昔話
一人の女性の物語
彼女はそう言った。竜の話を聞きに来たはずなのに。マリエルは不思議に思った。ヴェルシダとセフィルも、そう思っている様だ。しかし、疑問を口にすることを許さないかのように、彼女は凛とした声で話を続けた。
「千年以上昔。私たちが言う”神代”の昔の出来事でした。」
「その時代には、今とは違う魔法体系。魔法とも呼べない”力”が世界を覆っていました。人々はその恩恵を受けて、長い寿命と、食べる事さえせずにいられる精気を蓄えて繁栄を極めていました。その力は”星”から無尽蔵に取り出すことが出来ましたが、取り出すことが出来る者は限られていました。幾度もの争いの末、三人の管理者が平等に”力”を世界に供給する事で、安定した平和な世界を築き上げたました。
その中の一人の女性は”力”の制御を研究し、”力”から人を解放する事を主張していました。それは、他の二人に脅威を抱かせるに十分な考えだったのです。
彼女は自分の主張を証明するために、一時的に自らを”力”から分離して”星”を俯瞰し対話する事に成功しました。そして、”力”を正体を見ました。二人にその事を告げると、証明すると言って、この地に”力”の湖を創る事に成功しました。これまでの供給から力の蓄積と分離という概念を創りました。しかし、対話は成功しませんでした。
時は流れ、神代の時代が終わりに近づきました。その混乱の中で、湖の”力”は渦を作り、一つの”星”になろうとしていました。今までの”星”が望んだ事です。しかし、彼女が創った湖に恐慌した人々が殺到しました。彼女は人々を薙ぎ払い、湖を封印しました。湖には、その時に薙ぎ払った人々の、彼女への恐怖が入り込んでしまっていました。彼女は力を失いつつあり、それを取り除くことが出来ませんでした。
マリエル達は唖然として聞いていた。神代の時代は、神が人々を作り上げた時代で、神が神界に登って人の時代が訪れた頃の話だった。彼女の話ではそれ以前に人がいて、魔法以上の力を持って生活していたことになる。しかも、神の話だど全く出てこない。マリエルはルナヴェールに本当かどうか聞こうとしたが、彼女は静かに目を閉じて話を聞いている。マリエルも何も言わずに話を聞くことにした。
「彼女が湖を封印したのち、人々の恐怖は”力”の中で成長して形を成し、人々の恐怖の姿を顕現しました。神代の時代が終わり、人々がこの世の生活を営むことが出来るようになって間もない頃です。人々は、それを”竜”と名付けました。竜は人々の恐怖を吸い上げ、増々、強く狂暴になって人々を襲います。そして、そこに現れたのは湖を創った主である女性です。彼女は力は大きくそがれていましたが、”力”を操る能力を身に着けていました。彼女は竜の中にあった、恐怖や畏怖、怒りを洗い流し、去っていきました。そして、人々に後世に語り継ぐことを命じました。」
「竜が目覚めるときには、力がある者を向かわせる。記憶を貯める力をくれてやる。」
「その者達に記憶を告げよ。竜を封印して帰る事が出来る。」
「そう言って、私達に記録の石から記憶として呼び出す力を与えました。彼女は竜の巣で竜を封印した後、三重の結界を張りました。それぞれに剣の形を与えました。一本目に恐怖を打ち払う力。二本目に人々を守る力。三本目に命の流れを操る力。」
「これで、記録は全てです。ここに訪れた方々の全員に、この記憶をお伝えしました。」
「三組十人の方々は帰ってきました。」
ヴェルシダが話を聞き終えると、面倒臭そうに言った。
「長い話だな。要は竜の巣で三本の剣とやらで封印しなおせばいいんだろ。」
「仕掛けが出来ているなら簡単じゃないか。さっさと終わらせよう。」
セフィルは、何か考えていたようだったが、ヴェルシダと同じく剣があるなら、事は容易だと言った。
マリエルもそう思ったが、少し気になった事があった。それは、はじめに竜を討ったとされる一人目だ。その人が竜を封印する剣を作った人なのだろうか。話は、その人を飛び抜かして、次の三組の人々の話になっている。マリエルは聞いてみた。
「竜を討った初めの一人の話は無いんですか?」
ヴェルシダとセフィルがマリエルを見る。確かに聞いていない。しかし、ヴェルシダは聞くほどの事ではないと言い、立ち上がった。セフィルも一緒で興味は無さそうだった。
「初めの一人が湖を作り、そこから顕現した竜を封印しました。」
彼女は言った。だとしたら、神代の時代の終わりから原初の時代まで生きていたことになる。マリエルは、その女性の事が気になって聞こうとしたがルナヴェールも立ち上がって部屋を出ようとしたので、その機を失った。そして、話をしてくれた彼女はマリエル達に言った。
「皆さんは一度、来ていますから大丈夫ですよ。」
マリエルは、何の事だかよく分からないまま部屋を出た。




