40・ブラッドライン
あらかじめ言っておきます。
今回はすごい短い上、あとがきもありません。
『40』話じゃなく『39.5』話って感じです。
あとがきにミヤビを載せようかと思いましたがやめました。
また回想やら番外編やらでミヤビが出た際にします。『マークオブブラック』じゃメインキャラですし、そっちを書き出したら載せるかもです。
次回は決着。終結。
後はアオイ、カクリターンで現状の『黒鉄』や『廃都』についてを書いたり、『狐』に決着をつけたり。
決着にも案が2つあったんですけど、自分好みで決着を持ってく事にしました。
スズカ、狂人、絶対毒の理、新皇、関西以西のその他勢力、そしてアカツキの遺物。
そういったモノは二部以降です。
ん~、二部をページ分けるか、はたまた全部を同じページにして、最多文字数小説を目指すか悩み中。
ご意見よろしくです。
次回更新については活動報告にて。
そろそろ55000いきそうです。最近閲覧者数が増えて嬉しい限り!
ありがたや~。
シャクが蛇と呼んだ鎖達の変貌。それはあたしにとって、よりここが異界なんだと知らしめるモノだった。
苦悶の叫びにも似た、存在を誇示するかのような──あるいは自らを奮い立たせるかのような……そして何かに縋りつくような声を張り上げるシャクに、あたしが思わず声をかけたほんの数瞬後。
駆け寄ろうとしたあたしを、中空を見やりながらシャクが腕を上げて制止したわずか後。
鎖達がシャクに突き刺さり、ゆっくりと透化した直後に鈍色の蛇達が再び具現したその姿。
──それはありとあらゆる自然の猛威にも似た圧倒的な力達の現出だった。
鈍色の鎖達の体は、それぞれその姿を『力』へと変えていた。
あるモノは真っ赤な炎に。
あるモノは無色透明な刃に。
あるモノは甲高い音と共に爆散する音の塊に。
そんな中で、シャクの残像が幾つも生み出されているのを見て──
今まで見た事のあるその『幻像』の在り方を見て、あたしはその力の群れの正体を悟った。
なんとなくだけど、どこか確信を持って。
『水鏡』のスイレン。
黒鉄第三班が誇る近衛殺し(インペリアルキラー)。
あたしでも『こいつにはちょっと勝てないかな……』なんて思う数少ない黒鉄の一人。
そんな彼女の能力は、ありとあらゆるモノの目に見える姿を、光の屈折と空気に含まれた水分を操って曲げる、『空間干渉』『視覚操作』にも似た力を操るモノだ。
その幻像の数は、彼女が使った力に比べれば幾分少なかったけど、かつて見た事のある『百を越える彼女の残像の群れ』と、その在り方は良く似ていたのだ。
そう思えば、そこにある『力』の群れの中に、見覚えがあるモノが幾つか含まれている事に気づく。
あの灰色の大地を切り刻んでいる無色の力は、双刃のコードフェンサーの『空刃』に似ているし、甲高い音と共に爆散する力の塊は深緑の力そのモノだ。
飛び交う火弾は見た事のないモノだけど、恐らくはあたしと同じ《発火能力》を持つ者の力なんじゃないかと思う。
そう、そこに現れた力の群れは、恐らく──本当に確信などないけれど、『変種』と呼ばれた人々の能力なんだろう。
それを、『鎖』達が変貌して現しているのだと思う。
──あぁ、そうか。
そこまで考えて、そう納得する部分があった。
さっきの説明……『ベクトルの操作』なんじゃないかと感じた、この世界の理というモノに対する説明への違和感。
それはまさしく正しかったのだろう。
この姿、力の大群が具現した在り方──。
これこそがこの『灰色の世界』の本来の在り方なんだろう……そう思ったのだ。
この力の群れの猛りは、まさに災厄と呼ぶに相応しいモノだろう。
これらを前にしては、既存種や一つの能力しか持ち得ない他の変種達では、自らの身を守る事など出来っこない。
まさに四方八方からせまりくる自然の猛威に近い。
それがシャクから辺り一帯へと広がっていき、周囲一帯を爆砕し、坂上を飲み込もうと触手を伸ばす。
そして、離れて見ていたあたしにも──。
──あ、ヤバい。
そう思ったのは一瞬の事。
それでも身をかわそうとしなかった自分に小さな苦笑を浮かべ、目の前で『行進を留めた大群』を見やる。
大地を抉る破砕も、飛び交う火弾も、音速の刃も、大気を切り裂く雹の群れも、あたしのほんの数メートル手前でその行進を止めた。坂上を追う力の群れはその余波を四方八方にバラまいているのに、あたしの方へと迫ってきていた力だけは、その余波ですらも留まったのだ。
だれがその猛威を止めたのかは考えるまでもない。
そして避けようともしなかった自分をおかしいとも思わない。
ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、あたしとあいつの距離が開いたような感覚が悲しくて、それでも何故か『自分は大丈夫』と思えた事が誇らしい気がしただけだ。
そして全てが掻き消える。
全ての力達が掻き消える。
一切が静寂へと戻る。
ただあるのは灰色の大地と同色の空、そして歯車と月。
そんな無彩色な静寂を彩る中空から、再び鎌首をもたげるかのように顔を覗かせた鎖達は、先ほどとは違いほんの数本だけだった。
その数わずか五本。最初にシャクが使っていた数と同じだけの鎖が、静かに佇む『黒鉄』を覆い──その鈍色を変貌させていく。
先ほど具現し、顕現し、全てを蹂躙しようとした力達の中でたった五つ。私がよく知っている三つと、私が知らない二つの力へと変貌していく。
灰を巻き上げ乱れ舞う風。
気流が渦巻くような甲高い音の渦。
これらはあたしとも面識のある人物の力だと思った。
同じような力を持つ変種は他にもいるかもしれないのに……ましてやこの力の群れが現れた原理は、ひょっとしたら全然別の何かかもしれないのに、あたしにはこの二つが『双刃』と『深緑』のモノなんだと思えて仕方がなかった。
確信出来る要素なんか何もないのに、そうなんだという確信があった。そんな自分に違和感すら覚えない事を、全く不思議にも思わない。
──今は亡き先人。今では『廃都』と呼ばれるカリギュラに染み込んだ、黒鉄達の血のほんの一滴。
この二人とあたしの間には、それほど深い繋がりがあったワケじゃない。あたしがこっちに来たばかりの頃にあった一大抗争──廃都郊外で起こった黒鉄と関西軍、その他が入り乱れた争いで、二人ともが殺されてしまったから。
深い繋がりを持つ前にその機会を奪われてしまったのだから。
でも、シャクと彼等は違う。
その間には血の交わりよりも濃い繋がりがあっただろう。友人といった関係よりも深い絆があったに違いない。
ならば──ならばこの時、この場面で、彼等が『ここにいる事』に違和感を持たないのも当たり前かもしれない。そんな戯れ言を、あたしはなぜかしっくりくる感慨と共に納得していたのだ。
次に現れた火弾の群れも、無色透明になり、あたしには見えない形で具現したなんらかの力も、恐らくあたしの知らない──いつか黒鉄だった者達のモノなんだと思う。
そして──
「あっ……」
そして、現れた灰色の刃の群れに──あたしは惚けた声と共に言葉を無くした。
灰色の土、灰そのモノが固まっていく過程。そして連結され、形を持って繋がって出来ていく『刃達』に。
「なんだ、あたしに任せるなんて言ってさ……」
あたしは知らず知らずのうちに涙を流していた。
悲しみでも喜びでもない。何かが内から溢れてきて、それが涙になって流れ落ちていったのだ。
『頼んだから。カーリアンの紅でシャクを助けてあげて』
なんて言ったクセに──
「やっぱりあんたもほっとけなかったんじゃん」
……そう思えば、知らず知らずのうちに笑みまで漏れていた。
あたしがこんな状況でもシャクをシャクだと認めたように、彼女もきっと黒鉄の全てを知っても、彼女は『あのまま』だったんだろうな、と思えば笑いたくなったのだ。
「ミヤビもさ、大概面倒見がいいよね、ホントさ」
その呟きはきっと誰にも届いていないだろう。脳裏に浮かんだ『彼女』にも届くワケがない。
それでも──それでも『彼女』があたしの呟きになんて答えるかだけはわかった。
『ホント、シャクのヤツってば手がかかるからさ。でも、ケ・セラ・セラ……頑張ればなるようになるよ、アカちゃん』
そう笑っているような──そんな気がしたのだ。