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星の守り人  作者: quo


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それぞれの思い

マリエルは目を見開きセルマンを見た。声が出ない。セルマンは続けた。


「森の民、山の民。遺跡の調査と称して人さらいをしている。邪魔をするなら村ごと焼き払う。」

「皆が力を合わせて人の世界をかき乱せばいい。」

「ここから北へ行った街には奴隷商が復活した。焼いた村の人間を労働力に使うためだ。」

「エストラード伯爵領の街だ。王の特別な許可で復活させた。あの王が禁止させたのにだ。」


奴隷制度は聖王国国王が即位して廃止になった。当時の貴族の反対はあったが強行した。国王を支持する民衆が多いのは、彼の施策が先進的だったからだ。魔族への積極的な攻撃を止め、事実上の休戦状態を生み出したのも国王だ。しかし、それだけに敵が多い。その敵が表立って動けなくしているのが、やはり民衆の指示だ。


さらにセルマンがマリエルに畳掛けようとした時、サラが止めた。マリエルには関係が無いと。しかし、セルマンが、まだ口を開けようと瞬間。サラが立ち上がると同時に爪がセルマンの首を引き裂こうとした。寸でのところで躱したセルマンのわき腹に、テーブルを砕きサラのお膝が入った。壁に打ち付けられたセルマンは見下ろすサラをみいて震えている。


「私が黙れと言ったら黙れ。」

「用事は他であたれ。ここへは来るな。他の者にも言っておけ。」


サラの声は人のそれではなかった。低く呻るような獣の声。セルマンはわき腹を押さえながら言った。


「姉さんは人間と近くに居過ぎた。人狼の誇りを、そして、人間たちが俺たちにやったことを忘れたのか。」

「俺たちは、姉さん抜きでも出来る。その力があるんだ。これからは、もっと容易く人間同士を争わせることが出来る。」


添いう言うと、セルマンは逃げるように店を出て行った。後には割れた食器と真ん中から砕けたテーブルが残った。サラはマリエルに振り向かずに散らばった食器の破片を片付け始めた。そして、優しい声で話し始めた。


「本当は逃げ延びた仲間と、どこか遠くでひっそりと暮らそうとしていたの。」

「でも、仲間の一人が小さな町でいざこざに巻き込まれた。私たちは逃げたけど、人間たちは勝手に争いを始めたわ。死人まで出した。」

「それを真似て、他の町でもやったら上手くいった。正直、楽しかった。人間同士が憎しみあって傷つけあうのが。」

「でも、ここで酒場を開いて沢山の人と出会った。悪い人間ばかりじゃない。それに、虐げられても人を憎まず、助け合う事を忘れない人間もいる。」

「もう、こんな事はやりたくない。みんな、おかしくなったんだ。」


サラは振り向くと、マリエルに森の部族の話を始めた。それは、奴隷商から直接聞いた話ではない。森や山の部族は点在しているから、必ずしもマリエルの故郷の事ではないと。


「何をやってもあなた達に邪魔されるのは分かっている。何もしなくても、議会対立は収まらない。手遅れなのよ。」

「悪いことは言わない。故郷に帰りなさい。」


マリエルは何も言わずに酒場から走って出て行った。息が続く限り走った。心臓が張り裂けそうだ。人にぶつかっても走る事を止めなかった。足がもつれて倒れても立ち上がって走った。何処をどう走ってきたのか分からない。疲れ切ったマリエルはその場に座り込んだ。


故郷の事。人狼たちの事。醜悪な人間たちの事。頭の中がごちゃ混ぜになって、頭が痛い。割れそうに痛い。行き交う人々は、マリエルを見るが何もせずに通り過ぎてゆく。やっと立ち上がって、通行人に銅像のある広場への道を聞いて、よたよたと歩き始めた。


広場ではヴェルシダとセフィルが待っていた。マリエルが来ない。何かあったのだろうか。セフィルは心配でしょうが無かったが、ヴェルシダは呑気にくつろいでいる。セフィルが耐えかねて宿に向かうと言うと、遠くにマリエルの姿が見えた。マリエルは足元がおぼつかず、今に倒れそうだ。セフィルが手を差し伸べようとした時、ヴェルシダがセフィルをはねのけて、倒れかけたマリエルを抱きかかえた。


あの魔女め。一体、何をしていたんだ。


ヴェルシダはマリエルを背中におうと、セフィルに家に連れ帰ると言った。



マリエルを家に連れて帰ると寝かせて水を飲ませた。落ち着いたようだがヴェルシダの手を握って放さない。ヴェルシダは、こんな時にどうすればいいのか分からない。魔女がいるからと一人で行かせたのが悔やまれる。自分が一緒に付いて行けばよかった。

辺りも暗くなり、セフィルがランプを持って来た。セフィルはヴェルシダとマリエルと付き合いは長くない。彼女たちにかける言葉が見当たらない。

セフィルが部屋を出ようとした時、マリエルが起き上がった。まだ、疲れた様子だったが、二人に話し出したいと言った。


マリエルは居間に集まった二人に、今日あった出来事を話した。サラとセルマンと言う人狼の姉弟。彼らの生い立ちと計画。そして、奴隷商と自分の故郷の事。それをヴェルシダとセフィルは黙って聞いていた。ヴェルシダは天井を仰ぎ見ると、


「この街からでる。前金は要らない。お嬢ちゃんには誘拐に用心しろって言って出て行く。」

「マリエルはどうだ?私は北の街の奴隷商を捕まえて、お前の森の事を聞きに行きたい。一緒に来るだろう。」


セフィルは同意見だと言った。


「こんなにも事態が動いたなんて分からなかった。少なくとも人狼を六人も相手には出来ない。」

「それに、サラさんが言ったように、どう転んでも、この街に混乱が生じる。大なり小なりね。」

「誘拐は事態を早めたいだけだ。それだけ混乱が大きくなる。エリスを安全な土地に移して、グレン商会はたたむ。あそこは大きいから、どこか大きな支店に本店を移せばいい。」

「来月には会議で結論が出る。結論は出ているも同然だ。グレン商会が出て行くことで、混乱は起こるだろうが、比較的に穏やかだろうね。」


そう言ったセフィルだが、人狼たちがいる以上、あらゆる手段で軍隊と民衆を対立させる策を講じる事は分かっていた。止める方法は人狼の排除しかない。それよりも、ヴェルシダの言う通り、マリエルの故郷の事が心配だ。そして、奴隷商が復活したなら聖王国の庇護下の国や街、周辺国への影響は計り知れない。悪くすれば国が奴隷制度を復活させ、それに反対する国と争いが起きる。そして、一番の問題は難民だ。そもそも、国王はこれを解決する方法の一つとして、奴隷制度を廃止したのだ。


マリエルは二人の話を聞いたうえで言った。サラ達を止める事は出来ないかと。


「サラさんは、もう辞めたいって言っていました。サラさんが協力してくれれば、他の方々も言う事を聞くかもしれません。」

「もう一度、サラさんと話して、どこか遠くに逃げるように説得できませんか?」


二人は無理だと思った。人狼たちの決意は固い。皆殺しにするしかないが、かなう相手ではない。


三人が結論を得ないままでいると、入り口をノックする者がいる。ヴェルシダが構えてセフィルが慎重にドアに近づく。誰だど誰何すると、サラと名乗った。二人は顔を見合した。罠だろうか。

セフィルが扉を開けると、そこにはフードを被った女がいた。フードを取ると赤く長い髪が流れるようにローブを伝う。


「すこし時間はあるかしら?」


二人は身動きが取れないままでいた。

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