14・ルビーハート
ちょっと前にアクセス数が5000を越えてたみたいです。
いまいち見方が分かってなくて、あんまり見ないんですけど……。
見てモチベーション上がったり下がったりしそうで嫌ですし。
まず、ユニークとはなんですか?とそこから分かってません。
当然、PVは携帯の方が多いのに、ユニークはパソが多いのかが何故かも分かってません(汗)
なにしろ5000、ありがとうございます!
アオイが退室した後……
俺はなんとはなし無機質な天井を見上げていた。
天井のタイルが剥がれ落ち、コンクリが剥き出しの天井。
装飾1つない、建物に必要な耐久性を残しただけの室内。
快適さなど求めていない部屋。
ただ大きな窓と、外からの視界を遮る布切れ……カーテンと呼ぶのもおこがましいそれがあるだけの寝室。
ここは病室としては落第点だ。
いっそはっきりと失格だと言ってもいい。
寝室としても及第点はあげられない。
少なくとも『昔』の生活を知るモノ──革命前を知る者からすれば、この部屋は物置よりも上等……といった評価しか与えられない部屋だろう。
まぁ、物置よりも上等な点はと言えば、無駄に物が置かれていないという事でしかないけど。
「……今日は嫌な夢を見たくないよ」
それでも今の黒鉄の現状からすれば、この部屋でも上等な部屋なのだ。
風が入る窓がある。
ベッドもあるし、それにかけられたシーツも綺麗に手洗いされてある。
部屋がちゃんと部屋の形をしている。
何より雨漏りしない屋根がある。
これだけで上等な部屋の条件は満たされている。
濡れて風邪をひく心配も、凍えて眠れない事もない。
風邪なんかひけば、今の世じゃ普通に死に関わる。
なにせ薬なんてモノは備蓄が少ないリストの筆頭だから。
酒などのアルコールですら、嗜好品ではなく医薬品。
そこらに咲く雑草ですら血止めや腹下しの薬に使われている。
そんな現状を考えれば、この部屋がどれだけ恵まれてる事か……。
「今日はもう夢を見たくないよ」
だからこそ──こんな部屋にいるからこそ、眠りの中でも安息を望む。
律儀に何日かおきにやってくる悪夢に、今日も震える。
動き回ってさえいれば、考えなくてもすむような事に怯えてしまう。
無骨だけど、安全で暖かい部屋。
暖かい余韻が残る部屋。
それが今の俺を弱くしているのが、はっきりと自覚出来る。
なんて皮肉なんだろう、そう思う。
死線に立っている時よりも、命をかけて戦っている時よりも、ただ寝転がっている時の方が心が休まらないなんて……。
それは、世界が壊れているからそんな風になっちゃったのか、はたまた俺が壊れているからそう感じるだけなのか、はたまたその両方なのか──
『シャクナゲは休んでいて下さい。後は私やカクリさんでやっておきますから』
『……いざとなれば……スイレンにも事情を話す。……あなたは安心して惰眠を貪ってなさい』
そう純粋に気遣ってくれた仲間と、無感情な少女の声が脳裏に浮かぶ。
その2人が向けるのは、シャクナゲと呼ばれる俺への信頼の瞳。
カクリはきっと俺が素直に彼女に任せっきりにする、なんて事を思っちゃいないだろう。
それでも何も言わないのは、俺が自分達に不利を働かないと信じているからだ。
それは信頼、と言ってもいいとは思う。
それが……俺が不利を働かないなんて他者が確信出来る事自体が、いかに歪んでいるかという事にはきっと気付いていない。
そんな信頼を寄せられるシャクナゲが、いかに歪んだ存在かは俺自身しか知らないと思う。
歪んでいるからこそ今の『シャクナゲ』が──死を恐れない最初の黒鉄がいる事には誰も気づかない。
それが幸せな事かどうかは、当の俺自身ですら分かっていないくらいだから。
知られたくない、と思うからには知られていない今が幸せなのか……それとも逆なのか。
様々な思いが入り混じり、密かに開始した『狐狩り』。
その狐と俺にどれほどの違いがある?人を殺めた者と人が死ぬ理由を作った者の罪の違いは?
狩り出す側がそんな事すらも分かっていない。それがまた滑稽で……愚かだ。
「……もう俺を苛むな。分かってる。俺は忘れてなんかいないから。ずっと背負っていくから……」
そんな後ろ向きな事を考えていると、決まって奪ってきた命と、多くの未来が恨みがましく脳裏で黒い鎌首を持ち上げる。
それは思考を呪縛するように俺へと纏わりつき、心をゆっくりと無彩色へと染めていく。
そんな空虚な心には、決まって無機質な歯車が軋む音が響きだす。
カラカラと……
脳裏に半透明な歯車が埋め尽くす灰色の世界が広がっていく。
ガラガラと……
半透明なそれは、小さな歯車から大きな歯車へと動きを伝え、ゆっくりと無限の荒野を軋ませる。
ゴロゴロと────
「もう夢は見たくない」
その歯車達が奏でるモノは、無限大の空虚。
それが象るのは、かつて見た世界で、今も身近にある世界。
不可視の歯車達の合唱は、そのまま訴えへと姿を変え──
「もう俺を苛むな。分かっているから……忘れてなんかいないから」
今日も夢を見る事に対する恐怖を植え付ける。
カラカラと周り続ける音は、悪夢への前奏曲。
ガラガラと軋む音は、夜毎に『忘れるな』と囁く夜想曲
ゴロゴロと蠢く声は、罪を糾弾する死者達の歌
そして今日も俺は悪夢に苛まれる。
シャクナゲと言う『偽善者』を呪う無限大の悪夢に──
****
「ふっふ〜ん♪」
思わず鼻歌を口ずさむ。
気分の良さが溢れ出そうになる。
ついさっきまでやっていた班長会議は、私的には上首尾に終わった。
何を話していたかはよく覚えていない。どうせ一班と三班の現状に危機感を覚えた民政部の連中が、考えるだけ無駄な対応策でも決めようと話してただけだ。
それでも『上首尾』だったと確信できる辺り、かなり上機嫌なんだと自覚できた。
まぁ、民政部の苦労も分からないでもない。
黒鉄に保護を求めた者──戦う力を持たない者、戦いを嫌う人々を纏めるのは、大変だろうなって事ぐらいは。
それらの人々に仕事や復旧作業を割り振り、管理するのも面倒だろうし、そんな人々と『黒鉄』の間に立つのが頭の痛い作業なのは、彼らに興味がない私でも分かる事だ。
でも正直な話、民政部が黒鉄の事に色々と口を出すのはいい気分がしない。
あたし達なりの理由がそれぞれあるにしても、あくまで黒鉄は『有志による自警団』なのだ。
戦いを本職とする『軍人』でもなければ、戦う事により報酬貰う『傭兵』でもない。
確かに食事や住居などは優遇されてはいる。
服などを新調する為の資金も給付される。
でもそれだけだ。『命』に見合うほどのモノを貰っている覚えなんかない。
それでも別段不満がないのは、あくまでも個人の意志で『黒鉄』に入ったからだ。別に戦えない人々の為に戦っているワケでも食う為でもない。
もっとはっきり言えば、『民政部の下についたつもりなんかこれっぽっちもない』のだ。
自分達の居場所を守る為に戦い、共に戦う仲間の為に命を張る。他人の為じゃないとはいえ、仲間の為になら身体を張って戦うのも悪くない。
それに合わせて戦う力を持たず、戦う勇気が出ない人でも、自分なりに頑張る人々を仲間だと思うようにしてはいる。
シャクがあたしにその考え方を教えてくれたからだ。
だからその為に命を張る事は我慢出来る。
でも、それを他人に強要されるいわれなんかない。それを指示される事は我慢できないし、おかしいと思う。
だから本来は、シャクに頼まれでもしなければ、今日の会議には出るつもりはなかったのだ。
つまらないのが目に見えていたし、民政部の言い分が色々とムカつく事も予想出来たから。
だから会議中の話は半分──ほとんど聞き流していたのだ。
大怪我したらしいのに早くも復活していたナナシが、隣からなんだかんだと色々話しかけてはきたけど、それもまたついでに聞き流していた。
別にナナシが嫌いなワケじゃない。
ナナシも楽しいヤツだしいいヤツではあるけど、少し抜けたトコがあるのと、ガリガリな見た目に反して暑苦しい性格なのがマイナスだ。
シャクにしょっちゅう絡むのも頂けないし、シャクが律儀にその相手してやるのを見るのが少しムカつく。
まぁなにより、その時は正面に座る四班の『陰険氷女』との睨み合いに忙しかったのだ。
その睨み合いが『上首尾に終わった』というのが、今日の会議の成果だろう。
本当にアイツ──オリヒメとは気が合わない。
元々同じ班……シャクの下にいた頃からの知り合いであり、ほぼ同時期に黒鉄に来たという経緯まであるのに、アイツは初対面から今現在まで、一貫してあたしを目の仇にしている。
あたしもそれに変わりはない。
なんせ初めて会った時から『あ、コイツとは絶対仲良くなれないな……』と思っていたし、その勘は今の今まで外れていないのだ。
そして今後外れる事もないと思う。
なにせアイツの喋り方が嫌いだし、その澄ました視線も気にいらない。『ヒメ』なんて班のメンバーに呼ばせている辺りなんて最悪だ。
今後どれだけ経っても、どんな天変地異が起こっても、そんなオリヒメを好きになる事なんて有り得ない。
そのオリヒメが──いつも高飛車な冷血女が、今日はあたしを探るように、幾分悔しそうに見ていたのだ。
その理由ももちろん分かっている。
それがあたしをさらに機嫌よくさせた。
『スイレン。今日の会議はあなたが出席しはるんですか?シャクナゲはどうしはったんです?』
『……シャクナゲは──』
『今は療養中よ。二班本部のスウィートで寝てるんじゃない?『面会謝絶』だから『あたしかカクリ以外』はちょっと会えないけど』
オリヒメの言葉に答えようとするスイレンを遮って、あたしがそう言った時に、今日の会議の要点は終わったようなモノだ。
あたし的には……だけど。
『はぁ……まぁ、そういう事らしいですね』
そう言ったスイレンの声に、多分の疲れが含まれていたのは気付かない事にした。
『あんまり広言しない方がいいんだろうな』と、昨日まで思っていた事も忘れよう。
……あと、あたしの言葉を聞いて、民政部の連中の顔色が真っ青を通り越して、真っ白になったのもスルーする。
『ドジ踏みやがって。いい様だな、あのスカし野郎』
そう笑っていたナナシは、なんかちょっとムカついたから、足を踵で思いっきり踏み抜いて黙らせたけど。
とにかくそこからはオリヒメとの睨み合いに徹しただけで会議が終わる。
発言は最初の一言だけ。
場をメチャクチャにしただけな気もするが、それも結局はあまり気にしない事にしたのだ。
民政部の連中は、やっぱり青い顔をして対策がどうこう言っていた。
だがそれに対して、ここに集まった『黒鉄』達は揺るがない。
全員が一癖も二癖もある連中ばかりなのだ。シャクが動けないというだけで取り乱すヤツなんか1人もいるワケがない。
確かに不安はある。
三班のコンディションは、シャク(アイツ)の状況次第といった所があるからだ。
そしてその三班の戦意が下がるという事は、黒鉄全体にも大きな影響を与えるだろう。
なにせ『決戦班』たる三班は、黒鉄最強の部隊と言っても過言ではないのだから。
それでもあたしは動揺なんかしていなかった。
ここは黒鉄の街。
最後まで諦めなかった人々が流した、多くの赤い血が染み込んだ街。
そしてあたし達は、そんな街に集まった今も諦めない者達の集まりなのだ。
不安を感じる暇なんかないくらいやる事もたくさんある。
だからあたしには、会議なんていってもいつもの退屈な場と変わらない。
つまりいつも通りに、『オリヒメ』と睨み合うくらいしかする事がなかったのだ。
他のヤツらも動じてなどいないし、ムカつく事にオリヒメも平然と睨み返すだけで話なんか聞いてはいなかっただろう。
だから話し合いの成果なんか、オリヒメを悔しがらせたという事だけで構わないのだ。
それだけで少し幸せな気分でいられるのだから。
……ナナシが会議の間中、痛そうに呻いてはいたけどね。