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星の守り人  作者: quo


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龍の道

魔族にとってのリンネカグラは肩こりの薬でしかない。


マリエルが人間の貴族の間で、高値で取引するくらい希少な物だと言うと、グード族の六人全員が驚いた。理由を聞かれたので、とにかく生えている場所が少なく栽培に成功していないと言った。グード族は首をかしげている。


「私の所は自然に生えているわ。育てるなんて考えたこともない。」


あの倒木を二本担いできた魔族の女は、やはり首をかしげながら言う。今度は男の方が「そうなのか?」と、不思議そうに言った。


「庭には生えていないが、近くの山に生えているな。狩りのついでに採ってきたような気がする。」

「人間の娘が言う通り、庭で育てなかったのは難しいのではないかな。」


みんなが「なるほど」と頷いていると、魔族の青年が不思議な事を言い出した。


「家の婆さんは土を買っていいたよ。リンネなんとかじゃないけど、花が好きで珍しいのを育てていたよ。」

「毎年、土は新鮮なのが良いって言って、土は捨てていたけど。なにかあるんじゃないか。」


マリエルは興味深い話だと思った。「土を買う」。そんなことは人間はしない。耕して肥料をまいて良い土にする。それか、良い土があるところで植物を育てる。

リンネカグラは、どうやら環境より土が大切なようだ。マリエルが土がどこから運ばれているのか聞くと、青年は知らないと答えた。リンネカグラは魔族の土地でも多くはないそうだが、希少になるほどではない。


マリエルが考え込んでいると、グレンが思い出すように一人の人間の男について話し出した。


「何年か前に領地に迷い込んだ人間がいたな。名前は忘れたがずんぐりした人間だ。」

「大陸中を周って土を研究していると言っていた。」

「面白いやつだと思って、領地をくまなく案内してやったが、土をいじって、ぶつぶつと何か言っていたな。土を食べたときには驚いたよ。」


みんなが笑い始めた。ヴェルシダだけは笑わずに、なにか虫を見るかのようにマリエルを見ている。


「そいつが言うには、地下に大地の力の流れがあるそうだ。その流れの上にある土は特別にいい土になる。」

「そいつを追っていけば、大地の力の源流までたどりつけると言っていたな。」


その人間は大地の力の流れを「龍の道」と言っていたそうで、数か月、グード族の領地に滞在した後はナギルナ地方に向かったそうだ。マリエルは、もしかすと、「龍の道」の土にリンネカグラは育ち、土を運び出せば短期間なら宿った力を吸収して育つのではないだろうかと考えた。

薬学でも土は研究するだろうけど、「大地の力」という考え方はしない。もし、その男が地図を書いていたなら、「龍の道」が川の流れの様に記されるのかもしれない。そこにリンネカグラはが生えていることになる。


マリエルは、この大地の土を持って帰ろうと思ったが、効果がすぐに失われるだろうと思って止めた。カエロに説明しても薬学を学んだ人間には理解しがたいのではないだろうか。それよりも、土を研究していた人に興味がわいた。会ってみい。最近よく聞く不作の原因を知っているかもしれない。


そんなことを話しながら、時間が過ぎていった。彼らは戦う事は好きだが手を出すのは嫌いだと言う。なぜなら、手を出せば勝ってしまうから。相手が万全の態勢で襲ってこないと面白くないという。彼なりの哲学だ。降参した敵にも興味がない。だから、捕虜は捕らないが助けもしないそうだ。

グレンはマリエルに、最近は大きな戦争がないからつまらない。なにか無いかと聞いてきたが、マリエルにとっては何とも言い難い質問だ。出来れば竜の巣が見つかって欲しいと思った。


「物騒な魔族だね。あまり人間を刺激するな。」


グレンの背後にルナヴェールが立っている。いつの間に現れたのだろうか。グレン達はその場から飛びのき剣を抜いた。会った時の顔つきではない。警戒と闘志の入り混じった顔だ。その場の空気が一気に変わった。


「驚いているのかい?あの娘の背後にも気配を消して立っていたな。」

「私より格下と言う事だ。座っておけ。」


挑発しているのだろうか。グレンたちは意に介さずルナヴェールを取り囲んだ。ルナヴェールも動かない。マリエルはグード族の姿に恐怖して声が出ない。あんなに面白く話をしていたのに。あれが本来の姿なのだろうか。マリエルが固まっていると、ヴェルシダが立ち上がった。


「止めておけ。王都に乗り込んで魔導士達をすり潰した魔女だ。」

「危うく国の半分を焼かれるところを、私が人質になって抑えた。剣を収めてくれ。」


話が違う。しかし、グレンは「流石はイヴァの娘だ」と言って皆に剣を収めさせた。なぜかヴェルシダは凛として立っている。ルナヴェールは溜め息をついている。ルナヴェールは必要なことが終わったなら帰るぞと言って、グレンの座っていた倒木に座った。グレン達も野営の準備だと言って荷物を担いだ。


グード族と別れを告げると、彼らは森へと姿を消した。別れ際には楽しく会話していた時の顔に戻っていて安心した。確かに好戦的だが問題はない魔族だ。一緒に暮らすのは難しいがお互いに争うことが無いように出来そうだ。マリエルは、時間がかかるだろうが魔族と人間が歩み寄ることが出来る世の中にしたいと思った。


ルナヴェールは風で戻ると言って、空に手をかざした。マリエルは今度もあの谷で休憩すのかと聞くと必要ないと言った。マリエルは、本当はあの谷に用があったのではないか。そう考えているうちに、風は一気に渦を巻き周りの空気を空に放り投げて突風になった。後には舞い上がった土埃と木の葉だけが残った。


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