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星の守り人  作者: quo


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絶望と終わり

ルナヴェールは高く夜空に舞い上がると空中に留まり、竜の巣を見ていた。マリエル達の戦いの隙を突いて、たまに竜の巣から出てくる黒い影を握りつぶしながら。


「三本の剣は成った。意外だ。」


ルナヴェールは足元で戦う三人を見降ろしながらつぶやいた。

彼女が創った湖が竜の巣になってから、人の記憶を作り生命の流れに託して放流した。一度目は自ら竜を討ったが、人間に過剰に関与することが無いようにと、人間の力で竜を討つ事が出来るように仕向けていた。


初めて記憶を分った三人の人間の子が地上に生まれ出た時、その子らを導き、力を与えて竜を討たせた。二度目、三度目も、竜の顕現の兆候に合わせて記憶を持った子らを導いた。しかし、マリエル達は自然に集まった。ルナヴェールが関与することなく。そして、竜の顕現の兆候に先んじて生まれ落ちた。


星が自らを守るために、地上に生まれるようにしたのか。だとしたら、星は記憶を集め、そこから自己修復のために、命あるものを生み出す。自らが使命を与えて導く。もしかすると、すでに存在している者に記憶と力を与え、竜を討つ者としての使命を課す。総じて免疫機能のように。

そこまで考えると、ルナヴェールは顔を上げて言った。


「星は自我を強めた。我が居なくとも星が導く。」

「星が害ある者とみなせば、我とて立ちどころに消し飛ぶだろう。」


言い終えると振り向く。そこには、ルナヴェールと同じく空中に留まる、錫杖を持った女がいた。あの人狼との戦いにいた女。


「悪いが、ここはお前の縄張りではない。手出しはするな。」

「傍観は許してやる。それに、その錫杖だが気に食わん。」

「古き友の物だ。どうやって手にいれたのかは知らんが、もとの場所に返してこい。」


ルナヴェールは、錫杖の女の()()()()にいる者に言った。錫杖の女は無視されたのが気に食わないのか、錫杖をルナヴェールへ向けた。苦々しい口調でルナヴェールに言い放った。


「言葉を慎め。この古いだけの存在め。」

「主は新たに地上に生まれ出た。そして、私が最初に祝福を受けた者だ。」


そう言い終わるな否や、女は錫杖を振り上げ鳴らした。途端に錫杖に黒い渦が巻き起こると、それを竜にめがけて振り下ろした。黒い渦は竜の頭上に降り、その体に吸い込まれていった。



「一体何なんだ!」


セフィルが叫んだ。さっきまで切り刻んで、あと少しと言うところまで追いつめた竜が、その傷を瞬時に修復し、更に巨大になりつつあった。セフィルの振るう剣の速さが追いつかない。

ヴェルシダも異変に気付く。たまに足元に流れ澱んでいた黒い影が実体を持ち始めている。はじめは足を絡めとるように。そして、次第に蛇の形になり、澱みから飛び上がりヴェルシダに襲いかかる。


「うざったいんだよ!」


左手のナイフで蛇に斬りかかるが、斬っても澱みに入れば再生して襲ってくる。後ろを振り返ると、マリエルは静かに目を閉じて立っている。何かをしようとしているのだろうか。ヴェルシダは、ならばマリエルの邪魔はさせじと、ナイフを振るう。無いよりマシと持った魔法の剣を振るって蛇を切ると、意外にも手ごたえがあった。見れば蛇は澱みに戻っても切れたままだ。


「使えるじゃないか!」


ヴェルシダは、襲いかかる蛇たちを相手に振い続けた。


マリエルは竜が変化したときに、生命の流れの大きな憎しみと憎悪を感じた。

初めて竜の存在を感じた時、竜の存在は竜の巣である命の湖に流れ込んだ澱が形を得たものと感じた。長い長い年月の中、全ての生命が持つ暗く寂しく、怒りや悲しみが、一気にマリエルの中に流れ込んだ。はじめは苦しかったが、ゆっくりと流れ込んだ「闇」と言えるものと対話すると、それが、少しずつ溜まって行ったものだと分かった。記憶の村で聞いた竜を討った三組は、定期的に溜まりゆく澱を清める存在だった。そして今はマリエル達が竜を討とうとしている。それは、清めの儀式のようなものだ。

そして今、竜に新たな「闇」が注ぎ込まれた。それは、恐ろしく多くの命ある者から絞り出された、濃厚な絶望だった。


竜が悲しんでいる。


緩やかに形作られた竜は、誰かによって作り出された「闇」によって、別の者に変化しようとしている。マリエルが竜の変化を目の当たりにしていると、誰かが頭の中でささやいた。


「助けて。」


それは、竜から言葉だと感じた。人が持つ「光」と「闇」。生命の湖と、その底に溜まりゆく澱みの浄化の繰り返し。それが今、誰かの手によって捻じ曲げられようとしている。


助けてあげる。


マリエルは魔法の短剣を前にかざすと、ルナヴェールに教わった様に心と意識を生命の流れの中に沈めめる。あの時にはルナヴェールが居た。だから安心出来た。今は、ヴェルシダとセフィルが守ってくれる。マリエルは、さらに心を静かにして、深く深く生命の流れの中に身を沈めていった。

マリエルが沈んだ先に竜の意識を感じた。それは、誰かに注ぎ込まれた絶望に悶える竜の意識。


「苦しい。」


竜は言った。そして語りかける。


「我はあらゆる生命の原初の一つ。」

「何者か。星の外から”絶望”を我に注ぎ込んだ。何者か。」

「”絶望”に食われてしまう。嗚呼。全てに”絶望”する。巡りゆく生命と記憶。生の喜び。死の悲しみ。」

「全ては流転し、全ての記憶が溶け込み、新たな記憶を持ち新しい生を受ける。それが断ち切られる。」

「全てが”絶望”に包まれ、終わってしまう。死ではない。終わりが来てしまう。」


竜の意識は急速に小さくなってゆく。そして、マリエルの意識にも”絶望”が忍び込む。それは、全ての生命が滅びゆく姿。

マリエルの意識の中に、ある景色が広がってゆく。天中にある大きな輝く星が光を失ってゆく。そして、それは、ただの冷たい岩になってしまう。

マリエルは、これが”絶望”だと感じた。竜の意識は、さらに小さくなり消え入りそうになる。マリエルは”絶望”に言い放った。


「セフィルが戦ってくれる!ヴェルシダが守ってくれる!私は貴方を打ち払います!」

「生命と記憶。喜びと悲しみ。そして怒り。全てが流転する終わりのない世界の為に!」


マリエルはもっている短剣を握り締めた。短剣は刻み込まれた魔法の文字の全てから光を放った。マリエルは目を見開くと短剣に意識を集中した。彼女の目には、はっきりと生命の流れと、絶望に蝕まれる竜の姿が見えた。短剣に生命の流れが纏わりつくと、渦を成した。マリエルは短剣を振り上げ竜に向けて振り抜いた。



ルナヴェールは宙を留まったまま、竜が清められ、錫杖の女が注ぎ込んだ闇が消えてゆくのを唖然として見ていた。光が吹きあがる。ルナヴェールの漆黒の髪は光の中に舞い、白磁のような肌が、より一層、美しく光り輝く。


「マリエル。星の子となったのか。」


錫杖の女は、放たれる光に耐えかねて逃げ去った。ルナヴェールは、追う事もなく足元の光景を見つめていた。

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