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星の守り人  作者: quo


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見返り

マリエルがライシンを追いやった後、ユーリが準備が出来た倉庫から出来た。黒猫が収穫は終わったから帰ると言い出した。ヴェルシダはどうするのかと聞くと、一人で飛べるからいいだろうと、あっさりと斬り捨てた。彼女は人質なのだがあんまりだ。マリエルは呼んでくると言って宿に入っていった。


黒猫はあくびをすると、ユーリの足元に座って少し待ってくれないかと言った。ユーリは頷くと木箱に座った。黒猫の言った通り、ここから言われたものを持ち出して逃げる。ほとんど着の身木のままだ。不安しかない。兄とは会えるが、この先はどうなるのだろう。不安のあまり黒猫を抱いて気を紛らわしたい。闇夜でも艶やかな毛並み。この人の言葉をしゃべる黒猫は人に撫でられるのは嫌いなようだ。ユーリは不安なまま座って待つことにした。


マリエルが宿の一階に入ると、ヴェルシダが最後の男の腹に一撃を加えた後だった。マリエルと目が合うと嬉しそうに、六人倒したと言った。マリエルは黒猫に言う通り、放っておくのが良かったと思った。満足げに指から金属の輪を外すと付いた血を、足元で呻く男の服で拭いながら、マリエルに「どうした?」と呑気に聞いてきた。マリエルは裏の倉庫に黒猫とユーリが待っていると言って、ヴェルシダを倉庫まで連れて行った。


ヴェルシダが倉庫に着くと、ぼんやりとして座っているユーリと、距離をおいて黒猫が座っている。なんだか妙な絵面だ。黒猫はセルギルとの合流地点を確認すると、二日早いがそこへ向かうと言った。徒歩でもいいが追ってくだろう。それに、セルギル達が裏切っている可能性を考えると余裕を持ちたいそうだ。


「三人が限界だ。お前は一人で来い。」

「着地する毎にすぐに飛べ。」


ヴェルシダは抗議したが黒猫は何も答えない。答えないと言うよりは元の黒猫になって「にゃー。」と鳴いた。ユーリが青い顔をして、マリエルの後ろを指さしている。ルナヴェールが影から出てきた。長い黒髪が夜空に流れる。黒猫が走り寄るとルナヴェールのローブになった。闇夜でもローブは艶やかだ。


「この人はルナヴェール。魔女じゃなくて、黒猫はローブで目と耳になっていて私の影にいたの。」


マリエルが何が起こったのか理解できないユーリに説明するが、なかなかうまく言えない。聞いていたヴェルシダは「要するに黒猫の魔女だと思えばいい。」と、かなり端折(はしょ)った説明をしたがユーリを更に混乱させてしまっただけだった。


「ここを出る。ヴェルシダは遅れるな。」


そう言うとルナヴェールが呼んだ風が渦を巻き、砂埃と共に消えてしまった。あとに残ったヴェルシダは埃まみれなった。あの魔女めと悪態をつきながら服に付いた埃を払っていると、今度は斧や鎌を持った男たちがこっちに向かってくる。機嫌の悪いヴェルシダは、腹いせにちょっと遊んで帰ろうとまた指に武器をはめ込んだ。


ルナヴェールはセルギル達のと待ち合わせの森が見える場所で降り立った。森の中でも一際目立つ大木がその場所た。ルナヴェールが暗闇の地面に手をかざすと、沢山のコウモリが飛び出した。コウモリたちは羽音のがしない、そして鳴きもしない。そんなコウモリたちが闇夜に飛び立つ。


マリエルは飛び行くコウモリたちを見ながら、召喚の本質とは何かを考えた。まるで生命を操っているかのように思える。何かを見つけたいなら目が四つ。音が聞きたいなら大きな耳の獣。鳥にも獣にも口が無かった。必要ないからだ。そして、コウモリも鳴かなかったし、羽の音がしなかった。沢山飛ばしたのは一気に広い範囲を探すためだろう。


相手を恐怖で脅す魔法を使った時に、ルナヴェールはイメージが大切と言ったが、マリエルは自分自身の体験を伝えただけだ。もし、無限にイメージしたものが魔法で発現出来たら。そして、召喚出来たら。マリエルは聖王国で習った「神」も召喚出来るのではないか。そして、神の奇跡も発現出来るのではないか。そうしたら、「神」を召喚したとして、それは何者なのか。


コウモリが飛び去った夜空を見ながら、そんなことを考えていたマリエルの頭をルナヴェールが撫でながら言った。


「あまり考えすぎるな。今は感じる時だ。」

「今度、なにか召喚して見るかい?お勉強だ。」


ルナヴェールは表情が殆どないが、この時は微笑んでいたように見えた。ルナヴェールは石に腰かけるとユーリに色々と聞きたいと言った。もう、慣れて動揺が治まったユーリは頷いた。


ルナヴェールは、いつごろから不作が続き、原因は何かと聞いた。


「五年ほど年前からです。凶作の年は度々ありましたが、こんなにも長く少しずつ収量が減っていくのは初めてだと農家の方は言っていました。」

「いつも来る商人からは、魔族が悪魔を大量に召喚している。そのために自然の恵みが減っていると言っていました。聖王国の司教がふれて周っているそうです。」

「だから、魔族の遺跡を発掘して彼らを封じる策を調査しているそうです。」


ルナヴェールは静かにユーリの話を聞いていた。そして言った。


「それで調査に人を裂いて辺境の警備が手薄になり、自前の軍隊では賄いきれなくて傭兵達が集められるようになったんだね。」

「ライシンとやらも、官憲が忙しいんで楽に仕事が出来たわけだ。」


ルナヴェールが「仕事」の事を口にすると、ユーリは黙って俯いてしまった。理由は何であれ、彼女は金に目が眩んで罪を犯したのだ。今は良心の呵責に苦しんでいる。ルナヴェールはユーリに助けてやった見返りを出せと言った。ユーリは慌てて鞄から書類と小さな箱を取り出した。それは、白紙の身分証明書と、刻印のない認識票、聖王国の発行する通行証だ。


ルナヴェールは、それぞれを確認するとマリエルに無くさないようにと預けた。マリエルはそれも見て悪い予感がした。これがあれば、大陸の殆どの国境を越えて移動できる。荷馬車とロバの為に諸国を渡り歩く必要はない。でも、ルナヴェールは荷馬車もロバもマリエル達の食料も気にしていない。


マリエルは、こんな事ならカラスのスープでも良かったと後悔した。

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