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42・クライシスモア






 黒鉄は真っ二つに割れた。

 いや、正確に言えば、粉々にバラけたとも言えるかもしれない。

 ついさっき行われた話し合い──三班副官・アオイによる暴露会とも言えるそれは、今までも黒鉄のあちこちを軋ませていた亀裂を、ものの見事に大きく広げた。修復不可能なまでに黒鉄の在り方を歪めた。


『この話の後、あなた方がどのように行動されるかは分かりません。私達三班の敵に回るというのなら受けて立ちましょう。今まで通り……というワケにはいかなそうですから』


 そう言って締めたアオイはあくまでも飄々としていて、どこまでも淡々としていて──


『シャクナゲは新皇です。かつてはそう呼ばれていました。最初のヴァンプの一人にして、その象徴だった存在です。端的に言えばこれを伝える為だけに、私は副官の身分でありながら皆さんを集めた次第です』


 そんな爆弾発言をした直後とは思えないほどにいつも通りだった。


 激昂する一班にも、足早にその場を後にする四・六班にも、にこやかに笑ったままだった。

 がっくりとうなだれていた五班のカブトには目もくれない。多分何事もなければ、最後までにこやかなままでいたと思う。


「ヴァンプの王にまんまと俺達ゃ騙されてたってか!?ふざけんな!あのクソヤロウは俺がぶっ殺してやる、汚れたヴァンプの始祖は俺が絶対ぶっ殺してやるからな!」』


 一班のナナシが班員に抑えられながらもそう言葉を発するまでは……。

 シャクナゲを『ヴァンプ』と蔑むまではにこやかに笑っていた。

 足早に去っていく黒鉄の仲間達にも、吼え猛るナナシにも笑顔を向けていたのだ。

 『私達三班の敵に回るというのなら受けて立ちましょう』と言った言葉を、そのまま現すかのようにいつも通りだったと思う。

 ……そんなナナシの言葉を聞くまでは。


 その言葉と共に、笑顔を模した仮面はあっさりと掻き消えた。まるで表情そのものが取り外し可能なアタッチメントかと思うほど、笑顔の仮面は余韻をカケラも残してはいない。

 そして喚くナナシへと嘲笑うかのような……というより、明らかな嘲笑を向けたのだ。


「笑わせないでくださいよ、不死身。あなたにそんなシャクナゲを貶めるような事を言う資格があるんですか?」


「どういう意味だ、そりゃ!?」


「言葉通りですよ。たかだか元武装盗賊の頭風情が笑わせるな、て事です」


「てめぇ……」


「シャクナゲに──いえ、一年前の黒鉄メンバーに負けたから仲間に加わっただけの盗賊ごときが、キャンキャン吠えるのは正直見苦しくてかなわないんです」


 その蔑みは止まる事なく、ナナシが一番気にしている過去を嘲笑う。

 にこやかとは言い難い冷たい冷笑をむけ、大袈裟に肩をすくめてみせながら。


「気にくわないのならここで吠えてないで、戦闘の準備でもしに帰ればいいでしょう?いくらなんでもコードフェンサー一人しか連れていない今の現状で、我が三班に勝てると思うほどバカじゃないでしょう?」


「アオイ……!!」


「あぁ、そうだ、あらかじめ言っておきましょうか。私はシャクナゲやアカツキほどには甘くないですから、一度敵に回った場合は、いくら尻尾を振ってみせても絶対に許しませんよ」


 零度を越え、氷点下にまで下がる空気に、体がガチガチと震えるのをなんとか抑え、私は嘲笑うアオイを見やる。

 そのいつもの相手を立てる物言いから変わってしまったアオイを。その目的を。


「一度敗れた上にその命を助けられ、仲間に迎えられた恩を忘れたというのなら、同情の余地も情けをかける価値もありません。あなたに『唯一無二の黒鉄』たる三班の実力を思い知らせてあげましょう」


 そう不敵に笑うと、スッとその指先を出口の扉へとむけ、言葉もなく退室を促してみせた。

 その背後では黙したままでヨツバが舌なめずりをし、それを困ったように肩をすくめながらスイレンが見やっていた。残るヒナギクは、いつもの様子と違うアオイにオロオロしていたが、それでもすぐさま飛び出せるように一歩足を踏み出している。

 その様子があまりにも『らしく』て──たまに見かけていた三班のコードフェンサー達らしくて、軽く腰がひけるのを自覚した。

 直接向き合っていない、いわば第三者に近い立ち位置だったからこそ、そのらしさが際立って見えた。いつも通りの姿が……揺るがない強さに感じられたのだ。


 『不貫』のヨツバに『水鏡』のスイレン。

 まだまだ新米である『音速』のヒナギクはともかくとして、この二人はコードフェンサーの中でも別格だと言える。

 それは、『班長』を含めた黒鉄に属する変種全ての中でも別格という意味だ。班長連は全員が全員メチャクチャな能力を持っているのに……まぁヘルメスは戦闘向きではないけど……この二人はその班長連をも凌ぐほどの力の持ち主だと私は見ている。

 『狂戦士』だの『ブラッディークラブ』だのと呼ばれるヨツバは、間違いなく黒鉄では仲間内からもっとも恐れられている存在だ。

 一度フラっと街を抜けて、二つほど近隣の武装盗賊団を一人で潰して帰ってきた事すらあった。それはそれで恐るべき事ではあるのだが、私が真に恐れたのは、一人で武装盗賊団を潰した経緯を聞いた時の事だ。


『……暇やってん。盗賊はなんか好かんし』


 三班のコードフェンサー……つまり黒鉄でもかなり大きな戦力である男が、返り血まみれでそう言っている事にこそ私は恐れた。

 たかが武装盗賊などと笑えない。今の関西にいる武装盗賊達の大半は、かつて将軍に敗れたヴァンプ崩ればかりなのだ。下手をすればコードフェンサークラスの変種すらもいる可能性もある。

 黒鉄一班の連中は武装盗賊上がりが多いが、その首領格であったナナシがそのまま班長に収まっている事からしても、武装盗賊が侮れない集団である事が分かる。

 ……まぁナナシから言わせれば、一班の連中は『義賊』だったらしいけど。


 それを『暇だったから潰した』『嫌いだったから潰した』と言ってみせたのだ。恐れるなと言われても無理な話しだろう。

 当然、この『盗賊殺し(ロバーズキラー)』は、私の『敵に回しちゃいけないヤツリスト』でも、かなり上位に位置付けられている。


 そして水鏡のスイレン。

 こっちはそのリストの中で、ダントツ一位である男と、同じくダントツ二位である女に続いて、ダントツの三位にランクインしている。

 一位は今問題になっているクセモノ揃いの班をまとめている男だ。そして二位に最強の純正型たる銀鈴。

 これは順当なランクだと思う。黒鉄の全員が敵に回したくないと思っている二人だろう。

 それに続くのが班長でも副官でもない、この『近衛殺し(インペリアルキラー)』……いつもゆったりとした浴衣を着ているスイレンだ。

 普段は穏やかで良識人。いつも浴衣を着ているというこだわりはどうかと思うが、血の気の多い三班の良心とも言えるような女性だ。班長であるシャクナゲの代理に立つ事も多い。しかし、どんな時でも班長や副官であるアオイを立てる奥ゆかしさもある。

 そんな女性なのだが、一度怒らせればヨツバですら比にならないぐらい怖い。

 なにせ彼女、たった一人で水都へと視察に来ていた近衛を襲撃した事すらあるのだ。

 しかも襲撃しただけではなく、その近衛が引き連れていた関西軍の部隊を一人で潰走させ、近衛を討ち取って帰ってきたという。

 関西軍のトップである将軍の側近中の側近たる近衛を、だ。


 『近衛』という地位にいるヴァンプを討ち取った事がある人物は、黒鉄多しと言えど多くはない。『黒鉄』を冠する男と、かつていた『錬血』、そして五班の『幻影』と『水鏡』だけだ。


 討ち取った近衛の数倍以上の数のコードフェンサーが、近衛の連中に敗死させられているし、かの錬血ですら別の近衛に敗れてもういないのだ。

 そこからもこの『インペリアルキラー』がどれほどの能力を持つかが分かる。


 しかも彼女は、そのやり方にもインパクトがある。

 最後は水都からきた援軍を能力で立ち往生させて、部隊の指揮を執っていた水都の知事を締め上げると、その知事が乗っていた無駄ガス食いのリムジンに文句を付けながら、それに乗って廃都へと悠々帰還したらしいから。

 しかも知事に運転手までさせて。


 これは私がこっちに来る前の話だが、黒鉄の連中なら誰でも知っている話だ。恐らくはその近衛に殺された仲間達の敵討ちなのだろうが、やり方も半端じゃなければ、実行出来た能力も半端じゃない。なにより胆力や度胸にこそ恐れ入る。

 少ない数を連れただけで近くまで来ているからと言って

『じゃあちょっと行って潰してくるか』

 とプチっと潰せるような相手じゃない。


 カーリアンですら

『スイレンって戦ってる時とか怖いんだよね。後になって夢とかで見そうだもん』

 と言っていたほどなのだ。怖いモノ見たさや知識欲で触れたい部類の人間じゃない。


 そんな二人を相手に回し、ここで──精鋭である三班の根城近くの会議室で暴れようとするならば、ナナシは救いようがないバカだと言える。

 いや、ナナシならばそれぐらいは気にせずに突っかかりかねないが、後ろの『金剛』が間違いなく止めるだろう。

 武闘派揃いで、脳みそまで筋肉で出来ている一班の連中の中では、まだ副官である金剛のメメは思慮深い方だから。


 ……まぁ、その厳めしいコードといかつい体付き、ムサい顔立ちのいい年をした男が、『メメ』ってのはどうかと思うけど。


 案の定、メメは素早くナナシの肩を抑えて留めると、そのまま怪力に任せて出口へと引きずっていく。

 見るからにムキムキで、力はありそうなメメではあるが、その体付きは伊達ではない。湯気を出しそうなほど激昂するナナシをしっかりと抑えつけ、そのまま出口へと向かう。


「ではいずれ近いうちに戦場で。今日のカシラへの発言は必ず後悔して頂きますから」


 ……相も変わらずややハスキーな見た目を裏切る声で、しっかりと宣戦布告を告げて。


「ナナシさんはしっかりと落ち着かせておいて下さいね?冷静さを欠いた指揮官ほど、戦場において有害で醜悪なモノはないですから」


 ……どの口がそんな事をほざく。最後にしっかり逆撫までしておいて。

 アオイのにこやかさに内心で毒を吐いてから、小さく溜め息を漏らした。




 これでこの場には『三』と『五』、そして『二』である私だけが残ったワケだ。そう思えば溜め息を禁じ得ない。

 なにしろそこでうなだれているカブトは除いても、他のメンツは私じゃどう足掻いてみせてもかなわない連中ばかりだ。

 ヨツバやスイレンだけじゃなく、ヒナギクにすら手も足も出ない。

 当然『五』の最大戦力である二人、『幻影』と『碧兵』にも勝てはしない。この二人はそれぞれ五班において、三班の『水鏡』と『不貫』にあたる。

 碧兵コガネも私やカーリアンより古参のメンバーだし、幻影のアゲハに至っては、スイレンと並んで黒鉄最古参の一人だ。

 アオイの言葉を借りるなら、黒鉄が一番キツかった時代から残っている『本当の意味での黒鉄』。その一人にあたる。


 それだけじゃなく、彼女は不気味さでいえばワースト。謎の深さで言えばブービー。敵に回したくない相手としてもスイレンの次という存在だ。


 このメンバーの中では、『碧兵』と『音速』ですら可愛く見える。

 雷人の異名を持つエレキネシストであるコガネと、最年少コードフェンサーにして、三班の最大戦力の一角である問題児、『音速のヒナギク』ですら、ここでは心休まる相手になりうるのだ。


「さて、カクリさん」


「……なに?」


 いや、不気味さで言えば、すでにアゲハは次点かもしれない。

 今にこやかにこちらを向いた男、顔馴染みの苦労性、美的感覚の欠如著しい三班の『副官』。彼こそが今は私にとって一番不気味なのだから。

 その笑顔が。こちらを向いた見慣れた顔が。

 彼はその笑顔のままで、私に死の宣告をしかねない。その見慣れた『仮面』のままで、私へと毒を吐き、追い詰めてくるだろう。


 そう思えば、無意識に体が構えそうになる。

 それでも私はことさら平然とした様子で見返してみせた。強がりくらいは張ってみせなければ、カーリアンの代理という看板が廃る。彼女の副官として矜持くらいは持っている。

 もちろん背中は汗でびっしょりと濡れ、立ち上がれば膝が盛大に笑っていただろう。

 しかし、私はそんな自己分析を全てどこかに押しやって、震えそうになる手を持ち上げて、ペットボトルに入れたままのお茶を煽ってみせた。


「平然としてますね?カブトさんからあらかじめ聞いていた、ってハズはないでしょうし。アカツキの虚言による刷り込みが弱かったんですかね?」


「……しっかり騙されてたわ。……悔しいけど、私はアカツキを疑っていた。……純正型には……体になんらかの証があるモノだと思い込まされていた。……誰にでも披露していたであろう、『特別な目』に……見事に引っかかってた」


 正直はめられた、という感覚が強い。アカツキの言葉を鵜呑みにしていた自分が不甲斐ない。シャクナゲには興味を向けただけだ。彼を疑ったかと言えばノーだろう。


 私はアカツキこそを疑っていた。彼の正体が全ての鍵だと信じていた。シャクナゲには──同じように『経歴が分からない最初の黒鉄』には興味を向けただけだ。

 全く同じような立場で、同じく全てが分かっていない存在だったのに。

 いや、シャクナゲに関しては、『関東出身』で『純正型のスズカ』が懐いている存在というアドバンテージすらあった。それでも私はアカツキに目が行っていたのだ。

 それこそが──自らに『情報を求める者』の眼差しを向けさせる事こそが、アカツキの目論見だったとは思いもしなかった。ここに来たばかりの頃に『特別に』見せられた瞳も、刷り込みに近い影響があっただろう。

 つまり『この黒鉄という組織に自分以外の純正型は、体に印を持つ銀鈴だけだ』という誘導に引っかかった。初めて会った日から彼にしっかりとリードされていたんだと思う。


 それが正直情けない。

 出会った頃からアカツキに手玉に取られておいて、考察者などと名乗るのはおこがましい限りだ。

 私などは表面だけを見て、その言葉を疑わず、そのまま記していただけの『観察者』がいいところだろう。


「ふむ。では、その落ち着きは虚勢ですか?だとしても、やはりあなたは大した副官殿ですよ」


「……イヤミね」


「本心なんですがね。正直な話、私にとってあなたは脅威だったんですよ。あなたと話す時はいつも手汗をかいていました。緊張していたんです」


 ──まぁ、一番厄介だったのは、『シークレットクラン』の側にいた六の副官殿でしたけど。


 そう続けるアオイに、私は胸中で納得するモノがあった。

 つまり先ほどまでここにいた『風塵』の様子、それの理由が分かったのだ。

 つまりかの『無能』を演じるコードフェンサーは、私より先に全てを知っていたのだろう、と。

 そしてそれを黙っていた、という彼の選択の重みを知った。


 ──私はどうすべきだろうか?

 ここにはカーリアンがいない。私自身の判断で今後の指針を決めねばならないだろう。

 なんだかんだ言って、カーリアンはかなり鋭い。それに考えなしに動いているように見えても、物事の本質を見抜く目が彼女にはある。

 利害関係や合理性を優先するあまり……そして好奇心が『やや』先行するせいで、私には意外と見えなかった事が、彼女には当たり前のように見えていたりする事があるのだ。

 その意味でもここに彼女がいないのは痛い。心の支えという意味ももちろんあるけれど。


「……さて、あなたはどうされますか?」


 その言葉は──どういう意味に取るべきだろうか。二班が敵に回るか否かと問いかけているのか、はたまた私個人の感情について問いかけているのか。

 正直なところ、私にはシャクナゲが誰だろうとどうでもいいのだけど。

 まぁ、『どうでもいい』と言い切るには、問題が大きすぎる事は否定できないが、正直それは『新皇』にこそ興味があるワケで、『シャクナゲが新皇だった』という事はあまり関係がない。

 それを気にするとしたらカーリアンの方だろう。それこそが私にとっては一番の悩みの種なワケではあるが。


「……正直二班の中で、あなた達に付く者は少ないと思う。……ウチは戦力的に弱い班だし……長いモノには巻かれる主義者が多いから」


「まぁ、今日の様子からして、『一』と『四』はウチと決別するでしょうからね」


 散々一班を煽っておいてよく言う。どうせ一班は敵に回るから、せめて怒り狂わせてやりやすくしよう、とか考えていたんだろうけど。


「正直六も危うい。一応ヘルメスさんには、あらかじめ楔は打っておきましたが……やはり厳しいかな。スズカさんがこちらに付くと明言してくださったら、こちらに靡く連中も増えるでしょうが」


 ──あの人はあの人でキツい持ち場がありますから、これ以上無理は言えませんけど。


 そう言ってアオイ溜め息を一つ漏らす。その脳裏にはどんな絵図が書かれているのだろうか。興味がない事はないけれど、私がその絵図通りに動くかどうかは別だ。

 さて、カーリアンならどうするだろうか?ヴァンプ嫌いの彼女として動くか、はたまたカーリアンとしてあり続けるか。


 ──そこまで考えて、私はハタッと気付いた。そして自らの迂闊さを呪う。


 ……彼女は今、どこにいるのだろう。スズカが言うには、頼み事をして出てもらったとの話だったが、それはどんな頼み事だったのか。

 それを私は聞いていない。

 スズカの側で何かをしているのならばまだいい。私はてっきりそう思っていた。

 なにしろ彼女とカーリアンは仲が良い。だから、カーリアンには自分から黒鉄の全てを打ち明けて、分かってもらえるように話をしてくれるのならば……まだ安心だ。

 だけど、ここにはもう一人いない人物がいる。

 今の揺れ動く黒鉄の中心たる男。『黒鉄』を冠する最古の黒鉄。

 そして『新皇』だった存在。

 彼に付いていっているのであれば──最悪だ。すでに全てが終わっている可能性すらある。


 私は、この話し合いにいない存在……つまりなんらかの用事で表に出ているシャクナゲと、スズカに何かを頼まれたカーリアン、そしてカーリアンと共にいるかもしれないスズカが、今の黒鉄の中心にいると思っていた。

 そこで何故シャクナゲとカーリアンが共にいるとは思わなかったのか。彼女がスズカに何を頼まれたのかを知らないのに、私はそこに視線を向けていなかった。

 その理由は分かる。スズカが言わなかったからだ。

 私は会議が始まるまで、シャクナゲが不在だとは知らなかったのだ。それを知った上で、かの銀鈴はそこには全く触れなかった。

 ただ『カーリアンにはちょっと頼み事をしたから』と言っていただけだ。

 私が『またスズカのヤツはカーリアンを連れまわす気か』と思いながらも、『まぁ銀鈴と仲良くするのは悪くないか』と納得してしまう事を見越していたのだろう。

 そんな心情を読まれて、そのトレースに従う形で私は思考していたんだと思う。


 なんて迂闊なんだろう。

 忙しく頭を働かせ、今さらになってシャクナゲがどこにいるのかを考えてみるが、全く分からない。

 いくつか考えられる場所はあるけど、どこであれ彼から全てを聞かされたとしたら、カーリアンが自棄になって突っかからないとも限らない。


 そうなればどうなるか。想像したくもない。


「カーリアンなら心配はいりませんよ」


「……えっ?」


「あれ?いきなり黙りこんでガタガタ震えだすから、てっきり彼女の心配をしていたんだと思ったんですが……違いましたか?」


 肩をすくめてそう言うアオイに、私は露骨に舌打ちを漏らしてみせる。

 本当に今日の私は迂闊過ぎる。表情に出すようじゃダメだ。

 もし、彼ら三班の手の内にカーリアンがあったのなら、今の私の態度は最悪だ。

 その可能性は低いとは思う。彼女を人質として抑えても、操れるのは精々私くらいだろう。

 そして私は大人しく操られる、扱いやすい人間なつもりはない。

 だけど可能性は決してゼロじゃない。そこを見越してことさら無表情に振る舞うべきだった。


「そう警戒しないで下さい。私達は別に他班と率先して揉めるつもりはありませんから。彼女は絶対無事ですよ。心配なのはむしろシャクナゲの方です」


「……どういう意味?」


 相変わらず話の持っていき方が上手い。ちゃんとこちらの疑問を煽る言葉を上手く使ってくる。

 問いかけずにいられない箇所をよく知っている。つまり私の弱味をよく理解しているという事だ。


「シャクナゲは彼女以上に後ろ向きでしてね。全てがカーリアンにバレた後、進んで殺されてやりはしないかって心配をしてるんです」


 ──シャクナゲが自分から話すとは思えませんが、ペラペラと口を滑らせそうな人物がいますしね。


 そう言って深い疲れを吐き出すように、大きく息をつく。その『人物』とやらが誰なのかは気にかかったが、アオイはもう私には言う事はないとばかりに視線を逸らしてしまう。

 カーリアンは無事なんだから、答えは彼女が帰ってきてからでもいい──そう言っているかのように。


 そしてうなだれたまま言葉を発しない男──カブトへと視線を向けた。


「本当に浅はかですよね。シャクナゲがカーリアンに殺されたとしたら、私達が彼女を見逃すハズもないのに。普段のシャクナゲなら、それぐらいはわかりそうなモノだ。

──そうは思いませんか?カブトさん」


 かけられた声に軽く震えて、カブトはその頭を抱えこむようにさらに深くうなだれた。

 その視線をあげもせず、殻に籠もるように。


 そしてその姿勢でポツリと……小さな悔恨の声を上げた。


 シャクナゲやアカツキと同じ黒鉄の創始者の一人であり、今も後ろに『碧兵』と『幻影』を従えさせているとは思えない、普段の豪放な言葉使いからは想像もつかない──弱々しい声で。



「……やり方を間違えたのか、それともどのみち上手くいくハズがなかったのか。俺ぁ黒鉄を一つにしたかっただけなんだがなぁ」


 そんなワケの分からない言葉から──

 彼の述懐は始まった。述懐というには苦味が含まれすぎた……懺悔のごとき言葉が。


次回に繋げる形を取りました。

視点は変わって次回に続く……カーリアンとシャクターンみたいな感じです。

もうアオイターンもだいたい書けてますけどね。

来週半ばまでには更新できます。


そしてその後はカーリアンとシャクナゲのラスト。

全くなんも考えてないんですけどね!これが。

それは今月中に上げるという方向で。二部もちょこちょこ書いていく予定だし。


二部は三人称の予定です。一部よりさらにあちこちに場面が飛ぶから。というより、多分三人称の方が向いてるから。

二部始まる前にちょっと幕間を入れる予定ですけど。

いきなり場面変わるのもあれだから。


というお知らせ等であとがきは終わりです。

あとがきネタ浮かばないんだもん。

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