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2─21・幻界の刃と歪の楯






 水鏡のスイレンの能力は、視界を支配する能力である。視覚に影響を与える光を操る能力だと言い換えてもいいだろう。

 その能力は非常に稀少なものであり、変種の多い黒鉄を見渡してもかなり使い勝手のいい能力だと言えるだろう。

 しかしその能力は、周りに知られているほど万全ではない。視界を支配するのにもやはり限界はある。

 彼女自身は自らの能力を、かつての仲間達──新皇のガード達の中でも、最も『欠陥品』な部類に入ると思っているほどだ。


 あまりにも多くの情報を取り入れ続ける為に、ちょっとした『バグ』で能力に乱れが出る。例えば、ふいに一つの場所へと意識を向けすぎた場合などには、他へと向かう能力に対して脳の容量が付いてこなくなるのだ。

 それはこの能力に置いては致命的になりかねないバグであり、肉体的な限界がある以上必然的に出てくる欠陥だ。

 視界と思考に負荷をかける能力である以上……そしていかなスイレンと言えども、脳というスペックに限界がある以上仕方のない事だと言えるだろう。


 今の場合を見れば、ヨツバが最近恒例の夕陽見の時間だから裏門から動かないだろう、という過信があった事は否定出来ない。

 彼は他の何者にも意識を向けず、気が向いた事だけを淡々と惰性で続ける日常を繰り返してきた人間だから、今日に限っていつもと違う行動をするとは思わなかった。

 やはり無意識にスイレンの中に油断があり、過信があったのだろう。

 そんなヨツバだからこそ、特に大した理由もなく、今日に限って夕陽見をしなかったという事も十分に考えられる事ではあったのだから。

 自分自身は過信したつもりはなくとも、結果を見ればそう思わざるを得ず、スイレンは小さく唇を噛み締めた。



「間違えたらあかん。迷ったらあかんやろ。敵に惑わされるなんてあんたらしくないで、スイレン」


「待ちなさい、ヨツバ!」


「待たん。あんたと俺は基本的に同格や。俺が間違えてへんと判断出来る時まで、あんたに従う理由なんかない。

 敵は殺せ。敵になりうる者も殺せ。疑わしきは罰せよ……やろ?」


「あなたの役割は本部の守護でしょう?まだ本部まで足を向けていない相手を警戒するのは、『水鏡』の役目よ」


 サッと鏡像を消し、改めて何人もの鏡像でもって威圧するかのようにヨツバを囲むも、三班の『不貫』には恐れなど微塵もなければ、引く様子もない。

 ただ伏した瞳で真っ直ぐにナナシを見やる。掲げられた腕にも動きはなく、スイレンの言葉にもなんの表情も浮かべていない。


「警戒して、向かってきたヤツを帰してまうんやったら、スイレンの言う『警戒』は甘すぎや。打たれる前に打たなあかん。一回敵意見せたら次もある。

 右の頬を打たれたら左の頬を差し出す、なんて時代はとっくに終わっとる」


「ナナシは……一人で来たのよ?」


 そんな物言いが通じる相手ではない事ぐらい、スイレン自身がよく知っていた。情や意地で心を動かすのは、『感情を持っている者』だけだ。ヨツバに対して感情に訴えるなど、時間稼ぎにもならない。

 当然のようにヨツバは、『それがどうした』と言わんばかりに無情に宣告する。


「一人で来られたら面倒やな。まとめて来てくれたんなら、一遍に済んだのに」


 ──改めて一班の連中を殺しにいかなあかん。

 そう言って、十字を切るかのように指先を振る。

 振るったワケではなく、軽く宙を掻くような仕草で印を切るかのように振る。


「……かっ!?」


 それだけで、隙を窺っていたナナシの胸に『十字』の傷痕が刻まれた。

 全く立ち位置を動かないままで。

 スイレンとの問答を続けながら。

 ただ、離脱の機会を窺い、一気に三班本部へと向かうべく様子を見ていたナナシに、無表情を変えないままで傷を刻む。

 ヨツバがその指先で空を掻き切る度に、鮮血の赤が宙に舞う。


「あかんで、ナナシ。あんたはここで死ぬんや。逃げるなんて許されへん。俺を素通りして先に行こうなんて持っての他や」


「──ヨツバっ!!」


「スイレンは黙っといてんか。手向けの曲が吹けへんやろ」


 慌てて言葉をかけるスイレンにも、ヨツバの指の動きの度に傷が増えていくナナシにも、全く意を介した様子もないままで──レクイエムが紡がれていく。

 その口元からは、流麗な余韻を刻んだ葬送曲が流れていく。


 この曲──ヨツバがこの哀惜に満ちた曲を口笛で奏でるのは、『誰かを殺す時』だと黒鉄のメンバーならば誰でも知っている。

 単に自班の班長に言われた、『誰かを殺した痛みを忘れるな』という言葉と、『奪った命を悼め』という願いに添う為だけに奏でられる、『不貫のヨツバ』唯一の手向け。

 意味を持たない……少なくともヨツバ自身には、儀式じみた意味しか持たない音色。


 その意味を知っていたスイレン──ようやくこの場までやってこれたスイレンの本体は、やむを得ず懐から得物を取り出して威嚇代わりに投げ付ける。

 もちろん威嚇といっても、急所を外して投げたワケではない。出来るだけ注意を惹きつけるように、彼の顔を目指して投擲した。

 もちろんその程度の攻撃で、『貫くをあたわず』と呼ばれた楯が、なんの痛痒も覚えない事ぐらいは理解していた。

 いかに百発百中でも、所詮メスはメスだ。どれだけ鋭い刃物でも、突き立たないのでは傷を負うはずがない。

 目と喉、そして口内へと突き刺さるべく飛んできた刃が、キンと甲高い泣き声を上げて砕けるのを気にも止めず、ヨツバはゆっくりとその顔をスイレンへと向けた。


「……容赦ないんはええけどな、相手見てからにしぃ。あんたは俺に勝てん。知っとるやろ?」


「知ってるわよ、それぐらい。でもね、あなたが絶対に破らない『決まり事』を止める事は出来たわ。

 ──口笛、止まってるわよ?」


「……つまり俺はナナシを殺す。あんたはその邪魔する。そういう事やな?」


 人体を切り裂く為の刃は幾つもの微細な欠片に砕け、落ちたそれはあっさりと踏みしめられる。ヨツバの面倒そうな表情を崩す事も出来ない。

 それどころか、みるみる内に傷が塞がっていくナナシを、なおも傷つけようとその細い指で宙を掻いてみせる。


「ちっ……」


 その所作にナナシは小さな舌打ちを漏らしつつもその場を飛び退きながら、先ほどまで自分がうずくまっていた場所から少し先にあった地面が、十字に切り裂かれるのを見た。


「ナナシ、ここは一旦引きなさい……と言いたいところだけれど、一班の本部になんかに引いたら、ヨツバがそのまま追っかけていっちゃうわね」


「……あの野郎、『不貫の楯』って呼ばれるぐらいだから、生半可な攻撃が効かないのは知ってたけどよ、風の刃みたいなもんまで操ってやがんのか?それにしちゃ、傷を受けた時に衝撃がなかったんだけどな」


 血にまみれた服を気持ち悪そうに引っ張りながら、ナナシは油断なく身構える。

 今でもスイレンに気を許してはいないだろうが、ヨツバよりも話が通じる事は明らかだ。それでも思わず問いかけるような口調になってしまうのは、いかなナナシでもやはり混乱しているからだろう。


「これは秘密なんだけど……と言っても、単に秘密にしてたのは、あまりにもとんでもない能力だから、周りにこれ以上警戒されたくなかったってだけなんだけれど、ヨツバの能力はね、『精神防壁の物質化』よ」


「精神防壁の物質化、って言われても分かんねぇよ」


「……つまりね」


 あっさりと……むしろ堂々とした態度で返すナナシに、スイレンは疲れたような溜め息を漏らしながら補足を入れる。


「人間が持つ精神っていうのは、他の人間や環境の影響を受けるものなのだけれど、最低限の自己保存……自分を守る機構があるの。自分の存在が揺らぐような出来事や記憶から、自分が壊れないように働く機能を持っているのよ」


「それが?」


「彼の能力はその『精神の防壁』を現実的な壁として現せる能力なの。しかもその壁は、現実の力を防ぐ能力を持っているけれど、基本的には人間のメンタルな部分に属するものなのよ。

 つまり、彼の壁は現実の力からその身を守る為に働くけれど、『現実の力ではいかなる物であっても壊せない』のよ」


「……なんだそりゃ」


「さっきあなたを傷つけたのも、指先から飛ばされた精神の防壁の欠片よ」


 ふらふらと歩み寄ってくるその足取りに力強さはない。そんなものはヨツバには必要ない。

 なにしろ彼は、勝手に守られて、思うだけで力を飛ばせるのだから、肉体的な強さなどは関係がないのだ。

 力強い歩みでもって威圧する必要もない。


「不貫のヨツバはね、純正型じゃないけれど……それは確かなんだけれど、その能力だけを見れば半ば純正型みたいなものなの。むしろ普通の純正型などよりもよっぽど厄介な能力者よ」


 対して言葉を紡ぐスイレンの口調には重さがひたすら増していく。目の前にいる、仲間であるはずの男をその紺の瞳で見据えながら。

 ヨツバの身体中に膜を張るかのように張り巡らされた、不可視な『精神の防壁』を見据えるかのように。


「彼には物理的な能力では傷一つ付けられないわ。彼を傷つけられるとしたら、現実の理から外れた力──純正型の力か、カーリアンの『紅』ように『あらゆるものを燃やす』という、別の理にも似た働きを持つ能力だけ」


「俺にゃ傷一つ付けられない、ってか?」


「いいえ、勘違いしないで。それでも過小評価が過ぎるわよ。

 あなただけじゃなく、銀鈴とウチの長以外では彼に傷一つ付けられないと言っているの。

 カーリアンのような制御の甘い能力も、碧兵の雷ですらも彼の壁は越えられないわ」


 ──もちろん私の力も瞳を閉じたままのヨツバには、対して効果はないわね。


 そう続けながらも、スイレンは思考を巡らせていく。

 不貫のヨツバは、間違いなく今の黒鉄という組織では最高位の戦士だ。過去にも彼と並ぶほどの黒鉄はほとんどいない。

 いや、恐らくは誰もいないのではないかとすらスイレンには思える。

 今は亡き黒鉄にも、『深緑』や『双刃』、『飛炎』や『初代・不貫』など強い力を持つ者はたくさんいた。

 その中でも『錬血』と呼ばれた女性は、その能力の強力さと身体能力の高さ、頭の回転や精神の強さといった全ての面に置いて、スイレンを凌駕しうる能力を持っていた。

 特に『剣匠』、あるいは『ソードライダー』とも称される理由となった彼女の能力は、戦闘に特化した錬血固有の力だ。似たような力を持つ者は他におらず、『物質の精製』と『使役』という二つを合わせ持った能力は、それぞれの面に置いても最高水準の力を誇っていた。

 自分はおろか、戦闘向きの力を持っている『七班のガード達』ですらも、彼女には勝てなかったのではないかとスイレンは考えている。


 それでも、不貫の能力には及ばない。

 不貫のヨツバの力は、物理的な力では絶対に傷が付かないのだから。

 どれだけ強力な力を持っていても、どれほど策を巡らせても、物理的な攻撃では傷一つも付けられない……そういった類の能力なのだから。

 『自らの感情を燃やし、対象に問答無用で炎を発露させる』といった特殊かつ固有の概念がある能力か、もしくは『あらゆる力を具現化する』、『力も理も拒絶する』といった、『現実とは違った内から現れる世界の理』に依る能力でなければ、ヨツバの『精製防壁』は越えられないのだ。


「……仕方ないわね」


 そこまで考えを巡らせると、本当に仕方なさそうに、どこか諦めが入ったような口調で彼女はそう言い──より自らの鏡像を増やしていく。そしてヨツバに向かい合ったままで、ナナシに向かってその白い手のひらを振ってみせた。




「シャクナゲは裏口から入って、右手に真っ直ぐ行った突き当たりにある階段を降った先にいるわ。そうね、地下三階辺りで待っていなさい」


「あん?」


 スイレンの言葉の意味が分からず、思わず呆けた口調で問いかけるナナシに、表情を隠すかのようにその口元を浴衣の裾で隠してみせながら彼女は続ける。


「ヨツバはね、地下に入っちゃいけないって決まっているの。彼はそうやって行動範囲を決めておかないと、気分次第でどこにでも行っちゃうから」


「何が言いてぇんだ?」


「……分からない人ね。仕方ないからあなたのやりたいようにさせてあげると言っているのよ」


 霧に霞むように、水鏡に滲むようにその姿を増やしていきながら、スイレンはさっと掲げたその指に新たなメスを携える。

 細く白い指の合間に挟みこんだメスは、ゆっくりとその姿を霞ませていき、すぐに見えなくなってしまうが、孕んだ緊張感は微塵も薄くなりはしない。


「……シャクナゲが出てくるまでそこで待っていなさい。三階から先には行っちゃダメよ。結果的にはあなたの望みを聞いてあげるのだから、それぐらいは約束してくれないかしら?」


「待てよっ!なんで行かせる気になった?テメェはあいつの味方だろうがっ」


「味方、ね」


 ナナシの言葉に対するスイレンの呟きは、自嘲するかのような響きで。

 それが彼にも感じられて、思わずナナシは口を噤んでしまう。


「味方でいたいわ。これからはずっと……二度と裏切らずに仕えていたいと思ってる。

 二度とあの人に勝手な期待を押し付けずに、ありのままの彼を受け入れられる仲間に……私はなりたい」


 悔恨というにはいまだに生々しい感情が含まれたその言葉に、一体どれほどの想いが込められていたのか、それはナナシには分からなかった。

 分かったのは、その言葉から彼女が一度だけシャクナゲを裏切った事があるという事だけ。あるいは『裏切った』と彼女が思える過去があるという事だけだ。

 そしてそれを今も深く後悔しているという事だけは、その声音から嫌でも分かってしまう。


「あなたを行かせてあげるのはね、あなたは今もまだ、彼にとっては味方だから。ヨツバに殺させるワケには絶対にいかないからよ」


「勝手な事、言ってんなよ」


「……私はね、例えどれだけ深い絆がある仲間であったとしても、絶対に分かたれる運命がある事を知っている。でもね、二人ともが生きてさえいれば、仲直りをする機会があると私は信じたい」


「……ちっ」


「行きなさい、ナナシ。会って八つ当たりでもなんでもしてくればいい。

 頑固なヨツバは私がしばらく留めてあげる。地下に入ればあなたの勝ち。私が立てなくなるまでに地下に入れなければ、あなたと一班はここでゲームオーバー。分かりやすいルールでしょう?」


 辺りに流れ出る霞は、ゆっくりとスイレンの気配を周辺へと広げていき、その姿を乱反射させたかのように無尽蔵に増やしていく。目が眩むような光を孕んだ力は、視覚に幻界を現界させ、今まであった光景を支配していく。


 全てのスイレンの像は全く同じ動作をしていたが、歪んだ空間が鏡像の彼女をぶれさせ、霞ませて、まるで万華鏡の中に紛れ込んだかのような光景へと辺りを変えていた。

 一種の異界じみた世界。

 それは偽りの世界だと分かっていても、視覚にだけ頼ったのなら限りなく本物に近いものだ。


 ──水鏡のスイレン。

 光を操り、視界を支配するとまで言われるその力は伊達ではない。

 その能力を知っていたナナシですらも、思わず息を呑むほどの『幻の世界』。それは幻想的というよりも、むしろどこか蠱惑的な印象を受けた。


「スイレン、あんたに俺の命令権はないように、俺にもあんたの行動を縛る権利なんかない。考え方の相違ってやつがあったんなら……我の通し方は一つやな」


 それでもヨツバは気に留めた様子もなく、幻界の中へとあっさり一歩を踏み出した。瞳を閉じていても、辺りに拡散された気配や感覚に異常ぐらいは感じているはずなのに、その歩みには躊躇いといったものが一切感じられない。


「あなたの融通の効かなさは頼りにもなるのだけれど、何事にも限度というものがあるのよ。ここで一班を完全に敵対関係だと認識するのは、その限度を踏み越えているわ」


「……知らんわ。考えるんは俺とちゃう。俺は考えたりせぇへん。どの道その幻を引き裂いて、俺が不死身を殺せば元通りや」


「あら、あんまり幻を甘く見ちゃダメよ?人間は幻覚に狂って死ねる生き物なの。あまり力を過信してオイタが過ぎると……お仕置きじゃ済まなくなるわよ」


 僅かな衣擦れの音もなくスイレンの鏡像達は刃を構える。その指先に煌めく刃の色は見えずとも、攻撃の意志が刃となって辺りに満ちる。

 置いてきぼりになった事に憮然となっていたナナシは、その気配に軽く頭を振るって我に返ると、小さな舌打ち混じりにヨツバを迂回するような形で走り出した。


「……ここは借りといてやる。三階だな?」


 今の自分がすべきなのは、ここでヨツバの相手をする事ではない、そうナナシは考えた。スイレンならばヨツバの仲間だ。殺される事もないだろう。

 しかし、自分が戦って負けてしまえば、一班の仲間の命運も尽きてしまう。

 仲間達は降伏する事も和睦の手段も誇りすらもなく、敵ではなく仲間である者達と戦い、黒鉄に大きな傷痕を残す。

 それは自らを『親分』として慕う子分達の事を思えば許されない結末だ。


「ええ、あの人は絶対に戻ってくる。待っていなさい」


「ちっ、言っとくがな、シャクナゲにゃ手加減抜きで思いっきりいかせてもらうからなっ!?ボコボコにしても文句言うんじゃねぇぞっ」


「えぇ、精々思いっきりやってあげてちょうだい」


 駆けていくナナシに──『八つ当たり』として、思いっきり『ボコボコにする』というだけの不死身の背に、スイレンは口元に笑みを刻みながら小さくそう呟いた。


「実は私もね、ちょっとだけ腹に据えかねていた事があるのを思い出したわ」


 周辺を幻で包み込み、四方八方を動き回りながら刃を飛ばし、上空からも刃の雨を降らせつつ、構わずナナシを追おうとするヨツバを抑える。

 刃の攻撃力を用いてではなく、その刃に載せた殺気じみたものと、拡散した自らの存在感でもって、ナナシへの道を塞ぎながらも彼女は笑っていたのだ。



「あの人ったらね、心配していた私に……ずっと側に仕えてきた私に『足手まとい』なんて言ったのよ?

 自分ばっかり勝手に重荷を背負ってしまうところも、本当はずっと不満だった。

 だからね、シャクナゲ。八つ当たりじみた意趣返しぐらいなら……私も構わないでしょう?」


 『灰色の皇』に仕え続けてきた『眩惑光后』として。

 『黒鉄』になる前からの最も古い友人として。

 そして今は容赦を知らない同僚の唯一の抑え役として、戦闘の為としては久々に全力で力を解放しながらも、彼女はそんな事を口にして笑っていたのだ。


人物紹介・ヨツバ1



不貫のコードを持つ三班のコードフェンサーで、二つ名よりも悪名の方が多い問題児。

彼の前にも不貫と称されたコード持ちはいた為、二代目・不貫と呼ばれる事もある(ちなみに初代・不貫に関しては、第一部のラスト……将軍との戦いの最中にシャクナゲが使った能力として少しだけ記述がある)。

その悪名で一番有名なものが『盗賊殺し(ロバーズキラー)』というもので、その名前からも黒鉄随一の武装盗賊殺しとして知られている存在。


首筋までかかるライトブラウンの髪と、細面に白い肌を持ち、細身で整った顔から女性とも紛う整った容貌の持ち主だが、その異質な存在感からか黒鉄の仲間達からは距離を置かれている。

それは血塗れで帰還してもケロッとしている辺りや、敵に対しては全く容赦しない様だけではなく、彼が発する空気に人間らしい感情が見て取れない為。

口笛が非常に得意で、高価な楽器を使っているかのような流麗な音色を奏でる。

シャクナゲの言葉にしか従わず、彼に考えを依存している様子は見て取れるが、完全に従いきっているワケではないのか、はたまた単に力加減が適当なのか、何事にもやり過ぎる場合が多く、シャクナゲやスイレンに頭を抱えさせている。



その能力についての詳しい詳細は、いずれ書く『人物紹介・ヨツバ2』に譲る。




スキル


能力・A+(珍しさや異常さだけで言えば純正型にもひけを取らない。思考、あるいは精神を半ば物質として顕現させる能力。『半ば』であるだけに、その顕現した精神の力は物質による作用は受けない……つまり物質からの影響を隔絶するという反則じみた附加効果まで持つ。精神の力を防壁として使い、現実の力を受け付けない領域を作るという点を見れば、『半純正型』ともいえる。ただし、彼の性格上か、はたまた能力の仕様なのか戦闘にのみ特化している為利便性は低い。それゆえにランクはマイナス補正)


身体能力・B-(能力の仕様上、身体能力はあまり戦闘に関係ない)


直感・C+(本能的に敵対者を察知するすべに長ける。例えば今回のナナシみたいに、近くに敵と認識した存在がいる場合などにのみ発揮)


無関心・A(無感情でプラス補正)


無感情・S


容赦のなさ・S(とにかく徹底的。敵対者は完全滅殺、完全殲滅主義)


問題児・(容赦のなさでプラス補正)


口笛・S(楽器を使っていると錯覚するほど。たまにスズカも遠くから聞いていたりする)



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