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20・レジェンド オブ シルバーベル2

2って言うのは、ナイト&デイ2の2と同じです。

一回間違えて消してしまったので(カクリの考察3を入れ忘れてたのに気付き、それを入れようとして消してしまった)、少し変化させてアップしました。


だから2はツゥーではなく、セカンドと呼んで頂けたら幸いです。気分的に。

次回更新は今後作業報告に載せるように致します。





 ──狂気があった。

 ただ狂気だけが俺の全てを囲んでいた。


 狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気狂気────


 そこに理性や人間性が入る余地など一切ない。それ以外は何も存在せず、欲望に染まって爛々と輝く瞳が、ただ俺の周囲には存在していた。


 骸と化した人が虚空を見上げ、燃え盛る異臭が鼻を突く。

 ビルが傾き、街路が破壊され、自動車が横転している。

 むせかえるような肉が焦げる臭いに、様々なモノが朽ちゆく異臭。それまでの現実が壊れる足音を、周囲の景観全てが物語っているような……そんな異常な感覚。

 そんな中でも笑う人々、腕を突き上げ歓声を上げる人々を見て、ただ1人『狂ってる』と思う俺がおかしいのかもしれない。

 自分自身の事にすら自信が持てない。

 自分の中の正常な部分は、もう世界と合わなくなったんだとは認めたくない。


 力に狂った人々。

 力に魅せられた人々。

 力を求めた人々。


 それらの人々の全てが狂気に彩られ、そんな人波の中でただ1人……たった1人で恐怖と絶望に震えている。

 たった1人狂えないまま、欲望に流れられないまま、ただあるがままで、狂人達の欲望に溺れている。


 狂えたならどれほど楽か──欲望に溺れる事を良しと出来たならどんなに心地よいか。そんな空想すらも許されない狂気と、世界中に満ちるヴァンプ達の産声に包まれている。

 それでも俺を覆う世界は、ただ無機質な音を上げて周り続ける……軋み続ける……歪み続ける。

 この世界を彩り、現実を回す歯車の声だけが脳裏に響く。


 ──歯車が回る音が脳髄を揺さぶる。

 カラカラと虚ろに。


 ──歯車が軋む音が身体を掻き抱く。

 ガラガラと朧気に。


 ──歯車が歪む音が心を繋ぎ止める。

 ゴロゴロと嘆きの声で。



 こんなハズじゃなかった。

 こんな事になるハズじゃなかった……そんな言い訳を繰り返してみても、それになんら意味はなく、なんの価値も生まれない。


 ただ心が言い訳をする事に疲れ、軋み磨耗して、歪み折れていくだけ。


 絶望が心の許容量を越え、それが決壊しても、止まる事のない狂気のロンド。産まれたばかりのヴァンプ達が起こした惨劇が、目の前で繰り返される。


 ゆっくりと自分の意識が浮上し、現実に戻るまで終わらない永遠の悪夢の繰り返し。オートリピートする『繰り返される始まりの夢』。



 視界が白く染まっていくのを感じて……やっと浮上していく思考に安堵して──

 狂気に、運命の鎖に雁字搦めにされた心が軽くなったような気がする。


 ただ軽くなったような気がするだけで、壊れた心が癒える事はないと分かっていても。

 この夢の終わりだって、次に繰り返しの夢を見るまでの、一時の安息に過ぎないと分かっていても……。





****





 窓から射し込む光に目を覚ませば、見慣れた少女が脇のパイプ椅子に腰をかけていた。

 ゆったりとした感じのニットに包まれた灰色の髪は、少し長めのウルフボブで、ジッと自らの手元を見ている瞳は紺碧色の海のモノ。

 間違いなく目立つ要素を持つ美少女でありながら、間近にいても希薄で儚い印象を受ける。

 そんな少女を確認して、改めて辺りを見渡した。

 まぁなんでここに彼女がいるのかなんて、そう疑問に思うほどのモノではないかもしれない。

 ここには今、俺が『入院』しているし、唯一彼女と仲がいいカーリアンもこの建物の中にいるのだ。

 そう考えれば、彼女──スズカがここにいてもそれほどおかしくはない。


 まだ白んでいる視界と、僅かに鈍痛が続く頭。寝起きだからか身体も重い。

 仕方なく、その寝転がった姿勢のまま、脇に腰掛けなにやらやっている彼女を見やる。


 どうやら趣味である刺繍をしているようだ。時折何かを考えこむかのように刺繍をしている布を掲げてみせ、そしてまたチクチクと針を進めていく。

 脇には色とりどりの刺繍糸と、その色の数だけ用意された刺繍針。その横にある剣山みたいモノも彼女の刺繍道具だ。

 その灰色の髪の毛に乗っかった、白いファーがついた大きな同色のニットが、時折ピョコピョコ動いている辺りからして、お得意の首をカクンと傾げるポーズでなにやら悩んでいるらしい。

 彼女は悩んでいる時も、他人に何かを確認する時も、そして喜びや悲しみを現す時も、首を傾げてみせるのが癖だったりする。

 その時の首の角度や表情、付属する仕草などは千差万別だけど、昔から彼女はそうやって自分の感情を表現する事が多い。

 とかく表情が薄い彼女は、その首を傾げる仕草と共に、自分が何を考えているかを現すのが癖だった

 別にカクリのように、表情を消す事を心がけているワケではない。アイツの場合は、表情を消す事によって自らの心を隠しているのだろうが、スズカのそれは単に薄いだけだ。

 実際のスズカは、分かりにくいだけで様々な表情を持っている。まぁそれを読み取れるのは、昔からの付き合いである俺と、こっちに来てから仲がいいカーリアンくらいのモノだろうけど。


「起きた?」


 さすがにボーっと見ていたら気付かれたらしい。脇に置かれた布地には、鎖状に螺旋を描く形で幾何学的な模様が描かれている。

 今は何を象っているのか全く見えて来ないけど、やがてなんらかの形になるのだろう。


「いつからいたんだ?起こしてくれれば良かったのに」


「寝てるところを邪魔しちゃいけないと思った。それにさっきまでカーリアンもいたけど、起こしてなかった。だから私も起こさない事にした」


 ──私が来たらカーリアンは慌てて出て行ったけど……とスズカ。


 どうやら本当に熟睡していたようだ。目が覚めるまでスズカがいる事には気づかなかったし、カーリアンが来ていた事も、出て行った事にも全く気づかなかったのだから。


 ……こんなに熟睡した事なんて何年ぶりだろうか?

 それだけしっかりと、過去という悪夢に捕らわれていたんだと思うと、少しだけ笑いたくなる。

 その笑いは、自嘲的なモノを多分に含んだ笑いにしかならないだろうけど。


「夢を見ていたの?」


「いや……」


「シャク、少しだけ泣いてた」


「…………」


 本当に情けない。今度は情けなくて涙が出そうだ。


「夢を見て泣くほどもう子供じゃないよ」


「そう」


 思わず口をつく強がりにも、スズカはいつものように軽く首を傾げてみせるだけだ。

 じっくり見なくても分かる。今の彼女は笑っているのだろう。表情が薄くて分かりにくいけど、暖かさが少し滲むほのかな笑みを浮かべている事だろう。

 言うなれば、背伸びをしたがる弟を見る姉のような表情をしているに違いない。


「……なんか格好つかないな」


「そう?」


 言葉と共にスッと伸びてくる細い指先は、俺の額にかかる髪を梳いてくれる。

 梳かれて初めて分かったが、どうやら少し寝汗をかいていたみたいだ。少し髪の毛が額に張り付いているのを感じ、僅かな気恥ずかしさを覚える。

 だけど彼女がしたいようにさせた。


 これも彼女のクセだ。俺やカーリアンくらいにしかほとんどしないけど、彼女はよく他人の頭を撫でたがる。

 カーリアンはどうだか知らないけど、これをされるのはさすがにちょっと情けない。

 なにしろスズカは、見た目も実年齢も俺よりも幾つか下で、確かカーリアンと同じだったハズだ。

 そんな少女に頭を撫でられるのは、さすがに恥ずかしい。

 でもこれを嫌がったり、手を跳ねのけたりすると、本当にスズカは悲しそうに顔を歪めるから、受け入れざるを得ないのだ。




 それはスズカからしたら、彼女の力──彼女が操る『斥力』を怖がっているように感じられるのかもしれない。

 彼女はその体から斥力……対象をはねのける力を放つ。

 こう言えばそれほど強大な力ではないように感じられるかもしれないが、その力は圧倒的なモノだ。

 手をかざして『思う』だけで全てを弾き飛ばし、自らの重力を斥力で中和するだけで宙を浮く事も出来る。最も重力などの自然的な力を中和するのは、単に斥力を操るだけよりも疲れるらしいけど。

 また銃弾なども彼女の身体には届かない。彼女が構築する『斥力』を操る世界では、ただの火薬で飛ばされる程度の勢いなど、あってないようなモノだ。

 一点に絞って放たれた斥力は、それだけで不可視の弾丸に近い力を持つし、握った金属塊は火薬の爆発力の代わりに、斥力の力を得て大砲の砲弾にもなる。

 並みの身体能力では、その体から放たれる斥力により近づく事すらもかなわないだろう。


 その斥力を最も上手く、最も効率的に使えるのが彼女の『両手』だ。身体からも放てるが、より自在に操れるのがその細い指先。

 今俺を撫でてくれている指先も、ちょっと彼女が力を使うだけで、俺の頭を柘榴(ざくろ)に変えるだけの力を放つ。


 それを怖がられていると感じるのか、撫でられるのを拒否された時だけは、顔を歪めて本当に悲しそうな顔をする。

 きっとあのカーリアンでも、スズカが悲しそうに顔を歪めるのをみれば、黙ってその頭を差し出すだろう。


「汗、拭いてあげる」


「いいよ、自分でやる」


 やはり汗が気になるのかそんな事を言い出す彼女に、俺は一応拒否を試みる。


「……拭いてあげる」


「タオルだけ貸して──」


「…………拭く」


「頼むよ」


 まぁ、無駄なのは分かっていたけど。

 なにしろスズカは、本当はとても寂しがり屋で、他人に構いたくて、そして構って欲しくて仕方がないようなヤツだから。

 純正型でさえなければ、たえず人の輪の中に入っていただろう……そう思わせる性格をしているから。



 そんな彼女が、物質も他人も遠ざける事しか出来ない力を持つなんて、本当に神ってヤツはどうしようもなく腐ってる。そして間違いなく歪んでる。


 アカツキの『力』よりも、カーリアンの『炎』よりも……俺のモノよりも、スズカの『斥力(ちから)』こそが彼女には似つかわしくない。


 だって彼女は寂しがりで、他人に構いたがりで、1人が嫌いな本当に優しい少女なんだから。


 ──ただ『純正型』に生まれついただけに過ぎないのだから。









 ──かつての彼女は『鬼姫』と呼ばれていた。

 奥羽の鬼姫・スズカと。

 それは、本名である鈴華を『鈴鹿御前』という鬼にかけた2つ名であり、今はニットに隠されている小さな2つの突起が、鬼の角のように見えるからだろう。


 その角こそが彼女が純正型である証であり、彼女を狂わせる原因だった。


 俺が出会った時──初めて出会った時の彼女は、本当に鬼のようだった

 彼女に取り入ろうと画策する者、彼女を討って名を売ろうとする者、彼女の名前をかたり好き勝手しようとする者達の全てを、たった1人で殲滅し、たった1人屍の山深い頂で吠えていた。

 本来ならまだ中学生に上がったばかりであろう少女が、たった1人で『ヴァンプ』達の屍の山を築いていたのだ。


「……あなたも?あなたも私を傷つけるの?」


 そう言った彼女は、虚ろな瞳でこちらを見やる。血も肉も一切その体を汚してはいないのに……その時の彼女は濡れていた。

 自身の紺碧色の瞳から流れ出る涙で濡れていた。

 勝者である彼女が、ポロポロと涙を流して泣いていたのだ。


 思わず呆然と見やる。悲しみにくれる少女を。

 そんな無言をイエスと捉えたのか、少女はその右手をかざした。


「1つだけ、1人だけで良かった。たった1つ──たった1人でもいいから欲しかった。変種としてじゃない、人である私を見てくれるモノが……私は欲しかったッ!それだけで私は良かったのにぃ!」


 そんな慟哭の声と共に放たれる荒れ狂う力の波。その力場に全く抗えず、遥か後方に吹っ飛ばされる。

 なんとか態勢を立て直し両足を踏ん張ってみせるが、僅か一瞬で自分より年下の小さな少女に、軽く数十メートルは吹っ飛ばされたのだ。

 モノの見事に──無様に吹っ飛ばされた。

 後にも先にも、あれだけ見事に吹っ飛ばされる事はもうないだろう……そう思うぐらい見事に。


「それでも誰も私を見てくれない!私の心を見てくれない!力しか見てくれない!私はこんなの欲しくなんてなかったのにッ!!」


 止まらない力の奔流。立ち上がる俺に凄まじい勢いで迫る『少女』。

 地面からは土や石ころが俺に向かって舞い上がり、大地を削りながら灰色の少女は力をぶつけてくる。


 ……涙でその顔をぐしゃぐしゃにしながら。

 泣き疲れ、枯れて、かすれてしまった慟哭をあげながら。


「私は普通の心を持ってるのに!みんなと同じように嬉しかったり、悲しかったりするのにッ!普通に生きて、普通に笑いたいだけなのに!私はただ……ただ『こんな風に生まれてきただけなのにッ』!」


 振るわれる小さな拳により、大地に大きな穴が穿たれる。

 その拳の大きさには見合わない巨大なクレーターが刻まれる。

 蹴り足が大地に軌跡を作る。

 本来の身体能力はともかく、力を使った彼女のそれは、俺をあっさりと凌駕していた。

 その力が斥力によるモノだとはすぐに気付けたが、全く対処法は浮かばない。

 なにしろ不可視であり、その力の限界も見えない。どの程度のベクトルまで使いうるのかが分からない。

 何もかもががむしゃらで、やけっぱちに近い動きだったから、殺そうと思えば『力』を使うまでもなく出来ただろう。

 遠距離から石ころや岩を飛ばされていたらどうにもならないが、接近してくるなら簡単だ。

 最接近した時に一度彼女の攻撃をかわせればそれでいい。

 斥力の余波が体を押すだろうが、指先さえ届けばチェックだ。その細い首──頸骨を掻き取るだけで彼女の地獄は終わる。

 直線的すぎる動きは、俺にはなんとか把握出来るモノだったし、なんとかなっただろう。




『普通に生きて、普通に笑いたいだけ』


『こんな風に生まれてきただけ』


 そんな言葉を聞かなければ。

 彼女が泣いてさえいなければ。

 俺が同じ変種でなければ。


 そして少女のその考えが理解出来なければ、きっとあの時に全てが終わっていた。


 悲しかった。ただ悲しかった。そんな少女を見ているのが悲しくて、虚しかった。

 彼女はそんな大それた事を願っているのか?そんな過度の願いを抱いているのか?叶わないモノを望んでいるのか?

 彼女も俺もそんなに苦しまなきゃならないほど罪深いのか?そこまで赦されない存在なのか?


 そう思えば、気付いた時には──俺は彼女の拳を両手で受け止めようとしていた。

 荒れ狂う力の流れに逆らって、その両手を取ろうとしていた。

 そんなバカな……自殺行為に近いそんな真似をしていたのだ。


 そして──



「……たった1つだけ?たった1人だけでもいい?そんな悲しい事言うなよ」


「……なんで今の私に近づけるの?なんで──」


 俺を弾き飛ばそうとする力の奔流に、筋肉も骨も皮膚も血も全てが軋む。

 皮膚が破け、血が霧のように舞い散る。骨が軋む不快な音が体を震わせる。筋肉の繊維がブチブチ千切れる音が聞こえる気がする。


 それでも少女に向かう足を止める気はない。

 意地だった。色々悩んでいて、それでも先に進もうとして……結局は躓いてしまった俺の最後の意地だった。

 この少女を、『俺みたいにはしたくない』という意地だけで身体を張った。

 元よりこの身に惜しいモノなんて何もなかったから、簡単にそんな真似が出来た。


「一杯作ればいいんだ。自分の大切も、自分を大切にしてくれるモノも、一杯作っていいんだ!」


「…………なんであなたも泣いてるの?」


「だって俺達も生きてるんだから。人として生まれたんだから。そんな当たり前くらいたくさん欲しがったっていいんだッ!」


 最後の一歩、彼女の力に抗って、最後の一歩を踏み出す。

 拒絶する斥力により、ボロボロ破けた指先が彼女の小さな手に届く。より一層強い力が俺を弾こうとしても、その手を離すつもりなんてさらさらなかった。


「……なんで私の手に触れるの?」


 心底不思議そうに首を傾げる少女が悲しかった。近づいてくる者全てを拒絶して、近づいてくる者を不思議そうに見る彼女が悲しくて仕方なかった。

 だから痛みを訴える体を無視して、笑みを浮かべてみせる。

 こんな痛みなんかより、心の方が痛くてどうしようもなかったから、笑みを浮かべてごまかしてみせる。


「なんでだって?触りたいからさ。触れてみたいから触れたんだよ。だって君はこんなに暖かい。こんなに暖かくて、小さくて……こんなに可愛い手をしてる。だったら俺が触ってみたくなっても、ちっともおかしくなんかないんだよ?」


 その小さな体に込められた力がゆっくりと弱まっていくのが分かる。震えだすのが分かる。

 だからその小さな体をゆっくりと包んであげた。泣きじゃくる少女に、俺なんかでも出来る事があるとすれば、きっとそれぐらいでしかないから。

 そしてそれだけで十分。俺には十分過ぎるくらいだった。

 彼女は何かを言おうとするけど、それを続けさせるつもりはない。

 きっとそれは、彼女自身を傷つける言葉だと思ったから。

 だからそっと頭を撫でてやる。

 ──綺麗な銀色にも見える灰色の髪を。

 そこにある、歪に膨らんだ彼女の『証』ごと。

 それを俺の血で汚すのは気が引けたけど、血に濡れた手で優しく撫でる。


「君は人間だよ。だって泣いてる。悲しくて、悔しくて、こんなに泣いてる。涙を流せる君は人間なんだよ。

だからもう……そんな悲しい事を言うな」








 それが俺とスズカの始まり。

 今では最強の黒鉄と呼ばれるようになった少女の……始まりの物語。


「どうしたの?」


 撫でながら聞いてくる少女に、『なんでもない』と返しながら肩をすくめる。

 今さら昔を思い出していた、なんて言いにくい。いい思い出でもあれば、悲しい思い出でもある出来事だから。


 そんな経緯からか『俺に恩がある』と言って憚らないスズカ。その恩の為に黒鉄にまで付いてきた少女。

 出来れば彼女には穏やかに生きて欲しい……そう願わずにはいられないのに、付いてきてしまった同族。

 本当は──本当のところは、俺の方にこそ彼女に恩があるという事を知らないのだろう。

 同じような立場の彼女を救う事で、俺自身が救われた気がしていたのを、きっと知らない。


 それを言うのは気恥ずかしくて、少し情けなくて、まだ吹っ切れていないから……

 だから出来るだけ、彼女がしたいようにさせる事にしている。

 頭が撫でたい時も、黒鉄として戦う事を決めた時も──そしてまぁ、今みたいに汗を拭いたり世話をしたがる時も。


「腕、上げて。服を脱がす」


「や、そこまでは──」


「……嫌なんだ。シャクは私なんかに世話されたくないんだ……。私なんかが側にいたら鬱陶しいんだ……」


 ちょっと行き過ぎな気もするし、少し子供っぽさが抜けない辺りはさすがに心配にはなるけど。




 この後、結局服を脱ぐ羽目になったのは──まぁ、言うまでもないだろう。

 他の黒鉄は当然ながら、俺もカーリアンもある意味では全く頭が上がらない少女。

 それが最強のコードフェンサーたる『銀鈴』のスズカなのだから。


人物紹介・スズカ1



スズカ……『銀鈴』のコードを持つ黒鉄第七班『遊撃班』班長。

シルバーグレイの髪に、コバルトブルーの瞳、色素の薄い白い肌を持つやや小柄な少女。

黒鉄唯一の純正型と目されるコードフェンサーでもある。

基本的に他人との接触を持たない事や、その表情が薄い事(無表情ではない)などから、周囲に冷たい人物だと思われがちだが、実際は世話好きで話好き、趣味が刺繍という普通の少女。


また刺繍を施したハンカチや布地などは、班の仲間やシャクナゲ、カーリアンなどに頻繁にプレゼントしていたりと、他人に何かを上げることを喜ぶような性格をしている。

クセは何かを思ったり、考えたりする時は首を傾げる事と、他人の頭を撫でたがる事。カーリアンやシャクナゲの頭を、背伸びしながら撫でる姿がたまに見られる。


そんな少女ではあるが、純正型であるのは伊達ではない。

能力は対象に対して斥力<repulsion>を自身の体から発生させる事。対象跳ね飛ばしたり、押し潰したりの他、自身に向かう質量ある物質を遠ざける事や、大地に対して斥力を放ち、宙に浮く事すらも出来る。

大地や後方に斥力を放って、身体能力以上のスピードを出す事も出来る為、まさに距離やスタイルを問わない、オールラウンダータイプの万能スキルと言える。

ただし、両手から以外は扱える力は限られる他、自然に宿る力(重力や引力)などに対してもその力は減退する。

また斥力を操る為、質量を持たないモノや少ないモノ(炎や雷、風など)に対しては、その力が働かない欠点もある。カーリアンの炎は、数少ない弱点でもあるのに(スズカが負けると同義ではない)、カーリアンとは仲がいい。

純正型の証は、角にも見える頭にはえた2つの突起。普段は大きなニットで隠している。



スキル



能力・S+(斥力を操る彼女の能力は、間違いなく黒鉄では最高レベルのモノ)


身体能力・C~S(斥力を効率的に使う事により、プラス補正)


知識・C


カリスマ・B(同じ班のコードフェンサーからは、絶対の信頼を得ている)


ルックス・A(儚い印象の美少女タイプ)


コンプレックス・A(自身の純正型の証を嫌っている)


寂しがり・A


世話焼き・B(他人に対してあれこれ世話を焼きたがる。寂しがりと互いにプラス補正)


人見知り・B(自身の頭を見られる事を嫌い、怖がられるのを嫌う為、他人と接触するのが怖い。コンプレックスでプラス補正)

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