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2・アナザー バースディ

表題はイメージで付けています。英語ではなく、カタカナ表記なのは敢えてそっちを使ってみます。





 世界はヴァンプと呼ばれるキチガイ共に好き勝手にされていた。

 友達と遊び歩く放課後も、暖かな夕食が待つ家も、それら生活の中心たる家族をも壊されて──


 昔の私は、文字通り気が触れそうだった。

 力を持って全てを奪った『変種共』。

 私の大切を全部壊した『バケモノ共』。


 それを思うと気が変になりそうで……実際ほとんど変になりかかっていた。 目の前で『狂った変種に従う人間共』に、泣き喚きながら犯されていく友達を見た。

 その様子を、ただ震えながら隠れて見ていた自分の汚さも見た。

 あまつさえ耳を塞いでその友人の悲痛な声から、自分の心だけを守ろうした弱さも知った。

 あちこちで『狂った変種共』と、それに対抗する人々の怒号が響く中を、その時の私はただ泣きながら……震えながら家に帰ったのだ。


 昨日までは平和だった。あちこちで『変種』が革命を起こし力を振るっていても、そんなニュースを聞いても私の周りには関係ない、そう思っていたのだ。


 それなのに、次の日には私の街にも『狂った変種』は毒牙を伸ばしていた。


 変種の内でもヴァンプと称されるモノは、その力を持って一夜にして私の世界を変えてしまったのだ。


 ヴァンプ共の力は、ただの人の変種とは思えない力だ。

 国が崩壊するくらいと言われても分からないだろう。


 私も自ら実感するまでは理解出来なかったクチである。

 だが、圧倒的な力を持っていたのだ。


 銃弾や爆発物、燃え盛る炎ですらモノともしない頑丈な体を持つモノがいた。

 もちろん銃弾など当たらない速さのモノもいた。

 腕を振るだけで風や衝撃波を起こすモノ、電子機器を自在に操るモノまでいた。

 私がこの目で見ただけでこんな連中がいたのだ。


 もちろん粉々にされればいかな変種とて死ぬだろう。

 だが、連中は害虫にも似た強い生命力を持って、害虫以上に巨大な規模で災厄を撒き散らす。


 そしてその力を見せつけて、人々を狂わせ、従わせ、ヴァンプの従者とする。

 そう、ヤツらはその力でどんどん人々を狂わせていく『ヴァンパイア共』だった。


 ヴァンプに比べれば、ヴァンパイアなんて可愛いモノだ。

 少なくともニンニクや十字架は『あのクソったれ共』には効かないのだから。


 泣きながら帰った私は、ニュースを食い入るように見てまた泣いた。

 声はもう枯れていたから、ただ無言でさめざめと泣いた。

 各地でヴァンプ共が決起し、自衛隊や警官隊が撤退しているのを知ったから。

 泣き叫んでいた友達の仇を取ってくれるモノがいない、そう思い知らされたようで泣いたのだ。


 街の様子に、会社から飛んで帰ってきた父が、ゴルフクラブを握り締めながら力強く笑ってくれた。母も『主婦の底力見せてやるんだから』と言って、私を元気付けようとしてくれた。


 私も笑ってみせた。

 だが、そんな家庭も……家族の会話さえも次の日までは持たなかった。


 最初に父が殺された。

 痩せていて、強そうには見えない父が勇気を振り絞って立ち向かい、家へと押し入ってきた『ヴァンプ共』に殺された。


『素直に従って、家財一式と娘を差し出してりゃいいのに』


 そう笑う男達……すでにヴァンプに成り果てた元人間の男達に、母も立ち向かった。

 最後に笑ってカードと印鑑、自分と父の携帯を渡してから……


 ──私に『逃げなさい』と言って。


 私はそれを見ていた。狂ったように叫びながら、包丁を振り回す母の姿を……

 いつもは穏やかな母の最後の姿をただ見ていたのだ。

 やがて押さえつけられ、父のグラブで叩き殺される様子を。

 私はただ聞いていた。


 大好きだった母の声で小さく呻く声も、私を呼ぶ声も──そして『逃げなさい』という願いも。



 多分、私は狂いかけていた。

 正確には狂いたかった。狂ってしまえればどれほど楽か、ヴァンプ共のようになれたならどれほど良かったか……本気でそう思っていた。

 元人間のヴァンプじゃない。元変種のヴァンプみたいな力があれば、私は奪われなかった。

 私は狂うほどにそう思った。 狂うほどにそうじゃない運命を──人のままの自分を呪った。

 それは目の前のヴァンプ共への恨みを超えた、呪詛と狂気だったと思う。

 そんな狂気を孕んだまま──



 下品な笑いを浮かべながら近付いてくる男共を見て……



 私は叫んだ。

 心の底から、魂の奥深くから絞りだすように叫んだ。

 全てを拒絶するように……

 ヴァンプ共と自分に対する怨鎖の叫びを上げた。


 長い髪が怒りと恐怖と絶望で、真っ赤に染まるのを視界の端に見ながら。


 引きつるように笑いを引っ込める男共に、私はなおも叫んだ。その叫びに意味なんかなく、ただの衝動のままに叫んでいたに過ぎない。


 そう、父と母の血で真っ赤に染まった玄関先で、赤い髪を振り乱して叫んでいたのだ。

 自らの体から滲み出す炎が視界全部を更なる赤で染め上げるまで──。




 これが変種としてのあたし……ヴァンプではなく『人間の変種であるあたし』が誕生した瞬間。


 父と母を殺したヴァンプ共にはなりたくない私が、ヴァンプになる誘惑を拒絶して産み出した『あたし』。

 普通の人と思っていた私がその名前と生活を捨て、『カーリアン』のコードで呼ばれるほどの力を手に入れた瞬間だった。









 それから数日がたった。

 世界は相変わらずクソったれのままで、ヴァンプ色に染められた感じを受ける空間には反吐が出た。

 もちろんそれはヴァンプ共だけが理由ってワケではなく、撤退したまま音沙汰のない国に対しても感じた『絶望』。


 あたしはそんな絶望に突き動かされるように、ヴァンプ共を狩った。

 元人間も、元変種と呼ばれたヴァンプ共も、区別なく狩り続けた。

 ただ策もなく追い回し、ただがむしゃらに追い詰め、そして残酷に殺した。

 その途中で家族を殺された少女を拾い、他にも数人の仲間は出来た。

 全員が私みたいな体験をした人々、虚ろな瞳をした人々ばかりだった。身上的には同類だったハズだ。

 人もいたし、変種もいた。

 だが、あたしはそいつらにもムカムカしていたのだ。


 ……あたしの力に付き従う連中が、『ヴァンプ』と重なって見えたから。


 その苛立ちを消すように、紛らわせるように『ヴァンプ共』を殺した。

 あたしの力──炎を体から生み出す力で。

 あたしの紅蓮の炎で灼き尽くした。

 『灼熱の紅姫』だの『黄昏の死神』だの呼ばれるくらいに。


 ……あぁ、そう言えば一つ気の効いた2つ名があったな。


 『死にたがりの紅』って2つ名が。


 なにせあたしは死に場所を探すように全てを燃やした。

 何とか普通の『人間達』に力は使わずにいたが、その分を当てこするようにヴァンプ共には容赦をしなかった。

 どの程度燃やせば『狂った変種』は死ぬのか。人を平気で傷つけられる人間でも、やはり自分が傷つけられたら同じように痛がるのか。

 強がっているヤツらが、どれぐらい燃やしたら、『もう殺してください』と言うのかを試した事もある。

 他にも神経を灼き切ったら本当に痛くないのか……etc.etc。


 恨みを買うように、恐れられるように、殺されるのを望んでいるかのようにあたしは力を振るった。



 当然報いを受けるのも早い。あたしに恐れを抱いた一部の連中が、ヴァンプ共に密告をしたのだ。

 最初に拾った少女……カクリと名付けてやった少女だけはあたしの側を離れなかったが、後はみんなヴァンプに従うか、死にたがりに従うかを悩んでいた。



 そう、カクリだけだった。

 両親が殺されてから、ずっと隠れていただけの少女だからカクリ。

 恐怖か悲しみかで記憶を無くしたらしい少女に、気紛れでそんな名前を付けただけなのに、彼女だけはあたしの側から離れなかったのだ。


 記憶障害からか言葉も上手く話せず、『うーうー』唸るだけしか出来ないのに、あたしを囲む連中を睨みつけてもみせた。

 カクリ自身は、知覚能力が優れているだけの変種でしかなかったのに、だ。



 死にたがりが供を連れてどうするっ!?あたしは1人でいい!!


 そう叫んでみせても、少女は『うーうー』唸って、あたしの側から離れない。

 しまいには『アンタがいても邪魔なの!!鬱陶しいんだよっ!!』と怒鳴ってもみせたのに、カクリはイヤイヤをしながら離れないのだ。


 周りにはヴァンプ共が数十人。

 この内何人が『元変種』で、何人が『元人間』なのかは分からない。

 その比率がどうだったにせよ、武装した連中に囲まれているのは変わらない。

 それでも……それでもあたしは、何故か諦める気にはなれなかった。


 今までなら、このヴァンプ共を皆殺しにして巻き込んで死んでやる。

 父や母、友達の恨みに比べればまだまだ足りないけど、せめてここにいるヤツらだけは地獄に引き込んでやる……そんな風に考えていただろう。

 そんな事を考え、薄く笑っていたかもしれない。


 ──やっと死ねる。

 そうも思ったハズだ。


 それなのに、その時は何故か死ねない気がした。

 何故か死に場所はここじゃない、と思えたのだ。


 でも、状況は絶望的で……銃を構える連中のただ中にいる。


 ──あたしなら銃弾くらいは避けられる。

 銃弾を溶かして無力化出来る。

 でも他の連中は……?カクリはどうなる?


 ……家族を失った時と同じような絶望感を感じあたしは躊躇した。

 あたしが全力で力を使えば、カクリを巻き込んでしまう。そう、あたしがこの手でカクリを殺してしまう。


 そんなあたしの躊躇を見て取ったか、銃口はカクリに向く。


『やめ──』


 思わず悲鳴を上げそうになった瞬間だった。


 この場には相応しくない気怠げな口調が聞こえてきたのは。

 目の前の銃口は火を噴いていないのに、銃声に似たモノが聞こえてきたのは。


『……そっちの赤いのに用があるんだけどな』


 そう言いながらカッコつけた様子でクルクルと二丁の拳銃を手先で回し、あたしとカクリの前に男が立ちはだかったのは……。


『……ヴァンプ共はムカつくけどさ。今は見逃してやるよ』


 そう言ってフッと銃口に息を吹きかけ笑う男は、囲まれているのを気にもせずあたしへと向き直り


『お前、合格ね』


 そう言って軽くウインクをかますと言葉を繋げた。


『場所をわきまえず力を使い、一切合切巻き込むヤツなら捨ておくつもりだった。

いや、俺が狩ってたね。ヴァンプ予備軍って事でさ』


 そう言って左手の銃を高く投げ上げ、きょとんとしていたカクリの頭を開いた左手でなでてから、落ちてきた銃を再度手にする。

 右手の銃口は、ずっとヴァンプ共に向けたままだ。


『黒鉄の『シャクナゲ』……この名前で引いてくれたら嬉しいんだけどね?』


 そう言った男は、ムカつくくらいにカッコを付けていて……ムカつくくらいにそれが似合っていた。

 滲み出す冷たい空気──殺気に、ヴァンプ共が恐れをなしたのか、はたまた『シャクナゲ』という名前におののいたのかは分からない。


 だが、ヴァンプ共は悲鳴を漏らし、我先にと逃げていく。

 あたしを裏切ったヤツらも一緒になって。


『俺はレジスタンス黒鉄のシャクナゲ。

迎えに来たよ。ヴァンプとは違う君を』


 そう言って差し出された手。





 ──それを躊躇いながらも握った瞬間より、あたしは『ヴァンプを殺す死にたがり』から『黒鉄のカーリアン』になったのだ。


今回の話で分かるように何人かの視点を変える形で話を進めます。三人称は入れません。しかも純粋なファンタジー……完全に異世界と割り切って書いたりもしません。それでも読んで頂けたら幸いです。

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