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星の守り人  作者: quo


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ルナヴェール

マリエルにとって、ヴェルシダとの一日は有意義なものだった。


ヴェルシダは夜も明けぬうちから起きだし、その辺で拾った棒で素振りをした。迷惑なことにマリエルも付き合わされたが、ヴェルシダは剣や体術にを丁寧に教えた。彼女曰はく、魔法は高位の者が現れた瞬間から使えなくなるから、最後には剣と体術になると言った。


確かに魔族の城では、ルナヴェールの相手の力は通用せず、呼び出した化け物はルナヴェールの指示に従った。ルナヴェールがあの場に存在した時点で負けが決まっていたのだ。マリエルは相手の魔力が強いか否かをどうやって知るのかとヴェルシダに聞いた。すると、やり合っているうちに分かると言ったが、ルナヴェールは別格だと言った。説明しがたいと言いながら、周りの空気自体が変わるので分かるそうだ。


食事について進展があった。一緒に味見をしながら作っていくと、どちらとも味や好みの差について理解が進んだ。魔族は青い野菜の青臭さが嫌いなようで、ヴェルシダは、あれは虫の食べものとだと言った。味付けは薄めが良く、肉の臭み取りには香草は使わず、胡椒か酸っぱい果物を主に使う。

人間でもそれくらいの味付けは問題ないが、肉を煮込むのにジャムを入れるのには驚かされた。全体的に甘めがいいそうだ。


お互いに無理なく食べられる料理が出来たが、それはお互いに微妙な料理でもあった。マリエルは別にヴェルシダの分を作ると言ったが、長く一緒にいるなら同じものを作った方が食材を節約できると言った。ヴェルシダの考え方は合理的だ。その割には短絡的なところもある。


マリエルはヴェルシダに魔法の事を教えてもらおうと、一緒に書斎に向かった。ヴェルシダは書斎に入ると彼女は凄いと言いながら何冊も本を手に取りページをめくる。もはや流通していない本や知らない文字で書かれたものがあるそうだ。内容も物事の原初について書かれてあったり、手に入る本はその解釈から派生しているにすぎないと言う。


ヴェルシダははしゃいでいるが、マリエルは何かおかしいと思った。本棚はもっと奥まで、向こうの壁が見えない位あったはずだが、広間を二回り広くした程度になっている。一月ほどはルナヴェールと一緒にいたので、見間違いではない。ヴェルシダには見せたくないと言う事なのだろうか。考えてみれば、その奥の本を手に取ったことは無い。マリエルはヴェルシダがいないときに書斎に来て見ようと思った。


ヴェルシダは本を気にったらしく、マリエルをほったらかしにして終日、書斎にこもってしまった。マリエルはしょうがないので庭の手入れをすることにした。芝を狩り草むしりをして、落ちれいる木の葉や小枝を集めて捨てる、小さな花壇の花に井戸の水を撒く。淡い紫の花はここに来ていつも咲いている。ここに来て数か月経つが、この屋敷の敷地内は一定の温度に保たれているのかもしれない。


マリエルはふと、食料の残りが乏しいことに気付いた。ルナヴェールはあのモランと言う行商人を呼んでいるのだろうか。ルナヴェールは起きてくる気配はない。寝ているところを申し訳ないが聞いて見なくては。なくなってからでは遅い。モランは遠くから来るので、すぐには来ることが出来ないと言っていた。


マリエルは屋敷に入ると、ルナヴェールの私室に行くことにした。もしかすると、すでに起きいるかもしれない。ルナヴェールはマリエルの部屋から反対側の扉から現れる。マリエルはその扉を開けると、同じように廊下が続いている。とりあえず、目についた扉を開けようとするが開かない。何部屋か試すがやはり開かない。許可されていないのだろう。


諦めて帰ろうとすると、ほんの少し開いている扉がある。こんなことは初めてだった。扉はいつ見てもすべて閉じられている。マリエルはもしかするとルナヴェールがいて閉め忘れているのかもしれないと思い扉に近づいた。隙間から覗くと暗くてよく見えない。失礼だと思いながら開けると、そこには地下に降りていく階段があった。


この先に何があるのだろう。


マリエルは何もない日々に飽きていた。ルナヴェールを探すと言う名分で階段を降りていった。階段の足元は淡く照らされているが先は見えない。いつまで降りればいいのだろうと振り返ると、入り口の光が小さく見える。かなり深いみたいだ。マリエルは急に不安になった。もう少し行って何もなければ引き返そう。そう思って降りてゆくと扉が見えてきた。そっと開けると光が差し込んでいる。暗闇に慣れた目に眩しい。しばらくすると目が慣れてきた。マリエルの目に外の景色が飛び込んできた。


森の開けた場所の様で花々に咲き誇っている。見上げると太陽はないのに明るい。天井自体が光っているのだろうか。マリエルが一歩進むと、不思議なことに花や草に触れた感触がしない。屈んで手で触れようとするつかめない。なにか幻を見ているのだろうか。


マリエルは部屋を進んでみたが、何にも触れる感触はない。木の前に立って触れようとしてもそうだ。木をすり抜けると何か寝台のようなものが見えた。誰かが横たわっている。近づくと黒いローブを着ている。ルナヴェールだ。ゆっくりと近づくと、マリエルはルナヴェールに申し訳ないと思いながら、声をかけようと顔を覗き込んだ。


ルナヴェールじゃない。


マリエルはそう思った。ルナヴェールにそっくりだが、より人間らしい顔つきをしている。穏やかな表情でぐっすりと寝ている様だ。しかし、息をしている気配はない。肌の色はルナヴェールより白い。そして、柔らかそうだ。彼女は何者なんだろうか。死んでいるのだろうか。人形なのだろうか。マリエルは好奇心に勝てずに彼女の肌を指で触ろうとした。


「そこに居たのかい。」


マリエルは心臓が飛び出るほど驚き尻もちをついた。振り返るとルナヴェールが立っている。マリエルは回らない頭で言い訳を考えていると、ルナヴェールはゆっくりと横たわる彼女の傍らに淡い紫の花を置いた。あの庭に咲いていた花だ。


「お茶が飲みたい。上がって用意してくれないかい。」


ルナヴェールが言うと、マリエルは返事をして慌てて部屋を出て行った。マリエルが階段から転げ落ちないか心配したが、無事に上がっていたようで安心した。ルナヴェールは横たわる女性の頬を撫でてやると彼女の部屋をでた。そして、一歩一歩階段を上がりながら言った。


「長い付き合いだけど、あの子が気にったのかい?」


ルナヴェールが上がりきると、屋敷は静かに廊下への扉を開けた。


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