遺跡
マリエルの話が終わると、魔女が遺跡の話を聞きたいと言い出した。マリエルは住んでいた森の奥深くに近づく事が許されない場所があると言った。昔からの話で、子供たちは大人から悪魔が住んでいると聞いて育つ。大人でも実際に森の奥にはいかない。行かなくても森の恵みは得られるからだ。
調査団はそこに行ったらしいが、マリエルは途中で王都に連れて行かれたのでその後は知らないと言った。魔女は棚から紙と筆ペンを取り出すと、住んでいた森の場所を書かせた。マリエルは地図を書くと魔女はそれを取り上げてみると、ため息をついた。
マリエルは魔女のその姿を見ながら、調査が進む遺跡に何かがあると思い魔女に遺跡は何なのか聞いた。すると魔女はマリエルに世界の歴史について話すように言った。マリエルは教書に出てくる歴史について話をした。
世界は神が創造して下僕として人間よを作った。人間は神の言葉が分からなかったので言葉を与えた。神はそれを正確に発する者が神官として神の力の一部を使う事を許した。一方で言葉を解さない者達に悪魔が嘘の言葉を吹き込んだ。そして魔法を使えるようにした。その者達が魔族だと言った。
聖王国エルドナーラは今の大神官が五百年前に建国し一帯を治めたが、魔族はこの森の近辺にザラークトと言う魔都を建国した。魔都は以前から存在し、大陸の不浄な土地に都市を置いている。周辺の神の言葉を解さない者達で悪魔に与しない人々がナギルナ連合と言いう国家群を形成していると。
「五百年前か。そんなのなかったけどね。魔族って言ってる連中は、この辺に住んではいたけど。」
「そもそも、人間も魔族も同じなんだが、いつ頃から分けられたのかね。」
魔女は頬杖をついて話を聞いていたが、また溜め息交じりに言った。マリエルは魔族と人間が同じと言う。聖王国は無かった。しかも、五百年前には彼女は居たような口ぶりに驚いた。色々と興味がわいてきたマリエルは魔女に聞いてみた。
「魔女であるあなたは悪魔ではないのですか?」
魔女は笑って言った。魔女とは何かと。
「私には名前がある。ルナヴェール。美しくも気高い名前だろう。」
「もしかして、魔法を使える女が魔女なのかい?だったらお前も魔女だね。」
「人間も魔族も同じ姿だ。ほとんど一緒の食べ物を食べていたじゃないか。お前は髪の色が違うと同じ人間ではないと言うのかい。」
そして、千年近く前からこの星に存在していると言った。マリエルはその一つ一つの話に驚いたが、存在していると言う言葉が気になった。星と存在と言う意味について魔女に聞いた。
「だから魔女じゃななくてルナヴェールだ。」
「星は星だよ。この星だ。存在したと言うのは、お前みたいな考えの人間には理解しがたいだろうけど、しいて言うなら生と死の巡りから離れているってことさ。」
マリエルはより一層、分からなくなった。星は天に輝くもので神が、人が闇夜で道を違わぬように作った道しるべだ。生は神から賜り、死は終わりでしかない。困惑しているマリエルにルナヴェールはそのうち分かると言い、もう寝るようにと言った。マリエルは頭がおかしくなりそうだったので、言う通りに寝てしまおうと思った。
マリエルは椅子から立ち上がって部屋をでようとしたとき、寝室の場所が分からないとルナヴェールに言った。彼女は、どこでもいいから部屋の前に立って、寝室に入ろうと扉を開ければ、そこがお前の寝室だと言った。確かに食堂に行くのに、一つの扉しか開けてはいない。ふと見ると座っていた椅子が無い。そう言えばここは魔女の屋敷なのだ。怖くなったマリエルは足早に寝室へ向かった。
マリエルが書斎を出て行った後、ルナヴェールは奥の書棚からひときわ大きな本を取り出した。テーブルに広げるとマリエルの書いた地図と見比べながらページをめくりは始めた。そして、あるページでめくるのを止めた。そこにはマリエルの書いた地図と同じような地形が記されていた。その本のページには森が描かれていない代わりに記号と文字と思しきものが記されている。
ルナヴェールは本を閉じると溜息をついた。そして大神官とやらと遺跡の発掘について考え始めた。
マリエルの歴史の話はつくりかえられた話だ。ここ百年位前に作られたものだろう。魔族が悪者で神が良い者。それを教え込まされて僧侶と称して、彼らの言う魔法使いを大量に育成している。
何よりも遺跡だ。封印して周ったはずが解かれているのか。一体どうやって。近づく事も出来ないようにしていたはず。そう言えばここにも入り口までとはいえ、森に立ち入ってきている。魔族など此処へ直接来ている。瘴気は定期的に増減する。だからと言って人が立ち入るほど薄くはならない。なにか、私が把握できない事が起きているのか。
ルナヴェールはマリエルの事を思い出す。毒に耐性のある人間。昔の人間と同じだがマリエルのそれは弱い。森の住人は薄くではあるが、その血を受け継いでいるのか。
ルナヴェールは書斎を出ると庭に出た。地に手をかざして何かを引き上げるような動作をすると、黒い霧を纏った獣が地から這いあがってきた。獣はすぐに森に入ると黒い霧をまき散らしながら走っていった。
これで、当面はしのげるだろう。
ルナヴェールは明日はマリエルの体を調べてみようと考えながら書斎へ戻っていった。