でも、クラゲ頭って何!?
わたしは城を抜け出しトギフォス城近くにある浜辺に来ていた。白い砂浜が燦々と輝く太陽の光を反射しキラキラしている。
きっと素足で歩けば飛び跳ねるほど熱そうだが、今のわたしはではそれを感じることはできない。
「わたし、このまま死んじゃうのかな……」
燦々と輝く太陽の下、わたしの心は陰っていた。
伯爵様からのおでこチュ事件は大いにわたしを混乱させた。
異性からこのような行為は幼い頃父と兄から愛情表現でされた記憶はあったが、これまで恋愛なんてしたことのないエリザベスにとって伯爵様の行動がどういった感情でしたものだったのか分からなかった。
何となく気分で……?5年一緒にいたが軽々しく女性に手をだされる方ではなさそうだし。
ただの愛情表現だった……?今まで顔を合わせば顔を背けるような人が?
いくら考えても伯爵様の本意は分からなかった。
悶々としているとすっかり朝になっていた。わたしは答えのでない問を考えるのをやめ、場内を見て回ることにした。幽体離脱状態なのでどこでもスイスイ行けて楽ちんだ。
わたしはまず使用人たちの様子を観察することにした。
何処へ行っても場内は伯爵夫人殺害未遂で持ち切りだ。
あのメイドがやっただの、侍女が盛っただの、伯爵様へ恋慕の情を寄せているものの仕業だのいろんな噂が絶えない。
伯爵様の命で疑わしい者は全員場内の地下牢に連れていかれたようだ。
季節が春過ぎだとしても日の当たらない地下牢の夜はきっと寒いだろう。きっと関係のない者もいたと思うと申し訳ない気持ちになった。
わたしは幽体離脱を使ってこっそり伯爵様の仕事を拝見することにした。
なんとなく、気になったのだ。
いつも伯爵様が戦場から戻られれば、わたしは邪魔をしてはいけないと思い部屋に籠もっていた。
食事の際か、道をすれ違う時くらいしかお会いしていなかったので、間近で伯爵様の尊顔を目にしたことはなかった。
わたしにとって伯爵様は無愛想で無表情で口数が少ない人だが、とても整った顔立ちをしている。堀の深い目元にすっと通った鼻筋、大柄で鍛え抜かれた体、右目から眉間を通り側頭部にかけて戦いで受けたのだろう傷があるがそれを無しにしても今までたくさんの女性たちの目を奪っただろう想像に難くない。
そして昨日の出来事を思い出す。熱さを感じない状態だか、もし今わたしを見れる者がいればきっと顔が赤らんでいるのだろうと思った。
その後も場内を動き回ったり、話を盗み聞くもめぼしい人物はおらず、ネムトカゲの毒も出てこなかった。
そうして医者が言っていた2日が過ぎ、わたしの体は目を覚ますかと思われたが、相変わらず眠ったままだった。
場内ではわたしが目覚めないことに医者を呼び出して再び調べられている。最初診察した医者の他に2人新たに呼び出されていたが、皆が一様にネムトカゲの毒の症状だと言い、もしかしたら新種の毒薬かもしれないと溢す。
わたしはそれに耐えきれず、城から抜け出し浜辺に来ていたのだった。
医者にも分からず、毒の在り処も分からず、何もかも分からずじまい。
この体では涙を流しても誰にも気づいてもらえない。
悲しさに心がすり減っていた時だった。
「__、ねえ!そこのあんた!クラゲ頭の!」
どこからか女性の声が聞こえた。ここはトギフォス城の裏にある浜辺で人が来るには城内を通って来るしかない。珍しいなと思いながらも、沈んだ心では声の方を向く気力すら起きなかった。それに今のわたしを見ることができる人なんていないし。
しかしその声はだんだん近づいてきた。
「ちょっと!なんで無視すんのよ! あんたに言ってんのよ、水色髪のクラゲ頭!!」
クラゲ頭?は分からないが水色髪なんてこの領地で一人しかいない。
わたしは慌てて声の方へ顔を上げた。目の前には私より断然背の高い女性が見下ろすように立っていた。
町娘たちが着ている服の袖を腕まくりした黒髪の強気そうな女性がいた。彼女はわたしと同じように体が透けて浮遊していた。
「ふぇ!?あ、あなたその体……」
「やっとこっち向いた まったく、無視しないでよね!」
「いやだって、こんな状態じゃ自分が呼ばれてるなんて思わなくて…」
「ま、それもそうか!あたしもこんなこと初めてだし困ってたんだよね~ はじめましてあたしはリリム!
!幽体離脱仲間としてよろしく!」
彼女のこの状況をものともしない態度にわたしの涙は引っ込んでいった。
でも、クラゲ頭って何!?