2―43・Fake―Diamond
『……おいっ、あんた、大丈夫か!?』
──あの日、あの時に彼女は『運命』に出会った。
『良かった、怪我も特にないようだな』
運命なんて大それた言い方をすると、その運命を感じた男は嫌そうに顔をしかめるだろう。
自分はそんな大層な人間なんかじゃない、と皮肉げに……そしてどこか自虐的にも見える表情で返すかもしれない。
だが、当時十代後半に入ったばかりの彼女には、その出会いはまさに『運命』を感じさせるものだった。
『大丈夫、俺は敵じゃない。俺もあんたと同じなんだ』
彼女はその出会った運命に魅了されたと言ってもいい。
そしてその出会いに魅せられた事により、彼女の未来は大きな変化を来した。
それほどまでに、空腹と焦燥と絶望に埋もれかけていた彼女にとって、自分の無事を喜んでくれた男の笑みはとても輝いてみえたのだ。
「ねぇ、カーリアン。あなた、勘違いはしていないわよね?」
エリカとの接近を拒むかのように紅を散らすカーリアンに、エリカは軽く肩をすくめてみせた。
どこかからかい混じりにすら見える小さな笑みを浮かべて、自分との近接戦を忌避する少女にどう攻めるべきかを思案する。
「ウチはあなたと勝負するつもりなんかさらさらないのよ?あなたと……彼と同じ黒鉄を名乗るあなたと、殺し合いをするつもりなの」
いや、正確に言えば『どうこの戦闘を詰めるか』を思案していた。
一手布石を置き、二手絡め手を敷いた。
確実に攻めきる為に幾度もシミュレートし、置いた布石を最大限生かす方法も思案してある。
「あなたは力比べでもしているつもりなのかしら?だとしたら、今の黒鉄は随分と生ぬるい事ね」
確実に王手をかけられるだけの下準備はしたつもりだ。
なにしろ彼女は、『直接ぶつければ人体が耐えきれない』といった程度の力しか持っていない事を自覚している。目の前のパイロキネシストの少女や、脳裏に今も浮かぶかつての戦友達には遠く及ばない。巨木とは言えないまでも、それなりの樹齢を持つ木の幹を破裂させたのが精一杯なのだ。
それを覆す為に色々と思考を巡らし、罠を張り、置き石をして結果を求めた。
元より自分よりも強い能力を持つ相手とばかり戦ってきた彼女だ。そしてそのほとんどに勝ってきた彼女だ。
その前準備は、九割まで整った自信がある。並大抵の相手なら──いや、並大抵を越える相手でも、結果を出せる自信がある。
「そんなに距離を置いたままで、ウチに炎がぶつけられるかはもう分かっているでしょう?それとも辺り一帯を焼き払って、蒸し焼きにでもするつもりかしら?」
ただそれでも懸念があるとすれば、目の前の紅き少女が『あの女性』の後継者であるという事だ。
自分と同じような戦い方をしながら……単に無限の銃弾を放てるというだけのお粗末な力しか持っていない状態で、黒鉄最強と呼ばれた男の唯一人の相棒。
その女性と似た印象を持つ少女だからこそ、エリカは最後の詰めを始める前に幾度も思考を巡らせる。
──大丈夫。イケる。このコはウチの本当の力を知らないのだから。そのアドバンテージがあれば絶対に勝てる。
そう自らに言い聞かせながらなかなか詰めに入らない理由は、彼女自身も自覚出来ていなかった。
そう、今のエリカにとっての対戦相手は、決して目の前の少女ではなかったのだ。
脳裏に浮かぶ女性──華奢な体つきでありながら、身の丈に余る刃を従えていた『剣の姫』。
今まで何度となく訓練で手合わせをした中で、ただの一度も勝てなかった女性こそがエリカにとっての対戦相手だったのだ。
当時彼女が住んでいた地域は、人の新たな種とされる『変異種』の存在そのものを、蛇蝎のごとく忌避する宗教団体が勢力を誇る一帯だった。そんな中で変種として生まれた彼女は、それを必死に隠して生きていた。
ありのままの自分を隠して、誰にも見せないようにして、変種が疎まれるようになった頃から十代後半までを過ごしてきたのだ。
しかし、いかに上手く隠しているつもりでも、どこから漏れるか分からないのが秘密というものだ。彼女が平穏を得る為に隠してきた『自分自身』とて、どこからどう漏れたのか分からないままに秘密ではなくなった。
変種が極端に忌避される街で、ただ平穏を望んでやむにやまれず隠してきただけなのに、まるで街に隠れ潜んでいたスパイを吊し上げるかのように追い立てられた。
家族ですら──彼女が変種である事を知っていたはずの家族ですら、執拗な追求を嫌ったのか、はたまた幼い弟や妹を守る為か、彼女が変種である事など知らなかったと言い張った。
元より家族の中で一人だけ変種であった彼女と家族の間には、僅かな亀裂があった事も原因の一つだろう。
見知った街で、ずっと過ごしてきた居場所で、彼女は一人ぼっちになったのだ。
『なんで自分だけがこんな目にあうんだろう』
そんなやる方ない気持ちと、一人ぼっちになった孤独感。狂信的な信仰心を持つ者に追われる恐怖。
全てが嫌になって、逃げる事も億劫になった。
『どうせこの街を出ても、もう学校なんか通えない。仕事も見つかりっこない』
そんな諦めが彼女を支配しつつあったのだ。
そんな時に救いの手を差し伸べられたのだから、彼女が彼との出会いに特別なものを感じても仕方がないだろう。
たった一人という孤独感の中で、『自分と同じ』だという男に強い親近感を覚えたのは無理もない事だ。
自分を執拗に追いかけてきた狂信者達が……自分を恐怖に陥れていた追跡者達が、彼の静かな恫喝で震え上がる様を見たのだからなおさらだ。
夢見る年頃ではなかったが、その彼は自分が困っている時に現れる『正義の味方』に思えた。
白馬の王子様に憧れる気持ちなど幼い頃に捨てていた彼女にも、彼が自分にとってのヒーローに思えた。
『もう帰る場所なんかない』
と言い張って、渋る彼に付いていったのは、別に新たな自分の居場所が欲しかったからではない。
その彼に運命を感じてしまうほどに強い憧憬を感じた。ただそれだけの理由で、彼女は彼に付いていったのだ。
──手で触れたものを爆発させる、か。
正直厄介な相手である事は間違いない。触られたらアウトというのは、どこまでもタチの悪い鬼ごっこを思わせる。
──昔のホラー映画で似たようなヤツがなかったっけ?
触られたら死んでしまうという結末を持った鬼ごっこ。
それに対してどこか気の抜けた事考えながら、そんな自分に苦みの混じった笑みをもらす。
確かに厄介な能力だ。ある意味ではカーリアンの持つ力よりも危険な力だ。
しかし、その危険な力に怯むつもりはさらさらなかった。
──触らせなければいい。つまり近寄らせなければ負けない。遠くから突つきまわして、油断なく紅で牽制していれば負けはない。
そう冷静に相手と自分の能力を計り、戦場を組み立てる。
たしかにエリカは、カーリアンよりもずっと戦い慣れていた。自らの爆発で倒した木の上を走って近寄ってくるなど、カーリアンには思いもつかなかった。
もしあの時、彼女の直感が『避ける』という選択肢を選んでいなければ……右手だか左手だかでエリカの手を払う方法を選んでいれば、その片腕は吹き飛んでいただろう。
無鉄砲を地でいく印象が持たれがちだが、今のカーリアンは命のやりとりにおいて自暴自棄だった『昔』とは違う。
先ほども普通の状況ならば、直感に頼るまでもなく念をいれて距離を取る、という方法を取っていただろう。
しかしあの時はエリカの行動に驚かされた直後だ。その状態で冷静な判断など簡単にできるものではない。
意表を付き、判断力を欠如させてその隙を逃さず決まり手を放つ、という先ほどのやり口は、戦術としては至極王道だ。そして王道だからこそ難しいものである事ぐらいは彼女でも知っている。
王道であるという事は、それは相手にとっても既知であるという事なのだから。
それを個人で──しかも真っ正面から向かい合った状態でやってのけるなど、いかにお互いの能力や戦闘スタイルを知らないとは言え、並大抵の事ではない。対象であったカーリアンをして見事だと唸らざるを得ない。
しかし、いまだに負に落ちない点もある。
確かに彼女は『その手に触れたものを爆破出来る』のだろう。その点には嘘がないと判断しても間違いないと思う。
ただ、『それだけなのだろうか』とも思うのだ。
何故彼女はそれを口にしたのか。
何故わざわざカーリアンにそれを教えたのか。
そんな事を言えば、カーリアンは間違いなく距離を置いて戦う方法を選ぶだろう。彼女の発火能力からすれば、接近戦よりも分のある戦い方だ。
エリカにもそれは分かっていたはずなのに……カーリアンの得意とする間合いは、一緒にいた期間で分かっていたはずなのに。
それが彼女の心に言い知れぬ焦燥感を覚えさせる。
圧倒的に自分が攻め立てているという現状。そして今まで与えられた情報からしても、不利な点は全くないと思える戦況。
エリカはただ紅を避けるだけで手一杯で、近寄るすべすらない。近寄らせない自信もある。
自分の紅が力を失う前に――燃料である負の感情が尽きる前に、エリカの体力の方が先に尽きるのはカーリアンから見ても明らかだ。空間を走る紅の光を、彼女は必要以上に距離を取って避けていたのだ。使う体力と磨り減らす精神力はかなりのものだろう。
しかしエリカもただ者ではない。回避に必要な間合いを五とするなら、最初に取っていた距離を十、次は九、八、七とギリギリの間合いまで徐々に詰め始めているのだ。そのセンスと思い切りは見事と言う他ない。戦闘巧者として見れば彼女に優る者など黒鉄にもそうはいまい。
たまにひっかけで強めに力を籠めた際には、びっくりするぐらいのカンの良さを見せて大きく距離を取る。しかもそんな陳腐なひっかけを鼻で笑うオマケ付きだ。
ただそれでもカーリアンには自身の有利を確信出来た。有利だと判断出来てしまった。
これほどの戦闘巧者を相手に回して、戦闘開始から間もない内に。
それが不可解で……何よりも怖く感じられていたのだ。
男が所属するグループについて話を聞き、あちこちで変種と既存種が対立する厳しい現状を知り、その間に立つ男の立場を知っても、彼女は背を向けなかった。
男と同じ道を歩く事が、荒事には慣れていない自分にとってどれほど困難な事なのかが分かっていても、彼女はその道を喜んで選択した。
彼みたいな『誰かの救い』になれる事を夢見て──あの運命の時に見た『ヒーロー』みたいになりたくて、彼の模倣を始めた。自分みたいな何もかもを失ってしまった誰かに、かつての自分みたいに光を当ててあげたくて、自分が感じた光を真似し始めた。
いつもどこか皮肉げな調子である彼をよく見てそのスタイルを真似た。誰よりも最前線に立つ彼を真似て、自ら荒事に飛び込んで大怪我を負った事も一度や二度ではない。
彼がいつも使っている二挺の銃は、さすがに同じものが手に入らなかったが、彼の着ているものとよく似た黒のコートを買って自らのトレードマークにした。
グループにおいては戦闘担当だった彼に学び、戦闘技能は忠実にコピーして自らの体に刷り込んだ。戦術理論について何冊ものノートを端から端まで埋めて、自分にあった戦闘方法を個人戦闘から集団戦闘に至るまで考察し、頭に叩き込んだ。
それだけではなく、国や近くの地方の現状についても情報を集めて、単なる戦闘技能者で満足するのではなく、彼や仲間の役に立つ存在になるべく自分を高めた。
目で見て盗み、教えを乞うてその身に刻み、着実に彼の立ち位置に近付いていったのだ。
──彼には最高の相棒がいたからその座は諦めた。
──彼には心を許した無二の友がいたからその座も諦めた。
しかし、卓越した戦闘技能を持ちながらも、相棒だった女性のように弟子などは一切取っていない彼にとって、自分こそが『最高の弟子』だという立場だけは譲れなかった。
その名前に見合うだけの努力をしてきた自負があったし、彼に恥をかかせない能力も培ってきたつもりだ。
だからその場所だけは、絶対に誰にも譲るつもりはなかった。その立場を……かつて見た光に近付いている実感こそを誇りとしてきたのだ。
やがて、彼とその唯一の弟子を自認する彼女が所属するグループは、激動する時代に沿って変遷の時を迎える。
彼は漆黒の外套と神出鬼没な戦闘スタイルを持つ事から、『宵闇』と冠された最悪の暗殺技能者として、敵方には今まで以上に恐れられるようになった。
彼女はその能力に対するイメージと、電光石火のごとき勢いで実力を上げていき、最後には黒鉄でも有数の戦術家となった事から『閃光』と呼ばれるようになった。
もっとも、『剣匠』や『銀鈴』のような華やかさとは無縁な戦い方と、着実ではあるが地味なスタイルを自負していた彼女にとって、その派手な呼び名は少しばかり不満なものであったのだが。
──宵闇のシャクナゲ、そして閃光のエリカ。
彼らは仲間として。
友として。
そして師弟として、黒鉄と名前を変えた組織に所属し、共にあったのだ。
そう、あの時まで。
宵闇と対になる『暁』が──シャクナゲにとって無二の友である男が倒れたあの時まで。
まだ余裕があるとはいえ、あと一年は持たないだろうと、本人の口から聞かされたあの日まで。
「カーリアン、あなたは本当に強いわ。あなたよりも異常な能力を持つ人間なんて、全国回ったウチでもそんなに多くは知らないぐらいよ。発火能力者としては間違いなく最高クラスの力を持っているでしょうね」
攻撃の合間に向かい合い、かけられたそんな言葉からはまだ余裕が見られた。感心したかのような言葉にも恐れは感じられなかった。
息は多少上がっている。元より血の気の薄かったその顔色には、先程までより赤みが増していて、確かな疲れが見てとれる。
それでもエリカにはまだ余裕が見えた。
そんな彼女に対して、ただひたすら攻勢に出ていたカーリアンは、言い知れぬ不安を覚えていた。
それは彼女特有の天性の『カン』によるものではない。彼女が感じていたのは、そんなあやふやなものではなくもっと確かな『不吉』だ。
彼女が感じているもの――それを言葉にするならば、直感や予感といったものよりずっと確かな『既視感』。
いつか見た、今までに何度も目にした誰かと、向かい合っているようなデジャヴ。
目の前にいる彼女の中に感じた誰かの影。
それがカーリアンの中で盛大に警鐘を鳴らしているのだ。
「でも、残念ね。本当に残念だわ。あなたにはその力に見合うだけの経験値が全く足りていない。自分よりも戦闘が巧い相手との戦いにあなたは慣れていないでしょう?
対してウチは、自分よりもずっと強い相手と戦う事に慣れている。その経験値の差はウチとあなたの能力の差よりもずっと大きいみたい」
エリカの口元に浮かぶ笑みは、ひたすら攻勢をかわしていただけの者には見合わないものだ。少なくとも不利を背負い、それでも気概で浮かべただけの笑みにはどう見ても見えない。
「これは確信を持っていえるのだけれど……あなたはほとんどミヤに何も教わっていないでしょう?多分、力の制御について教えてもらったぐらいじゃないかと思うのだけど、どうかしら?」
「……っ」
カーリアンの実力を計り終わったかのような言葉。そこに大きな間違いがない事に、思わず歯を噛みしめる。
カーリアンが師から学んだ事。それが力の制御がメインであった事は確かな事実だった。脳裏には紅が暴走しそうになる度に凹まされ、制御を甘くする度に折檻された記憶がはっきりと蘇る。
何より紅を暴走させない事、仲間を傷付けない事を第一として叩き込まれていたのだ。
「ふふ、当たりみたいね?あなたはまだ原石、磨かれ研磨されていないただのダイヤモンド鉱石よ。
そんなあなたを、自らで磨きあげて造り上げただけのフェイクダイヤ(偽物)に過ぎないウチが、徹底的に鍛えあげ、磨きあげ、ブルーダイヤモンドにまで高めれば、あの錬血にも勝てるだけの力を持てるかもしれない。
……そう思うと正直な話心が踊るわね」
不敵で皮肉げで――どこかで見慣れた誰かの笑みが被って見えた。自分が知っている、自分以上の誰かが重なって見えた。
だからこそカーリアンの中からは警戒心が消えない。むしろ時を経るごとに膨れ上がっていく。
エリカに被って見える存在。それはカーリアンがよく知っている黒鉄最強と呼ばれた男のものだったのだから。
「それだけに残念だわ。ここでさよならしなきゃいけない事が残念でならない」
そう小さな嘆息混じりに告げて。
そのまま決め手に欠け、見知った印象に戸惑って立ち竦むカーリアンを前にしたまま、ゆっくりとその腕を持ち上げていく。そしてその細い指を擦りあわせ、パチンっと鳴らして乾いた音を立てた。
ただ見せ付けるように、軽い音を響かせた。
その直後だった。カーリアンの真後ろにある小さな木が……エリカとは対称の位置にあるまだ細い若木が、『炸裂音をあげて倒れたのは』。
「ふふっ、敵の言動は全て疑ってかからなきゃダメよ。ミヤはこんな事まで教えていなかったのかしら?
敵となりうる相手――しかも力が分かっていない変種が、その力をわざわざ誇示してみせる時は、『その発言自体が罠である事を疑え』って」
「くっ……」
「変種の能力は、敵に知られたら不利になる能力がほとんどだけれど、中には『敵に知られても上手く使える能力』もあるの。
スイレンなんかは特にそうよ。彼女は敵と正面から向かい合う時は、あらかじめ敵に自分の力を見せ付ける。わざわざ口にして、敵に知らしめる事すらあるのよ?そうやって『敵に目で見て得た情報に疑いを持たせる』。自分の視界に不信感を抱かせるの。
恐ろしくえげつなくて、怖い戦い方だと思わない?」
倒れてくる若木を辛くもかわし――そして見る。
閃光と冠された女が、その両手を持ち上げ指を鳴らすべく構えている姿を。
「ウチもそう。ウチの力は弱いものだからね。だから攻撃力は少し割り増しで見せ……でも『性能は少し割り引いて』能力を語るのよ。
さっきの大木ね、結構簡単に倒したように見えたでしょう?でもウチの力では、あれで『精一杯』だったりするの。ああやれば、大抵の相手は『あなたみたいに接近する事を怖れて距離を取って戦いたがる』から。そして戦術の幅が狭まり、行動の範囲が狭くなる」
そして、その口元が先程までよりずっとはっきりとした笑みを浮かべているのを。
「言っておくけど、ウチの力が爆発だって言うのは嘘じゃない。能力自体はあらゆるものに自身の力を籠めて炸裂させるだけの力よ。そこに嘘は一切含まれてはいないわ。
単にウチの爆弾が『任意で爆発』させられる事を言っていないだけでね。
さて、弱い弱い陳腐な爆発物でも、あちこちに仕込んでおいて、囲まれた位置まで敵を誘導してから爆破させたりしたら――どうなるかしらね?」
「ヤバ――」
エリカの言葉を聞くまでもなく、彼女を視界に入れ続ける為に少しずつ移動していた自分を自覚して。
紅をかわす為とは言え、エリカが自分の周囲を回るように移動していた事を思いだして。
「……Bomb!」
――パチンっ!
エリカのふざけたようなその言葉を合図に、その指が鳴らす弾けるような音と。
――バァンっ!
周囲一帯で連鎖的に何かが……数十個近くの何かが炸裂していく音をほぼ同時に聞き、カーリアンの視界は白い粉塵と爆風により巻き起こされた土煙に閉ざされた。
エリカの立ち位置が見えてきたでしょうか。
カーリアンが剣の後継ならば彼女は宵闇の後継です。
愚直に、ただ真っ直ぐに憧れた存在へと近付き、ただ努力だけで才能の壁を超えた少女。
強い力を持っていなくて、才能すら欠けていて、天然の輝きを持つ者とは似つかない。それでもただ戦術論(練磨)と戦闘経験(工夫)で本物へと近付いた『偽物』。
そんな彼女もやはりお気に入りです。
彼女が何を望んで、どんな理由で道を違えたのか、ぜひお楽しみに。




