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2─18・夜の狩人は天使に魂を捧ぐ






 ──テメェで責任も取れねぇような真似はしねぇ。だから、誰か他人を背負い込むような真似もしたくねぇ。


 それが彼の在り方の全てだった。一人で能力を振るって、自分の身は自分だけで守り続けて。

 台頭する『道』、革命軍に対しても一歩引いて、勝てない喧嘩からあっさり背を向けて、それなりに毎日を過ごしてきたのである。


 ──ほんの五年ほど前までは。


 五年ほど前に、二人連れの女に出会うまでは。


 彼は革命軍と敵対はしていなかったが、味方もしてはいなかった。出来れば関わり合いにすらなりたくなくて、接触を極力避けていたほどだ。

 ふらふらと各地を回っていた時は、下手に刺激しないように気を付けていたし、各地方へと革命軍が侵攻を開始した時も、出来るだけ各地の主要都市からは離れた場所で生活をしていた。

 久々に関東地方に帰還し、ひとまずの寝床として古ぼけた公民館に居座った時の事だった。人気のない事だけを理由にその場所を選んだのに、時を置かずしてそこに同じく寝床を求めてきたらしい二人の少女がやって来たのだ。

 最初は人の気配に警戒した。

 それは当然だ。今のご時世、にっこり笑ったままナイフを突き出してくるような人間はどこにでもいる。だから彼は最大限に警戒しつつ様子を窺った。

 こっそり覗いた先にいたのは、金色の髪を持った白磁のごとき肌を持つ美しい少女だった。

 しかし、彼女はただの可憐な少女ではない。その気配は、明らかに荒事に慣れた変種のそれだ。

 関東で荒事に慣れた変種とは、つまりは彼が接触を避けてきた『革命軍』縁の者である可能性が高く、革命軍所属の変種という事は、幾度も武装した国軍との争いを越え、場数を踏んだ能力者だという事だ。

 その日本人離れした容貌から変種である事は間違いなく、その気配からそれなりの地位を持つ幹部連である事も悟った。

 何より、その片手に軽く担いだ小型の回転鋸──いわゆる小型のチェーンソーが怖すぎた。


 ──ヤバいな。


 そう思った事を、彼は今でも覚えている。

 あれほど華奢で、小柄な体躯でありながら、相応以上の場数を踏んで無事にいるという事は、能力に特化したタイプの変種である可能性が高い……そう判断したのだ。

 身体能力に優れた変種は、やはり体格的に恵まれた者が多い。もちろん全ての変種がその限りではないが、小柄な少女には肉体的な強さを持つ変種独特の体捌きは見て取れなかった。

 あのチェーンソーだとて、ひょっとしたら彼女の能力を活かす得物なのかもしれないし、到底油断の出来る相手には見えない。

 何より、『皇』ではないだろうが、純正種である可能性は捨てきれない。周りには護衛共がいる可能性もある。

 面倒を起こしたくなかったし、首都圏全域を掌握し、そう遠くない間には関東地方全てをも支配下に入れ、やがては他地方にも遠征するであろう革命軍と争えば、居場所も故郷も失ってしまう。

 それが分かっていたからこそ内心で舌打ちを漏らし──その金髪の少女が、警戒していた雰囲気を和らげ、にっこりと微笑む様を見て呆気に取られてしまう。


 距離はそれなりに離れている。

 その少女は公民館の向かいにある小さな神社の境内におり、彼はその少女を警戒して公民館の二階に身を隠しているのだ。

 こちらは建物の中であり、二階という高所も取っている。向こうが気づくハズもない。

 しかも間には小さな広場が開いており、肉眼で確認した彼とは違い、その少女がいかな変種であっても気配に気付く位置関係ではない。


 そう訝しがっていた彼の視線の先で、金髪の少女はヒラヒラと境内の奥に向かって手を振ってみせる。

 動きやすそうなハーフパンツと、シックなデザインながら、やたらとフリルの付いたワンピースを翻しながら。

 その視線の先に彼も注意を向けて──



 ──彼は天使に出会った。



 天使の翼のように、光を反射して煌めく灰銀色の髪。

 白磁よりも艶やかな真珠のごとき肌。

 どこか怯えたような仕草が初々しくて、今の汚い世の中に存在するにはもったいない何かであるかのようにも思えた。

 先に表れた金髪の少女も、かなりハイレベルの美少女ではあったが、もはや次元が違う可憐さだった。

 ハイレベル(高水準)ではなく『ハイエンド(最高峰)』。

 比べられる存在などいないのではないかとすら考えた。


 ──古ぼけた神社を憐れんで、天使が舞い降りた?

 今の混沌たる世の中に、スレにスレまくった彼が半ば本気でそう思ってしまったのだから、その衝撃は計り知れない。

 何にであれ誓って言えるが、欲望を向けたワケではない。そんな対象にはならない。

 彼は自らの欲望を向けたのではなく、その少女に心を奪われたのだ。


 そして……彼は今までの彼にはあるまじき行動に出た。

 いきなり目の前に出向いて心の内を述べたワケでも、眼前にかしずいたワケでもない。彼にとってはもっと意外な行動だった。


 ──こんな世の中で、あんな目立つ二人が旅をしているなんてワケありだろうか?

 ──理由がないワケもないか。ならばツレがいる?

 ──しかし、そのツレと落ち合うまでに何かあったりしたら、そのツレはどうするつもりなんだ?

 ──今の世の中にゃ、人買いなんてザラにいる。むしろこの辺りじゃ堅気の方が少ないぐらいだ。誰であれ革命軍か、それ以外のどこだかに所属してる。もしあの子に何か間違いでも起こったら、そのクソなツレはどう責任を取るつもりなんだ。


 そう心配になって。

 金髪の少女がかなりの能力者であっても、その手に握る凶器がいかに凶悪でも、やはり心配は消えなくて。

 自らのモットーを一度だけ捨てる覚悟で、その二人の安全を確認出来るまで付いていく事にしたのだ。


 そのモットーは五年近くも捨てたままになるなどとは思いもよらずに。

 自らの行動が、端から見れば『お節介なガーディアン』などではなく、『見知らぬストーカー』である事には気づかないままで。






 二人の少女は気の向くままに旅をしていた。まさに気の向くまま、足の向くままに首都圏を周っていた。

 金髪の少女は銀色の少女にかしずくように仕えていた。かと思えば、ビクビクした様子のある銀色の少女の手を引っ張っては、振り回すかのようにして歩き回ってもいた。

 あちこちで避難民達のキャンプを遠くから観察してみたり、壊れた名所を回っては無断で寝床にしたりと、まさに誰かに憚るところなく好き勝手をしていたのだ。


 金髪の少女はどこまでも楽しげに。しかし辺りを厳重に警戒する事も忘れずに。

 銀色の少女は、その金髪の少女の奔放さに少しだけ困っているかのような笑みを向け、それでも特に文句を付ける様子もなく。

 何度か金髪の少女に存在をバレかけ、回転する鋸刃と轟くエンジン音に泡を食って距離を取った事もあったが、問題らしい問題も起きなかったのだ。


 革命軍のベースキャンプに深夜無断で入り込んだかと思えば、食料やら飲料やらを山ほど盗み出したりして、ヒヤヒヤさせられた。

 金髪の少女は楽しげに。

 銀色の少女はおっかなびっくりで。

 かと思えば、前日の夜に忍び込んだ部隊が関所を置いている箇所を、わざわざ堂々と通ってみせたりして、関東一帯に勢力を広げている革命軍を嘲笑うかのように振る舞っていたのだ。


 ──見ているこっちの方が寿命が縮まる。


 そう思った事も一度や二度ではない。

 もちろん思わず駆け入ってしまいそうになった事もだ。


 どんな状況でも金髪の少女は笑顔を向けて。

 ならず者に囲まれていても、ただ銀色の少女の一歩前に出て、文字通り唸る刃で威嚇し、その能力で追い回し、それでも変わらず頼れる笑みを後方の少女に向けていて。

 銀色の少女も不器用に……最初は無表情にしか見えなかったほどに微かに笑って。

 時には困ったように、あるいは戸惑ったように、苦みを含んでみたりしながらも笑っていて。

 見れば見るほどに異様な二人組で、見ているだけでも気が休まらない。


 こんなご時世だ。女の二人旅がいかに危険かぐらいは、ローティーンの少女でも知っている。どうしても出かけなければならない際も、精々多数で寄り合い、革命軍に話を通していく事が最低限の自衛となる。


 それでもこの二人みたいに綺麗に着飾っていれば、ハイエナはどこからともなく群れてくるだろう。あるいはまだ統制が完全に整っていない革命軍の下っ端が、女の二人旅である事から邪で薄汚い欲望を向けるかもしれない。

 顔を汚し、髪を汚し、ボロを着る事もまた立派な自衛なのである。

 それなのにこの二人──特に金髪の少女は、ことさら着飾ってみせ、銀色の少女にもお洒落をさせようと色々な服を押し付けていたのだ。

 銀色の少女が唯一本気で嫌がってみせたニット帽だけは、形を変え色を変えしても毎日被っていたが、服は日ごとにコロコロと変わっていた。

 スポーティーなパンツルックの時もあれば、ゴシックロリータ調の服もありして、その傾向には枚挙に暇もない。

 見かけてからおよそ十日ぐらい経った頃には、金髪の少女はゴスロリ調、銀色の少女は動きやすいパンツルックと方向性が定まっていたが、共に自らのルックスを隠すつもりはないらしい。


 ──やれやれだ。


 心底そう思っていながらも、どこか微笑ましい気持ちにもなってしまう。


 そして苦笑を浮かべている自分を自覚して我に返ったのだ。

『俺は一体何をやってんだ!?』

 そう、自らの今の状況を顧みて、思わず頭を抱え込んで転がり回りたくなる。


 ──なんで年の離れた妹を、離れた所から見守っているつもりになってるイタい兄貴みたいな真似してんだ!?


 そう思って自らを自嘲し、後悔し、反省して。

 それでも離れ難くあり、付いていくのは元の地域……精々が二人を見つけた場所の近くまでと決めた。

 これ以上は変質者だ、と。

 十分変質者に類似する行動だという事は、なんとか頭の片隅に追いやりながら。



 この二人が革命軍の関係者である事はわかっていた。革命軍の関所は顔パスであったし、国軍がまだなんとか頑張っている区域には近づかない。

 革命軍に所属するベースキャンプや関所では、下っ端からびっくりするぐらい低姿勢で迎えられていたし、部隊長クラスの連中まで慌てて顔を見せに出ていた事もあった。


 ──あの銀色の少女は、『皇』と呼ばれる革命軍でトップクラスの連中の関係者か何かで、金髪の少女はその護衛か何かなのだろう。しかも金髪の少女自体も幹部なのではないか?


 そう彼は考えた。

 時折寄ってくるハイエナ共を散らしていたのはいつも金髪の少女だったし、銀色の少女は今にも泣き出しそうな表情で震えていただけなのだから無理もないだろう。

 その考えが間違っていた事を知ったのは、彼がその二人から離れると決めた場所に近付いた時の事だった。


 いや、ある意味では彼の考えは間違っていない。銀色の少女は、革命軍のトップもトップ、『灰色の皇』の妹分だったのだから。

 だが、銀色の少女が『守られるだけのか弱い存在』だと考えていたのは、決定的かつ絶対的な間違いだった。



 最初に二人を見つけた場所でそれを思い知らされる。運悪くそこには、革命軍の内情を知る為に入り込んでいた国軍の諜報部隊が居たのだ。

 確かにそれなりに開けた場所でありながら、障害物となる物が幾つもあるそこはなかなかの立地条件だったのだろう。

 なおかつ公民館という場所は、付近の詳細な地図まである上、そこが革命軍との前線からはそれなりに離れた位置にあったのも都合が良かったに違いない。


 そこで二人は敵勢に出会ってしまって……戦闘になったのだ。


 金髪の少女は障害物に隠れながら桜色の霞を纏い、小さな猛卒達を使役して懸命に戦った。近寄ってきた存在には、獰猛に唸る刃を振るって血飛沫を舞わせる。

 様子を見ていた彼も思わず駆け入り──ようやく出番かと気張って力を振るう。

 これで俺は単に付け回していただけの野郎じゃない、と思わず喜び勇む。


『あなたね、ずっと付いてきていたのは』


 そんな金髪の少女の言葉に、『やっぱり気づいてたか』と思わず苦笑を浮かべながらも、誰かを背に戦うなど久しぶりで、後ろで怯え、涙をポロポロと流しながらオロオロとする少女の為に、容赦なく自らの能力を解放していく。

 バカデカい拳にナックルガード付きのナイフをはめ、殴り飛ばし、刃で切り刻む。


 しかし相手が悪かった。

 決定的で致命的に相手が悪かったのだ。

 相手は首都圏を追いやられた国軍が、北陸地方で実験的に編成した、『強力な変種』ばかりが集められた虎の子の実験部隊だったのである。その部隊のテストとして、彼等は最適だったのだろう。

 少人数で強力な変種。これほど革命軍に対してのテストとして、おあつらえ向きな相手もいない。周りに革命軍がいない事もあってか、怯む事も退く事もなく向かってきたのだ。

 そして何より最悪なのが、その中には純正型が何人かおり、『長尾まりあ』──やがて北陸に勢力を築く『北陸地方の皇』までがその部隊にはいた事だ。


 いかに金髪の少女が纏う桜色の霞が、他の純正型を抑えようとも。

 どれだけ男の能力が、他の変種達の能力を上回ろうとも。

 決定的な差がそこにはあった。

 後に皇と呼ばれる『長尾まりあがいた事』、その絶対的な差があった。

 その差は刻一刻と如実に現れ、やがてどうしようもない結果として見えてくるだろう。


『逃げなさいっ!スズカ』


 それが冷静に戦力を測っていた金髪の少女にも分かり、そう声をかけても後ろで震えている少女は首を振るだけで。


『とりあえず先に逃げときな。後で合流すりゃいい!』


 そんな男の言葉にも、涙の浮かんだ瞳を向けていて。

 決定的な差はやがて三人を押し包みそうになる。どうしようもない力の差に流されてしまいそうになる。


 そして十数人に囲まれながらも善戦していた二人の内で、キツい闘いを強いられていた金髪の少女が、ついに力を使いきれなくなり、不可視の力場に包まれそうになって──




『あ、あっ、ああぁぁぁぁぁ────!!』


 守られていただけの少女が。

 守られていたハズの少女が。

 か弱くて、儚げな存在だった少女が。


 その泣き声混じりの叫びと共に、か細い背に翼を広げている幻想を誰もがみる。

 銀色に煌めく、雪原のような世界を敵味方の全てが幻視する。

 その翼に見えたものは、銀色の少女が勇気を振り絞って二人の前に出る際に『力を使って』蹴り上げた粉塵で。

 その白銀の世界を見たのは、自分の為に戦ってくれている二人以外を弾き飛ばす、圧倒的な斥力が舞い上げた塵芥で。

 そして弾き飛ばされたニット帽から流れ出る、灰銀色に煌めく髪の色で。


 ──その細い腕を突き出しただけで、致命的に傾き過ぎた戦況をひっくり返した。

 あっさりと決まりかけていた結末を覆してみせた。


 最も厄介な存在だと分かったのだろう、長尾まりあに一気に肉薄し、『世界』と『世界』をぶつけ合い、『領域』で『領域』を殺し合い、その他有象無象を拒絶する。

 ここにいた変種達の中では、長尾まりあに続くであろう、金色の少女と褐色の青年の能力すらも。

 他の連中など、その能力ごと肉体をも弾き飛ばしてしまう。

 呆然とする二人と、辛くもその力を受け止めた長尾まりあを除いて。


 まさに圧倒的に反則的で。

 泣きながら、怯えながら二人の前に立った姿は魅力的で、今まで見た全ての存在の中でも究極的に美しかった。



 入り込んでいた諜報部隊はなんとか撤退し、時間を稼いでいた長尾まりあも逃げ去った後、銀色の少女は慌てたようにその頭を抱え込んでいた。

 小さな嗚咽混じりに、怯えを滲ませた仕草で。

 そこにある歪な突起、角のようにも見える『証』を必死に隠すかのように。

 そしてあちこちに視線を這わせ、頭から脱げてしまったニット帽を必死に探す。

 それは偶然か……あるいは必然の産物として、彼の前に落ちていて。

 戦いで腕に負った傷をそのままに、ただ銀色の少女を見ていた褐色の青年の前に落ちていて。


 彼女はおっかなびっくりといった、どこかビクビクした雰囲気で、ゆっくりと近づいていく。

 近づく度に、一歩ごとに、その紺碧の瞳に大粒の涙を湛えていきながら。

 そして必要以上の時間をかけて落ちていた帽子を拾うと、少しの逡巡の後こういったのだ。


『……だ、大丈夫? 痛くない?』


 その拾ったばかりの帽子を軽く叩き、いまだに血を流す青年の腕にあてがいながら。

 見られたくないのであろう『証』をさらしながら、必死に血を止めようとぐっと抑えてみせた。止め処ない滴を、紺碧の瞳から零していきながら、それを拭う仕草もしない。

 ただ『大丈夫?』と繰り返し、『痛い?』と聞いては、自らが涙を溢れさせていく。


 ポロポロと涙を流しているのは、怖かったからだろうか?

 あるいは、見られたくないものを見られた羞恥心からであろうか?

 それは彼には分からなかった。分かりようがなかった。

 それでも……そんな些末事よりも、ずっと大事な事が彼には分かったのだ。




 ──あぁ、俺の力はこの子の為に授かったんだ。


 そう思った。


 ──こんなひねくれ者の俺が力を持って産まれた事には、こんな理由があったんだ。


 そう確信した。


 ──今まで誰かの為に力を使う気になれなかったのは、今日この日の為だったんだ。


 そう今までの自らの在り方に感謝した。


 ──この子と出会った時に、感じたものは間違っていなかったんだ。


 それが彼の真実となった。



 そして彼……酒井典斗(さかい・のりと)は、その出会ったばかりの天使に名を名乗り、自らの全てを捧げて守ってみせるとの誓いを立てた。

 今までの矜持もモットーも置いておいて、共に行く願いをかけた。

 自身の身を持って、能力を使い潰して、この優しく小さな天使の望みの全てを叶えてみせる、そう自らの道を定めた。

 それは一目惚れだとかそんな大袈裟な理由ではない。単にその存在全てに魅了され、惹きつけられ、心の全てを奪われただけなのだから。


 やがで『白銀の楯』と呼ばれ、場所を変え『夜狩』と称された男は、こうして新たな在り方としての産声を上げたのだ。



 ちなみに。

 怯えたように、でもどこかキョトンとした風情で見上げてくる少女の証ごと、その頭をゆっくりと撫でようとして……近くにいた金髪の少女に思いっきり脛を蹴り上げられたのが、いずれ相棒となる少女からの最初の蹴りだったりする。

 それから何年も経ち、今までに数百回はローキックを食らっているのに、一度たりともかわせていないのだから、この時から三人の間で明確な序列が出来ているとも言えるだろう。

 もちろんその事に彼は不満などない。口ばかりは不満を漏らしてみせても、それがこの三人の在り方なのだから。





「おら、もっと飛ばせよ。お嬢に早く会いてぇんだ。スピード違反の馬車馬のごとく飛ばしやがれ、このストーカーロリコン童貞野郎」


「ツッコミ所は山ほどあるけど、とりあえずなんだ、そのハイスペックな変態ぶりっ!?」


「童貞は変態じゃないですよぉ?今シュテンのアホはぁ、無謀を剛毅と履き違えてぇ、世界中の童貞を敵に回しましたねぇ〜」


「あんまりテメェが童貞押しだから、ついうっかり……って、お前にゃ言われたくねぇよっ!?」


 もちろん、色々あって『こんな風になってしまった相棒』には、もうちょっと気遣いぐらいしては欲しいかもなぁ、などと思うのだが。


 ──結局帰りも俺が運転だしな。


 そう愚痴を漏らしながらも、彼はそれなりに満足して『シュテン』となって。

 『ヌエ』の相棒となり、スズカの楯となって、今も側にいる。

 いつかは、なんの気兼ねもなく、この三人ぽっちの仲間であちこちを旅でも出来たらなぁ……などと、割と地味な未来を夢見ながら。


完璧番外編風味満載ですね。

というか、二部では初めてに近い完璧な過去バナな感じです。

童貞疑惑のある彼が、実はロリコンストーカー童貞野郎疑惑のある彼にアップした話。

なんか思いっきり『ヌエ』さんの力がバレそうですが、これでも善処したのです。

むしろ今回の話は、すらすら書けたのに、その『善処』にはやたらと時間がかかったという。

まぁ、明記はしてませんから。

それに彼にも桜色が『見える』って辺りが、設定上おかしいでしょう?


これ以上は完璧ネタバレになるので自粛します。


お知らせでも書いた、別サイト様で完結済みのファンタジーを、こちらでもリメイクしてあげる予定で暇つぶしがてら作業していますが、なかなかはかどりませんね。

一年以上前に完結した話で、予想以上に手直しに手間かかる。

まぁ、それでノクターンのアップに支障が出る心配はないですけど。

何しろ年内アップ分は書けてますから。

この話を更新予約したのは……つまりこれを書いているのは、12月4日だったりしますし。

シンフォニアも結構書けましたし、アンクロもそこそこいけてますし、マークは……まぁ『頑張りましょう』評価ですけど。


といった風に、あとがきらしいあとがきをしてみました。

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