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9・ナイト&デイ2

なんかちゃんと本文を載せたハズなのに、しっちゃかめっちゃかになっていました。


その影響もあり、あとがきの番外編、都市スキルを何度書き直したか分からないくらい書き直しました。


そしてラストもやや変わっております。

だからサブタイも『ナイト&デイ』から『ナイト&デイ2』に変更致しました。






「……これ、報告書」


 そう言って背後から書類の束を投げつけてきたのは、二班副官を務めている小柄な少女だった。

 その声に思わずビクッと体を震わせてから振り返り──誓ってもいい、気配なんか全く感じられなかった──その姿を確認すると俺は大袈裟に天を仰いでみせる。



 時刻は早朝というにもまだ早過ぎる時間帯だ。周囲を染める色はまだ夜のモノである。暦上はもう春先なのに、朝の明るさは空の彼方にも見えてこない。

 そんな時間帯にいきなりカクリのボソッとした声をかけられたら、それだけでビクッとしそうなモノではあるが、今はそれだけが理由じゃない。



「……ところでシャクナゲ……あなたは何をしてるの?」


「……分かってて聞いてるだろ?」


 こんな時間帯に、着替えや手荷物をいそいそと鞄に詰め込む俺を見て、整理整頓でもしているように見えるワケがない。

 ウチの副官……アオイほどじゃないけど、掃除なんて滅多にしないクチだし。


 現に質問を投げかけてきた側であるカクリもそう思っているのか、その幼さが残る口元を皮肉げに歪めていた。

 それを確認して、俺はまたも嘆息を漏らす。


「それにしても今朝は随分と早い登場だな?カクリ。

……カーリアンは?」


「……可愛い寝顔で……眠ってる」


「そうかい。で?今日は?珍しく1人のようだけど、こんな朝早くに何か皮肉でも言う為にわざわざ出向いてくれたのか?」


「……それもある」


「あるのかよ」


 そんな会話を交わしつつも、開き直り気分で『脱走準備』を整える俺の近くに、彼女は無表情を維持したまま近付いてくると、ペタンとベッドに腰を下ろした。




 今いるこの部屋は、俺の部屋ではない。

 つまり俺個人の私室でもなければ、三班班長の執務室……という名前のボロい小屋でもないという事だ。


 実はまだ第二班の本拠たる廃病院の一室にいるのである。


 ──本来の予定なら、俺は一昨日には現場復帰を果たしていたハズだったのに。


 さすがに骨折をしていたり内臓を痛めていたりしたなら、後一週間やそこらは大人しくすべきだろうが、幸い骨や内臓に異常は見られなかったのだ。

 つまり元より高い俺の治癒力をもってすれば、後は体力の回復次第でしかないという事である。


 何より今は状況が状況だ。

 一班が大ダメージを受けている現状で、俺がのんびりしているワケにもいかないだろう。


 かれこれの理由からしても、3日も休めば休み過ぎなぐらいなのに、もう5日もこの部屋に半軟禁状態で置かれていたりするのだ。


 いい加減フラストレーションが溜まりすぎて、『こうなったら二班の連中が起きてくる前に勝手に退院してやろう』などと俺が考えたのは、昨日カクリから『……明日もシャクナゲは退院不可』と言われた時だった。

 だからこうして脱走準備をまだ夜も明けない内から整えていたワケだが、そんなところ所に全く気配も感じさせずに近付かれボソッと声をかけられれば、思わずビクッと体が震えてしまうくらいは仕方がないだろう。


 それがなんだかんだと理由を付けて、俺を退院させまいとしていた小柄な少女の声だったならなおさらだ。


 まだ陽も明けない内から、まるで俺の考えを読んでいたかのようにフラッと姿を表す彼女に、俺は内心で小さく苦笑を浮かべてしまう。


 ──バレないうちに抜け出そうと思っていたのにな……。


 そんな思いが苦笑を浮かべさせ、嘆息を漏れさせる。

 こんな時間に無断で抜け出すとはまさか思うまい……なんて考えていたのに、この少女──カクリにはお見通しだったようである。


「……今日は手土産持参。……いいからこの報告書を読んで」


「報告書……?なんのかは知らないけど、今日こそは退院させてもらうからな?お前だって毎日毎日カーリアンがここに来て、騒ぎを起こしてたら困るだろ?」


「……別に困らない。……カーリアンのワガママは……私的萌えポイントだから」


「そうかい。黒鉄の副官はみんなどこかしら感性に問題があるよな」


「……そ?」



 そんな会話をしつつも俺は着々と退室の為に手荷物を整え──その横では、カクリがどんどんその手荷物をバラしていく。

 しかもカクリは全くの無表情のままで。


「随分と露骨な嫌がらせだな?」


「……嫌がらせなんて……すごく心外」


「無表情で良く言うよ、全く」


 そんな会話の間も、非生産的ないたちごっこは変わらない。

 俺が手荷物を整え、カクリがバラす。

 俺が無造作に詰め込んだ衣服を、カクリは丁寧に畳みながら脇へと積み上げていく。

 その積み上げられた衣服をまた俺が手に取り──


 そんな無限ループに先に終止符を打ったのは──つまり先に声を上げたのはカクリだった。



「……とにかくあなたは……出ちゃダメなの」


「だからなんで?体調に問題なんかなかっただろ?昨日なんか検査すらなかったくらいだ」


「……それでもダメ」


 その間も両手は休みもお構いもなしに、バッグに詰め込んだ着替えを広げていっいる辺りが、この少女の一筋縄ではいかないところだ。

 そうしているうちに、次第に広げられていく荷物の方がだんだん多くなり──

 その状況に根負けし、仕方なく彼女が示してみせる報告書を手にとる。



 朝方に近い時間帯な事もあり、辺りは暗く月の光すら差し込んでこない。だが、夜目の利く俺には整った彼女の顔がはっきりと見えた。


 その顔付きは幼さを多分に残しながらも、相反する深い知性を感じさせる。

 相変わらずの無表情ではあるが、その表情からは茶化す色は見えない。

 それもまた俺に溜め息を漏らさせた。

 何か理由があっての事なんだろう……そう思わされたのだ。

 まぁ、そんな真剣な表情1つすらもカクリの思惑って感が多少はあったけど。


「言っとくけど、あくまでも退院させないつもりなら理由くらいは聞かせろよ?

カーリアンの暇潰しの相手として……とかじゃ納得しないからな?」


「……カーリアンの暇潰し相手じゃ……不満?……まぁいいわ。……とりあえず読みなさい」



 そう言って詰め込まれていた着替えを次々と出していき、丁寧に畳んで積んでいく少女に、俺はこれ見よがしに溜め息をついてみせると、放り投げられた書類へと目を向けた。

 そして丁寧に作りこまれた書類束の表題を何気なく読み上げる。




「可愛いカーリアンの萌えポイントについて……?」


 ……その謎が溢れ出る表題になんとつっこめばいいんだろうか?軽く首を傾げたまま固まってしまうくらいのリアクションは仕方ないだろう。

 だが、固まったままの俺に対し、カクリは澄ました表情のままその書類を俺から取り上げると、何故か着込んでいた黒無地シャツの襟元から新たな書類を取り出してきた。


「……間違えた。……本物はこっち」


「……どっから書類出してんだよ?それにある意味さっきの書類のが気になるんだがね?」


「……私のライフワークの記録よ。……見たいなら……カーリアンのファンクラブ……紅薔薇会に入りなさい。……あなたなら特別会員にしてあげる」


「ま、考えとく」


 そんな会話を交わしながらも、俺はその人肌の温もりを維持した書類を頭痛のしてきたこめかみを押さえながらめくる。


 カクリと話す時は、大抵この調子なんだと俺は悟っていた。何故か1つ仕込みがある場合が多いのだ。

 それが分かっていたから、俺も深くはつっこまない。


 隣で『人肌の温もりはどう?』とか、『最近のカーリアンについて』とかを脈絡なく話す少女には適当に返し、次々と書類を読み進めていく。



 もちろんその記載内容についてはある程度予測が出来ていた。

 前話していた『裏切り者』──『内通者』についてであろう、と。


 ……まぁ、『カーリアン観察日記』に類似するモノである可能性も、なきにしもあらずではあったけど。



 だがそんな考えはまさに杞憂だった。渡された書類にはおふざけは一片も含まれておらず、丸っこい文字と綺麗に色分けされた表でキッチリとまとめられていたのだ。


 その最後には軽く内容全体のまとめと、現状の『黒鉄』や『カリギュラ』についての考察も書いてあり──





「……なるほどね」


 読み終わるまでにはカクリの考えが俺にも分かった。

 俺がずっと退院をさせてもらえなかった理由も。


「……そう」


「だから俺にはまだ出るな、てワケか」


「……そう。……『黒鉄のシャクナゲ』は、怪我人っぽく大人しくしててくれればいい」


「また大胆な事を考えるね。『警備班』に話は通して──いないんだろうな」


 カクリの澄まし顔を見ながらも、思わず『警備班』のリーダーたる友人に同情の念を抱いてしまう。

 カリギュラの治安を任された第五班のリーダー・カブトは、その見た目とは違い、真面目すぎる性分の持ち主ではあるが、そのせいもあり間違いなく苦労性の青年だろう。

 ……まぁ本当に同情すべき点なのは、自分が苦労性な事に本人だけが気づいていない点なんだけど。


「……カブトは抱えがいのある……いい頭の形をしてる。……それに警備班のメンバーも信用はしきれないから」


「良く言うよ、全く。どうせ今回も『俺の発案』として押し通して、警備班に自分が恨まれないように……とか考えてるんだろ?」


「……シャクナゲは頭がいい。……だから好き」


「……ったく、このタヌキ娘が」



 ウフフと妖しげな含み笑いを漏らす少女に、俺は呆れとそれ以上の末恐ろしさを感じ、肩を大袈裟な所作ですくめてみせた。

 そして了解を示すように書類をヒラヒラと振ってやる。




 その書類の内容は簡単なモノだった。

 要点は、カクリとアオイの2人が調べ上げた『内通者候補』の記載。

 あの作戦時の状況や所属班の位置取りから候補を削り、なおかつ確実に信頼出来るメンバーを限定し、『それ以外のメンバー』を調べあげた『報告書』。

 班の長だから、コードフェンサーだからといった立場的なモノは考慮に入れずに全てを分析し、それぞれの経歴、そして関西軍やエセ将軍、その側近との関係がある者など、その関係性等細かに書き込んだ『書類』。


 もちろん経歴不詳、経歴確認出来ずの者は出来るだけ徹底的に調査しつくし、それら詳細なども細かに書かれた至れり尽くせりなモノだった。


 もちろん全てを読破する時間なんかなかったが、カクリがこうして渡してきたくらいだ。満足のいく調査が出来たのだろうと思う。

 共に調査をしたアオイの性格からしても、不確かなモノを俺まで通す事は考えられない。

 そして調べ上げたからには、それに対する対策が必要となってくる。


 その対策の為に『俺はここに留めおかれているのだろう』と言う事は、カクリが朝早くに『わざわざ1人で』会いに来た事からも想像が出来た。



「またカーリアンには秘密にしてるのか?」


「……ん。……カーリアンは分かりやすいコだから」


 そこが可愛いんだけど、とお決まりのセリフを吐き、彼女はジッと俺を見据えてくる。

 その視線に籠められたモノは明らかだ。


 ──あくまでも『俺の考え』って事にしたいワケね。したたかなモンだ。


 自分に……そして上官であるカーリアンに、誰の敵意も向かないように──そして二班の独断だと思われないように、三班の長である俺からも認可を得たいのだろう。


 まぁ、他にもう一つ理由はあるんだろうけど。


「……好きにすればいいさ。『あぶり出し』だろうがなんだろうがね。俺が動けないと確信が持てれば、『ベネトレイター(裏切り者)』達も動き始めるだろ」


「……ありがと。……アオイは借りたままでいい?」


「三班主体って事で、アオイには協力するように言っておく」


「……ん。……もう行くね?」


 確認が取れた事で満足出来たのか、カクリは畳んだ着替えを脇に置いてゆっくり立ち上がった。

 そしてそのまま歩いていき──部屋のドアをくぐる直前に俺へと振り返る。

 ……冷たい光を宿した瞳で俺を見据えながら。


 そこに年相応の無邪気さや感情などは見とれない。

 その視線は、黒鉄七班の1つ第二班のブレインにして副官としてのモノだ。

そう、それは甘さや無鉄砲さがあるカーリアンを補佐する、冷静さと思慮深さを宿す副官の瞳だった。


「……あなたの賢さは好きよ。……その変種としての力も心強い。……時折怖くなっちゃうわね」


「二班副官のしたたかさには負けるよ」


 そしてそのまましばらく視線をぶつけ合い、一瞬だけその視線が交錯する。

 その瞳は俺の奥深くを探るような怜悧な輝きを放ち──

 ゆっくりと閉まるドアによって、その視線の交錯は終わった。



『いくらあなたでも、カーリアンを傷つけたら許さないから』


 そんな小さな言葉を、確認するような響きで残して──。






「許さない……か。赦しなんて求めてないよ」



 その扉から視線を外すと、俺は無機質で無骨な天井を見上げた。

 なんの飾り気もないただのコンクリートによる平面。

 そこに感じられる僅かな寂しさに、ちょっとした親近感を覚える。

 それを打ち払うように……そんな感慨を拭いさるように口元を歪めてみせる。

 作り慣れた『シャクナゲ』としての笑み──皮肉げに口元を歪めるだけの仮面の笑みを浮かべる為に。


「俺に必要なのは罪と罰。そこに『赦し』なんかが入る余地はない」


 この呟きはきっと誰にも届かない。人並み外れた知覚能力を持つカクリにさえもう届かない。

 だからこそ声に出した。

 声に出さずにはいられなかった。



『カーリアンを傷つけたら──』


 そう言った少女の言葉が胸の奥深くにチクリと刺さっているのが分かる。

 誰かを気遣う少女の言葉。

 その想いの余りに他人を警戒する視線。

 それが少し……本当に少しだけ羨ましく思えたのかもしれない。

 カーリアンがじゃなく、そんな感情のままに行動出来るカクリが。


「……俺はシャクナゲ。ずっとこれからもただのシャクナゲ」


 そう言い聞かせる言葉が──今までも自らに言い聞かせてきたその言葉が、虚ろに病室に響く。

 胸の痛みは変わらない。


 ……それがより、本来の自分は1人っきりなんだと思い知らせてくれたのだった。

番外・都市紹介

カリギュラ……関西地方にある元神杜市という港町。

現・関西統括軍(通称関西軍)が武装蜂起した事件『関西事変』から起こった動乱と、関西軍の侵攻によって廃墟が立ち並ぶ街となった。

通称・廃都。



都市スキル


生産性・C-(自給自足がやっとのランク)


資源・B+(元港町だけあり、資材やかつての廃品など、多数が蓄えられている)商業・D(交流によりマイナス補正)


防衛能力・B+(張り巡らされた地下水道と、廃墟と貸したビル群を使った迎撃戦を使った防衛戦なら、かなりの防御力と遊撃戦が期待できるランク)


人材・A(動乱期の初期から日本各地を回って集めていただけあり、人材だけは優秀)


治安・B(変種、非変種での争いはなく、女性の1人歩きが出来る治安)


交流・D-(地図上は周り中関西軍の都市であり、まさに四面楚歌。反関西軍勢力との交流のみ)


武装・C+(1都市としては豊富と言えるが、1地方軍と比べれば貧弱なレベル)

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