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星の守り人  作者: quo
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瘴気の森の魔女

鬱蒼(うっそう)とした森の中に屋敷がある。

豪華な二階建てで貴族の邸宅ほどの大きさだ。それは高い塀で囲まれ、頑丈で大きな門がある。

不思議なことにその屋敷に続く道はなく、木々がまるで人が入る事を拒むように囲んでいる。


屋敷の中にある書斎。薄暗く外の灯りが差し込まない部屋には、壁一面の本棚に隙間なく本が並んでいる。そんな陰鬱(いんうつ)とした部屋の窓辺で、本を読んでいる女性がいた。長い黒髪に金色が差す黒い瞳。緩やかな漆黒のドレスは一切の装飾は無く、裾が床にまで届いている。そして、服から覗く彼女の肌は人のそれと違い、白く美しくも精気が感じられない。

女性は本を閉じると窓から空を見上げた。森を包み込む瘴気のせいで、いつも陰鬱な(もや)がかかっている。


彼女は立ち上がると、本を元あった場所に返す。一番高いところに優に手が届くほど高い背丈。彼女は違う本を手に取るとまた窓辺に戻ると本をめくり始めた。音もなくページをめくる彼女は、何かの気配を感じ、本を閉じると溜息をついた。本を机に置くと、足音もなく書斎を出て屋敷の出口に向かった。


人間と言うものは相も変わらず森に立ち入ろとする。


彼女は扉に進み出ると扉は自ら開いた。庭に出ると屋敷の扉はひとりでに閉じ、今度は分厚い木で出来た正門がゆっくりと、重たい音を響かせながら開き始める。屋敷を囲んでいた木々は軋みながら、まるで兵達が居並ぶように一本の道を作った。彼女は立ち止まることなくゆっくりと、その道を進み始めた。


長い時間、進み続けると獣道にぶつかった。彼女は気配のする方に進み始める。程なく悲鳴と金属がぶつかる甲高い音がし始めた。見ると遠くで兵士が何者かと戦っている。それは、人の形をした人でない者だった。


ある馬車は多くの矢で貫かれ、ある馬車は車輪が砕かれ用を成していなくなっている。辺りには逃げ出したのか馬はいない。あるのは地面に転がっている間らしき物だけだった。


人の形をした人ではない者達は、剣で斬っても刺しても倒れない。恐怖する兵士に食らいつき、倒れた兵士の傍らから剣を拾い上げると、今度は僧服の男と女に斬りかかっている。彼らは逃げ惑いながら、何かを必死に口にしているが、人間でない者達はそれを意に介さずに追い回す。


黒い服の女は、そんな凄惨な風景を遠目に見ているだけだ。


最後の一人が倒れると、人でない者は森に飛び込んでいった。数人が森に逃げ込んだようだ。目ざとい彼らは、それを見逃してはいなかった。


森に悲鳴が轟く中、黒い服の女が倒れた者達に近づいた。彼女に気付いた人でない者達は、足早に立ち去った。地面を覆う血にまみれた兵士と僧服の者達。そして倒れた数台の馬車。


黒い服の女は手をかざすと、全てが燃えて灰になる状景を強く念じた。その時、彼女は裾を握る者がいるのを感じた。見ると僧服の少女がこちらを見上げている。その少女はかすれた声で、「助けて」と言った。黒い服の女は念ずる事を止めて、屈みこむと少女を観察し始めた。


腕に矢が貫通している。しかし、矢の毒でもうすぐ息絶える。毒は体を人ではない者に変えるものだった。それは魂を黒く塗り替えようとしている。普通は変化に耐えきれずに一瞬で息絶える。その辺に転がっている者達のように。だが、彼女の目には、それがゆっくりと進行しているように感じられた。


黒い服の女は少女に興味がわいた。人間にしては珍しい。毒に耐性があるようだと。持ち帰って調べてみるかと彼女は思ったが、それには()()をしなければならない。調べるのなら、人間であるうちの方が良いからだ。彼女は今にも息絶えそうな少女に言った。


「人のままにしておこう。代わりに私の所有物になれ。」


そして、約束をしろと言った。少女は絞り出すように、約束しますと言った。黒い服の女はそれを聞くと、少女の額に息を吹きかけた。すると、少女は眠りに落ちるように目を閉じた。


黒い服の女は立ち上がると、また手をかざして念じた。眩いばかりの炎が現れたかと思うと、辺りを舐めまわし、全てを灰にしてしまった。灰は風に巻き上げられ、辺りに舞い散った。彼女は少女を抱きかかえると、もと来た道を進み始めた。


まだ森の中から悲鳴が聞こえる。彼女はそれに構わずに道を進んだ。


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