2─38・残されたもの
「あなたにはあらゆる攻撃が効かない。私程度では不貫には傷一つ付けられない。あなたの力は『貫くに不わず』と呼ばれるに相応しいものよ。悔しく感じる気持ちすら浮かばないほどに、あなたと私の間にはどうしようもないほどの差がある」
そう言ってクスッと小さく微笑むスイレン。その笑みは『自分では手も足も出ない』とヨツバに言っているに近い言葉が、まるで信じられないほどに余裕な態度だった。
その態度が決して強がりによるものではない事は、相対する『不貫』のヨツバがその進行を止めた事が証明している。
この不貫は、かつて三班本部に侵入した五班の最大戦力、『幻影のアゲハ』ですらも一人で退けた男だ。彼の歩みを『力で持って止められる』存在などそうはいない。
今は瓦解した関西統括軍の精鋭たる『近衛』でさえ、この凶人を前にすればただでは済まないだろう。それは『近衛殺し』たるスイレンだからこそ確信を持って言える。
どれほど危険な場所であれ……そしてどれだけ多数の敵がいてさえも、この男は全く気にも止めずただひたすらに前進し、全ての敵をその歪の力で殺し尽くしてきた。
ただし彼は、その残虐さ、無慈悲さだけで味方からも『凶人』と呼ばれているワケではない。
恐怖を知らず、怒りを知らず、躊躇いすらも持たないままで、ただ真っ直ぐに敵陣を引き裂くその歪な戦い(生き)方こそが、『二代目』不貫を凶人と恐れさせてきたのだ。
そんなヨツバが、僅かながらとはいえ警戒したかのように前進を止めただけでも、彼をそれなりに知る黒鉄からすれば驚嘆に値する。
それでもスイレンは、そんな些末な事など誇るまでもないと言わんばかりの穏やかな口調で続ける。
「でもね、私と相対しても無傷なままでいられるあなたは、果たして『脳と体、そして本能に刻まれた幻をかいくぐって、三班本部まで辿り着けるかしら』?」
「……辿り着けんかったらあんたの勝ち、やったかな」
そんな余裕な口振りのまま続けられたスイレンの言葉に、ヨツバはどこか面倒そうに首を回し、周囲を見やる。
その動きは時折一点で止まったり、また動き出したりして、まるで辺り一帯にいる誰かをじっくりと見やるかのようなそれだ。
「私の幻は弱いものよ。幻は敵を砕いてはくれない。この身を敵の攻撃から守ってもくれない。所詮は幻、泡沫の夢……まさしくその通りね」
そんなヨツバを前にしても──瞳を伏したヨツバにすら力を及ばせていても、スイレンの言葉にはどこか自嘲するような色が見える。
無力を蔑むような色も含まれている。
それでも彼女の言葉に怯みはなかった。
力を誇る事はなけれど、退く弱さもない。
あくまでもいつもの『水鏡』らしい優雅さでもって、無力な幻だけを味方として凶人の前に立ちはだかっていた。
「でもね、その幻を見せる事で誰かに遅れを取るつもりは毛頭ないわ。
あなたは私が──この国が壊れるずっと前から戦ってきたこの私が、あなたみたいな瞳を閉じた相手と今まで向かい合った事がないとでも思っていたの?」
穏やかながらも、どこか普段のスイレンには似合わない凄惨さを滲ませた口調で。
光を取り入れないヨツバにとって、他の五感で感じ取れる気配というのは生命線。特に聴覚、触覚の役割が視覚に変わっている部分は大きい。
気配を感じる感覚を乱され、聴覚を四方八方からの声で乱され、触覚すらも肌で感じられる光に惑わされた現状では、いかなヨツバとて真っ直ぐに歩く事すらままならないだろう。
いや、光を瞳で取り入れずに生活してきたヨツバだけに、現在の状況は不利が大きいかもしれない。見るハズがない幻、感じるハズがない幻に対する戸惑いも大きいだろう。
夢幻の世界を体全体で感じながら、体全体が惑わされながら、目的地に着く事など不可能に近い。
「あなたを殺せ、と言われたら私には無理ね。命を賭しても無理だと思うわ」
──まぁ、それでもそれがどうしても必要な事なら、なんとかしてみせるだけの気概はあるけれど。
そう心で付け加えながら、幻達を従えた彼女はどこまでも不貫の前に立ちはだかる。
きっと自分は、これからもずっとこんな損な役回りばかりする羽目になるのだろう、そんな事を考えながら。
「でも、時間稼ぎなら出来なくはない。私の力はそういった搦め手の戦いこそが大好物なのだから」
そう言って妖艶に笑うスイレンの気配は、すでに辺りの泡沫に紛れていた。もはやヨツバには自分の気配を辿る事など出来ない……その確信がスイレンにはある。
この周囲は『完全に無限幻想の領域』だ。
周囲が光の一切差さない闇に閉ざされてしまわない限り──あるいは『この世界の光が届かない異界にでもならない限り』彼女の幻は消せはしない。
「……あんたを舐めてたつもりはなかったんやけどな。正直想像よりは上やったって事は、やっぱり舐めてたんかもしれへん。大した力やと思うわ」
しかし、幻に包まれた当の本人たる凶人は、そんな現状にありながらも、全くいつも通りのまま淡々と言葉を吐く。
その声には歩みを止められた焦りも苛立ちもなく、自らが置かれた状態に対しての言葉もない。
ただいつも通り過ぎるほどの口調で──
「でもそれがどないかしたんか?あんたを砕けば幻は消える。それは変わらんやろ」
──自身から広がる防壁で幻を飲み込んでいく。
「普段のあんたの能力は、かなり距離があっても使えるみたいやったけど……今の『これ』はどうなんやろな?」
そして幻を砕いた感触で……自身の『精神防壁が触れた感触』を足がかりに、迷いなく歩を進めていく。
「前にあんた、確か言うてたな?あんたの水鏡が操れる光には限界があるって。脳や思考のスペックを越える幻覚は作れんってな。そやから『気配』を持った幻は使いにくいとも言うてたな?
今の『これ』は大した力や。強力な幻やな。でも、その為に犠牲にしたんは『能力が及ぶ効果範囲』やったりするんとちゃうか?」
ヨツバの防壁に触れても、スイレンの幻は消えない。光は防壁に拒まれない。
ただそれでも消えるものがある。
そう、足を踏み出す大地の感触はわかる。障害物も砕ける。そして触れてしまえば幻の発生源たる女性も排除できる。
『幻は幻』。空間に浮かんだだけの壁では身は守れない。偽物にもなりきれない幻では、絶対に本物の代わりにはなり得ない。
「今のあんたの幻と、俺の防壁。どっちが効果範囲広いんやろな?言うとくけど、俺の力は半径十五メートル四方は逃げ場なんかないで?」
「知ってるわ。無限幻想でもう少しぐらいは面食らってくれるかと思っていたのだけど……答えに辿り着くのが思ったより早かったわね」
──でもお生憎さま。
目前まであらゆるものが砕け散る不可視の領域が迫るのを見ながら、それでもスイレンは笑みを漏らしたままそう続けた。
「大した推理だけどね……しかも『効果範囲を犠牲にしている』って辺りが正解で業腹だけど」
そして先ほどまで展開していた『無限幻想』を解きながら……『不貫をここに留めおく為だけの力』を解きながら、いまだ戦況が見えていないらしい不貫を見やる。
「でもやっぱり私の勝ちね。ナナシはもう地下に入ったわよ」
その言葉に、広がりゆく不貫の精神防壁は、広がりきる事なくスイレンの目の前で拡大をやめた。
それを見て、彼女はネタばらしをするかのように悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「いくらなんでも早すぎると思う?そうね、『彼がここから離れてまだ間もない』ものね。でもその答えは簡単なものよ。
私はね、別に『私の気配だけを幻に乗せられる』ワケじゃないの。例えば……そうね、あなたが最後に感じたナナシの気配、あれがすでに私の幻だったらどうする?」
「ありえん。声もはっきりと聞こえたし、俺には簡単な幻は効かん。つまりそれはブラフやろ」
スイレンの言葉をばっさりと切り捨ててみせるが、ヨツバは新たに歩を踏み出す事はない。
「あら、それすらも私の力による錯覚だとは思えないのかしら?」
「あんたの戦い方は知っとる。あんたが得意としとんのは『精神戦』や。幻の力を自分の口から語って、敵に『自分の認識に対する不信感』を持たせる。そこを突くのがあんたの得意な戦術やろ」
自分にはそんなものは効かないとばかりのヨツバだが、それでも再び足を踏み出さずにいたのだ。
「仲間であるあなたに、そんな陳腐な搦め手が通じるなんて思っていないわ。
それともヨツバ、あなたは『この水鏡のスイレン』が、その程度のブラフであなたを騙せる、と思うようなマヌケな女だとでも思っているのかしら?」
「……せやな、思えへん。あんたは少なくともマヌケやない。バカやとも思ってへん。どこまでもあやふやで無力やけど……あんたは強い人や」
それはあの水鏡のスイレンが──自分とは仲間であり、班内でも一番頼りになる女性が、そんなありきたりな戦術で自分にバレバレなハッタリをかますとは、さすがに思えなかったからだ。それをヨツバ自身がよく知っていたからに他ならない。
何より先ほど自分に見せた幻。あれはヨツバが知らなかった力である。つまり隠し玉だったのだ。
しかし、その力でさえも『彼女にとって最高の力』だとは限らない。
だからこそ、誰にも止められないはずの『不貫』の行進が止まった。
さっき見た『ナナシ』が確実に本物だとは言い切れない。彼女の言葉が嘘だとは言い切れなかったのだ。
「……でも、今すぐに追いかけて狩り殺せば済むだけやろ」
「行きたいならどうぞ。あの人との約束を破って、力でもって好き勝手に生きる道をゆくのなら」
チロッと舌で唇を潤し、自分を見やるヨツバにも、スイレンは肩をすくめるだけで特にその言葉を気にした様子はない。
暗に自分を排除して、ナナシを狩り殺すと言っているのに、だ。
「でもそれであなたの本懐は遂げられるのかしら?あの人の側にいれば、あなたは『意味のある終わり』を迎えられる。自分だけ残ってしまった理由が『あなたにも』見いだせるはずよ。なにしろあの人は、これから起こる騒動の真っ只中にいる人だから」
「……」
なぜなら、そのヨツバの言葉が実行されるなどと、スイレンは欠片も思っていないからだ。
彼にとって一番大事な事は、シャクナゲの──自分に意味のある最後をくれると、そう約束してくれた男の側にいる事だと知っている。
ここでスイレンを殺し、ナナシを殺してしまえば、その立場は間違いなく失ってしまうだろう。
元よりそんな制約がなければ、この不貫を名乗る男の足留めなど『脆弱なる水鏡』には出来はしない。
ほとんど攻撃をしてこず、しても『居場所は分かっている』と言わんばかりの……スイレンなら簡単によけられる程度の攻撃しかしてこなかったのは、それがあったからだと彼女自身が分かっている。
最後の防壁を破壊障壁として広げた力も、殺傷能力自体はしれたものだと確信していたからこそ、彼女は逃げたりはしなかったのだ。
それもある意味では信頼によるものだと言えるかもしれない。
あやふやで、どこか脆さのある、水面に浮かんだ月のごとき信頼関係であったとしても。
「さて、どうするの?あなたがあなた自身の本懐を──生きた死人たる不貫が望んだ最後の意味を捨てて、目先に捕らわれるというのなら……私も本気で覚悟を決めなくちゃならないのだけれど」
「もうええわ。今回は白けた」
「そう」
だがしかし、そんな脆い信頼関係であっても、それが唯一の勝算となり得た。
その脆いものの上で、勝負は最初からスイレンに有利な条件だったのだ。
その有利な条件上でなんとか目的を達せた事に、彼女は心中で盛大に安堵の息をもらす。
彼女は傷つく事を恐れる必要がなく、ただひたすらに足留めにだけ心を砕いていれば良かった。そして生きてさえいれば、いくらでも先がある事を彼女はよく知っている。
その面だけを見ればワンサイドゲームだったと言える。
ただし、今回の勝負には負けていた可能性も多分にあった。それも間違いない。
自分には先があったとしても──死ぬ事はなかったとしても、その結果としてまたあの青年に重荷を架していた可能性があったのだ。
つまり『部下による同僚殺し』という重荷を。
そんな覆し得ない過去を刻んでいたかもしれない。
そう、その面で見れば敗北は十分にあり得た。不貫の行動次第ではあっさりと突破されていたかもしれなかったのだ。
そしてその結末は、不貫が考える『スイレンを殺さない程度』の割合が『無傷』なのか、はたまた『瀕死』なのか、その程度の違いで結果は真逆に変わっていただろう。
ある意味ヨツバの気分に賭けるという、賭けとしてはあまりにも不成立がすぎる条件の賭けに、彼女は勝っただけだと言えるかもしれない。
しかし、彼女からすればそれは賭けなければならない賭けだった。そしていかにナナシが三班本部内の構造に疎くても……なおかつ追ってくる凶人に警戒しなければならない状況でも、『水鏡』としては時間稼ぎごときで負けるワケにはいかない。
「今回の不死身だけはあんたの『警戒』を信じて例外にしとく」
「心配しなくても、彼を先に行かせた責は私が取るわよ。例えシャクナゲの目の前で不死身を殺す事になっても、ね」
面倒くさそうに髪を払うヨツバに、スイレンはクスクスと笑いながら……いつもの穏やかな笑みを浮かべながら、どこまでも不穏な事をあっさりと言ってのける。
──助けたはずの不死身を殺す、と。
害をなす存在だったのなら、自分の手で殺してみせる、と。
彼女はそう言ったのである。
しかしそんな彼女は、いまだ油断なく不貫との距離を測っている。ヨツバに戦闘態勢を向けている。
今はまだ不死身を殺すという選択によるべきではない、そう態度で示すかのように。
ヨツバが一足跳びでは絶対に届かない位置、でも決して自らの疑心を示さない程度の距離を開けていたのだ。
当然『精神の一欠』が飛ばされても、『無限幻想』の余波でヨツバの認識能力が低下している今ならば、なんとかかわせる事まで計算の内だ。
「そんな甘いやり口やったらいずれ後悔するで。この世界はそんなに甘い場所ちゃうんやから」
それでもヨツバは彼女の言葉がごく当たり前の事のように返し、だるそうに肩をすくめてみせた。
──それならやっぱりさっき殺していても良かっただろう。面倒になる前に。
そう告げるかのように。
それをこれまた当然の返答のように受けながら、スイレンはなおも続ける。
「世界の残酷さぐらいは十分知っているわ。かつて私の目が届かない場所で、仲間の全員が意地を見せる為に死んだあの時に、ね」
──仲間だったからひょっとしたら助命されたかもしれない。
誰か一人ぐらいは生きているだろう。同じ『道』を歩いた仲間なのだから。
そんな甘さを抱いた過去を、スイレンは今でも覚えている。
クーデターに失敗した自らの皇を逃す為に──今ではシャクナゲと名乗っている友人を助ける為に、日本中を駆け回っていた彼女は、関西という地に逃亡先のアテを付けて慌てて故郷に舞い戻った。
あやふやではあっても確かな期待と、壊れてしまったとはいえ、長い時を仲間として過ごした者達との絆を信じて、だ。
その結末は──壊れてしまった世界の残酷さを脳裏に刻む結果だった。
「唯一の肉親である弟は、私達の皇の為に──友の為に身代わりとなって、かつて仲間だった毒の皇に処刑されたわ。他の仲間もみんな死んでいた。
私はね、こんな力を持っているくせに、その姿を記憶に刻む事すら出来なかったの」
帰った先に同僚達は誰一人として生きていなかった。
灰色の近衛達十数名以外は、周り全てが敵という中で、無色の近衛全てと一般兵、さらには残されていた他の色のガード達まで相手に回して、必死に血路を開いてみせた。灰色の皇が無色の皇を説得、あるいは討ち取るまでの時間を稼いでみせた。
絶対数で劣っていた灰色の勢力が、死力を尽くして戦ったからこそ、灰色は無色と真っ向から向かい合えたのだ。
そう、自らが仕える灰色の皇では、無色たる絶対毒の皇には勝てないと知っていても、彼等は『道』として……人としての意地を見せて、安逸に世界の流れに身を任せなかった。
狂うを良しとは出来なかった。
最後の賭けに出た仲間達は、全員が全員、誇れる在り方のまま戦い続けたはずだった。それは間違いない。
間違いないのに。
一人として降伏しなかったばかりに……誰一人としてその生き様を曲げなかったばかりに、全てが殺されてしまっていたのだ。
例え降伏しなくとも。
膝を折る事を良しとしなくとも、仲間達の命を賭けた訴えは僅かでも届くだろう……届かなかったとしても、誰か一人ぐらいは助命されただろう。かつては仲間で、本来は今も仲間であったはずなのだから──そう彼女は信じていたのに。
彼女に残されたモノは、『一人生き恥を晒したガード』という十字架だけだった。
「あんたの『灰色時代』なんかに興味ないんやけどな」
「ふふっ、安心して。不幸自慢なんかあなたとするつもりはないわ」
──そんなもの私達には無駄でしょう?
彼女の述懐を聞いても、どこまでも普段通りな同僚にそう告げて、スイレンは小首を傾げる。
それは見る者の心を捕らえてしまいそうな……計算され尽くしたかのような可憐な仕草だ。先ほどの発言の内容からすれば有り得ないほどの柔らかなものだ。
「ただ私も知っていると言いたいだけ。世界の残酷さと、私達人の変種の能力には限りがある事をね。そしてその上で私はこの選択をしたんだと……それはあなたに分かって欲しいの」
そしてその端正な口元を和装の袖で覆いながら、自分と同じく世界の残酷さに心を壊した男を見やる。
背を向け、もはや息をするのも面倒だと言いたげな吐息を漏らす男を。
自分とは違う選択を──脅威を全て取り除き、ひたすら終わりへと走り続ける壊れきった『盾』を。
「俺は変わらん。あんたと次に当たる事になっても変わらん」
「私も変わらない。あなたとまた向かい合う事になっても。でも、私達の関係はこれでいいんじゃないかしらね?」
そしてなんの感慨もなく、またフラフラと目的地もなく歩き出した同僚に、今度こそ彼女は背を向けて、不死身の後を追って三班本部へと向かって歩き始めた。
「あなたとはもう戦いたくないわ」
「俺も面倒なんは嫌いや」
最後にそんな言葉だけを交わして。
三班最強の『脆き剣』と『歪の盾』はその場をあとにしたのだった。
──良かったわ、ヨツバが引いてくれて。自分とは全く別物の他人の気配なんて、所詮幻でしかないものに乗せられるワケがないのよね、実は。
迷いながらも、ようやく三班本部裏口に辿り着いた男の姿を『能力』で見やり、彼女は小さな溜め息をもらす。
自分の能力で相手の考えを乱す、という当たり前の事が……結局はいつもの『やり口』こそが決め手だった事を、少しだけおかしく思いながら。
そして、自分の無力さを補う為にひたすら騙しに走り、何手も何手も搦め手を用いるしかなかった『刃なき剣』は──敵を討つ力を持たない三班の剣は、そっと空を見上げた。
気の早い月が浮かぶ空を。
かつて見た灰色の世界に浮かぶ、真紅の月へと思いを馳せながら。
スイレンやヨツバについて書こうと思ってましたが、今回は見送りで。
本気で携帯調子悪いんすよね。
パソじゃなく、携帯で書くってのはつまらないながらもポリシーだし。
携帯ショップ行ったら休みだからか、人がめちゃ多くて平日に延期。
しばらく更新も困りそう。
慣れてない携帯とかで。