表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/112

22・ターン オブ ルビーアイ

あとがきを追加し、脱字を直しました。12/18。

あとがき……文字数が一杯一杯でぶつ切り感溢れていますが、気にしない方だけお読みください。


お得意のカクリの考察バージョンです。コメディタッチな気分転換小話ですけど。






 ──ハメられた。

 正直そう思った。


 スズカは確かに物分かりのいい性格をしている。少なくとも俺にはずっとそうだった。

 でもそれは、『自分自身』という枠内においての事だ。

 その事も俺は理解していたハズだった。

 そして彼女が決してバカじゃない事も、俺をある意味では誰よりも理解しているという事もわかっていたつもりだった。

 そんな彼女がなんの手立ても策もなく、俺を1人で行かせるハズがないという事に、今まで気づかなかったのは迂闊であり──やはりハメられたと思う。


「一応聞いていいかな?なんで君がここに……俺の車庫にいるんだ?」


 目の前には見慣れた女性の得意気な顔。

 真っ赤な瞳と真っ赤な髪を持つ──


「カーリアン」


 黒鉄第二班の班長が、俺専用の超大型二輪車『バルバトス』にもたれかかりながら、こっちを見据えていた。



「スズカにさ、シャクについていってあげてって頼まれたのよ」


「……やっぱりか」


 カーリアンの性格を思えば、一旦見舞いに来ておきながら、起きるまで待たずに帰ったという事に、まずは違和感を感じるべきだった。

 忙しい立場にあるカクリやカブトとは違って、彼女は比較的時間に余裕がある。

 有り体に言えば暇なのだ。

 そしてスズカとも仲がいい。

 スズカと一緒でも気まずく感じたりしない、唯一の黒鉄なのだ。

 そんな彼女が、スズカとおしゃべりをするでもなく、先に帰ったからには理由があると考えるべきだったのだ。


「スズカのヤツ……」


 あの表情の薄い妹分に──自分はいつも通りに物分かりのいいふりをして、しっかりカーリアンに手を回していた彼女に、思わず悪態が漏れそうになる。

 彼女ならああいう話の振りをすれば、俺がずっと後悔をしていた事……つまり坂上の事を果たそうとすると分かっていたハズだ。

 逃げるにせよ、変革を迎えた黒鉄に残るにせよ、坂上の事は自分で果たすべきだと、俺はずっと思ってきたのだから。

 それが智哉の願いであり、黒鉄の悲願であり、俺の未練だから。

 それがスズカにも分かっていたと思うし、それは『俺の手で果たしたい』と思ってきた事も知っていたハズだ。


 そして俺が、スズカにはここに残ってくれるように願う事も予測出来ただろう。

 だから彼女は、『自分以外の自分が信用出来る人物』に、お目付役を任せる事にしたんだと思う。


 ──つまりはカーリアンに。


 やはりハメられたと思う。

 ……そして親友であるカーリアンに、そこまで残酷になれるモノなのかと思ってしまう。

 彼女が《光都・カエサル》に付いてくるという事は、俺と今は将軍と名乗る坂上との戦いの側に置くという事だ。

 それはとても残酷な事で──とても理不尽な事。

 カーリアンの知る現実と、真実の違いを見せつける事だ。


 俺はきっと全力を出さなければ、坂上に──『自分の世界を構築する能力を持つ純粋なる変種』には勝てない。

 それにあのおしゃべりな坂上が、ペラペラと全てを語り出すかもしれない。

 それが分かっているだろうに、カーリアンにお目付役を任せるというのは、スズカらしからぬ残酷さに思えた。

 カーリアンの事を思えば、出来るだけ真実からは遠ざけておくべきなのに。

 もっと言えば、黒鉄内でもヴァンプ嫌いの筆頭たる彼女には、受け入れがたい事であるハズなのに。


 それとも──それともひょっとしたら、スズカは本当に心の底からカーリアンを信じきっているのかもしれない。

 直接的な判断を彼女に委ねるくらいに信用し、信頼しているのかもしれない。

 他人に対して臆病なスズカが、そこまでカーリアンを信用したのだとしたら、彼女の人間的な魅力は大したモノだ。


「さ、行くなら行きましょ」


「どこに行くつもりか知ってるのか?えらくお気楽に見えるんだけど」


「将軍のトコでしょ?スズカがそう言ってたわよ?」


 それを知っていながら、そんな風にお気楽でいられるのは度胸があるからなのかどうなのか。

 将軍のいるところといえば光都であり、光都といえば関西軍の首都だって事を分かっているのだろうか?


「ほら、ちゃっちゃと来る!みんなにはバレないように行きたいんでしょ!」


「出来ればカーリアンにもバレたくなかったよ」


「無理ね。仮にも入院中なんだから、主治医代理のあたしは付いて行かなきゃ、あたしがカクリに怒られるわよ」


「君を連れていったら、俺がカクリに怒られると思うけどね」


 そんなやり取りを交わしながらも、俺は仕方なくバルバトスのシートに腰を下ろした。

 背後には何故か嬉しげなカーリアンが座る。


 ──スズカがそう望むならカーリアンは連れていこう。邪魔はしないように言い含めておけばいい。

 それに彼女なら『断罪者』としては申し分がない。

 黒鉄1ヴァンプ嫌いの彼女なら。

 そんな事を思いながら、一年前……智哉が亡くなった時にも訪れた光都に向かうべく、俺はバルバトスのエンジンに火を入れたのだった。





****





「カーリアンに頼みがある」


 そういきなり言われたのは、しばらく時間を遡った時の事──つまりシャクの寝汗をついに拭おうと手を出しかけた時だった。

 その声に思わずビクッと身体が震える。

 その声はずっと聞きなれていたモノではあったが、ここでは聞こえるハズのないモノだったからビックリしたのだ。


 ──だって背後にあるドアは、あたしが入ってきて以降開かれておらず、この部屋にはあたしとシャクの他には誰もいないハズだったから。


 そう思って周囲を見渡せば、簡単に声の主は見つかった。

 なんの事はない。その少女は窓から顔を覗かせていただけだったのだ。

 ただし問題があるとすれば、ここは最上階……つまり地上七階だという事だろう。

 そして、窓の下には足をかける場なんてない事も問題かもしれない。

 それでも平然とした様子で少女は窓辺に肘を付き、こちらをジッと見据えてくる。

 真っ白なニットをかぶった頭を、コクンと小さく傾げながら。


「……私、邪魔だった?」


「ちょっと!どっから入ってきてんのよ!?危ないでしょ!」


 イタズラっぽく小さく笑う少女に慌てて駆け寄った。

 もちろん彼女からしてみれば、七階ぐらいの高所など危なくなんかない事ぐらいは知っている。もっと危ない場所──そう、例えば戦場などでも、彼女が一番安全な立場にいる事も分かっているつもりだ。

 最強の変種たる純正型にして、最高の能力を持つ黒鉄である彼女からしたら、戦場とは平等に命のやり取りをする場所なんかじゃなく、『命を一方的に狩る場』でしかない。イコール彼女にとっての戦場とは、仲間の命を守る為の場でしかない事を知っている。

 彼女が脅威を感じる相手がいるとすれば、かなり強い力を持つ高位のヴァンプか、まさに彼女と同じ純正型を敵に回した時ぐらいのモノだろう。

 あるいはちょっと無茶をしすぎて、シャクに怒られるんじゃないかってビクビクしている時ぐらいモノだ。


 それでも……そんな事はよく知っていても、そんな高所から顔を出されたら危なく見えるのだから不思議だ。

 慌てて駆け寄るとそっと脇に手を入れて引き上げてやり、不思議そうに首を傾げている彼女に軽くデコピンをかました。


「遊びに来る時は正面から来なって言ったでしょ?落ちたら痛いんだよ?」


「別に危なくなんかない。落ちないから痛くもない」


「見てるこっちが危なく見えるからやめてって事!」


 三階にあるあたしの執務室……という名前の私室にくる時も、大抵は窓からだったりするけど、まさか七階でも同じ真似をするとは思わなかった。

 あたしでも足場さえあれば──あるいは手段さえ選ばなければ、七階の窓から侵入する事くらいは出来るけど、やはり落ちたりしたら危ない事には変わりない。

 それに常識的な観点からしても、そんな真似をしようとは思わない。


 ……ほんとにこの子には常識が通じない。

 そう思えば溜め息が漏れる。

 だからこそ、彼女にはついつい口うるさくなってしまいがちだった。


「カーリアンはいつも心配性」


「スズカは相変わらず常識破りね」


 そんな事を言いつつも、軽く弾かれたおでこをさすりながら、彼女ははにかむように笑う。

 なんでこの子は、怒られてるのにこんなに嬉しそうにするかな。

 そう思えば思わず苦笑が滲む。

 誰かに心配されたり、怒られたりしたくて、つい危ない真似してしまいがちな子供がいる、って話を昔聞いた事があるけど、彼女もそんな感じなのだろうか?

 あたしの前ではとにかく危ない真似や、心配させるような真似をしている気がする。

 普段は……会議なんかの公の場では、話を聞いているのかいないのか、ひょっとしたら寝てるんじゃないかと思うくらいに茫洋としてるのに。


「で?シャクの見舞いに来たの?なんなら起こそうか?」


「いい。シャクにも用事があるけど、カーリアンにも話があるから」


 そう言うと、スズカはトコトコと部屋の入り口まで歩いていき、付いてきてとも言わないままで部屋を出ていく。


 話があるってここでは出来ない話って事?シャクを起こしたくないからとか……そんな事を考えながらも、あたしも彼女に続いて部屋を出る。



 最上階であるここには、他に入院患者は入っていない。

 エレベーターが電力の関係で止められている以上、怪我人や病人は、基本的に下の階の部屋から埋められていく。

 最上階とはいっても、実際は眺めに見合わない長い階段を上った先の部屋に過ぎず、回診をする医師達も、進んでこの階の部屋に入院患者を入れようとはしないのだ。

 まぁシャクが入院している今は、三班有志数名が六階との中間で見張りをしているから、なおさら人影が少ないのもあるけど。


 そんな廊下を、ひょこひょこと左右に独特に揺れる歩様のまま、スズカはどんどんと歩いていく。

 その歩様に合わせて、ニットのしっぽとファーがくるくると舞っていた。


 昔は味気も飾り気もないグレイのニットをずっと愛用していたけど、一度あたしが彼女に命を救われた折に、この白の可愛いニットをお礼として贈ってからは、ずっとこのニットを愛用してくれている。

 最初はラビットファーだったんだけど、それが戦闘でボロボロになった時に、改めて今の形になったのだ。

 ラビットファーだったら、長過ぎてちょっとした事でほつれたりするから、苦心して今のカーリアン特製ニットに縫い上げたんだけど、それもまた一塩思い出深い出来事ではある。


 だって前のニットがボロボロになった時のスズカったら、背中に重い影を背負って、ラビットファーが千切れたニットを大事そうに抱えてるのだ。

 それまで被っていたグレイのニットを再び深く被っている辺りが、より深い哀愁を漂わせていて、つい『あたしが直してあげる』なんて言ってしまったのは仕方がない事だと思う。


 ひょこひょこ揺れるファーにそんな思い出を見出し、ちょっと笑ってしまいそうになる。

 あたしには姉妹なんていないのに、スズカは妹のように思えるのだ。

 天性の妹属性があるとしか思えない。

 みんなから怖がられているけど、カクリやシャクと同じぐらい、彼女が今のカーリアンを形作る要素になったのは間違いない。

 カクリはスズカより年下──というより、生まれ月からすると、スズカはあたしより上なんだけど──なのに、何故かあの子は姉っぽい。

 シャクが兄でスズカが末っ子。そんな序列があたしの中にはあったりする。

 もちろんそんな事を言えば、カクリは目を剥いてスズカを敵視すると思うけど。






 やってきたのは屋上だった。

 柵も欄干も取り払われ、真っ平らな平面を見せるコンクリート作りの屋上。

 子供達の立ち入りどころか、一般的に解放されていないそこに、スズカは平然と立ち入った。

 鍵はどうしたんだろう?なんて思うけど、きっと担当がかけ忘れたんだろう、たまにあるんだ。別にスズカが壊して入ったワケじゃないよね、と自らに言い聞かせて気にしない事にする。


 スズカを相手どっては、気にし過ぎたら負けなのだ。


「あのね、カーリアン」


「なぁに?あたしにちゃんとお願いなんて珍しいね?前は頭の事だったっけ?」


 コクンと頷く少女に苦笑を返す。

 この言葉はそのまま、無言の催促が多いって揶揄している言葉なのに。

 そのニットの修繕もそう。


「カーリアンはちゃんとお願いしたら、聞いてくれるってシャクも言ってた。頭の事も秘密にしてくれてる。気にしないでくれる」


「人が嫌がる事をペラペラ喋る趣味はないよ。それに無意味に意地悪をする悪趣味も持ち合わせてなんかない」


 彼女の真っ直ぐすぎる視線を向けられたら、いつも少し気後れを感じてしまう。

 なんというかその紺碧の瞳が綺麗過ぎて。

 彼女ほど綺麗な碧の瞳は、変種が多いこの黒鉄でも見た事がない。

 当然、四班の『クモ女』なんかとは比べるべくもない。


「だから私はあなたを信じてる。私の頭を見ても変わらなかった……変わらずに頭を撫でてくれたカーリアンを信じる事にした」


「あはは、まぁ信じてくれるのはありがたいけどさ。あたしに出来る事なんかしれてるからね、あんまり過剰な期待はしないでよ?」


「大丈夫。カーリアンに出来る事しか頼まない」


「で、お願いって?」


 なんとなく……本当になんとなく、言いにくそうにしているように見えたから、もう一度こちらから催促をしてみる。

 彼女は他人に何かをお願いする事に、あんまり慣れていないタイプだから、こちらから積極的に話を振らなければ言いにくいのかも……なんて思ったのだ。


「シャクに……」


「シャクに?」


「付いて《光都》まで行って欲しい」


「ふんふん。オッケー」


 決意を秘め、語調を強めてそう言うスズカに、あたしは迷う事なく即答してみせた。


 ……なのになんでだろう?何故かズルッと足元を滑らせ、ずっこけかけている。それはなんというか、彼女らしからぬユニークな動きだった。


「即答だね?なんで、とか聞かないの?」


「別に聞く必要ないと思うけど?シャクが光都に行くのは、これが初めてじゃないでしょ?」


「将軍を殺す為に行く……と言っても?」


「それこそ二度目でしょうが。前ん時もあたしは一応黒鉄にいたんだよ?」


 むしろ1人で行かれるくらいなら、付いていった方がいいに決まってる。それこそ悩む理由にならない。

 それにスズカがこうして頼んでくるぐらいなのだから、考える必要もない。


 まぁ、1人の黒鉄としての建て前的なモノを言わせてもらえば、兵力や資材の差からして、このままじゃいずれジリ貧になるのが目に見えているんだから、『暗殺』が卑怯だなんて事も言ってはいられないと思う。

 いずれは取るしかないと思っていた選択だし、それが出来うる存在は、黒鉄内でもシャクかスズカをおいて他にはいないだろう。

 他のメンツじゃ力が足りないか、あるいは度胸や覚悟が足りない。

 スイレンやアゲハならあるいは……とも思うけど、アゲハは何を考えているか分からないクチだし、スイレンはシャクの命令がなければ動かない。

 そしてシャクは他人にそんな命令を絶対にしない。

 だからシャクか、あるいは独断で動いたスズカぐらいしかいないと思うのだ。

 スズカは時折、全く予想外の行動を取ったりするから。


「で、いつ?あいつがここから出てすぐ?いつ出れるかあたしも知らないんだけど」


「多分、今日中ね」


「ふんふん、今日中ね……ってはぁ!?」


「今日中にシャクは動く。私が動かせる。本当は動いてほしくなんかないけど」


 意味が分からない。急すぎる。何よりシャクは入院中だ。

 しかも動いてほしくないのに動かせる?

 でもそんなあたしの内心などお構いなしに、スズカはカクンと首を傾げてみせる。


「シャクにとっては必要な事。黒鉄にとっても……目的だと思う」


「でも今日中なんて、ちょっといきなり過ぎない?もうちょっとしっかり計画を立ててさ──」


 我ながら、どの口が計画なんて似合わない言葉を吐くのか……なんて思ったりもするけど、それでもその行動はあまりにもシャクらしくないと思う。

 そしてあまりにもスズカらしくない。

 シャクはあれで事前準備に手間暇を惜しまないクチだし、スズカに至っては、そんな計画立案なんてするタイプじゃない。思いっきり身近な人物任せで、自分が取る行動は決められた範囲内だけ……そんな感じなのだ。


「計画なんて無意味。だって計画は勝率や成功率を上げる為に必要なモノだから」


「だったら余計──」


 あたしはなおも似合わない言葉を吐こうとして……寸前でそれを思い止まった。

 スズカはちょっとだけ首を傾げ、困ったように笑っていたから。


「大丈夫。シャクがもし負けるとしたら、それは自分自身以外には有り得ない」


「はっ?自分自身に……って?」


「大丈夫。カーリアンは付いていくだけでいい。付いていって、シャクがどこかに行ってしまわないように見ててくれるだけでいい」


 あくまでも大丈夫と言い張るスズカに、これ以上何を言っても、何を聞いても答えてはくれないという事が分かった。

 何故なら彼女の頑固さをあたしはよく知っているから。

 そこにシャクが関係したならば、二乗してより頑固になる事を知っているからだ。


 ……ひょっとしたら少しだけ悔しい気持ちもあったかもしれない。

 スズカはあたしよりもシャクの事を知っている……それが悔しくないと言えば嘘になる。

 だからあたしは渋々を装って頷く事にした。

 そうすればスズカが知る『彼』について、あたしも知る事が出来ると思ったからだ。


「しゃあないわね。カクリには話しといていいよね?」


「二班副官には私から話す。最初にそんな許可を取ったら、間違いなく反対される」


 ──確かにそうかもしれない。あの子はあれで心配性だから。


「大丈夫。カーリアンはシャクを連れ帰ってくれたら、それだけでいい。私が後はやっておくから」


 またしても大丈夫、か。

 なんというか、らしからぬ強引さに思える。その様子を不信には思わないけど、ちょっと訝しく感じる。

 でもシャクが動いて、スズカがそこに一枚噛むならば、あたしには悩む余地なんかない。

 スズカが噛む以上、シャクをここに留めおく事は実質不可能だ。

 いくらあたしやカクリが止めようとしても、この2人を止められっこない。


 それに──


「分かった。とりあえず光都に付いていって、無茶しそうだったらひっぱたいてでも連れて帰る……それでいいのね?」


 あたしにはあたしで目的がある。シャクを1人で行かせるくらいなら、付いていった方がいいに決まっている。

 そういう意味では、事前にスズカから話を聞けたのは、きっと幸運な事だったと思う。


「お願い。シャクは光都への足に、前と同じようにバルバトスを出すと思うから、先にアレが置かれている車庫に行っていて欲しい」


 そして車庫とやらの場所を最後に告げると、スズカは踵を返した。

 もう話は終わった……もう自分に出来る事は終わったとばかりに。


 ほんの少し寂しげな雰囲気をその背中から感じたのは──果たして気のせいだったのだろうか?





 その後、あたしは細々とした小さな準備をこなし、心の中で覚悟を決めてから、シャクナゲ専用の車庫に足を踏み入れた。

 シャクが前に光都へ向かった際も使ったらしい、大きなバイク──緩やかな曲線が描く流線形と、歪に膨らんだフレームを持つ『バルバトス』の部屋に。


 色々と考えを巡らせながら、そう時間を置かずにやってくるであろう待ち人を待っていたのだ。

 なんとなくアカツキが亡くなってから、停滞していた感がある黒鉄が、動き始めたような感慨を覚えながら。


欄外・カクリの考察……第2回ミス黒鉄ランキングの結果と、第3回に向けての考案について。


1位・スイレン

三班のナンバー2というネームバリューと、人当たりも悪くない辺りから当然のごとくトップ。

その支持層は、同じ三班のメンバーから他班にいる古参のメンバーまで、比較的長く黒鉄に在籍しているメンバーが中心と思われる。

男性、女性の区別なく幅広い人気を誇り、当然第3回でも、私のカーリアンにとって強大なライバルになると思われる。


2位・ヘルメス

彼女の上位ランクインは正直予想外だった。

しかし、結果から考察すると頷ける部分もある。

生真面目で堅苦しい人当たりをしてはいるが、それを相対する人によって変える事はしない。

いつであれ変わらないその姿勢は平等とも言える。自分に対しても厳しい辺りは、ストイックな印象を与えるだろう。

その辺りが彼女がここに位置する理由だと思われる。

その支持層は、年下男性から女性の黒鉄で、中でも年下男性から圧倒的な人気を誇っているようだ。

要注意だと言えるだろう。


3位・スズカ

やはり見た目が大事なのだろうか?カーリアンも決してスズカには負けていないはずだが、スズカの場合は、その容姿から得られる支持層で得をしている。

彼女は儚げで、淡い印象からか、年上女性からの人気が高いのだ。

年上男性からはその力からか敬遠されがちだが、年上女性からその可愛さにより支持されたようだ。

カーリアンも妹のように可愛いがっているし。まぁカーリアンは厳密に言えば年上ではないが。

他者とあまり被らない支持層により、彼女は次も強大なライバルとなる事だろう。


4位・オリヒメ

……何故か分からない。この結果は絶対納得がいかない。

四班のバカ共が、何か裏工作をしたとしか思えない。

そうなのだとしたら、次の第三回ミス黒鉄では思い知らせてやろう。

裏工作は私の専売特許だと言う事を。


五位・カーリアン

当然!そう当然私のカーリアンは、五指には入った。

ギリギリでもなんでもいい。

前回は手が回りきらなかったから、この結果に甘んじただけだ。

次回は紅薔薇会の同士達がいる。今回より躍進するのは間違いない。

ネックはやはり悪名だろう。それを補う為にも、有名なシャクナゲと行動を共にさせるのは悪くない。

シャクナゲに注目する輩は、必然的にカーリアンの可愛さを見る事になるだろうから。


6位以下は、四班のサクヤ、ヒナギク、私と続いている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ