘さなのだろう。
……ん? エファの口周りに何か付いているような……。
「エファ、もしかしてちょっとつまみ食いした?」
「ギクッ」
「……まあ、生産者特権と言うことで、今回は不問にします」
「あ、ありがとー……次からは誘惑に負けないように気を付けまーす……」
ま、島に渡ればある程度の量はもらえるので、今回は気にしないようにしよう。
……島といえば、タケルたちのトレントの島のダンジョン攻略はどうなってるんだろうか?
今度進捗を聞いてみようかな。EXマジックポーションもできたし、これでMP回復手段が増えて攻略の手助けになればいいんだけど。
そんなことを考えながら、ライアたちの幸せそうな顔を見て朝のひと時を過ごすのだった。




