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星の守り人  作者: quo


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人の業

セルマンは酒場に向かっていた。水路を使って移動していたら人間と魔族に出会った。追って確認した魔法使い。グレン商会が雇ったと言われる者と、特徴が一致する。ようやくグレン商会が動き出すのか。娘を誘拐しようと思っていたが手が省けた。魔族の女はいい材料だ。聖王都の人間とマルス商会との取引の現場に導けば、暴れまわるだろう。

グレン商会は魔族とつながりがある。これで議会は瓦解。軍も進駐する理由が出来る。後は、軍と市民に対立が起きればいい。今度は、対立の種を蒔いて煽ってやる。


セルマンが酒場に着くと、中からいい匂いがする。人間の匂いも混ざっている。開店には、まだ時間があるはずだ。サラの匂いに緊張感はない。一体、なにが起きているのか。慎重に中を覗くと、サラがテーブルに突っ伏している。隣では、あの魔法使いの娘がシチューを食べている。

セルマンには状況が分からなかったが、サラは怪我をしている様子はなく、魔法使いの娘に敵意が無かったので、店に入ることにした。


「お邪魔しています。マリエルと言います。」


サラは眉間を押さえている。この娘は知っている。水路から人間の男と魔族の女を追っていった先の家にいた。やはり、邪魔をしに来たのかと思ったが、状況が複雑すぎて飲み込めない。サラに視線を向けると説明を始めた。


「この酒場を見張るつもりで、目の前の宿を取りに来たみたい。」

「ばればれだから捕まえようと思ってんだけど、どうやら”魂の契約”をしているみたい。」

「絶対、敵わない存在と。」


”魂の契約”。天使や悪魔、魔人、精霊で人間と意思疎通できる存在と契約して、この世に彼らの力を発現させる。主に魂と引き換えに契約するから、余程、力に飢えていないと契約しようとは思わない。そして、開いて側も魂を選ぶ。しかし、稀に生まれたころから彼らと魂が癒着している場合がある。魂を食われて廃人になるが、目の前の娘は、極く普通に生きている。


サラに、どんな存在と契約しているのかと聞くと、部屋の隅を指して「自分で聞いてみて。」とい言ってうなだれた。そこには、一匹の黒猫が座って、こちらを見ている。そして、マリエルと言う娘は食べる事を止めない。


「黒猫よ。お前の名はなんだ。」


セルマンが黒猫に聞くと、黒猫は溜め息をついた。


「駄犬に名乗る名はない。」

「私はこの娘と契約はしていない。友を傷つける者を握りつぶすのに躊躇する者がいようものか。」

「そのくらいは獣でも分かるだろう。」


セルマンは人狼だ。人の言葉を解し、精霊の声を聞くことが出来る。黒猫が口を開いた瞬間に、空間に満ちる精霊たちの声が止んだことに恐怖を感じた。サラも同じ感覚を味わっていなのか顔色が悪い。しかし、誇り高い狼の魂と人の知性を持つ自分が、安易に恐れおののくと思っているのか。

セルマンは剣を抜こうとしたが抜けない。力を入れると、根元から錆びて朽ち果てた棒が出てきた。これが、あの娘を友と呼ぶ存在の力なのか。


仕方なくセルマンはサラと同じ席ついた。シチューを食べ終わたマリエルが質問してきた。


「セルマンさん達は狼の獣人だと聞きました。なんで、商会同士の争いに油を注ぐようなことをするのですか?」


「知れたことだ。議会が混乱すれば軍がそれを口実に街に駐留する。そして、軍への反発からゲリラが生まれる。軍人とゲリラと一般人が、憎しみと憎悪の中で苦しみ続ける。」

「近いうちにエルドナーラから人は離れ、ただの村になるだろう。同時に聖王国の力も削がれるだろう。」

「それが、我々の目的だ。」


セルマンか語る中、サラは俯いている。マリエルには、セルマンが何を言っているのか分からなかった。彼らに得るものが無いからだ。マリエルがその事をセルマンに聞くと自分たちの事を語り始めた。


セルマンは自分たちの事を語り始めた。サラはセルマンの姉で姉弟だ。家族で辺境の村で暮らしていた。獣人。特に人狼の中でも間と混血を進めた一派だ。獣人は人との共生の為に人と交わることにした「混ざり者」と、あくまでも獣人として生き抜く「純血」とで分かれて住んでいた。サラとセルマンの村は、近隣の人間の村と友好関係にあった。「純血」を謳う獣人は「混ざり者」を軽蔑していたが、「混ざり者」と人間に手を出すことは無かった。彼らは、その血統にだけにしか興味がなかった。


ある日、聖王都の軍隊が人間の村へやってきて、遺跡の発掘をするので手伝えと命令した。それは、労働を隠れ蓑にした人さらいだった。魔法の適性が分かると、大人と子供の区別なくどこかに連れ去られていった。隠れ村の人狼達は村人を救出し、村を捨てて逃げる事にした。


準備をしていると、軍が村に攻め込んできた。完全な奇襲だった。魔法使いが周到に準備して、彼らの目と鼻と耳を麻痺させた。混乱した人狼たちは軍に捕らえられた。子供だったサラ達は聖王都に連れていかれた。大人たちがどうなったか分からない。サラ達は遠い道のりを満足な食べ物も与えられず、聖王都につれていかれた。その道程は苦しく、病気や飢えとの戦いだった。


聖王都では国王エドリアンと大司教カイルムに忠誠を誓わされ、兵として訓練を受けた。それは人間よりも過酷だった。人狼である力を利用した、精鋭部隊を作るのが目的だった。それでも命があるのがマシだと考えていた。人間の兵士たちも貧しさゆえに、仕方なく兵になった者が大半だった。次第にサラ達は人間と打ち解けた。


もう、人間の兵として人狼であることを忘れかけていた頃、訓練の終わりに酒を酌み交わしていた人間の兵士から聞いた話に驚愕した。隠れ村の場所を教えたのは人間の村人だと。村には報奨金が出たそうだ。


セルマンは、その場に居合わせた人間の兵士に牙を剥き、サラと仲間たちと脱走した。人狼に人間の兵がかなうはずもなかったが、唯一、大司教カイルムと、直接指揮する魔法使いには歯が立たなかった。仲間は半分以下になった。セルマン達は生き残った仲間と人に紛れ地下にもぐった。


セルマンは自分たちの辿った人生を語り終えると、マリエルの質問に答えた。それは、人間同士が常に争い合う、救われない世界を作る事だと。


サラは目を閉じている。セルマンには憎しみと狂気で顔がゆがんでいる。たった数人で人間を襲っても人間はその(ごう)に気付かない。それならば、この世を人の業で満たせばいい。セルマンは、それが目的だと言った。


マリエルは、それでも、そんな悲しい復讐より全てを忘れてどこかで暮らしてもらいたいとセルマンを説得しようとしたが、彼は聞く耳を持たない。マリエルがうつむいていると、セルマンが計画に参加しろと言った。


「森の部族も、森ごと焼かれた。俺たちと同じじゃないか。」


マリエルは言葉を失った。

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