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25・Long way to say good-bye──the shadow of death──

月曜日は連休ゆえの予定ができましたので、ギリギリ土曜日に更新致します。

なお『シンフォニア』の方は、手直しが終わりませんでした。


書き終わった後も本編をひたすら手直ししているうちに、そっちはすっかり手付かずです。

書けてはいますが、アップはさすがに出来ないデキです。

また終わり次第アップ致します。


今回のあとがきは、『あとがきっぽいあとがき第2弾』です。

あとがきネタはまだまだあるけど、今の段階では出せないから、あとがきっぽいあとがきを苦しまぎれに載せております。


感想や要望、誤字脱字のご指摘等ありましたら、ガンガンお願いします。




さりげなく誤字や脱字に、逆月自身もたくさん気付いてますが、直していないのは秘密です。

なんというか『ま、いっか』で済まし、後から……なんて先延ばししちゃうクチです。

それじゃダメだとは思っているんですがね、自分だけではなかなか動けない怠け者なんです。





 下弦の月が傾く頃──戦いの号砲は高らかに上げた。

 隠密行動をしようにも、坂上がいるベルセリス要塞には、高い知覚能力を持つ変種も多いと思う。どうせバレる事になるのなら、最初から派手に始めてやろう……あらかじめそう決めていたのだ。


 辺りには警報が鳴り響き、靴音の群れがせわしなく動きまわる。

 そんな靴音の群れに、時にはゆっくりと忍びより、時には真っ向から突っ込んでヴァンプ達を潰していく。

 銃床で顎を叩き砕き、膝を踏み抜き、倒れた相手の額にシャクナゲの唇を触れさせる。

 そして深く暗い色のキスマークを刻まれた相手を、道の先へと蹴り飛ばし、それを盾のようにしてまだ生き残っているヴァンプ達へと迫り……その繰り返し。


 苦鳴も嘆願も聞かない。聞こえない。何人潰したかも数えない。ただ怒号と悲鳴の狭間を駆け抜ける。

 その中には、ひょっとしたら俺よりも──このシャクナゲよりも強力な変種がいたかもしれない。それでも俺が先へと進めたのは、純粋に経験値の差。

 持つモノである関西軍と、持たざるモノである黒鉄。その2つが歩んできた経験の差が、今の俺と関西軍の変種──ヴァンプとの一番の差だろう。


 それを実感しつつも、ただひたすらに奥を目指して進む。

 思ったよりも数が少ない事が幸いした。恐らくは、また近畿東部地域で東海の狂人の勢力と、暇潰しのような小競り合いでもしているのだろう。


 それは多分ツいていたと思う。

 俺にとっても。そして今ここを離れているヤツらにとっても。


 もちろんここに残ったままのヤツらだけでも、当然数はかなり多い。

 だけどこの暗闇の中では、下手な変種の能力などよりも『身体能力』こそが最大の武器だ。

 視力しかり、それに付随する認識力しかり。暗い場所は、その視界を狭めるだけじゃなく、認識力をも下げる。

 この闇こそが身体能力の優れている俺には一番の味方と言えるだろう。



 そんな状況をフルに使い、ここにいる戦力を確実に削っていく。

 別にそれ自体が目的なワケじゃない。

 目標はあくまでも1人で、それ以外は全てそこへ至る為の道標。変種も既存種も関係ない。

 向かってくる者は全て敵、俺の前に立つヤツは全部敵だと定めて……そう覚悟を決めて、戦いの号砲を上げたのだから。


 もちろん今は亡き親友に、その号砲が届かない事は分かっている。そんな感傷に浸るにはこの世界は神の膝元から遠すぎる。

 アイツが地獄にでも落ちていたなら、あるいは聞こえたかもしれないが、アイツの要領の良さからいって、おめおめと地獄になど落ちてはいないだろう。


 ……もっとも『地獄』とやらが、現実(この世界)より過酷なのかは少々自信がない。

 案外現実(この世界)に揉まれたアイツなら、地獄でも『こんなのぬるま湯と変わらない。ぬるいぬるい!!』とか言って笑っていそうだ。


 そんな愚にもつかない考えに苦笑を浮かべながら、最後の警備兵を……一瞬で仲間達を壊され、呆然としたままの男を蹴り飛ばすと、その倒れた肩を足で踏みつけながら額に銃口をあてた。


 ──地獄(向こう)にもし智哉がいたなら伝えてくれ。

 すぐにサカガミもそっちに行くってな。

 ……そんな言葉を落としながら。






 ──坂上。今は将軍を名乗るヴァンプのファミリーネームは、そんな珍しくはない普通のモノだった。

 それを俺に教えてくれた男はもういない。狂ったかつての友人から……関西のヴァンプの始祖になった男から、必死に故郷を守ろうとしたアイツは、きっと自らの死期を知っていて──それでも諦めてはいなかった。

 どのような手段を用いたのか、個人だけで集めうるには多すぎるほどの資金や資材を集め、それらを元手に、人と変種が共に暮らせる組織を作り、部下に命じて人材を集めていた。

 俺を黒鉄に誘い、檻たる符号を持つに足るだけの能力者を集めていたのだ。


 きっと……そう、アイツはきっと己の死期を知っていたからこそ、後を託すに足る人材を集めていたのだろう。

 力の有無に関係なく人である事を願った者、ヴァンプにはなりたくない者達を集めていた。

 ヴァンプのように、変種がその力に狂わなくても済むように、力なんかよりも大事な居場所を作り上げた。

 今までの仲間だけじゃなく、これから出来るであろう新しい仲間達が、その力に溺れないように──そして『檻の中心』にいるバカを、その暖かさと居場所で抑え込む為だけに『黒鉄』を作った。

 我が三班の今日の在り方も、アイツが作ったモノだ。

 それを色濃く受け継いでいる班こそ、今の三班と言ってもいい。


 俺自身も、アイツに言われて各地にいる変種達を集めて回っていたけど、今思えばそれは多分『檻の役割』を期待しての事だけじゃなかったと思う。

 そして俺を──強力な変種達を同類達で囲み、狂う事を……増長することを抑える為だけじゃないのだろう。

 故郷とそれを愛する人に残す為の財産だと思うのだ。

 いつも考えなしに行動しているように見えて、アイツは自分の周りの世界を愛していた。自分を囲む人々を大事にしていたから。



 それでもその男の存在は大き過ぎて、残された者達は絶望に包まれている。今いる場所に不安を抱いている。涙にくれている。

 でもその絶望、不安、涙を拭えるヤツはもういない。

 それが出来る男は、最後まで笑って──きっとそれも周りの者達の為に無理して笑って──逝ってしまった。

 いかに死期を知っていても、死ぬ事が怖くないハズなんかないのに、最後の最期まで笑って逝ってしまったのだ。





 ……だから俺はここに来た。俺はアイツみたいに、その雰囲気だけで周囲を笑わせる事は出来ないから。

 アイツみたいに笑うだけで周囲を安心させられないから。


 ──俺はアイツみたいにはなれないから。


「智哉、お前はそっちで安心して見てろ。お前の『暁』と対になる最初のコード『宵闇』に賭けて……この手を血に染めて、罪に濡らして、残してくれたモノは全部守ってみせる。

最初は────将軍だ」


 そう、血塗られた道が似合う俺には、所詮行動と結果で示すしか出来ないのだから。





****





 ……どうなっている?

 そんな思いに、軽く舌打ちを漏らしてしまう。

 状況が全く読めない。少なくとも俺が予定した通りに事が推移していないのだけは間違いない。

 予定では、先行したカーリアンとは違う道程を通り、彼女が起こすハズの騒動をすり抜け、吹き上がる爆炎に紛れて坂上の城の正門を目指す予定だった。

 そう、それだけで大分楽に坂上の元まで辿り着けるハズだったのだ。

 上手くすれば、カーリアンを蚊帳の外に置いたまま、全てをこなせるかも……なんて、甘い考えすら持っていたくらいなのに。


「なんでここまで警戒網が敷かれているんだ」


 その正門からは、警邏兵達が慌てた様子で出て行き、あちこちへと散会している。そして肝心の入り口、正門前には簡易の砦まで築こうとしていた。

 トランシーバーらしきモノで連絡を取っている兵、ドラム缶やら鉄骨やらを運んでいる者、スナイパーライフルらしき長銃を組み立て、あちこちのビルに散る者までいる。

 驚きなのは、どこの闇市から取り寄せたモノなのか、革命以前にすでに後継機が出た関係で廃れていた『99式』らしき戦車まで幾つか配備している事だ。

 その奥には一台、99式に比べれば断然新型の『TK─X』の改良型らしき戦車まで出てきている。

 それら重車両が、門の前に盾のごとく扇状に配備され、砲塔を四方に散らしていたのだ。


「運悪く他地方軍が侵攻してきた時期に被った……ってワケじゃなさそうだな」


 余りにも物騒な配備ではあるけど、それらの動きが防衛を目的としたモノであるのは明らかだ。

 他地方軍が侵攻してきたのなら、こんな首都深くの要塞前に構えはしない。侵攻部隊の迎撃に向かうだろう。

 あの坂上が、自分の支配地域を侵されて、やられっぱなしのまま防衛の手を打つとは思えない。



 そう、これは侵入者に対する構えだ。

 本拠を守る動きの慌ただしさや物々しさからして、その侵入者が尋常ならざる相手だという関西軍の認識が深く見てとれる。

 ──そう、その侵入者とはすなわち俺を指しているのだろうという事は簡単に想像がつく。



 かつてこの城の奥深くまで単身辿り着いた黒鉄。

 一年前のあの日、関西軍の中枢をめちゃくちゃにした変種。

 坂上と向かい合い、追い詰めながらも、途中で断念した存在を警戒しているのであれば、この警戒網の厚さ、物々しさも納得はいく。


 ……問題があるとすれば、『何故俺が今来ているとあっさりバレたか』だ。


 黒鉄に潜む狐がその情報を流したとは思えない。

 狐の正体が俺の思っている通り『アイツ』ならば、俺が倒れる事を望んではいないハズだからだ。

 アイツが狙っていたのは、あくまでもアカツキが亡くなった時の再現。黒鉄を1つにまとめる事にあったハズだから。

 大きな作戦の失敗と内通者がいるという危機的状況を作り上げ、アカツキが亡くなったあの時と似た状況を作る事。それにより危機感を与え、7つに別れた黒鉄を、再び1人のリーダーの下に1つにする事にあるのだろうと思っている。


 万が一、俺が狐の正体を見誤っていたとしても、俺が抜け出したと気付いてから、関西軍に連絡をいれたにしてはこの動きは早すぎる。

 俺達が抜け出した事くらいは、すでにみんな気付いているだろうが、そこから連絡を入れたにしてはいくらなんでも早い。

 携帯もパソコンもすでにその存在に意味を成さず、通信網自体がほぼ壊滅している現在では、情報の速さも正確さも『昔』とは比べるべくもないのだから。


「……考えている暇はない、か。理由がどうだったにせよ、完全に準備を整える前に、一気に突破するしかない」


 もしくはしばらく待って夜になってから──

 そう安全策を考えて、即座に頭を振った。

 夜になれば動きやすくなるのは間違いないが、その時間にはカーリアンが突出し過ぎている可能性がある。

 彼女が今どこにいるのかは分からない。まさかあのまま真っ直ぐ城へと向かっていないだろうとは思うけど、いずれは彼女も城を目指すだろう。

 憎まれ口を叩きながらも、彼女は心配性だから。


 だけど彼女じゃ坂上には絶対に勝てない。

 それは変種特有の能力云々だけの問題じゃない。あらゆるステータスを加味した上で、勝てないと判断せざるを得ないのだ。


 まず彼女には絶対的に経験値が足りない。

 純正型を敵に回した事が少ない彼女では、まず関西軍のトップたる高位純正型には勝てないだろう。

 それ以前の前提として、彼女が救急班に所属している以上、まともな戦闘経験自体が浅い点も否めない。

 対する坂上はというと、経験値自体は決して浅くない。

 もちろん毎日──四年もの間、劣勢な戦いを強いられてきた俺やスイレン、スズカには及ばないだろうが、戦闘経験が浅いとは言い難い。

 革命時の国軍との戦闘もそうだし、俺達黒鉄や他地方軍と争いを繰り返している実状もある。

 他地方軍の主力が攻めてきた場合、つまり他の高位の純正型が出てきた場合は、ヤツ自身が前線に出る事もあるだろう。

 武装盗賊達を締め付けたりもしているはずだ。

 どうみても変種同士の争いという舞台では坂上に分がある。


 第二に、坂上の身体能力は彼女よりも上だという事。

 訓練ではカーリアンとやり合った事もあるし、坂上の身体能力もある程度把握しているが、カーリアンがヤツよりも上だとはあまり思えない。

 変種の能力で純正型に劣るのは仕方がないとしても、身体能力や経験値まで劣ってはまず勝機がないだろう。


 他の人種が純正型に勝つには、その2つだけは最低でも勝っている必要がある。


 ……まぁ、能力じゃまず純正型には及ばないのだから、出来れば他の全てにおいて勝っている、というのが理想ではあるが。


 だからこそ、彼女だけが突出し過ぎるのは非常にマズい。

 そうなれば──彼女が万が一坂上に人質にでも取られれば、俺は彼女を見捨てて坂上と戦うか、彼女を救うという選択に『また逃げるか』を、選ばなければならなくなる。


 一年前に傷だらけになった自らの体を理由にして逃げたように。

 今回もまた、逃げる選択を与えられてしまう。

 ……それはちょっと怖い。

 今日の俺は、間違いなく見捨てるという選択を取るしかないから。

 逃げる選択肢があるのに、今回はもう後に引けないから。

 二度目はもう、背を向けられないから怖い。

 だからこそ俺だけで済ませられる内に、全てをこなしておきたい。



 ……おきたいんだけど、気になる事があるとすれば、最初以来火の手が上がっていない事だ。

 20分ほど先行したハズなのに……そして手加減は苦手なハズなのに、炎が全然上がっていない事が気にかかる。

 彼女と別れてしばらく時間を置いていた間に、何度か炎が見えて以来、彼女の力の余波が見えない事が不安を掻き立てる。

 まさか紅のコードを持つほどのパイロキネシストが、こんな短時間で敵にやられるとは思えないが。


「夜まで待つワケにはいかない。タイミングを待つにしてもジリ貧になるのが見えている、か」


 夜を待つのは却下。

 タイミングを待っていれば、警備体制は敷き終わる。

 こんな事になっているのなら、カーリアンとはここまで一緒に来れば良かったと思うけど、まさに後の祭りだ。


「……行こうか、シャクナゲ」


 結局は犠牲なく坂上の元にはいけないという事だ。

 ここを突破するにしても、殲滅するにしても、いずれは誰かをどこかで殺さなきゃならない。

 むしろここで殲滅しておかなければ、中の敵と挟まれてしまうだろう。

 ここにいるヤツらが、彼女や黒鉄の誰かを傷つける可能性もある。

 ここで犠牲を少なくする事を目指すには、ちょっと俺の状況は劣勢すぎる。


 出来る事は向かってくる者、留まる者は全て排除する事だけ。

 逃げる者はせめて追わない……それぐらいの甘さしか持ち得ない。

 いや、その程度の甘さであれ本来は許されないモノだろう。


 無言で銃を構える。状況はすでに把握済みだと自らに言い聞かせながら。

 後は一歩踏み出すだけ。

 一番厄介なのはTK─X改、そして98式。

 そこらに散ったスナイパー達は、正直無視してもいい。

 狙撃には風読みや位置取りなどの技術もいるから、その腕も知れたモノであろうし、あれらは油断した目標……狙われていると気付いていない者にこそ脅威となる存在だ。動きまわる者を狙うには小回りが効かな過ぎる。


 問題は重厚な装甲を持つ戦車。そして戦車に乗っていない者の中に、何人かは混じっているであろう高位ヴァンプ達。


 こういう時に最初に狙うべきなのは、より脅威になる相手。その中でも狙いやすい相手だ。

 そう考えると、戦車は汎用性は利かないし、都市内では小回りも利くとは言い難い分、その装甲の厚さから遠距離狙撃で向かい合うべき相手だとは言えない。


 ──狙うならヴァンプだ。

 警邏兵の中でもふんぞり返っている者、そして格好を付けているつもりなのか、TK─X改の砲座に足をかけ、檄を飛ばしている男、そして変種特有の容姿を持つ者達から何人かをピックアップし、狙う順番を見定めていく。


 正門前からそこそこ離れた距離があるここ……ビル群の中の1つである、廃れたビルの二階から見極める限りでは、やはり狙撃だけでヴァンプ達を全て始末する事は難しいだろう。

 『シャクナゲ』の命中精度は、普通のハンドガンと比べればまだいい方ではあるが、狙撃用のライフルと比べればさすがに数段落ちる。

 それを弾幕で補える点は利点ではあるが、必中を来す意味では大きな欠点だ。


「5人……いや、もっと冷静に見ろ、いいところ3人始末出来れば上出来だ」


 狙うだけなら何人でもいける。確実に当てられるのは、最初の数人だけ。

 その以上は速射ではさすがに命中精度が落ちる。

 倒れた仲間を見れば、他のヴァンプ達は即座に身を隠すだろう。

 そして撃ってきた方角を見定めてから、戦車が砲を撃ってくるのは間違いない。


「慎重になれ、冷静に、冷徹に……」


 誰を確実に始末するか、誰を後に回すかで、今後の展開は大きく変わる。

 純正型がいればそいつから狙いたいところだけど、関西という土地柄か、この地方は元々純正型の数自体が少ない。

 少なくとも今の関西軍の中では、坂上以外の存在を俺は知らない。

 この警邏兵の中でも、一目でそれと分かるヤツはいないようだ。


 一年前に来た時には、坂上の他に1人だけいたが、そいつもあれからいなくなったハズだから、ひょっとしたら他にはもういないのかもしれない。


「こんな事なら、事前にカエサル所属のヴァンプのリストを完全にしとくべきだったな」


 小さな舌打ちと共に、顔見知り──俺が顔を知っているほどの敵がいない事に、憂鬱な溜め息を漏らした。

 近衛のヤツらは、恐らく中で待ち構えているのだろう。

 近衛『軍』とは名前ばかりの、たった3人きりしかいない坂上の側近がここに出てきているのなら、アドバンテージがある内に潰せたのに。

 やはり今日も俺はツいてはいないのかもしれない。


 もちろん他にも何人かの強力なヴァンプは知っている。

 錬血のミヤビを殺した相手は脳裏に刻まれているし、スイレンに殺されかけながらも、なんとか逃げ延びたヤツも知っている。

 ヨツバに潰された元武装盗賊団の頭も知っているし、カブトを暗殺しようと狙い──いや、アイツは結局『アゲハに追いつかれて』殺されたのかもしれないが、そいつも知っている。


 でもこの警邏兵の中にはいない。

 完全なリストを作るには、リスクが大き過ぎたから先延ばししていたけど、そのツケはやはり大きかったようだ。


「アイツとアイツ。あの2人の容貌は間違いなく変種だ。染めたモノでもカラコンでもない。アイツはダミーな可能性がある。後回しだ。指揮官だけは潰したいけど、まさかあの目立ちたがりじゃないだろうな」


 ざっと見回し、確実に変種で、そのちょっとした動きから身体能力が高い者だけを優先する。

 能力が分からない以上、見ただけでもある程度は分かる身体能力の高いヤツを狙うしかない。

 目立っている者を狙いたくはなるけど、さすがに一年前、あれだけ派手な真似をした敵を相手にしながら、無造作にふんぞり返ってはいないだろう。

 そうやって頭の中で削除リストを上げていき──


 ──カチッ……

 セーフティーを上げる。

 心の安全弁の開く音と共に、ゆっくりとその顎を開け『シャクナゲ』が牙を剥く。


「……この世に神なんかいない。神や悪魔なんて強すぎる存在はいちゃいけない。いるのは狂った人と足掻く人──ヴァンプと人間だけだ」


 『シャクナゲ』、それは──

 俺の力、俺の相棒。

 俺の牙、俺の檻。

 智哉の楔、智哉の願い。

 約束の証、制約の具現。



 ──そして封じるモノでねじ曲げるモノ。



「さぁ、行こう、過去から続く時を血の赤で彩りに。

幕引きまで続く真紅の螺旋を駆けようか……」


 ここは一年前の続き──その果てにある場所だ。

 あの時に果たせなかった事を、ただもう一度やり直す為だけのアンコールステージ。

 エンドロールはまだ先で、それは俺の終わりの時にこそ流れるのだろう。

 この詰まらない筋書きが、悲劇的な喜劇で終わるも、喜劇的な悲劇で終わるも、その時の俺には関係がない事。

 やっと終わりを迎えた俺の行く末は、きっと亡者が蠢く地獄の底でしかないだろうけど、その事は別に怖くない。

 そこが現実(ここ)よりも腐って、歪んで、堕ちきった場所だったとしても、そこには俺に見合うだけの罰がキッチリ用意されていると思えば、むしろ気が楽になる。


 本当に怖いのは、死後に待つのが虚無である事。

 償う場もなく、後悔しかなく、ただ消えてしまう事の方がよっぽど怖い。


 ──山ほど罰と責め苦を用意して待っていろ。

 地獄の主にはそう願う。

 その罰と責め苦をキッチリと受けた上で、ひょっとしたら死後の世界にはいるのかもしれない『神』ってヤツに、この銃口を突きつける事を思えば嗤いが漏れそうになる。


 後悔を果たす為に、また1つ罪を重ねる。

 罪を重ねるのは守りたいから。

 そして守りたいからこそ誰かを……自分の中で自分なりに他人に優先順位をつけて殺す。

 その殺めた者に報いたいから、また後悔する道を選ぶ。


 今も俺はその螺旋階段を上り続ける。あるいは転がり落ち続ける。



 ──時刻は夕刻に差し掛かり、やがては月がその姿を現すだろう。

 多分、あの時と同じ下弦の月。

 光化学スモッグの余韻からか、単なる見え方なのか、深紅に見えるあの時のような月が。


あとがきっぽいあとがき。

第2弾。


予定より長くなりそうです。というより、一章は確実に長くなります。

今回のアップ分を上げるまでもなく、半分は終わっている……とは思っていましたが、下手したらまだ半分くらいかもしれません。

なにしろ謎解きと伏線の回収があります。

もちろん唯一の見せ場っぽいバトルシーン、一章ラストバトルもあります。

二章に繋げる伏線も張らなきゃならないし、まだ出していないシーンもあります。


黒鉄という名前の由来とか。

アカツキの出るシーンとか。

あれとかこれとか。


狐についてや『真実』については、カクリの考察『アカツキ』や『真実』で、今までの考察タイプではなく、物語調で書いていきますが、長くなりそうですし。


二章も当然流れを決めてますが、それに入る為のステップを踏むのにも手間がかかりそうです。

この話は、書いてて楽しいんですけどね。

プロットから実際文字を起こしていく段階で話も膨れてきましたしね。

これが作者の手から文章が離れるという感覚か、とか思ったりします。

勝手に文章が膨らむ感覚で、本筋を守るのに手一杯です。

まだ出ていない『ヨツバ』『スイレン』や、『オリヒメ』の四班、『ナナシ』の一班も考察でようやく出てきます。

終盤に物語が加速してく予定です。

二章に向けて、物語が収束していかない辺りが頭が痛い。

地続きなら章分けする意味がないだろ、と。


などなどいろいろ考えてはいますが、さて、3月中に一章を書き終わるんでしょうかね?

自分にも分かりません。

まぁ目標は変えませんけど。

単純計算すれば週1だと『後十回くらい』しか更新日ないのが問題ですが、その場合は週二更新する時もあるやもしれません。


更新日のお知らせは逆月の活動報告にて。


最後に。新たにお気に入り登録頂いた方々、ありがとうございます!

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