2─16・牙を持つ狩人は西に在りて
黒鉄第七班、通称『遊撃班』。
この部隊は、黒鉄唯一の純正型変種であるコードフェンサー『銀鈴』が率いる集団として、有名な部隊である。
その班の役割は主に、他班の要請に応えて戦力面で支援する事がメインであるが、大規模な戦闘においては、少数でもって敵方の後方に現れて、攪乱や物資の破壊など不正規戦を行う事も請け負っている。当然危険な任務であり、重要な役割だ。
それほどの困難な任務を可能としている事からしても、銀鈴の能力の高さは当然疑いようもないが、それはまた他二人のコード持ち……『牙桜』と『夜狩』の能力の高さもまた証明していると言えるだろう。
いかな銀鈴とて、一人で幾つもの任務を請け負えない。個人で部隊の代わりになる事は難しいのだ。
それゆえにこの二人のコード持ち達が、かなりの実力者である事は黒鉄達にとって常識だった。
敵地のど真ん中でも、銀鈴の足を引っ張らない程度には賢く、敵方を混乱に陥れるほどには強い。それが遊撃班の二人に対する評価だ。
それなのに、この二人についてよく知っている人物というのは驚くほどに少ない。それどころか、今までに支援を受けた他の班であれ、七班のメンバーについて知っている者は皆無といってもいいぐらいだ。
陰ながら支援された班は、いつの間にやら敵方からの圧力が減じていた程度の感しかなく、七班に掻き乱された敵は、一体何が起こったのかすらも分からないまま蹂躙された。
『牙桜』のヌエと『夜狩』のシュテン。
七班の活躍の裏に、この二人の影がある事は間違いなくとも、この二人がいかに活躍をしたのかを知る者はいない。
彼等をよく知る存在は少なく、知っている者達もまた、全員が揃って彼等に一定の距離を持って接する。
それは三班の副官であるアオイ然り、水鏡のスイレン然り、そして五班の幻影を持ってしてもまた然り。
だから七班という班が、コードフェンサー三人だけしか所属していない、たった三人きりの班である事を知る者はほとんどいない。七班の在り方やその情報の少なさから、班としては最小の規模である事は予想出来たとしても、まさか三人しかいないなどと考える者はいない。
その実績に裏打ちされた能力の高さから、少数というイメージよりも先に、強さが目立つという理由もあるだろうが、一つの班の仕事を、たった三人きりで充分にこなせるほどとはまさか思いもしないのだ。
まさに少数精鋭に特化した最大の異能集団。
それが黒鉄第七班・遊撃班なのである。
その数少ない構成員である二人は、混乱の最中にある廃都を離れ、山都で狂人を待ち受けるべく東へ向かった銀鈴の元をも離れ、二人っきりで廃都よりさらに西へと赴いていた。
それはスズカが廃都を離れるよりも早く。シャクナゲと将軍の決着よりもさらに早く。アオイが西へと意識を向けるよりもずっと前に。
ただ自らの主である銀色の少女の考えとその願いに従って、たった二人きりしかいない銀色の守護者達は、周り中敵地である中国地方へと来ていたのだ。
「さて、俺らはこれからどうしよっか?」
「わたしはぁ、早くお嬢のとこに帰りたいかなぁ〜」
「いや、お前がどうしたいのかは知ってるし、その点については特に聞いてもいないんだけどな」
二人連れの男女が、切り立った崖の上から、眼下に広がる鉄筋コンクリート造りの建物を見やっていた。
コンクリート剥き出しの粗悪な造りのモノから、煉瓦を模したタイル張りの綺麗な造りのモノまで、その数は合計で十を軽く越えている。元々それらは、山を切り開いて作った単なるビル群の跡だ。
不景気打開の為の事業の一環として、山を切り崩して開拓した一角。建設を終わったモノから建設途中のモノまであるのは、その一角が未完成のまま開発が終わったからに過ぎない。
その地域はすでに、国の支配する地域ではないのだから、仕方がないとも言えるだろう。
現在その辺り一帯は、とある勢力が本拠地として利用し、高く堅牢な壁で外界から覆っていた。
「『学園』は相変わらず『学園』だな。やたら分厚くて高ぇ壁と鉄格子に囲まれてて、見てるだけでクソ息が詰まりそうだぜ。そん中でこのクソな時代に見合わねぇほど平和ボケしたヤツら。ホント、いつ見ても箱庭めいてて不気味なモンだ」
「……帰りたい。お嬢、お腹を減らしていないかなぁ〜?一人が寂しくて枕を涙で濡らしていないかしら?東海のマッド野郎に泣かされてたりとかぁ〜?
あんの野郎、もしお嬢を泣かしたりなんかしたら──三枚に卸してすり潰してやる」
──学園。
中国地方に地盤を持つ勢力の中でも、瀬戸内海沿岸を抑える瀬戸内水賊衆とは対照的に、山辺の地方都市一帯に力を持つ地方勢力で、学園の通り名の通り教育機関を自称している勢力である。
水賊衆と共に、関西統括軍の侵攻の元に屈しはしたが、共に敗北して膝を折ったワケではない。色々と制約はあるモノの自治権を与えられ、勢力をそのまま維持しているのだから、その地力は大したモノだと言えるだろう。
もっとも黒鉄もアカツキがいた当時には、同等以上の条件──破格といってもいいほどの条件で降伏を勧告されてはいた。しかし、当時のトップだったアカツキは、寸刻も迷う事なく蹴ってみせたのである。
その為に、関西以西二大勢力『関西統括軍』と『黒鉄』は長くぶつかり合ってきたのだ。
学園も水賊衆も、黒鉄とは違う選択を選んだ勢力ではあったが、特にこの二つと黒鉄がぶつかり合う事がなかったのは、これらが西に面した勢力であるという事が大きな理由であろう。つまりこの二つは、西に追いやられた日本という政府に対する抑えと、いずれ九州や四国へと侵攻すべき時に使われる力として、将軍から見込まれていたのだ。
その為に関西地方の争いからは一歩引いた位置に立っていたのである。
もちろん、黒鉄を相手にこの二つに助力を頼めば、自らの無力さを晒す結果となり、以後扱いにくくなるという理由もあった事も間違いない。
「クソ平和そうで結構なモンだ。黒鉄が関西軍と長く戦り合ってきたから、西に向かう余裕がなかっただけだってのによ」
「学園なんてどうでもいいよぉ〜。どうせここのヤツらはぁ、この場所以外どうでもいいんだろうしぃ〜」
「まぁ、そう言わず見てみろよ、ヌエ。平穏にくるまった陰気くせぇ場所だと思わねぇか。このパチモンくせぇクソ平和ぶりは見てて寒気がするぜ」
男にヌエと呼ばれた少女は、ひらひらのレースが編み込まれ、ゴテゴテと飾られたドレス調の服を翻しつつ、仕方なさそうに一瞬だけ崖下を見やる。その肌は白磁のように白く、髪はフランス人形を思わせる金色で、服装と合わせて精巧な人形じみた可憐さがあった。
サイドポニーテールにまとめられた髪は、稲穂を思わせる黄金色に煌めき、彩る青い瞳はサファイアを彷彿とさせる輝きを放っている。その瞳に仕方なくといった色をありありと浮かべながら眼下へと視線を向ける。
しかし彼女は、小さく肩をすくめるだけで返し、すぐさま視線を東へと向け直した。
「平和で結構ねぇ〜。いつまでも平和でいて欲しいわぁ〜。例え全身から整形感が滲み出すあばずれ女みたいにぃ、ブラフやフェイクにまみれたモノであってもぉ、美と平和ってやっぱり尊いモノだものねぇ〜」
「……本気で適当だな、おい」
つまらなそうに学園を見やっただけで、すぐさま恋しそうに東を見る少女に、男はげんなりとした様子を隠す事なくそう言うと、自らも面倒臭そうな溜め息を漏らす。
本当は彼とて、少女と同じ心境なのだ。こんな場所の監視なんかしていたくはない。
命を聞くべき仕える主であり、妹みたいに保護すべき存在でもあり、背を預けあう戦友でもある銀色の少女に頼まれなければ、正直な話こんな辺鄙な場所には来たくなかったぐらいだ。
辺鄙なだけではなく、不気味な場所でもあるのだからなおさらだ。
「こんな仮初めの箱庭なんかよりぃ、お嬢の方が心配なだけよぉ〜。まぁ、学園を守ってる『委員共』に見つかってぇ〜、帰るのが遅くなったら嫌だなぁ〜とは思うけどぉ〜」
「俺は委員共に見つかる事なんかより、お前が委員共相手に騒ぎを起こす事の方が憂鬱だっての」
面倒そうに、憂鬱そうに、でも心ここに在らずな様子で語るヌエに、男は溜め息一つ漏らしてガシガシとタオル地のバンドで覆われた頭をかきむしった。
平均よりも小柄なヌエと比べれば、ウェイト面で二廻りはありそうな大柄な身体を、青いスタイリッシュなジャージと黒いタンクトップに包んでおり、見るからに体育会系を現した風貌をしている。濃い灰色の髪と褐色の肌は、どことなくアラブ系の血を思わせるが、その顔立ちは平均的な日本人のそれだ。
横に並ぶ少女と見比べると、見るからに正反対の印象を抱く事だろう。
「ま、ここにゃお前の『子供』を残しときゃいいだろ。さっさとクソ水賊共の監視にでも行こうぜ」
面倒臭そうに、そして仕方なしといった感を多分に滲ませながらの男の言葉に、ヌエはにっこりと極上の笑みを浮かべてみせる。
どこまでも穏やかでありながら、どこか嗜虐的な光を放つ不可思議な瞳を、暗く輝かせながら。
「……ねぇ、シュテン」
「なんだよ?」
「──×××野郎が勝手に方針決めてんじゃねぇぞ、コラ」
そしてその笑みのまま、見事に爪先を立てたトゥーキックを男の脛へと叩きつけた。少女の細い足首からは想像も出来ないほどに、見事な角度を誇ったその蹴りは、叩きつけるというよりも突き刺さるといった方が的確かもしれない。
「──ってぇンだよ!つかなんでテメェがいきなりキレてんだよ!今のやり取りのどこにキレるポイントがあったってんだ?」
「わたしは帰りたいってさっきから言ってんだろ、×××か、てめぇは!こんな事してる間に、万が一お嬢の可愛い顔に傷でもついてたらねじ切るぞ、コラ」
思いっきり差別用語を叩きつけながら、脛を抱えてうずくまっていた男──シュテンの脇腹に、容赦の欠片も見受けられない蹴りの連打を叩きこんでいく。
「だからいてぇつってんだろっ!なんで俺にキレんだよっ!だいたいな、これはお嬢の頼みで引き受けた仕事なんだぞ?」
「ンな事知るかよ、テメェ一人でこなしゃいいだろうが。一人遊びは得意だろ?年中女日照りなテメェにゃ、見合った仕事じゃねぇか。この腐ったさくらんぼ野郎っ!」
しゃがみこんだシュテンと、憤然と体を反らすヌエの視点は中空でぶつかり合い……そのまま言葉もなく、ヌエはその細い指先二本をシュテンの目へと突き出した。
「危ねっ!つかお前にゃやっちゃいけない事とか、道徳観とか、容赦とかないのか!?昔からの同僚に対して無言で目潰しとか、人間としてアウトだろ!」
「座りこんでるのにぃ、わたしと変わらない視点というのが目障りだったんですぅ〜。次こそはしっかり潰しますねぇ〜」
「はい、アウト!アウト過ぎる!何がアウトって、猫被ってるのに発言の内容変わってない辺りがアウトっ!」
次々と目潰しを繰り出していくヌエと、それをギリギリでかわしていくシュテンは、ほぼ同時に距離を取ると、これまたほぼ同時に『チッ』と小さく舌打ちを交わし合う。
シュテンの目の真横に、ヌエの指先が貫いていった痕である血のラインが引かれている辺り、先ほどのやり取りに手加減はあっても容赦がなかった事が見受けられる。
ヒュンヒュンと空を切る指先には、躊躇いというモノが見えない。
「クソっ、なんて女だ。大体な、これは元々はお前が……お・ま・え・がっ!その力を見込まれて頼まれた仕事だろうがっ!俺は付き添いを頼まれただけだっての!」
「あん?それはあれか、テメェはわたしにお嬢からの頼みを断れって、そう遠まわしに言ってんのか、おい。死ぬか?童貞なまんま、女への妄想と幻想だけを抱いて死ぬか、コラ」
小さな拳をキュッと握り締めながら、スッとごく自然にヌエが距離を詰めれば、シュテンが同じ分だけ距離を取る。完璧な上下関係に見えなくもないが、この程度ではまだ掛け合いの域を出てもいない。
ヌエにはヌエの、シュテンにはシュテンの距離感があり、長い間をかけて折り合いを付け、作り上げた関係がこの状態なのだ。
割を食っているのが主にシュテンなのは、彼の方がまだ責任感と常識を持っているからに過ぎない。
少なくともそれがシュテンの言い分であった。
もちろんヌエからすれば、ヌエなりの言い分があるのだが。
「女へのクソみたいな幻想なんざ、テメェのせいでまるっきり壊れ尽くしてんだよ、この二重人格女っ!つかな、出会った頃からもう五年は経つのに、いまだに二言目には童貞童貞言いやがってっ。ンなのとっくに卒業したわっ!」
「……見え透いた見栄って哀れですぅ〜」
「見栄じゃねぇっての!哀れんだ目で見んなっ、このリアルサイコスリラー女っ!」
「……下僕その二が、あんま舐めた口聞いてんじゃねぇぞ」
「誰が下僕その二だよっ!コロコロ人格変えやがって」
「お前だよ、この祖チン野郎。ちなみにお嬢の下僕その一はわたしですからぁ〜」
「なんで下僕宣言をそんなに誇らしそうに言えんだよ」
──まぁ、お嬢の手下なのは否定しないけどよ。
そう呟いて……これまた大きな溜め息を一つ漏らすと、仕方なく降参とばかりに両手を上げた。
二人がモメた際、銀色の少女がとりなさない限りは、折れるのはいつもシュテンの方だった。ヌエが我を折る相手は、上官でありお気に入りでもある銀鈴か、ずっと昔……ここよりもずっと東の地で、彼女が仲間として認めた銀鈴の兄だけだ。
何より彼女にふてくされられては、この仕事は非常に厄介な事になる。ヌエの支配する『子供達』がいなければ、二人という人数の壁は越えられない。
先も言ったが、彼もさっさとやる事を済ませて、出来るだけ早く帰りたいのだ。一応自らの目で見ておいて、後は彼女の子供達に監視を任せてしまいたいのである。
「ちっ……しょうがないですねぇ〜。シュテンの×××野郎を苛めても早く帰れるワケじゃありませんしぃ〜」
──ならするなよ。
とは思ったが、その言葉が地雷であるのは明らかなので黙殺し、無能を見るような嘲りを含んだ瞳で見やる彼女に、小さく肩をすくめてみせる。
「でもぉ私の子供達はぁ〜、そう長く使役出来ないって事を忘れちゃダメですよぉ〜?」
「分かってる。三日も保てば、少しは片付いてんだろ」
「まぁ、『ちょっとキツくすれば』七日はいけますけどぉ〜」
「なら余裕綽々だろ。そんだけあれば、少なくとも黒鉄のヤツも自由が効くようになるだろうし、動きも取れるようになる」
──そして黒鉄と呼ばれているあの男が陣頭指揮に立ったなら、街の争乱もすぐに終わる。
そう心の中で付け加えて、力を──甘い『匂い』を拡散させていくヌエを見る。
彼女が……『牙桜』と呼ばれるコードフェンサーが、『子供達』を使役する為に使う誘惑の芳香が、一瞬だけ霧のように浮かんだ淡い桃色の霞を広げていく。
「おいで。獰猛にして勇猛なる、毒の剣持つ愛し子」
その霞が消えると同時に……十を遥かに越える振動音が空気を振るわせた。
そのバイブレーションを思わせる幾つモノ『羽音』が、空間を掻き乱す。
「……なにもさ、そんな物騒な子供を使う事ぁないだろ」
現れたのは小さな体躯を持ちながらも、屈強と勇猛を誇る兵団。
虫族最強にして、集団を作る生物としては屈指の攻撃力と連携能力、殺傷能力を持つ毒虫の王。
「この子達が一番相性がいいんですぅ〜。か弱き乙女を守る騎士様はぁ、やっぱり強くなくちゃあダメでしょ〜?」
「どこにか弱い乙女が……ってなんでもない、なんでもないから、そんな極上の笑顔で俺を見るな」
──大雀蜂。
その子供達は、見事な統率力でもって、他の昆虫はおろか同じ雀蜂の種をも餌とする絶対の補食者達の群れだった。
たった数十匹でもって一つの蜜蜂のコロニーを……何万匹もの弱きモノを全滅させるほどの猛卒達。何百倍モノ体積を持つ人間をも死へと導くほどの毒を持ち、恐れも躊躇いもなく他者を攻撃する獰猛さも持つ、日本在来種のあらゆる生命体の中でも最強の種族。
また、時速約40kmで飛翔することができ、一日約100kmもの距離を飛翔する能力まで持っている飛翔兵だ。
しかも彼女が呼び出した子供達は、幼子の手のひらほどもある異様なサイズだ。それがにっこりと聖女のごとく微笑むヌエの周りを飛び交っていく。その様は、ヌエが先ほど言ったように、さながらあらゆる外敵から姫の身を守る騎士のようにも見えなくはない。
「この子達ならぁ、他の子達に食べられちゃって、観察が出来なくなるってオチもないしぃ、早駆けさせたら一晩で廃都にも連絡がいきますしぃ〜」
「分かった、分かったからこいつらを離してくれ。うっかりで刺されたらマヌケ過ぎる」
「……相変わらずヘタレですねぇ、こんなに可愛いのにぃ〜」
ねぇ?とばかりに小首を傾げて、辺りを舞う子供達に手をかざすと、にっこりと微笑んでみせる。
その笑みは、まるで森の中で無害な小鳥にでも手を差し出すように緩やかなモノであったが、手を向けた対象が対象なだけに、シュール過ぎる光景にしか見えない。
「我が愛し子よ」
そして先ほどよりも濃い桃色の霞を発すると、彼女の子供達は辺りへと散会していく。
使役者である、異能の魔女の命に服する為に。
「さて、行きましょうかぁ〜。提督ちゃんはぁ〜、学園よりもず〜っと好戦的ですからぁ」
「はぁ……、なんで俺はお前みたいな怖い女と組んでるんだろうな」
「早く来ないとぉ、子供達に追いかけてもらいますよぉ。
……まっ、一回あいつらにブスッと刺されてみりゃ、バシッと上下関係ってのが分かるかもしれないけどよ」
牙桜のヌエと夜狩のシュテン。
銀鈴の剣と楯。左右の腕。兄貴分と姉貴分でありながら、弟分と妹分。二人っきりの『ガード』。得体の知れないコード持ち。
彼の二班副官や、六の副官でさえもその正体を知らず、三の副官でさえ藪をつついて蛇を出したくないとの考えから、距離を置いているほどの存在。
それが牙桜であり、夜狩。
彼等を端的に現す言葉は幾つもある。ただし、それら全てを知る者は決して多くない。
彼等はいつも他班の影に潜み動く者であり、陽の目を見る事はない者。否、正確に言えば、陽の目を見る必要もなく、彼等は任務はこなしてきたのだ。
その異能者の中でも特異である能力を使い、白銀に従う『牙』を持つ『狩』人として。
彼等もまた、銀鈴と共に始まりよりある黒鉄でありながら、それすらもよく知られてはいない。いつから彼等が黒鉄にいたのかも、強力な純正型である銀鈴の影に隠れてしまっているのだ。
そんな彼等が、黒鉄として存在してから四年経ち、ようやく動きを見せ始める。
黒鉄の意思も暁の遺志も寄せ付けず、ただ銀鈴の想いと願いを叶える為だけの存在として。




