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星の守り人  作者: quo


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希少な薬草

マリエル達は店の奥にある彼の私室のテーブルに座っている。連れ込まれて分かったが、この家は奥行きがある。狭いカウンターの後ろの棚は薬の瓶で埋めつくされている。私室は店の奥の扉の向こう側にある。そこには本と薬草や動物の一部と思われる標本が飾られ、それらが発する匂いで充満している。


薬屋の主人はカエロと言った。彼曰はく、エルバータが栄える前。そう祖父の代からこの店で薬屋を営んでいるそうだ。若くして王国の薬学院で勉強して後を継いだ。いつも庶民の側に立つ薬屋であること心がけている。


カエロは機嫌よく二人にお茶を出した。薬草を入れたお茶だ。マリエルは口を付けると何とも言えない味がした。青臭いが口から鼻に抜ける爽やかな香りと、さっぱりとした飲み口だ。朝の目覚めに飲むとよさそうだと思った。カエロによると、血流を良くして体の毒を洗い流す効果があるそうだ。マリエルが美味しいと言うと、カエロは喜び茶葉を持って行けと、葉が入った小袋をくれた。マリエルは嬉しくなってヴェルシダの分もと言いかけたが止めた。彼女はカップを見つめて動かなくなっている。


マリエルが薬草の話を聞きたいと言うと、カエロは紙とペンを取り出した。「絶対に秘密にしてくれ。」そう言いながら、山の薬草の生えている場所を書いた。質の良い薬草が生えている秘密の場所だそうだ。ヴェルシダが地図を見ながら言った。


「このバツ印や三角はなんだ。どれも薬草の在処と近いぞ。」


カエロは真剣な顔をして言った。


「崖と崩れやすい場所だ。気を付けてくれ。」


カエロは何十年も山に入っていたが、歳のせいか足を踏み外して崖から転げ落ちたと言った。その時、足を折ってしまい何日も動けなくなっているところを猟師に助けられたそうだ。ヴェルシダは危険だから降りると言ったが、マリエルは危険な場所は見ればわかるから大丈夫だと言った。ヴェルシダはマリエルが言うならと引き下がったが、その代わり、危険に見合った報酬が出せるかとカエロに言った。


カエロが報酬を提示した。それは宿代の一日分だった。必要な薬草を取りに周って一日分の宿代だ。斡旋所に出しても人が来ない原因だ。しかし、カエロはこれが限界だと言った。昔は仕入れでも利益は出ていたが、最近になって薬草の収穫量が減ったそうだ。彼の秘密の場所でもそうだ。だから無理をして奥に進むうちに危険な場所に立ち入ってしまったそうだ。


マリエルは不思議に思った。ユーリの村でもヴェルシダの父親からも聞いた。穀物も薬草も減っている。なにか悪い植物の病気が流行っているのかもしれない。


そんなことをぼんやりと考えていたが、カエロの薬草の問題を解決しなければならない事を思い出した。ヴェルシダは割に合わないと反対している。確かにそうだが、久しぶりに山と森の雰囲気を味わいたいのと、カエロの残念な顔をみて、何とかならないかと考えた。周りを見渡すと多くの薬草の標本がある。マリエルは高い薬草を売って仕入れの足しにすればいいと考えた。


「高い薬草をとってきます。それを売ればいいのではないでしょうか。」

「売れたお金を仕入れに充てれば、薬の値を下げる事が出来ます。」


カエロはうなった。そして棚にある標本を取り出した。リンネカグラと書いてある。希少な薬草で、全ての病を払い寿命を五年伸ばすと言われる。貴族の間で高値で取引されると言いう物だ。


「リンネカグラの効能は緊張を解きほぐし、血流を良くすることだ。これが実によく効く。今の技術でも調合するのは難しいのだ。」

「そして高値の原因は他にもある。それは、この薬草自体が少ないからだ。」

「自生している場所が少ない。栽培しようにも発育条件に謎が多く成功したことが無い。これは多くの薬学者が挑戦してきたが、未だに成功していない。」


カエロは長年、山を調べて回ったがこの薬草は近辺には無かったそうだ。ただ、そう祖父が採っていた場所があるが遠く危険な場所で人に頼めるような事ではないと言った。カエロは話し終えると、深いため息をついて話し相手になってくれただけでもありがたいと言って、お茶を淹れに奥に行った。


マリエルがカエロの寂しそうな背中を見ていると悲しくなった。ヴェルシダに危険だがリンネカグラを取りに行きたいと言うと、ヴェルシダは黒猫を見ながら言った「ルナヴェールが連れて行ってくれるからからいいんじゃないか。」と言った。


マリエルは早速、お茶を持って来たカエロに仕事を受けると言って、地図を書いて欲しいとお願いした。はじめは断っていたカエロだが、それならばと本棚から一冊の本を取りだした。そう祖父の日記で付箋のページを開くと地図があった。カエロは紙を貰うと書き写し、最近の地図と重ね合わせた。湖と、その向こうの山との位置関係を考えると確かに遠い。カエロによると途中で谷と川を渡らなければならにそうだ。


これだけの地図があれば、難なくルナヴェールが風で連れて行ってもらえる。心配するカエロをよそに、二、三日で戻ってくると言って店を出た。


「ルナヴェールが手伝ってくれるなら時間に余裕があるわ。」

「また街を見ながら宿に帰って、薬草を取りに行く準備をしましょう。」


ヴェルシダは歩きながら腕を組んで首をかしげている。立ち止まるとマリエルに言った。


「あれは親父が庭で育ている草だな。肩こりが酷いときにすり潰して飲んでいた。」


多くの薬学者の苦労が泡と消えた瞬間だった。


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