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星の守り人  作者: quo


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街の宿

マリエル達は起きると、朝食に昨日採った木の実を食べて昼まで過ごした。


ルナヴェールが地図を作ると言って、四つ目の鳥を飛ばした。ヴェルシダはその光景を口を開けて見ていた。しばらくするとルナヴェールは木の棒で地面に地図を書き始めた。丘を下ると小道に出る。それを北に進むと街道に出る。そのまま進むとセルギルが言った街があるそうだ。空から一回りして見たが兵隊はおらず、人もまばらだと言う。近くに畑が散らばっていたそうだ。村から小麦を集めて出荷しているのだろう。


マリエルは、それなら荷馬車が買えるかもしれないと思った。少なくとも修理する職人は居るはず。二人分の食料を運ぶだけだから、古いものを修理してロバの一頭でも買えればいい。しかし、金額が分からない。マリエルは森で生活して殆どは物々交換だったし、聖王国では食べ物は支給されていた。ヴェルシダに聞くと、物を買ったことが無いと言い出した。この粗暴な魔族の娘は貴族のお嬢様なのだ。


とりあえず、街の手前でルナヴェールに送ってもらい、徒歩で二人で街に入ることにした。昼頃に着いて日暮れには街を出る。街の大きさからして宿は多くないだろう。マリエルは時間があれば荷馬車を探して、すぐに買えるようにしておこうと思った。


時間が来てルナヴェールが風を呼んで二人を街の手前まで運んだ。マリエル達が荷物を持って街に向かおうとすると、ルナヴェールが一緒に行くと言い出した。マリエルはヴェルシダさえ目立つのにルナヴェールはもっと目立つ。ヴェルシダも置いて行こと思っていたのに。


「分からないようにするさ。」


ルナヴェールはマリエルに動かないように言うと、マリエルの影の中に入り込んだ。まるでそこに穴でも開いているように。マリエルもヴェルシダも唖然として動けなかった。そうしていると影の中から黒猫が這い出てきた。


「こいつの目と耳を借りておくから安心しな。」


黒猫は人の言葉でしゃべるとマリエルのローブを登って懐に入り込んだ。この猫はローブになったりルナヴェールの目と耳になったり忙しい。

ヴェルシダが、こいつは本当に猫なのだろうかと言って、黒猫に顔を近づけ「にゃーと鳴け。」と言うと、「にゃー。鳴いてやったぞ。」と黒猫が言った。そして黒猫はヴェルシダ顔に手をかざしすと、ヴェルシダは悲鳴をあげて倒れ込んだ。多分、あの「熱い」のを食らったのだ。マリエルはこれが猫ではなくルナヴェールの一部なのだろうと思った。


マリエルは懐に黒猫を、影の中に魔法使いを、隣に魔族のお嬢様を伴って街に向かった。歩きながらヴェルシダが、マリエルとの役割を決めようと言ってい来た。確かに街の中で誰かに聞かれて焦るよりかはいい。いつもヴェルシダは合理的に考えてくれる。マリエルはありがたいと思った。


とりあえず、似ても似つかないので姉妹は駄目だ。同じ部族も駄目だ。ヴェルシダはマリエルを召使いと言い始めたが却下した。マリエルが自分の護衛と言ったが、森の部族を守る意味が無いと却下された。色々と意見を出し合ったが、結局は職探しをして旅をしている二人組となった。


マリエルはヴェルシダの容姿が気になっていた。瞳の色は仕方ないとして、しゃべると牙が見える。仕方ないのでローブの襟を口元まであげて口を隠すように言った。ヴェルシダは不服なのか、いっそのこと喋れない事にして、マリエルに交渉事を全部任せると言った。そして、しゃべらなくなった。マリエルは、何でこんなにも自分が気をまわして疲れなければならないのだろうかと思った。


マリエル達は昼過ぎに街に着いた。誰かが門に立っていることもなく、街を囲む塀も石を積み重ねたもので高くはない。害獣が入ってこない程度だ。中に入るとルナヴェールの言った通り、人影はまばらだ。農閑期なのだろう。荷下ろし場の人間も暇そうに腰かけて煙草を吸っている。


先ずはセルギルの従弟を探さなければならない。マリエルは家の壁に漆喰を塗っている大工に声をかけた。ひげ面の初老の大工は手を休め、休憩がてら水を飲みながら、宿の事について教えてくれた。宿屋は二件あるが、ライシンの宿は良くない連中のたまり場だという。


この街は王都から遠い。国に納める小麦を横流しする者達が良く来るそうだ。初老の大工に言わせると小悪党で街の人間に手を出すような連中ではない。どちらかと言えば腕っぷしの強い農民が多い街だそうだ。農民は兵に駆り出されることが多いが、自ら出稼ぎと言って傭兵と同じように戦場に行く者もいる。この近辺の農民は後者だと言いう。


初老の大工は離れて立つヴェルシダを見て、マリエルに面倒事を起こすなと言った。辺境に近い街や村に住む者ほど魔族を見慣れている。お互いに無視しあっている。しかし、官憲に通報して小遣い稼ぎをする連中もいる。


「王都に近づけば魔族を怖がる人間が増える。あの魔族と旅をするなら覚えておきな。」


そう言うと、大工はまた漆喰を塗り始めた。マリエルは大工に礼を言うと、ヴェルシダとセルギルの宿に向かった。


小さな街だけあって、セルギルの宿はすぐに見つかった。一階が食堂になっている。夜は酒場になるようで、表に酒樽が置いてある。マリエルがヴェルシダに外で待つように言うと、自分も中に入ると言い出した。彼女はすでに良くない連中が中にいる。お前だけでは追い返されるのがオチだと言い、マリエルを置いて、食堂の扉を勢いよく開けると、セルギルは何処だと叫んだ。


夜の営業に備えて仕込みをしている娘と、テーブルに座って昼間から酒を飲んでる男が三人いた。あとからついてきたマリエルは、どうか穏便に事が進むように祈っていたが、その祈りもむなしく男が帰れと酒瓶をヴェルシダに投げつけた。


ヴェルシダはこれ幸いと、金属の輪を手にはめて殴り合いを始めた。こういう時の彼女は生き生きとしている。あっという間に三人の男を殴り倒すと、一人の胸ぐらを掴んでセルギルを呼んで来いと言うと、仕込みをしていた娘が男たちの一人を抱きかかえて行って。


「セルビル!大丈夫?」


そしてセルビルに包丁を突きつけると、出て行けと叫んだ。マリエルは最悪な展開にため息をつくばかりだった。


「あいつは頭が悪い。魔族の王に返品の手紙を書こう。」


黒猫が言ったが、マリエルは今すぐに返品してほしいと思った。


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