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番外編・カクリの考察《世界情勢編》

今週は二回更新です。

番外編が混ざってはいますけど……。

来週全体的に手直しに着手します。




 私がこの考察をするに辺り、最も興味を惹かれ、好奇心が刺激される事柄はと言えば、やはり今の世界情勢を彩る歴史ついてであろうと思う。

 この世界の現状。

 この世界の裏側。

 この世界に至るまでの近代史。


 その中に埋もれたワード……変種、ヴァンプ、黒鉄。

 それら全ては、1つの出来事……いずれは《人という種》に起きたであろう事象が元にある。


 《進化》。

 あるいは《退化》。


 進化と退化は対語ではないから、我ら人種に近年起こった変化は進化とも言えるし退化とも言えるであろう。

 人も生物である限り、いずれは起きえた遺伝子レベルでの必定が今の世界を象っているのだ。


 変種……ヴァンプ、あるいはネオ《新人類》。


 この《変化した種》が人という種の次にある存在なのか、それとも終わりにある種なのかは分からない。


 だが、この《進化》には2つほど懸念がある。


 1つ目。この《進化》は一気に飛躍しすぎている事。

 進化というものを突き詰めて考えれば、これは実にゆるりと進むモノであるべきで、一足飛びに進むモノでは絶対に有り得ない。

 ゆるりと進化あるいは退化し続けて、人という種は──いやあらゆる生命体はあり続けているのだから。

 だが現在変種と呼ばれている種の出現は、今までの進化の過程では類を見ない形で世界に現れた。

 いきなり現れ、『しかも爆発的な速さで世界中に増えていっている』のだ。

 これが何を意味するのか?

 単なる進化なのか、あるいは別の何かなのか……




 もう1つの懸念は、最初のそれに比べても最悪にタチが悪い。破滅思想に近いかもしれない。

 私は基本的にネガティブな思考の持ち主なのは自覚している。

 考察者としてはそうあるべきだと思うし、策を練る際も最悪を予想して施すべきだ。だからこの性格は、きっと私には必要不可欠なモノで、欠点と言える部分ではないとは思っている。

 だが、この懸念を単なる妄想、いつもの後ろ向きな思考の延長だとは笑えない。


 進化の先にあるモノ──それを考えれば、さすがの私も震えが走るのを禁じえないのだ。

 進化の先にあるモノ、それは『死』であり『滅亡』であり『無』なのだから。


 それが遺伝子に組み込まれた自殺因子アポトーシスにより引き起されるモノなのか、あるいは他の事象によるモノかは分からない。

 だが、生命体の過度な進化は、いずれ確実に自らの種の死滅へと繋がっていく。

 それは今更、進化論などを持ち出さずとも分かり得る事だろう。


 もし我ら人の変種が、人の最終進化系だとしたなら、その先にモノは……。





 私はカクリ。世界を見るには小さくて、まだ幼い考察者。

 世界を憂う気持ちなどより、身近な者の安泰を願う女。

 後ろを向き、前を見て、ただ行く末を案じる者。

 その為に世界の全てを知る事を願ったただのカクリだ。






 現在の我が国の情勢は、そのまま世界情勢の縮図として当てはまる。

 世界では中心と呼ばれた大国が最初に倒れ、我が国では国の中心である首都が落ちた。

 そこから関連のある国、地方へと混迷が広がっていったのも全く同じだと言えるだろう。


 ──そしてその最初の混乱の中心に、どちらも1人のヴァンプがいたという事実もまた……。


 世界の中心と呼ばれた国では、若くしてその国の軍高官まで登りつめ、反乱を起こした『総統・リシャール・ベルナンド』が。

 我が国には関東地方の人々……その中でも現状に様々な不満を持つ変種、特に若い少年少女達を纏め、国の中央を力で制圧した『新皇』がいた。


 それら最初のヴァンプ──『ヴァンプの始祖』とも言える存在の起こした混乱は、加速度的な速さで各地に飛び火し、今の世界と日本がある。


 残念ながら『リシャール・ベルナンド』については、海外の情報も入らない現状では情報が少ない。

 それゆえに『新皇』について考える事によって他国──世界情勢を想像してみる事とする。


 新皇……その容姿はまだ若い少年、あるいは少女だとも言われ、ある筋では老人だとも言われるほどに、その名前が知れている割に謎が多い人物。

 我が国最初の『ヴァンプ種』であり、この国の『ヴァンプのオリジナル』とも言える個体なのに、彼──あるいは彼女の情報は驚くほど少ないのだ。

 誰もが……そう力ある変種達ですら、世界の流れに身を任せていた時勢に、最初に力を示して蜂起した人間。

 最初に行動を起こすだけの自信と、能力を持つ変種という事だと思われる。


 それだけでも『新皇』がいかに強い力を持っていたかが窺えるだろう。

 不安定な情勢の中、それでも平和に生きていた人々を、力に溺れた『ヴァンプ』へと変えるほどの力を持っていたのだ。

 その能力だけではなく、多数を惹きつけて止まないだけの魅力も持っていたハズだ。


 混迷する世界情勢だったとはいえ、短期間で1つの国の中枢を潰し、人々を掌握・支配したのはいかに強大な変種とて驚くに値する。

 圧倒的な能力と、人を惹きつけてやまないカリスマを持つ存在だという事は間違いない。


 恐らくリシャールもそんな存在なのであろうと私は考える。

 軍部を掌握した手腕と、反乱へと導いた絶大なカリスマ。

 そしてそこに、恐らく強大な変種としての能力が加わっていたのだと思われるのだ。

 地位という武器、名声という後ろ盾がリシャールにはあったが、新皇にはリシャールが起こした反乱に対する『人々の不安』という情勢が味方した。


 ──だが逆を返せば、『たったそれだけを後ろ盾に、国を崩壊に導いた』という事である。 それだけでこの2人が似ている、と感じるのは穿ち過ぎた意見だろうか?





 またこの新皇だが、現在は死亡したとも病で寝込んでいるとも言われている。

 あくまでも噂の域を出ないが、新皇が起こし率いている人々の集団が、正式に関東軍(神皇軍と自称する)として成立したのと同時期より、新皇は公の場には姿を見せていないらしい。

 現在では関東以外の各地方勢力間で、暗黙の内に領分を取り決め不可侵条約を結んではいる。だが、地方勢力でも最大勢力である神皇軍はそれに対しても沈黙を守っているらしく、『新皇死亡説』が流布する要因となっているようだ。


 この新皇……我が国最初のヴァンプについて分かれば、様々な疑問にも答えが見つかるのだろうが、すでに新皇の存在そのものが伝説化している節があり、いかな私とて調査は難航を極めていると言わざるを得ない。

 今では『新皇』という言葉自体が、関東軍の上層部──かつて新皇の側近だった者を指す言葉となりつつあるくらいだ。



 そんな彼について分かっているのは、まず『この国の始祖である事』、『姿は分かっていない事』、『強大な変種である事』、そしてそこから考えるに恐らくは『純正型』である事だけである。


 純正型……我が黒鉄でも今は『スズカ』1人しかいない希少発生型の変種。

 純正型は、かつての黒鉄を見渡してみても『アカツキ』しか他にはいない。

 ヴァンプでは、将軍もマスターシヴァも純正型だ、とかつてシャクナゲは語っていた。

 2人ともに対峙した事がある彼が言うのだから、恐らくその言葉に間違いはないだろう。

 そこから考えても、支配者層はほとんど『純正型』と考えても間違いないと思われる。



 なにせ彼らの力は圧倒的『過ぎる』。

 スズカは間違いなくシャクナゲやカーリアンを抑えて『黒鉄最強の変種』であるし、アカツキは黒鉄を起こしまとめ上げたリーダーだ。

 彼らは、その能力により出来る事が他者よりも断然大きいのだ。


 純正型は自然発生型と同じく生まれながらの変種である。

 生まれながらに能力を自然に持ち、高い身体能力を持つ。


 この2つの違いはただ一つだけ。


 『人とは違う姿、違う箇所を外観に持つ事』──それだけだ。


 アカツキの特徴は私も知っている。黒鉄に来た時──つまり最初に会った時に見せてもらったからだ。


 彼の金の瞳の虹彩が幾重にも重なっており、その黒目部分は円が幾つも重なったような瞳をしていたのを。


『君達には特別に見せてあげる』


 そう悪戯っぽく間近で笑っていた顔は今でも覚えている。

 不思議な色彩をした瞳と、整い過ぎる余り妖艶とすら表現できる顔立ち。そのルックスに反比例した、幼さが残る笑みが特徴的だった。


 もう1人の純正型……スズカの身体的特徴については分からない。きっとどこかにあるのだろうが、彼女はそれをひけらかしたりしないのだ。分かるワケもない。


 そんな下手をすれば見えないような小さな違い──でも人によっては大きな違いと感じるそれが『純正なる変化した人種』の証なのである。 つまり圧倒的な能力を持つ最強の変種達の証だ。




 また私の調査の先にはいつでも──どんな調査をしていてもアカツキの名前が一度は出てくる事も挙げておく。

 シャクナゲと並んで、我が黒鉄最初のコードフェンサー『アカツキ』。

 最初のコードと最初のヴァンプ。黒鉄の始祖とヴァンプの始祖。

 そして死亡説が流れている最初のヴァンプと、死亡した最初の黒鉄。


 ……この符合はあくまで偶然だろうか?最近はついそんな事を考えてしまう。

 私の周りの環境は、彼ら2人に大きく影響されているからなおさらそう考えてしまうのだろう。

 それが分かっていても、そんな考えが浮かんでしまうのだ。



 出来る事なら彼と一度じっくり話してみたい。彼と話せれば様々な疑問についての答えが得らるだろう。

 それが叶わぬ願いなのは分かっているけど。





 話を考察に戻そう。

 人間社会において重要なファクターを占める『文化』、あるいは『文明』についての考察に移る。

 ヴァンプの誕生以来、人類の文明レベルは極端に後退した感がある。

 今までの人間種よりも優れた知力や身体能力、あるいは空想の産物でしかなかった力を持つ『変種』が誕生したのに、文明レベルが下がった理由……これについて私なりの解釈を記す。


 現在の我が国の現状から言えば、ガソリンエンジン等や銃火器、火器管制系には大きな衰退は見られない。

 だが電気や水道、通信等のライフラインは混乱期に分断されたままとなっている。

 また各地に勢力が乱立した事により、地方それぞれの工業や特性までもが分断されたままである。


 恐らくこれは我が国だけに言える事ではなく、世界全体に当てはめて言える事であろう。

 また各地で起こるの紛争により、生きる為に必要な最低限の文明レベルを維持する事すら困難な事が理由として挙げられる。


 また変種が特殊な力を持ち、高い身体能力を持つ事も理由だと私は考える。

 変種の力には電子機器を操るモノ、銃火器などよりも強い攻撃力を持つ者がいる。また進路を制限される車などよりも早く動ける者もいる。

 つまりは下手な道具、文明の産物などより、変種個人の力が最大の力となりうるのだ。

 それゆえに支配者層である『元変種』……ヴァンプは、文明レベルの維持・向上には興味を示さず、最低限のレベルより動かないのだ。

 ヴァンプ共は勢力拡大にしか目を向けず、民衆はそれに抗う術を持たない。


 文明レベル向上を目指そうにも、施設や資源は支配者層に抑えられ、その支配者達も自勢力の維持と拡大にしか目を向けず、娯楽や芸能・芸術などは底辺レベルから動かない。

 いずれはこの国も落ち着き、文明レベルもかつてのそれに近くなろうが、この国だけが落ち着いても次は他国からの侵攻を受ける危険性がある。


 ……世界の混迷はまだまだ終わりが見えそうにない。



 新皇が──関東軍が順調に支配地域を拡大していれば、ひょっとしてとっくにこの国は落ち着いていたのだろうか?

 あるいは各地方軍が連合して関東軍に対抗し、より激しい戦火がこの国を焼いただろうか?


 そんなifの世界に想像を馳せるのも、考察者としては知的好奇心がくすぐられる。



 だがどんな可能性の世界であれ、我が黒鉄は立ち上がっていただろう。それだけは確信が持てる。

 アカツキには正直様々な疑惑を持たざるを得ないが、彼がどんな人物であれ、1つだけ不動の功績がある事は私も認める所である。


 黒鉄にシャクナゲを引き入れた事。

 私やカーリアンにはない『求心力』を持つ男を、黒鉄に引き入れた事。

 純正型である将軍やマスターシヴァを恐れない男を仲間にした事だ。

 彼がいるならばどんな可能性の世界であれ、黒鉄はヴァンプに抗うレジスタンスであり続けたであろう。


 これは考察者にはあるまじき事かもしれないが、絶対の確信を持って言える。




 次の考察では関東軍、各地方軍、日本、そしてこの3勢力から独立するレジスタンス『黒鉄』……中でも『シャクナゲ』と『将軍』について考えてみようと思う。


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