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2nd Prolog──運命毒と威厳の花

はい、二章更新です。

従姉妹の結婚式やらなんやらで、更新は土曜日に。

すっかり忘れてましたよ、結婚式がある事なんて。


それはともかく二章。題して『Requiem of No-Fate』。

最初なので前書きもありです。三人称です。頑張って書いてます。でもおかしな箇所があったら教えてやって下さい。

今回のあとがきは初っ端からですが『ノルンズアートで作られた造物(武器)について』。

よろしければ感想等頂けたら幸いです。

では、長々と続くでしょうが、二章もよろしくお願いいたします。


来週は『マークオブブラックメタル』の一話を上げる予定です。

こちらも思っていたより面白くなりそうなので、よろしくお願いいたします。





 ──このページが最後になるだろう。お前の手元にこれが届く頃には、俺の命の残高は底をついてると思う。悪いな。


 古びた一冊の日記帳は眠っていた。

 黒い革張りのカバーと、かつての持ち主の手垢が僅かについたページ。年季を感じさせるそれは、長く陽に当たる事なくずっと眠り続けてきた。

 もう書き手も読み手もなく、その存在を思い出そのものとして、ただ在り続けてきたのだ。


 ──最後の最後、こんな時にこういった書き出しはズルいかもしれない。卑怯だと思ってくれても構わない。

 最後にどうしてもお前に頼みたい事がある。お前にしか頼めない事があるんだ。

 これをちゃんと後に託さなきゃ悔やんでも悔やみきれない。死んでも死にきれない。


 その最後のページの冒頭から滲むのは、深い悔恨と重い言葉の羅列。

 もう持ち主がいなくなったそれは、親友であり相棒であり共犯者でもあった男に預けられ、ずっと眠り続けてきた。

 持ち主が得てきた数多の思い出をその中に秘めて。

 最後のページには滲むような悔恨を載せて。


 ──色々厄介事を任せて、散々振り回して、最後の最後まで日記という形を使ってこんな事を頼む俺を、お前はいつか恨むかもしれない。憎まれても仕方がないと思う。

 だけど忘れないで欲しい。覚えていて欲しい。

 もし俺がいなくなってしまう事で『黒鉄』が歪んでしまったのなら、お前は俺が遺した全てを捨ててしまっても全然構わないんだという事を。

 全てを捨ててでも守りたいモノや、叶えたい想いが出来たなら、お前はお前として生きてもいいんだという事を。

 俺が言った言葉の数々に嘘はない。それだけは真実のモノなんだと信じて欲しい。


 最後のページにあるモノはたった一人にだけ向けた言葉の羅列。そこだけは日記というよりも、苦い思いを残した遺文だった。

 それまでのページには日頃何を思っていたか、どんな辛さや楽しさがあったか、どれほどの後悔があったかを書き残してある。確かにそれだけを見れば日記と言える存在ではあっただろう。

 だが書き手のいない今では、それは後から自分で読み返す為の日記ではなく、あらゆる意味からも誰かに遺した遺文だと言える。


 ──だけど、だけど頼む。どうか頼む。お前がここを去る時にはどうかアレを壊して欲しい。他の全ては捨て置いてくれても構わない。全てを背負う必要なんかどこにもない。でもどうか『ノーフェイト』だけは壊していって欲しい。


 ノーフェイト……。

 その言葉を記した文字だけが明らかに震えていた。その事が何よりも、この日記を書いた人物の思いを雄弁に語っているだろう。その単語に不吉さを感じざるを得ないだけの苦渋が見て取れる。


 ──前に一度、あれの破壊に失敗した事は覚えている。あれの怖さも俺には分かるつもりだ。

 でも親友、これはお前にしか任せられない。お前以外には出来ないと思う。

 『四番』を持つアオイや、スズカでもきっと『あの災厄の一番』には届かない。持ち主がいないままでも、お前の『灰色』でなければあれは壊せない。


 そのページがわずかに波打ち、文字が少しふやけて見えるのは悔恨の証だろうか。それとも最後の生命を振り絞る想いの欠片なのだろうか。

 そして『ノーフェイト』という存在を、なるべく代名詞で補って書いてあるのは恐怖ゆえだろうか。

 それは誰にも分からない。

 書き手もなく、読み手が封印してきた隠された日記には、もはやその想いを汲み取る者すらいない。


 ──俺はお前と会えた事を後悔しない。こんなに早く幕を閉じる事を恨んだりもしない。犯した罪の重さや、残した贖罪の重みで俺はきっと地獄に落ちるだろう。でもそれは構わない。笑いながら無限の苦しみにも耐えてやる。


 その筆跡には力強さがない。むしろその文字からは、どんどん力を失っていく様が垣間見えてすらいた。それでも自らの意志と『たった一人』に向けた真摯な想いだけは、ページを経るごとに強くなっていくように感じられる。


 ──それでもたった一つ後悔があるとすれば、自分の想いを裏切ってまで力を望んだあの時の事だ。たった一人恨む存在がいるとすれば、お前と初めて会う時に『念の為』と自らに言い聞かせて、アレを作った時の臆病な自分だけだ。


 今までの日記中では強さを見せた。優しさも見せた。おおらかさや厳しさも見せたし、甘さを見せた箇所もあった。

 しかし、はっきりと弱さを見せたのは、この最後のページだけだ。はっきりと後ろを向いた記述を残したのは、最後の最後だけだった。


 ──頼む、親友。俺が遺してしまった災厄を、お前の手で刈り取って欲しい。『災厄(俺の弱さ)』を『自由(カブトの後悔)』のように眠らせて欲しい。

 抑制器たる『威厳』を捨てて、お前が憎む『灰色』の力を一度だけ……たった一度きりでいいから、俺の過去の後悔の為に貸してくれ。

 残酷な事を言っているのは分かっている。これを書いた瞬間から、間違いなくお前には俺を恨む権利がある。

 でも、誰も近付かないように防衛本能を組み込んだ災厄は、その防衛本能ゆえにいつか甘い運命毒で人々を侵す。人々を取り込んで留めてしまう。

 あれの破壊は、災厄の怖さを知っているお前にしか頼めないんだ。


 そう締められて……少しだけ間が開いた。僅かに何かを逡巡するかのように。


  ──最後に。

 『恭順』と『希望』を残す。『自由』を破壊して以来、ずっと造らないできた『力を秘めた造物』。それの四番目と五番目だ。

 この二つはお前の為だけに残す。

 『恭順』は今これを書いているこの時も、お前の為に戦ってくれている男の元に。

 『希望』は、これからもきっと戦い続けるであろうお前の未来の為に。

 悠莉、俺はお前を信じてる。お前には俺みたいな陳腐な幕引きは絶対に似合わない。

 生きられるだけ生きろ。

 死ぬその瞬間まで足掻け。

 俺の生命を代価にする事で作った礎を、いつかは笑って越えていけ。

 今日からお前が最初の黒鉄だ。お前はもう一人じゃない。最初の一人で、その後に続く者達がたくさんいる。

 忘れるな、お前の命はもうお前だけのモノじゃない。

 中途半端にこっちに来やがったら、ミヤビ達と一緒に追い返してやる。

 お前なら俺の弱さを越えてくれるって信じてる。向こうに帰る時には、俺達の想いも連れていってくれるって信じてる。

 いつか在りし日の明日は、お前のその目で見つけろ。

 灰色の呪縛はお前自身の手で乗り越えろ。

 俺達はもう十分背中を押してやったはずだ。あとは真っ直ぐに歩いていけばいい。

 忘れるな。お前は一人じゃない。もう一人っきりの孤独な皇じゃないって事を……絶対に忘れるな。


 そう締められて、そのページは終わっていた。

 後悔と苦悩と悔恨と。

 それらの後、最後の最後に大きな希望を残して。




 ──運命毒の鎮魂歌

 Requiem of No-fate──






シークレットクランからサルベージされた情報の追記。

『ノルンズアートで造られた武器について』


最初に造られたのは『災厄』と呼ばれるノーフェイト。戦う力を持たないアカツキが、万が一新皇が狂っていた時に備えて造った武器であり、自分が使う為に造った唯一の武器であるらしい。

災厄と呼ばれるのは、新皇に対抗する為に大きな力を付与されている為でもあるが、大き過ぎる付与の力に、使用者自身もその力の影響を受ける事が理由として上げられている。

すなわち変種特有の『力を使う事への衝動』を受けるらしい。

しかも並みの変種が受ける衝動よりも強かったようだ。

それを恐れた為、アカツキ自身がその力に魅せられないように、自律型の防衛本能までも付与されているとの記載があった。

その為か、その破壊ですらも容易ではなく、かつて宵闇のシャクナゲが一度破壊に失敗している。

その防衛本能、少しずつ滲み出す力の欠片を封じる為、現在では黒鉄第三班の本部地下深くに厳重に封印されているとの事。

なるほど、生活環境としては最悪な、地下の駐車場を本部とする理由の一端はそこにあったようだ。



二番目は『シャクナゲ』。シャクナゲという個人と区別を付ける為の型番として、『威厳』とも呼ばれる。

ノルンズアートで作られた全ての造物の内では、唯一付与された能力ではなく、使用する為に必要な代償を目的として造られたモノ。

型番の『威厳』とは、石楠花の花言葉から。


三番目は『リバティ』。

自由を関する武器で、現在では破棄されている。

『使うも使わないも自由。お前が必要だと思った時に役に立てば嬉しい』

そう言ったアカツキの言葉からリバティと呼ばれるようになったとの事。


四番目は『ファム・ファタル』。運命の女性の銘で呼ばれる。

『恭順』の型番は、その使用者であるアオイのシャクナゲに対する絶対恭順の姿勢から。

アカツキの死後、一年経った現在でも、シャクナゲの副官として、そして黒鉄の暗部として在り続けるアオイに、この戦う為の力を渡したアカツキは、相当見る目があったと言えるだろう。


五番目の『希望』については記載がない。

恐らくシャクナゲのみがその所在を知っているのだろうが、現時点ではそれを調べようがない。

希望の銘を持つそれが、その名の通りの存在である事を切に願う。

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