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13・ジ・ エンド オブ パーティー

週末はバタバタしてるので金曜更新です。週1更新だけは維持します。






 詳細な打ち合わせをする前に一旦休憩を挟む事となり、俺達はアオイが用意してくれた紅茶と干し菓子を食べていた。


 現在の状況……黒鉄の財政、食糧の問題などからして、旨い茶葉や甘い菓子類、デザートなどは高級嗜好品と化しているが、アオイは一般的な食材と僅かな甘味料で、なかなかのお菓子を作ってみせる。

 元の葉が持つ味の限界は超えなくても、安茶葉であれ作法に従って入れるだけで味も大分変わる。

 紅茶のゴールデンルールを身に付けた黒鉄も、ここまで優雅な所作で給仕ができる黒鉄も、もちろんお菓子作りが得意な副官もアオイぐらいしかいないだろう。


 これらは三班のメンバーからも非常に評判が良く、意外と甘党なスイレンなんかは『このお菓子を作れるだけで、アオイには副官の価値がある』なんて言っていたぐらいだ。

 黙々と干し菓子を口に運ぶカクリも、滅多に口に出来ない甘いお菓子に、口元を僅かに緩め口一杯に頬張って食べていた。

 見かけとは違い、これまた意外と甘党だったらしいカブトも、先ほどまでの話し合いでの雰囲気とは違い、上機嫌で干し菓子を口に運んでいる。


「カッ、アオイぃ〜!ウチのヤツらにもその菓子、いくつか包んでやってくんねえか?」


「……カーリアンにも」


 そうねだる2人にも穏やかに笑ってみせながら、小さくアオイは頷いていた。

 そんな三人の様子を見ながらも、内心では自分の副官の気配り──場の作り方に、俺は改めて感嘆の念を抱く。

 この気遣いこそがアオイのスゴい所だと実感させられたからだ。


 絶妙の間で雰囲気を和らげる方法を知っている。その事の重要さを知っている。それがいかに難しいかを知っていて、実践してみせるところがアオイの手腕だ。


 場を引き締めるだけなら誰にでも出来る。

 簡単な事だ。小難しい顔をして、大袈裟な所作を心がけてればいい。

 だけど、それだけでは連帯感は生まれない。

 実のある話し合いは出来ないのだ。

 その合間の息抜き……ちょっとした間をとる事こそが大事なのであり、それをアオイは知っているのだろう。


「シャクナゲはもういらないんですか?残りはカクリさんとカブトさんに包んで渡しちゃいますけど……」


「んっ……、もういいよ。ありがとう、アオイ」


 どういたしまして、そう笑う自ら片腕たる青年に、色々な意味を込めて笑いかけ……

 俺はお茶を啜った。

 ここからの話し合いが重要なんだ、そう自らに言い聞かせて。







「まず今回の作戦のキモは、ずっと反将軍・反関西軍を掲げている俺が戦線を離脱している、という事。だから残念だけど俺はここから動けない」


「おめぇはヤツらにとって目の上のコブだからな。それがいないってだけで、さぞ動きやすいだろうさ。んで?そっから具体的にゃどうすんだ?俺んトコが6班を監視するのは構わねぇ。どうやって『狐』共を動かす?」


 裏切り者を作戦名から『狐』と呼んだカブトは、つまらなそうに目を細めながらチラッとカクリへと視線を向ける。

 その辺りは俺ではなく彼女に聞いた方が早い、とカブトも理解しているのだろう。

 つまりは裏工作は彼女の分野、そう認識されているという事だ。


「……私が白鷺の調査を担当する。……アテならある。……絶対に裏を取ってみせる。……もちろん白鷺はシロだと思っているけど……その確証が得られなければ……それはそれで報告する。……その間に──」


「その間にヒナギクを通して、三班のメンバーに俺が重態だとほのめかす噂を流す」


 俺へと視線を向けてくるカクリの言葉を引き継ぎ、俺がそう言うと、カブトは小さく首を傾げてみせた。


「わざわざヒナッコを使うのかい?スイレンじゃなくてよ」


 その疑問は予想出来ていた。

 何せスイレンとヒナギクでは発言の重みが違う。

 表の副官がアオイだとするなら、裏の副官はスイレン。

 アオイがシャクナゲの右腕だとするなら、スイレンは左腕……そう認識されているからだ。


 そんな『水鏡のスイレン』のネームバリューが、班長達のそれにも負けないモノであるのに比べれば、『音速のヒナギク』の知名度は劣ると言わざるをえない。

 また実戦経験の面からしても段違いである。

 それを指摘したいのだろう。

 そんなカブトの疑問には、俺に代わりアオイとカクリが無表情を装って……あるいは無表情のままで答えた。


「スイレンを使って噂を広げるつもりはありません。彼女はちょっと有名過ぎます。それだけに周りから裏がある女性と見られがちですから。もし彼女が動いたならそれだけで警戒されかねません。そのせいで『狐』が動きを見せなければ、シャクナゲ離脱案はこちらの士気を下げるだけになりかねません」


「……だからヒナギク。……彼女にはシャクナゲが重態だと吹き込み……その上でそれを口止めをする。……そうすれば彼女はそれを意識し過ぎて……それが勝手に噂となる。……カーリアンも同じ。……2人共分かりやすいタイプだから」


 そう淡々と語る2人。だが、2人共冷静そうな見た目ではあるのに対し、その内面は正反対であろう。


 カクリはカーリアンを利用する事を躊躇わない。彼女の性格を読み、それを逆手にとって行動指針を決める事が別に悪い事だとは思っていないのだ。

 結果的にカーリアンさえ傷つかなければ、彼女自身を利用しても良しとしている節がある。

 もちろん自分以外の誰かが、カーリアンの性格を利用する真似をすれば、烈火の如く──いや、冷たい怒りの炎を燃やすだろうが。


 それに対してアオイは、仲間に対してそう言った割り切りが出来ないクチだ。

 ヒナギクを結果的に欺く作戦を、心情的に納得は仕切れてはいないだろう。

 2人とも参謀向きな性質と、班長補佐である副官に見合う手腕を持ってはいるが、そんな性格の違いからして補佐のスタイルは全く異なると言える。


 カクリが謀略を得意とし、裏で色々と動いて敵も味方も欺き、自班の優位を築くタイプなら、アオイは内政に力を入れ、味方の地力を上げる事で敵に付けこませないタイプと言えよう。


「なるほどな。つまり『口止めされて、不自然な態度が滲み出るヒナっこ』から、噂をひろげようって事かい。けどよ、それだと確実じゃねぇし、時間がかかり過ぎんだろ?」


 そんなカブトの疑問はもっともだが、その辺りに抜かりがある2人じゃない。


「もちろん噂の下地はこちらで整えます。すでにシャクナゲが何日も入院しているのもそうですし、私以外が面会出来ないのも噂を助長するでしょう」


「……それに明日……カーリアンを1人で班長会議に出すのも一手。……カーリアンは……ライバル視しているオリヒメに勝ち誇って……シャクナゲが『二班本部に』入院している事を吹聴する。……当然他の班長ないし、供の副官の耳にも入る。……ヒナギクの態度は……その情報の裏付けになればいい」


 そう淡々と語るカクリ。その言葉は推測を多分に含むモノでしかないが、恐らくその考えは間違っていない。

 カーリアンに悪気はないのだろうが、彼女は平然と『シャクナゲがずっと入院している』、『第二班本部(ウチ)で面倒を見てやっている』などと言いまわるだろう。

 そこに裏はない。彼女はそういったところがあるだけだ。後先考えきれていないというか、少し目先に捕らわれがちというか……

 カーリアンは決して馬鹿なワケじゃないんだけど、抑えが効かず、思った事や言いたい事が我慢しきれないところがあるのだ。

 その場にヒメ──四班のオリヒメがいたら、対抗心からそれにより拍車がかかる事だろう。


 彼女を少しでも知る人間ならば、そんな彼女の態度に裏があると思うモノはいまい。

 カーリアンはそんな裏工作が出来る人間ではないし、もし何かを画策していたら、即座にバレる分かりやすい性質(タチ)だ。

 そんな裏工作は、副官である『腹黒カクリ』の専門……そんな認識も、カーリアンの言葉の信憑性を増す事になる。


「……何か失礼な事を考えられた気がするけど……まぁいいわ。……ともかく明日はカーリアンだけを会議に行かせる。……私は『どうしても外せない用事』がある……そう言う事にする。……そうね、一班の連中……先の作戦の怪我人の面倒でも……見ている事にする。……だから明日のカーリアンは……すっごく舌の滑りが滑らか」


 チラッと俺を見てくるその瞳は、『あくまでも冷たい輝きを放ち』、それに小さく肩をすくめてみせる。


「そうなれば『狐』は動き出すだろう。いつまでも俺が動けないワケじゃないし、一班もやがては機能を取り戻す。『不死身』と言われるナナシならもう回復してるだろうけど、他のメンバーはそうはいかない。今が一番のチャンスだと思うハズだからね」


「……強行班と決戦班の2つが動けない、か。確かに『狐』や将軍からしたら魅力的だな。それに釣られて、動き出した所を──」


「押さえられたらいいけど、それが無理だったなら叩く」


 この状況で釣られないワケがない……とは思う。もし釣られないとしたらよほど注意深いか、あるいは単なる内通者ではないか……もしくはここにいる誰かがその『狐』だという可能性もある。

 そう思えるほどに状況は作りこまれていた。

 俺の負傷からここまで裏をかいた状況を作った少女を見ながらも、俺は小さく溜め息を漏らす。


 それでも2つほど問題があるとすれば、まずはカブトの五班や我が三班、カクリの二班にも『狐』の手の者がいる可能性だ。

 まぁカブトには絶えずアゲハかコガネが付いているだろうし、カクリはいつでもカーリアンにくっ付いているからまだ安心ではあるが。


 かの『幻影』は、カブトの部下らしく身内を守る時にこそその力の真価をみせるし、その教えはコガネにも受け継がれているだろう。


 カクリに手を出そうとしたなら、それこそご愁傷様としか言えない。

 彼女に傷一つでも付けたなら、カーリアンの怒りの炎に一欠片の炭になるまで黒焦げにされる事だろう。

 そしてアオイに関しても心配はしていない。

 この三人に関して言えば、よほどの手練れでなければ確実に返り討ちに出来る。


 だが、他のメンバーはそうもいかない。

 部外秘なのだから他に漏れる心配はそう高くはないだろうが、その意味でもこの策は秘密裏に進める必要がある。


 次の問題は──


「……シャクナゲは大人しくしてなさい。……もし抜け出したら逆さ磔だから」


「分かってる。分かってるからそんな怖い事を無表情で言うなよ」


 当分は暇って事だろうか。

 俺は相当情けない表情をしていたのか、アオイがおかしそうに笑い、カブトもそれにつられて──

 今日の話し合いは終わる。



 最後には了承してくれたカブトに、いきなりこんな作戦を持ちかけた事を何度も謝って。


 それと、利用する事になった『ヘルメス』に対して僅かな罪悪感を感じたまま──。


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