罰と覚悟
ルナヴェールはユーリとの話が終わると、マリエルと休めと言った。落ち合うまで時間がある。
マリエルとユーリは横になった。ルナヴェールは立ち上がると、散歩だと言って森の中に消えた。黒猫はローブのままだ。マリエルがルナヴェールが言った「仕事」の事は気にしないように慰めようとした。しかし、彼女は背負って生きていくと言った。
「ただの紙だと自分を騙してきたの。でも、それで誰かが不幸になったかも。もしかすると死んだ人も居るかもしれない。」
「兄は逃げ出した。私も兄も一生、逃げ続けなきゃならないの。」
そう言うと泣き出してしまった。マリエルはヴェルシダと言いう通り、頑張るだけでもどうしようもない事を思い出した。マリエルは森の生活を思い出した。病気や怪我はあったが、耐えて頑張れば生きていける。ヴェルシダはそれぞれに事情があると言った。マリエルは、彼女にも頑張れば生きていく道があるのではないか。人は頑張る事を止めてはいけないことは無いはずだ。考えれば考えるほどマリエルは休むことが出来なくなった。
ぼんやりとマリエルが夜空を眺めていると風が頬を撫でた。気持ちい。そう感じていると、いつの間にかルナヴェールが座っていた。マリエルが起き上がるとすると、彼女は膝枕をしてマリエルの頭を撫で始めた。ローブはあの黒猫の毛皮で滑らかで気持ちいい。ルナエールの手は、相変わらずひんやりしているが、柔らかくて優しい。
「私は人間が嫌いでね。同じ時を生きて一緒に苦難を乗り越えても互いに争い合う。」
「ユーリと言ったね。兄とは会えない。兄を殺して待ち構えている連中を灰にしてきたよ。」
「彼女は寝ているね。どうやって伝えればいい。私には分からない。」
マリエルは言葉の意味を知った。ルナヴェールの手を握り締めると悲しみが伝わってくる。
「日が昇ったら私が彼女に伝えます。」
ルナヴェールは「ありがとう。」と言うと立ち上がり石の上に座って夜空を見上げた。彼女のローブは黒猫になって。膝に寝そべった。
朝になると携行食を二人で少し食べた。風が気持ちい。ユーリが兄と早く会いたいと、森に入っていいかと聞いてきた。マリエルは駄目だと言った。そして、セルギルは死んだと言った。ユーリはマリエルが何を言っているのか分からないようだ。
「私たちが、貴女のお兄さん達と出会った時、もう仲間割れしていたの。これは、今思えばの話だけど。」
「多分、お兄さんと何人かは意見が対立したと思う。お兄さんは殺されていて、殺した人たちは私たちを待ち伏せする気だったの。」
「昨日のコウモリを見たでしょう。それで分かったの。」
ユーリは座り込むと涙を流し始めた。小さな声で「罰があったんだ。」と繰り返している。マリエルはユーリの背中を撫でてやった。ふと、ルナヴェールにセルギルの遺体のは何処か聞いた。ルナヴェールは、分からないと言った。昨日見たのは待ち伏せの算段をしていた連中だけだった。ルナヴェールが一人を捕らえてセルギルの事を聞くと殺したと言った。彼と従弟がしていた「仕事」を奪って一儲けするか、身分証明書で名を変えてどこかに逃げるか。そこに居たのは「仕事」を奪い取ろうとする者達だけっだた。
ルナヴェールはマリエル達を待ち伏せから助けたのだ。セルギルの遺体を何処にやったかまでは聞かなくても仕方がない。ルナヴェールは探すことは出来ると言った。ただし、どんな状態かは分からないと言った。マリエルはこのことをユーリに話すかどうか迷った。
マリエルも一緒にいた友達の遺体は見つけていない。だから、お墓だけ作った。それしか出来なかったからだ。ユーリはどうだろうか。
お昼になる頃、ユーリは岩陰に座り込んで何も話さない。昼食は食べるかと言うと首を横に振るだけだ。結局はマリエル達は得る物を得たが、ユーリは失っただけだった。もしかしたら、マリエル達がユーリを連れ出さなければ「兄は生きている」と言う希望だけを得て、罪を犯し続けながらもそれなりの人生を歩めたのではないか。マリエルにはどちらが良かったのか分からなかった。
マリエルが考え込んでいると、疾風と共にヴェルシダが現れた。相変わらずルナヴェールに悪態をついた。夜通し着地しながらも追いついらしい。疲れたヴェルシダはマリエルに、さっさと用事を済まそうと言ったが、岩陰のユーリを見て何があったのかと聞いてきた。マリエルは昨日の出来事を話すと、背伸びをしながら「自業自得だ」と言った。
「そりゃ、罪を犯しながら最後に幸せを掴むなんて、強欲としか言いようがないね。」
「悪事で稼いだ金で食っていたんだろう。それなりの最後ってところだ。」
まるでユーリに聞こえるように大声で言うと、座り込むユーリの目の前に立って目障りだと言った。ユーリは何も答えない。その姿を見たマリエルはヴェルシダに怒りが込み上げてきた。友達を失って涙する日々を送る自身の姿とユーリを重ね合わせていた。彼女はヴェルシダに体当たりをすると、不意を突かれたヴェルシダは倒れ込んだ。
「今のユーリにそんな事は言わないで!」
「あなたはいつもそう!人の気持ちが分からないの!」
覆いかぶさるマリエルを蹴り飛ばして払いのけると、ヴェルシダは立ち上がって、草むらに寝そべった。マリエルは足がまともに腹に入り痛みでうずくまっていた。ユーリが駆け寄ってごめんなさいと繰り返した。
「住むところは与えてやる。」
「みんな強欲なのさ。でも、生きてゆくにこしたことは無い。」
ヴェルシダは空を見ながら、よく考えろと言って目を閉じた。疲れていたのか、そのまま眠りについてしまった。




