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星の守り人  作者: quo


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セフィルと言う男

ヴェルシダが入った食堂は、寂れて暗い雰囲気だった。人は(まば)らで一人で食べている者が大半だった。みんながヴェルシダを見たが、すぐに食事をすることに戻った。カウンターの奥に厨房がある。何か買って持ち帰りたいが、何を頼めばいいのか分からない。見渡したがメニュー表がない。


客が食べている物を見てみると、単純に肉や魚を焼いたものが多い。あの香草の匂いはしない。青臭い草のスープもない。あまり食事に金を賭けたくない連中ばかりの様だ。厨房から料理をしている音は聞こえるが、カウンターから誰も出てこない。どうしたものかと立っていると声をかけてくる者がいる。見てみると奥のテーブルに男が座っている。あの銅貨の男だ。立っているのも何なので男のテーブルに座った。


「奇遇だね。君たちも食事に構ってられないのかい。」

「出費は抑えるに越したことは無いよね。」


馴れ馴れしい。ヴェルシダはこの手の男が嫌いだ。名前も名乗らないで話しかける。これだから人間は嫌いなんだ。そう思うが、ここで食事の事を聞けるのはこの男しかいない。仕方なく男に持ち帰りで二名分を頼めるか聞いた。男は持ち帰りをしていた客を見たから大丈夫だろうと言った。ヴェルシダは男に何を食べているのか聞いた。


「肉だよ。多分、豚かな。塩っ気が強くて分からないけど、毒じゃないのは確かだ。」


そう言って笑ってみせた。


ヴェルシダは出来るだけ塩を振ってない方が良い。マリエルはどうなんだろうか。考えていると男が友達の分で悩んでいるのかと聞いてきた。ヴェルシダはマリエルと同じ「人間」である男に何が良いか聞いてみた。


「彼女はこの辺りでは見かけない感じだけど、森の部族かな。」


ヴェルシダは「そうだ。」と言った。魔族にも色々な部族があるが人間なんて似たり寄ったりにしか見えない。逆に人間側もそうなだろうが。


「なら、魚がいいんじゃないかな?肉は何処にでも手に入る。でも、新鮮な魚は手に入りにくい。」

「森では川魚が取れるだろう。ここなら湖が近いから魚料理がある。きっと喜ぶよ。」


納得すると、ヴェルシダは立ち上がってカウンターに行くと、厨房にいる者に声をかけた。厨房から大柄な丸坊主の男が現れた。丸坊主は不愛想に「注文か?」と聞いてきた。


「そうだ注文だ。パンを二切れ。あとは肉を焼いたもの。塩を振らずに胡椒だけがいい。後は魚を何でもいいから焼いてくれ。持ち帰りだ。」


丸坊主の男は体格のわりに、ベルシダの高圧的な態度に気圧されながら「魚の味付けはどうしましょう。」と聞いてきた。ヴェルシダは思わす「人間向け」と言いそうになったが、「美味しく」と言った。丸坊主の男は唖然としていたが、厨房に入っていった。ヴェルシダは安堵のため息を漏らした。人間の領地で物を買うとは夢にも思わなかった。


出来るまでの間、またあの男のテーブルに戻った。ヴェルシダは自分は礼儀正しいと思っている。色々と教えてくれた男に自分の名を名乗ると礼を言った。男は「どういたしまして。」と言うとセフィルと名乗った。修行の旅の途中だという。セフィルはヴェルシダに何で旅をしているのと聞いてきた。職探しと言うと怪訝な顔をして言った。


「森の部族が街で働いているところを見たことが無い。森で暮らしで満足しているからね。」

「君は貴族だろ。没落貴族を見たことがあるけど悲惨だったよ。君は違って見えるな。」

「それに、森の子と貴族令嬢の組み合わせって面白いね。」


男は最後に茶化すように笑った。ヴェルシダは抜け目がないと思った。確かに不自然な組み合わせではある。だが、自分が貴族の娘と見破った。もしかすると魔族だと言う事も分かっているのかもしれない。しかし、なにか脅してくる気配はない。妙に言葉を返すとボロが出る。ヴェルシダは「そうかもな」とだけ言った。


そのうち、料理が出来たと丸坊主が出てきた。金を渡すとき、心配になってセフィルの方を見たが、頷きながら笑みを浮かべている。どうやら適正な金額の様だ。ヴェルシダは、またセフィルに礼を言おうとした時、仕事探しの事を思い出した。そう言えばどうやって探すのだろうと。


その事をセフィルに聞くと、役所に行けば仕事の斡旋所があるそうだ。他にも商会がやっている場所もある。気を付けなければならないのは、役所以外の斡旋所には、怪しい仕事が紛れ込んでいる。簡単な仕事で高い報酬のものは犯罪がらみが多いそうだ。セフィル自身、危うく盗品の運び屋になるところを、寸でのところで逃げ出した時の事を笑いながら話した。


ヴェルシダは礼を言って食堂を後にした。歩きながらセフィルは使える奴だと思った。しかし、何を考えているか分からない。ヴェルシダは万が一のことを考えて、後をつけられていないか気を付け宿に向かった。


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