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星の守り人  作者: quo


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竜の巣

ベルシダは目を覚ますと、隣のベッドに寝ているマリエルの顔を覗き込んだ。とても穏やかだ。昨日から様子がおかしかった。いつも明るいマリエル。それが、全ての悲しみを憂うような存在になった。ルナヴェールが心配していた事が起きたのだろうか。体に力が流れ過ぎて、違うマリエルになってしまったのだろうか。

ヴェルシダがマリエルを見つめていると、彼女は目を覚ました。そして、寝ぼけた目でヴェルシダに言った。


「ここは何処?」


ヴェルシダはいつものマリエルの表情をみて安心したが、記憶が無くなっているのではないかと思った。人は心に強い恐怖を打ちこまれると記憶を閉じると言う。母が戦場で経験した話だ。新兵が初陣から帰って、意識がもぬけの殻のようになる事がある。母親のイヴァは、意識は戦場に慣れ強くできても、心はそうできないと言っていたのを思い出した。

ヴェルシダが何も答えられずにいると、マリエルは起き上がって周りを見た。そして、ため息をついて「そうだった」とつぶやいた。


「サラさんは大丈夫かな。逃がしてくれたけど。」

「でも、みんなに怪我が無くて良かった。」


いつものマリエルの様だが、なにか記憶が曖昧の様だ。この宿に着いたときに、サラが死んでしまったような予言めいた言葉を発していた。やはり、様子がおかしいと思っていると、部屋の扉がノックされた。開けると給仕が立っている。食事を部屋に間もなく持ってくるそうだ。それまでに、身支度を整えてはいかかでしょうかと言うと、風呂が沸いていると案内された。辺鄙な街の宿には不釣り合いだと思ったが、それを聞いたマリエルは、すぐに風呂に入りたいと支度を始めた。いつものマリエルのように見える。


マリエルがヴェルシダに一緒に入らないかと誘ってきたが、遠慮すると言った。出来るだけ人間との接触は避けたい。マリエルは、察してか一人で風呂に向かった。ヴェルシダがマリエルの様子を見る為に、宿に長くいた方が良いと考えていると、背後に気配を感じた。振り向くと窓を背にルナヴェールが立っている。


「記憶を曖昧にしている。あの夜の話は話題にするな。関係する事は、話を合わせてやれ。」

「肉体はとても親和性がある。問題は心だ。優しすぎて壊れやすい。」

「私がいる限り、心が壊れるようなことは無い。」


ヴェルシダはルナヴェールの言葉を聞いて安堵した。そして、マリエルの今後についてルナヴェールの考えを聞いた。ヴェルシダとしては出来ればあの森の屋敷に戻してやり、寂しいだろうが穏やかに暮らしてもらいたい。


「親和性が良いと言う事は、向こうの方から流れ込んでくる事があると言う事だ。」

「それは、避難したいとき。安らぎを求めたいとき。」

「私には、マリエルがどうしてそんな存在なのか分からない。」

「残念だが、私の屋敷には強い生命の流れを拒む力はない。出来るのは深い眠りにつかせるゆりかごになるくらいだ。」


前にも聞いたことだ。眠らせたら起こせる方法がない。しかし、原因が分かれば元のマリエルに戻って、故郷に帰ることが出来る。それが出来るのはルナヴェールだけだ。あの魔女に付いて行く他ない。

ヴェルシダがルナヴェールを見ていると、目線を扉に向けた。セフィルがドアをノックしてきた。間の悪い男だと思っていると、早めに宿を出たいと言い出した。表情は硬い。何かあったのだろうか。


「マリエルが風呂に入っている。朝飯はまだだ。昼からでいいか?」

「そうだ。サラとの事は話題にするなよ。疲れて頭が回ってないんだ。」


ヴェルシダが言うと、セフィルは分かったと言った。そして、折角だからと言って、朝食を三人で取ろうと言った。

ヴェルシダは思った。


うっとうしい奴だ。女の部屋でずけずけと食事をしたいなどと。それに、マリエルが湯上りで帰ってくるのに。


呆れた顔をしてセフィルを見ているヴェルシダに、セフィルは屈託のない笑みで答えた。ヴェルシダは朝からどっと疲れてしまった。

ルナヴェールは三人が揃ったら話しておきたい事があると言った。ヴェルシダは朝食をとったら、セフィルの所に行くと言ってセフィルを追い払った。


マリエルが風呂から戻ってくると、食事が運ばれてきた。上質な肉と魚、果物、野菜の料理だ。パンは焼きたてで柔らかい。バターが付いている。豪勢な朝食だ。マリエルは喜んでいるが、ヴェルシダはバンとバター。果物しか受け付けられない。食べられない事はないが、無理して食べる必要はない。

セフィルといい、食事といい。ベルシダは故郷が懐かしくなった。


食事が終わると、お茶が運ばれてきた。高級な宿だ。一体、どんな客層を狙っているのか。奴隷の話と関係があるのか。

給仕が片付けに来た後、マリエルとヴェルシダはセフィルの部屋に集まった。それぞれが椅子に腰かけた。マリエルの膝に黒猫が飛び乗る。


「単刀直入に言う。僕は国に帰る。ナギルナ王国だ。」


ナギルナ連合国の中央国だ。ナギルナそのものと言っていい。ヴェルシダはいぶかしがった。聖王都の勢力圏に中央国の人間がいるのか。国境を接する衛星国なら別だが。


「昨日の夜。知り合いと会って話を聞いた。この街に奴隷取引の市が作られる。」

「ナギルナが、このことについて何を考えているか知りたい。」


ヴェルシダは、セフィルにナギルナが一緒に奴隷取引に参加するならどうすると聞いた。すると、セフィルは一度も見せたこともない悲し気な顔で言った。


「国王に直訴してやめさせる。」

「国には無関心でいてもらいたい。戦争を起こそうとしている勢力があるんじゃないかと思っている」


セフィルの言い方は、まるで国を統べる者のような言い方だ。

この男はナギルナの平民ではない。少なくとも侯爵の子弟だろう。ヴェルシダはそう思った。確かに奴隷制度が復活すれば、人狩りが闇で行われるだろう。しかし、自国の領民を狙えば官憲に捕まる。しかし、他国の領民ならどうだろうか。戦争の火種を撒いて回る行為だ。ヴェルシダの領地も心配だ。他の領主と協力して、よからぬ者の侵入を警戒する。その動きを戦争準備としてとらえられるかもしれない。


考え込んでいる三人に黒猫が言った。


「奴隷の話には興味はない。しかし、ここは早めに引き払った方が良い。」

「眠っている魔獣の類が起き始めている。」

「近くではないが竜の巣があるようだ。まだ、完全に起きてはいない。」

「飛び立てば、一番近く人が多いのはこの一帯だ。」


ヴェルシダとマリエルはグード族の話を思い出した。恐らく話にあった竜の事だろう。


「連中は人が集まる場所に引き寄せられる。遅かれ早かれここに来るだろ。」


マリエルは黒猫に竜を退治してほしいと言った。ここ一帯の人々を守りたいと。それを聞いたヴェルシダは止めた。正直に言って人間が竜に襲われる事など興味はない。それよりも奴隷制度の事が重要だ。もしも、セフィルがナギルナの考えを知る立場であれば、国に知らせたい。最悪、ナギルナと聖王国の二国と戦争に陥るかもしれない。


セフィルは黒猫に竜の巣の場所を聞いた。黒猫は正確ではないとしながらも場所を言った。地名や地図があるわけではないが、聞く限りではザルカス付近ではないかと考えられた。ナギルナと聖王都と隣接する国。山岳が多く裕福な国ではないが駐留兵がいる。もし、竜に襲われれば聖王都の兵がザルカスに進攻しかねない。


「マリエル。力を貸してくれないか。竜を討伐したい。」


マリエルは強くうなづいた。ヴェルシダはマリエルさえ説得すれば、自動的にルナヴェールがつい来ると思っているセフィルに飽きれた。ヴェルシダも、仕方なくついて行くと言ったが、途中でグード族に知らせてやろうと思った。きっと喜ぶだろう。自分たちの出番はないはずだ。ただ、黒猫が波も言わないのが気になってしょうがなかった。


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