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41・スタートイットアップ






 空には、欠けた部分がゆっくりと継ぎ接ぎされた緋色の満月が浮かんでいる。

 欠けた部分が補われるごとにゆっくりと……だけど確実に、世界が俺の意識下に戻っていく。

 宙に集まっていた力の意志達は、一つを残してそのまま情報となって歯車へ。具現の端末達はただの端末へ。


 残っていた最後の一つ──坂上の左腕の付け根を貫き、駆けていた俺の勢いでそのまま斬り飛ばした『錬血の刃』も灰色の霞へと返る。


「……なんだよ、そりゃ」


 ぶつかり合い、弾き飛ばされ、倒れ伏した坂上の息づかいは荒い。吹き抜ける風に紛れる吐息の間隔は短く、流れ出す血の勢いも止まらない。

 対する俺も、『朱袴の矛』に敗れた空間断裂の余波──坂上渾身の力と理の残り香たる破砕に打たれた体からは、ジクジクと血が流れ出している。

 あちこちに傷を負い、髪もボサボサ。一張羅のコートなど、耐刃繊維を編み込んだモノなのに、ザクザクに切り刻まれてもはや体に引っかかっているだけに近い。


「俺の理を……そんなショボい武器で受け止めるとかムチャクチャだろ」


 おそらく、最初の渾身の空間断裂を朱袴の矛で打ち破った時点で、勝負は決まっていたんだろう。最後に受けた空間断裂には、ほとんど力がこもっていなかったのだ。

 朱の刃張りとぶつかり合っただけで、僅かな微風を残して宙に消えていった様は、要塞と称された城の一角を廃墟と化した力とは思えないほどに弱かった。


「あれはさ、始祖でも純正型でもない、一人の黒鉄が使っていた刃なんだ。ただ意志のままに形をなし、ただ意志のままに駆けるだけの刃──」


 ──でも、絶対に欠けちゃいけないモノなんだ。


 そう呟いただけで、何かが込み上げてくるのを感じる。


 もう一年。ミヤビやサザナミ、クロネコがいなくなってから一年も立つ。カーリアンより前、彼女の先代にあたる『最強のパイロキネシスト』だったヒエンが亡くなって二年、ヨツバの前に『不貫』を名乗っていた壁使い、スミレが亡くなってからは三年も経つ。


 全員が全員、変種としても非常に強い力を持っていて、全員が全員黒鉄。全員が全員、アカツキに救われたヤツら。

 そして、みんながみんないまだに強く俺の思い出に残り、『檻』を作る記憶のカケラ達。

 俺に『シャクナゲ』という在り方と、価値をくれた存在。


 智哉が作ってくれた檻は、決して『造物』であるシャクナゲなんかじゃない……あいつらを思い出す度にそう思う。

 確かに『シャクナゲ』は灰色世界を完璧に抑えてくれる。俺の内でくすぶってはいても、表に出てくる事はない。

 完璧な『世界抑制器』で、俺が望んで止まなかった力を秘めている。

 でも、俺が俺でいられたのは……罪や咎に潰れなかったのは、間違いなく俺の周りにいてくれた檻──黒鉄という絆で結ばれた仲間達のおかげだろう。その記憶に残る暖かさのおかげなんだと思う。

 あいつらがいなければ、俺は間違いなく潰れていた。智哉がいなければ、俺には皇の道しかなかった。


「あいつは……結城智哉は、なんにも残せなかったワケじゃない。今でも智哉が残してくれたモノが──黒鉄という在り方が、俺や他の変種達を守ってくれている。俺達の心を守ってくれている」


「…………」


「変種はさ、強くなんかないんだ。純正型は強くなんかないんだよ。一人きりじゃ簡単に壊れてしまう。その心はとても脆弱で、どこまでも脆くて壊れやすい。あいつのやり方は、変種達を檻で──仲間達で囲って守っているだけでしかないけど……それはひょっとしたら間違ったやり方なのかもしれないけど……いつかはそんな檻も必要なくなると信じてた」


「……未来を信じてた、ってか?クセェ野郎だ」


 吐き捨てるようにそう言う坂上は、呆れ混じりに小さく笑って──それに俺は即座に否定を返す。

 こちらはちょっとだけ普通に笑みを浮かべながら。


「違うよ。言ったろ?あいつが信じていたのは『人間』だけさ」


 ドクドクと血を流しあって、互いに鋭く視線を交わしあって、言葉の刃を交えあって……。

 その間に、先ほどまであったギスギスした緊張感はすでにない。何故か今になって真っ直ぐ向き合えているような……坂上晴臣という個人とぶつかり合えているような、そんな感慨を覚える。


「……はっ、もうどうでもいい。どのみち勝ったのはテメェだ、比良野。さっさとこの首を取って……後はテメェがやりたいようにやりゃいい」


 そう言って、その上で坂上は真っ直ぐに俺を見据えてくる。

 その灰色の瞳に強い光を宿したまま。


「でもよ、答えは聞かせてくれるんだろ?『一年前に聞きそびれた答え』。テメェは同族を殺し続けて……どうしたいんだ?俺はこのザマだ、今回はもう後戻りは出来ねぇぜ、アカツキの後継者?」


 その声にも嘲る色はなく、ただただ真っ直ぐに問いかけてくる。

 一年前には答えられずに逃げ出した……いまだに答えの出ていない問いを。

 そんな坂上の様子に、理想的な、模範的な答えに逃げる真似はできないと思った。

 ありったけを真っ直ぐに返すしかないと思えたのだ。

 ただ視線だけは逸らさないように……灰色の瞳から逃げないように真っ直ぐにしっかり見返す。


「抗い続けるよ。ずっと世界や運命に抗い続ける。同族を殺して殺し続けてでも抗ってやる。神はいないと否定し続ける。俺自身が壊してしまったから出来た『現実(いま)』に納得なんかしてやらない。

……だって俺はシャクナゲ。アカツキと同じ最初のブラックメタル。抗い続ける雑草。最後の最後まで俺は黒鉄──」


 ──だから『比良野』の名前はお前が持っていけ。それは智哉に預けたハズのモノだから。


「……はん、いらねぇよ。あいつが置いていったモンは、後継者のテメェが持ってろ」


 片腕を無くした不完全な大の字で、ゆっくりと灰色が霞んでいく空を見上げながら、坂上は吐き捨てるようにそう言うと、その瞳を閉じた。

 辺りの光景が、俺の世界からゆっくりと色を取り戻していくのと比例して、坂上の赤錆色の世界も霞んでいき……その切り裂かれた腕からはひたすら赤を広げていく。


 今から治療をすれば、腕を無くしていても助かるだろう。変種じゃなくても助かる可能性はある。

 でも、坂上はそれを望んではいまい。

 例え今ここで助かったとしても、命を狙われ続けて生きる事になるだけだ。


 坂上は将軍、関西の将軍だ。

 その首は虐げられた市民達にも、坂上の次に覇権を狙うヴァンプ達にも魅惑的なモノだろう。そういった者達を、理を振るう腕──つまりは力が半減した坂上が今まで通り抑えつける事は出来まい。

 近衛も今では一人……兄を殺されながらも、その意志を受けて俺を通してくれた少女しかいない。抑えつける力のなくなった関西軍は、一気に坂上の敵に回る可能性が高い。

 それならここで、区切りのついた今この時点で──そう思う気持ちも分かる。


「でもよ、忘れンじゃねぇぞ、『シャクナゲ』。テメェは新皇。どこまでいっても最初の皇なんだ。俺と同じ道を進んだヤツだったって事を……絶対忘れんな。そしていつか気付くだろうさ。結城のやり方じゃいずれつまずくって事によ」


「そうだな、つまずくだろうな」


 というよりも、今現在すでに盛大につまずいている最中だろう。廃都と呼ばれる神杜では、恐らく黒鉄が二つに別れていると思う。俺をシャクナゲだと認めてくれる連中と、それ以外に。


 俺はこっちに来てから、一度も神杜で『灰色』を使った事はない。誰かを傷つけた事もない。それでもこうなるのは必然だった。

 俺はヴァンプで、皇で、それを隠していたんだから。それをみんなが承知の上で、仲間になってもらったワケじゃないから。

 その現状こそが、智哉が隠し続けてきた事に対する答えだろう。間違いは……歪みはあったんだと思う。


「でも、つまずいたならもう一度起き上がればいい。間違いこそが正解に近付く為に必要な時もある。暖かい嘘もある、いつかは分かってくれる……俺はそう信じたいよ」


「……腑抜けが。でも今の俺に、その腑抜けを糾弾する資格はねぇ。負けたのは俺だ。好きにするがいいさ」


「あぁ、俺はこのまま先にいくよ。お前はここで消えていけ。いつかは俺も同じ場所にいく」


 ──さよならだ、坂上晴臣。関西の皇。


 そう呟き、霞んでいく灰色の中で、その姿を取り戻した蛇達の意識を倒れ伏す坂上へと向ける。


 ここで坂上を討つ事はより大きな混迷を生むだろう。黒鉄も変わってしまうに違いない。

 坂上の勢力がこの関西という地に、仮初めとはいえ安定を生んでいたのは間違いないのだ。

 それが潰えればこの地には他の地方勢力が入り乱れ、より激しい戦乱を生むだろう。俺自身もその渦中から逃れられないと思う。

 でも、俺と坂上が潰し合って、俺が生き残った時点でそうなる事は決まっていたのだ。そう分かっていた。

 逃げる事を選ばず、黒鉄であると決めた以上、この結果からは逃れ得なかった。今更それに抗えない事も分かっている。

 それに俺はずっと黒鉄としてあり続けると誓ったばかりなのだ。その誓いは変化にまみれても変わっちゃいけないモノだと思う。

 来たる変化を恐れて、俺は『黒鉄のシャクナゲ』を名乗るワケにはいかない。


 そこまで考えて、舌なめずりをする蛇達に指示を出すべく腕を掲げる。

 待ちに待っていた『清算』の時なのに、晴れやかとは違う……何か重いモノを、新たに背負わされたような感慨を覚えながら。



 そしていざ指示を出そうとした俺と、灰色がこの身深くに沈んでも、世界に残ったまま牙を剥いている蛇達の前に──

 横から飛び込んできた一人の少女が立ち塞がった。





****





 倒れ伏す坂上。ボロボロの衣服を纏い、それを見下ろすあいつ。

 それを見ながら安堵の息を吐き、側に駆け寄るべきか否かを少しだけ悩む。

 今、二人がボソボソとしている会話。それに入り込んでいいものかどうか分からない。

 側で見ていただけの──もっと言えば、傍観者である立場に納得してしまっただけのあたしに、二人に干渉する資格があるのか……そんな事を考えてしまう。


 あたしは見ていただけだった。


『大丈夫。カーリアンは付いていってくれるだけでいい』


 そう言っていたスズカの言葉通り、本当に付いてきただけに過ぎない。

 紅と呼ばれ、黒鉄最強のパイロキネシストと呼ばれ、いい気になっていたつもりはない。そんな言葉に、あたしはなんの価値も見いだせなかったハズだ。

 でも、どこかで『自分の力なら、どんな時でも自力でなんとか出来る』……そんな慢心があったのかもしれない。

 かの錬血ですら、自らの無力を嘆いていた時があった事をあたしは知っていたハズなのに。

 『後は頼む』と言われたのだから、その重みを知るべきだったのに。


 ──あたしがこんなんじゃ、ミヤビも任せっきりにはできないよね。


 そう自嘲の笑みが浮かび、空を見上げる。

 空はもう、ほとんど色を取り戻していた。灰色の残滓はまだあちこちに残っていたけど、異界の情景はほとんど消えていて、余韻として鎖の数本がシャクの周囲に漂っているだけでしかない。

 こんな風になるまで、あたしは一体何をしていたんだろう?そして何をしたんだろう?

 そう自問をしてしまうのを止められない。

 今も、倒れ伏す坂上に鎖によるトドメをさそうとしているシャクを見ているだけだ。

 それは必要な事で、やらなければならない事なんだろう。黒鉄としてはいずれ達成すべきだった目標だ。

 でも……でも何故か今のあたしは、シャクには『その力』で誰かを殺めて欲しくない、なんて事を考えてしまう。



 今までも、シャクがシャクナゲとして誰かを殺めていたのは見た事があるハズなのに。

 あたし自身も、自分の紅で人を殺した事があるのに。

 何故かそんな感傷に心がささくれ立った。どうしてもそんなシャクを見たくなんかないと思ってしまう。

 でも、それを止めるには『黒鉄』という今の立場が邪魔をして……『どんな力を使ってみせても、どんな力で人を殺めても、シャクはシャクなんだ』という陳腐な言い聞かせで納得させようとしてしまう。


 ──あたしは本当に弱い。

 とても脆くて弱い。

 一時はシャクと共にここで死ぬ覚悟すら決めたハズなのに、今どうするべきか、何がしたいのかを決めかねるくらいに薄っぺらだ。


 そしてそのままシャクが坂上にトドメを射そうと、鎖達を向けた時だった。

 あたしが動けず、何も決められないまま見ていた時と言ってもいい。

 あたしの横を……すぐ真横を一陣の疾風が駆け抜けたい。

 疾風のごとき濃紺の影。

 少し長めのコートを纏った淡い桃色の影。

 それが躊躇う事なくシャクと坂上の間に立ちふさがる。

 ジャラジャラと蠢く鎖達を意にも介さず、なんの迷いも躊躇も見せず、その両手をいっぱいに広げながら。


「もう決着はついたよね?だったら坂上は見逃してあげてくれない?」


 あたしよりも小柄な──近衛の装束を纏った少女が、そう言って立ちふさがったのだ。


「右近!テメェ、生きてたのか!」


「無様ね、坂上。あっさりシャクナゲを通した私が言うのもなんだけど、出来ればそんな姿は見たくなかったわ」


 倒れ伏しながら見上げる坂上に対する言葉もとても怜悧なモノで、『近衛』とは思えないほどに見下した物言いだ。その視線すらも向けはしない。

 ただまっすぐにシャクを見据えたまま立ちふさがる。

 ……まっすぐに向かい合っている。


「ちっ、なんでもいい。なんとでも言え。とにかく邪魔を──」


「あなたは黙ってて。死にぞこないは黙って成り行きに身を任せてればいいの」


 不遜というよりもむしろ傲岸不遜。傷を負った将軍を敬う気持ちはカケラもなさそうなまま、見ていて清々しいほどにあっさりと坂上の言葉を切って捨てる。


「シャクナゲ、私は兄さんの意志を受けて道を譲ったわ。仇であるあなたを先に行かせた」


「…………」


「それを借りだと、私のたった一人の兄を殺した事を負い目だと思うのなら、ここは見逃して?」


「……ふざけんなよ、右近。俺ぁそんな事──」


「あなたが望むかどうかは関係ないよ。ただね、坂上。あなたは無駄死にだけはしちゃダメなの。兄が生涯をかけたあなたが、無駄死になんて……絶対に許せない。絶対に許さないから」


 あたしより小柄で、華奢な少女。そのルックスは可憐といってもいい。その身に纏った濃紺のコートはぶかぶかで、桃色の髪も柔らかそうで。

 その言葉から察するに、恐らく『左近』という『氷使い』の男の妹。


 その淡い桃色がかった瞳は、あたしが見慣れている強い意志を秘めていた。

 そう、よく見慣れた銀色の少女──最強の銀鈴が戦う時に見せるモノとよく似ていたのだ。


 それがまっすぐにシャクと対峙し、退かぬ意志を溢れさせながら立ちふさがる。

 その言葉はズルい物言いではあった。でも効果的な言葉を選んでいる賢さの現れでもある。

 彼女は強い意志と、効果的な言葉で……シャクの前に立ちふさがっていたのだ。


「坂上にもう再起の道はない、もう『将軍』とは名乗れないわ。私が絶対に名乗らせない。将軍の名前はあなたが持っていってもいい。それだけでここは退いてはくれない?」


「……それは詭弁だよ。坂上そのものが将軍なんだ。その存在そのものが関西軍を関西軍たらしめてる。例え坂上が将軍を名乗らなくても──そして名乗らせなくても坂上は坂上で、俺は黒鉄なんだ。黒鉄のままなんだ。敵である事は揺るがない。坂上も──」


「坂上が何を望んでいるかは関係ないわ。私には全然関係ない。興味もない。ここで死にたい?将軍として戦って、そして負けたからには生きていられない?それがこの戦いの結末だから?」


 ──なら将軍はここで死ね。この要塞と共に、関西軍の名前と共に消えてしまえ。


 その言葉は憎しみも蔑みも込められていた。感じ慣れた憎悪を『将軍』という言葉に向けていた。

 それは近衛にはあるまじきモノではあったけど、その中には揺るがない強さもあるように感じられた。


「でも『坂上晴臣』には絶対に『意味』を作ってもらう。将軍を名乗った意味、私達が──兄が従った意味。血反吐を吐いて、地べたを這いずってでもそれを作る義務があるわ。そうでしょ?そうじゃなきゃ報われないじゃない?どうしてもここで最後までやるって言うのなら──」


 ──まずは私が相手になるわ。最後の近衛であるこの私が。


 そう言ってただじっと見据える。将軍を打ち破り、いまなお猛る鎖達を従えるシャクに全く怯む事もなく。

 構えもない。力を使う溜めもない。

 ただ眼力のみで抗い、自らの身体を盾にするかのように立ちふさがっているように見える。

 しかし先ほど駆け抜けたスピード……あれは変種としても異様なまでに早かった。

 多分、黒鉄で最高の身体能力を持つシャクよりも。

 まさにピンク色の疾風。人影すらも認識出来ない一陣の影だった。

 能力を使っていたのかどうかは分からないけど、あのスピードの持ち主ならば容易ならざる相手だと言えるだろう。

 そんな人物がシャクと向かい合い──またあたしは悩んでしまう。


 彼女は本気だ。例え死んでもここから坂上を逃そうとすると思う。

 勝てるかどうか、それをなし得るかどうかは問題じゃないのだろう。

 その考えはあたしにも分かる。それを決して無駄だとは笑えない。笑う事など出来ない。

 今はいろいろ知って状況が変わったけど、あたし達『黒鉄』も同じような状況下で戦ってきたのだ。笑えるはずがない。


「シャク……」


 あたしは──あたしは何を考えているのだろうか?

 今、何を言おうとしているのだろうか。

 坂上もこの少女も敵でしかないのに……ミヤビやクロネコ達の仇の片割れなのに、何を言うつもりでシャクに声をかけたのだろう?

 言葉が詰まって口をついてこない。舌が絡まって声にならない。

 黒鉄として正しい在り方は、ここで二人とも討つ事だ。一年前に、亡くなった多くの仲間の仇を討つと誓った復讐者としてもそうだろう。

 それは『死にたがり』として……憎悪を燃やすパイロキネシストとしては、理想的な在り方だと思う。

 だから悩んでいるのだろうか?

 死にたがりを拒絶したい衝動が、選択を躊躇させているのだろうか?


 ……違う。


「帰ろ。もう帰ろう?神杜へ。あたし達の街へ」


「……カーリアン」


 違う。絶対に違う。

 あたしは見たくない。絶対に見たくないだけだ。シャクが過去に捕らわれて、灰色(過去)で誰かを殺す姿なんて見たくない。


「あんたは勝った。辛くて嫌な思いをして、足掻いてもがいて坂上に勝った。それでいいじゃない?」


 あたしみたいに、復讐や妄執に捕らわれる姿なんて似合わない。

 確かに坂上は殺されてしかるべきだ。あたしやシャクナゲにはその理由がある。殺す理由がある。

 でも、シャクには──『シャクナゲ』じゃなく、あたしが『シャク』って呼んでる人には、守る為以外の時にその手を血に染めて欲しくない。


「これからはあたしも一緒に戦うから……あたしも一緒に背負うからさ、ここであんたが全部背負っちゃわないでよ」


 その背中に誰かがいる時以外に、重荷を背負って欲しくない。

 そんなのあいつには似合わない。ずっとずっとその為だけに戦ってきたシャクには、過去の因果で命を刈るなんて似合ってない。

 ずっと神杜の守護者だったヤツが、神杜の現在(いま)や未来(明日)の為でもなく、過去(昨日)の為に戦うなんて……絶対にあっちゃいけない。

 それは多分、感傷に過ぎないのかもしれない。余計な感情なんだろう。


「坂上を残した咎はあたしも背負うから。黒鉄としてじゃないあんたもあたしは見ていきたいからさ……」


 あたしは黒鉄失格なんだと思う。ずっと縋ってきた在り方を捨てる行為に等しいんだと思う。


 でも──

 でも、それは『カーリアン』としては正しい在り方だと思う。


 大切みんなが、仲間達が呼んでくれるカーリアンというあたしにとっては、それが『らしさ』だと思えたのだ。




「だからもう帰ろ?待ってる人がいてくれる街に──」


あぁ、やっちまった……って感じです。

一応この結末は予定通りなんですけど、途中で『やっぱ敵は最後散るべきかな』と、最後まで変えるべきか悩んでいた箇所でもあります。

右近を出さずに残しておいたのも、坂上には反抗的でありながら、左近の言う事には従うっぽい表記をしたのも、ラストで『坂上の為ではなく兄の為に』こういう行動をさせる為だったワケです。

まぁ、いまだにちょっと変えるべきかなと悩んではいますが。


丘かどっかで左近や坂上の墓を作り、そこに背をむける右近ラストも考えていたんですが。

まぁ坂上にはちょっと生きててもらおうかな、と。


本当はこの話に全部を詰め込んで『ラスト』にしようかと思っていたんですが、締めがカクリやアオイじゃちょっとなぁ、と思ったので、そこは変えました。

次回カクリとアオイ、その次にシャクターンでエンドな予定です。



えっと、いきなりですがお知らせ。

次回は更新多分お休みです。

何故かというと、カクリとアオイはちょっとつながりがある話なので、両方にメドが立たないと書きにくいんですよね。

ですから、来週までにメドがたてばカクリかアオイをあげます。

立たなければ『立ち次第曜日関わらずに』あげます。その次は間違いなく月曜日アップ。

そして次の次の次の月曜日でラスト……な予定です。

5月中ギリギリに終わります。

本来なら月曜日更新を守りたかったんですが、それをすると5月中に終わらない可能性があるんですよね。だから来週は不定期更新で。


さらにお知らせ2

あとがきで何か書いてない事ありましたっけ?

思い浮かばないので、来週分あとがきに載せる紹介等で何かありましたら、どうぞご意見お願いします。

メッセージボックスや感想などなんでも大歓迎受け付け中ですので。


さらについでにお知らせ3

二部やマークオブブラックメタルについては、どうするか……

どっちも書くとなると更新が偏りそう……もしくは更新が立ち行かなくなりそうです。


案としては

マークはとりあえず短編みたく、アカツキとシャクの出会いだけを抽出してみる。

マークはかなり不定期覚悟でやってみる。

両方不定期覚悟でやってみる。

死ぬ気で更新に挑戦してみる。

マークを中編くらいでやって、終わり次第二部にいく。


で考えてます。

死ぬ気で……はキツいですけど。

これも要望がありましたらお願いします。




では、ラストまであと少し。

お付き合いお願いします。

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