12・フォックスハント
今回は頑張って土曜日になってすぐに更新。
頑張って……というか今はまだ手直しだけなんですけどね。
知り合いから番外編……黒鉄が出来るまでとか、メンバーの日常みたいな話も書いてみたら?と言われ、それをちょこちょこ書いてみたりしてるウチに、気付いたら土曜日でした。
バトル小説風なのにバトルナシという革新的な小説(?)を脱却するいい機会かな、と。
読んでみたいか否かを感想にでも書いて頂ければ、こちらで載せるかどうかを考えてみます。
……お蔵入りな可能性が高そうですけど。
今回のあとがきは『カブト』
「まぁ、お前らがなんで六班のヘルメスを疑ってるかってぇのは分かった。消去法でいきゃアイツが残るってくらいはな。でもよ、実際は裏切り者なんていなくて、単に関西軍が警戒の網張ってるトコに、たまたま突っ込んじまっただけかもしれないぜ?」
まだ納得がいっていないのだろう、わずかに顔をしかめながらカブトはそう言うと、頭をボリボリと掻きながら壁にもたれかかりながら俺へと視線を向ける。
そのカブトの言葉には口を挟まないまま、カクリまでが無言で俺をジッと見やってくる。
その視線の意味は明らかだ。
──あくまでもカブトの楽観的な意見を否定してみせるのは、三班の長である俺の役目って事、か。
その考え……あんまり二班副官としては目立ちたくないという保身的な考えが分かり、思わず苦笑が浮かびそうになる。
さっきまで散々目立っておいて何を今更、という感が否めない。
同じ考えが浮かんでいるのだろう、アオイも苦笑を漏らしていた。
まぁ、二班副官の立場からすれば、身内を疑うようなリスクが大きい──ありていに言えば他班から疎まれるような件では、極力消極的な姿勢を取っておきたいのだろう。
カーリアンがその辺りに『かなり』無頓着な分、カクリは特にその辺りを気にしているように思える。
……まぁ、カクリの存在感自体は『あのカーリアンにも全く負けてない』し、二班の実権がカクリにあるのはすでに『公然の秘密』でしかないのだけど。
だが、俺が話を進めなければせっかくカクリ達が進めてきた作戦が無駄になる。それに俺には俺で少し思うところもあったから、苦笑と溜め息を同時に噛み殺した。
まぁ、カクリが俺に期待している役割は『カブトの説得』なのだから、ここでだんまりを決め込んだら後で何を言われるか分からない、というのも理由ではあったが。
「たまたま俺達が行動を起こす場所に、たまたま関西軍が警戒の網を張り、しかもたまたまヤツらは気まぐれで待ち伏せのような陣形を取っていて、偶然俺達がそこに突っ込んでいった……か?それはいくらなんでも無理があるだろう?」
内心の考えは出さないように気を付けながら、私情を一切挟まない口調でそう言うと、カブトの鳶色の瞳をジッと覗きこむ。
──お前の言葉は仲間を信じたいという甘さから出たモノじゃなく、冷静に班員や黒鉄に身を寄せる者達の事を考えた末の言葉なのか?
そんな意志を視線に込めて。
カブトは俺よりも十近く年長ではあるが、立場的には全くの同格だ。アカツキと並んで親友と言える間柄でもあるし、付き合いも同じぐらいには長い。
全く怯む事なくしっかりとその瞳を見据える。
こうなったら折れるのはカブトだ。カブトは決してバカじゃない。自分の意見の甘さぐらいは自覚しているだろうから。
「た、確かに偶然が過ぎるのは分からぁ。でもよ、漏れたのが俺達側──黒鉄内部からとは限らないだろうが?クリシュナのレジスタンス側からかもしれないぜ?」
「最初は俺もそう思ったよ。あっちにも話は通してあったしね」
カブトの意見に一応頷いてみせ、それでもカブトには口を挟ませないまま言葉を続ける。
「黒鉄の情報を売ってクリシュナ市民の待遇、生活環境の改善を将軍に交渉したんじゃないか……その可能性は確かにある。クリシュナの生活レベルは関西事変以前に比べればかなり低い。それに関西・中国全域がまだ紛争地帯でもある。少しでも改善を願い、黒鉄を交渉の出汁にした可能性はあるよ」
「だったら──」
「でも、いかにクリシュナのレジスタンス組織、『白鷺』が追い詰められていたとしても──あるいは早急な市民生活の向上を願っていたとしても、簡単に黒鉄を売って将軍と交渉しようなんて考えるかな?」
俺がこう思う理由は簡単だ。
説明するまでもなくカブトにも理由は分かるだろう。
理由は一つ、黒鉄がレジスタンス組織としては関西でも最大規模の組織だからだ。
いかに破棄された都市だとはいえ、一都市そのものを拠点として持つレジスタンスなど他にはいない。それを何年も維持している組織なんて、この国全土を見渡してもあるかどうか。
それに白鷺にとっては、黒鉄は近くにある同じ目的を持った大組織であり支援団体でもある。
関係も良好そのモノだし、今回のクリシュナへの潜入も、白鷺がクリシュナ内部にいるから狙いやすいという点を考慮しての事だ。
また白鷺は黒鉄ほど古い組織ではないが、数年に渡り活動してきた組織であるし、向こうのメンツとも面識がある。
もっと言えば、白鷺が小さくとも組織を維持していられるのは黒鉄があってこそだと言える。黒鉄が近くのカリギュラを抑えていなければ、クリシュナには粛正の嵐が吹き荒れるだろう。
レジスタンスは狩り出され、疑惑が持たれただけの市民達すら捕らわれる事になる。
しかし、黒鉄健在の間に無闇やたらとクリシュナ市民の反感を買えば、それは黒鉄にとってのつけ込み所になる。今は白鷺にも黒鉄にも関与せずに従っている市民達も、恐怖と力だけではすぐに抑えきれなくなるだろう。
そうなる事を恐れればこそ、今の段階では白鷺へのチェックが甘い。つまり近くに黒鉄という癌があるからこそ、クリシュナにある膿は見過ごされているという事だ。
はたしてそんな友好組織を売ってまで、自分達の地元をメチャクチャにした『将軍』と交渉しようと白鷺は考えるだろうか?
ましてや将軍がまともに交渉してくれる保障などないのだ。単に自分の首を絞める可能性が圧倒的に高い。
「でもヘルメスだって簡単に将軍の野郎と交渉しよう、なんて思うヤツじゃないだろうが。アイツもかれこれ黒鉄に入って1年は立つぜ?」
「そうだな。確かにそれは間違いない。別に俺だって疑いたいワケじゃないんだ。それだけは分かってほしい」
そう答え、疲れを含んだ溜め息を漏らす俺に、カブトも溜め息を返しながら頷いてみせる。
「……わぁってるよ。本来なら情報班である六班、ヘルメスに調査を依頼するような件だ。でもそのヘルメスに一応容疑がかかってるから、黒鉄の切り札でもある三班のお前が代わりを勤めてる。面倒くせぇ上に嫌な役目を被ってくれてんだろ?」
そう言うとカブトは考え込むように口を閉ざした。
カブトはその顔つきからしても厳ついし、それに見合った豪放な性格をしているが、仲間の事は誰よりも信じる男なのだ。
それゆえに仲間へと疑いの目を向けるという行為にはやはり二の足を踏むのだろう。
「……白鷺にも当然調査は入れる。……もし白鷺が裏切り者だったなら……私が絶対に尻尾を掴んでみせる」
「私は三班にいなければなりません。シャクナゲの代わりを果たしているポーズが必要ですから」
黙り込んだカブトに言葉を重ねるようにカクリとアオイがそれぞれ言葉をかけるが、そんな2人には目も向けず──ただ顔をしかめ、虚空を睨んだままでぼそりと口を開いた。
「……確認しておきてぇ。これは三班と二班、連名での協力依頼か?それともシャクナゲ、テメェが呼び出したからにはシャクナゲ個人からの指示と見ていいのか?」
「……俺には個人も班も切り離しては考えられないよ。ただ──」
カブトの言葉に含まれた意味が俺には分かった。
だからこそ、『返すべき答え』だけは即座に返せた。
ただ俺の内にずっとある答えと、カブトの望んでいるそれとは違っている事が分かっていたからこそ、俺はその先を言いよどむ。
「ただ……なんだ?」
「ただ言えるのは、俺はアカツキの代わりになるつもりはないって事だよ。それだけは絶対変わらない。だから俺個人から一班長に対して指示という形は取れないし、取るつもりもない。俺は……アイツとは違うんだよ」
カブトは恐らく、まだ俺に黒鉄の行動を指針する立場に立って欲しい……そう思っているのだろう。
アカツキ亡き黒鉄を引っ張る役割を俺に願っているのだと思う。
『オメェしかいねぇ!アカツキがいない黒鉄を守れるのは……将軍の野郎を潰せるのは、シャクナゲ……オメェしかいねぇんだ!!』
そう言って俺を説得しようとしたカブト。
あくまでもそれを固辞した俺。
その記憶が甦り、俺はカブトと視線を交錯させる。
あの時──アカツキが亡くなった時ほどではなくても、1つの班が半壊、かなりの人数が死傷した今回の件は、黒鉄にとって大きな痛手だ。
アカツキが亡くなった時は、カリギュラ全土が絶望に包まれていた。アイツが病に倒れる運命を皆が呪った。
その悲しみと絶望の深さは、アカツキの存在に見合うだけの敵、つまり将軍を暗殺するくらいしかこれからのカリギュラを維持する方法はない、と俺に考えさせたほど──そしてそれを単独で行動に移させるぐらいのモノだった。
残念ながら暗殺自体は失敗したが、その行動により仲間達にゲキは飛ばす事が出来たのは幸いだったと思う。
今回はそこまで大きなダメージを受けていないが、黒鉄メンバーやカリギュラの市民達の精神に深い影を落としているだろう。
だからこそカブトは、この協力要請を『シャクナゲ個人から五班への作戦指示』である事を望み、大打撃を受けた黒鉄を引っ張る決意を望んでいるのだと分かった。
カブトは事あるごとにそれをほのめかしてきたからだ。
「俺はアカツキとは違う」
──俺はずっとシャクナゲ。ただの徒花。ずっと俺はただのシャクナゲなんだ。
そういつも自分に言い聞かせている言葉を脳裏で繰り返しながら……。
俺の考えは変わらない──それを示す意味でも、その想いにより強い意志を乗せて言葉にする。
「俺はシャクナゲ。ずっとこれからもシャクナゲ。それ以外には生きる道なんかなく、それ以外の道も望んでいない」
──そう、俺の本心……ずっと俺を縛ってきた制約を吐き出すように。
だが、それ以上はカクリの手前で口にする事も出来ず、無理やり口元を笑みの形に歪めて皮肉げな表情をカブトに向ける。
「もし、これが個人として──友人としての頼みだとしたら……指示って形じゃなく、依頼や頼みだとしたらカブトは聞いてくれないのか?三班と二班共同の動きだとしても、黒鉄の事を考えて動いているのは変わらないというのに?」
その言葉と笑みを受けると、最初は困ったように顔を歪め、次に悩むように顎に手をやり、最後に諦めたように苦笑いを浮かべてから、カブトはそのゴツい肩をすくめてみせた。
「……カッ、かなわねぇな。わあったよ、何もやらねぇとは言ってねぇ。ひょっとしたら考えが変わってんじゃねぇかって期待しただけだ」
そう言ってヒラヒラと手を振ってみせてから、カブトは真面目な顔付きで頷いてみせた。
「六班の動きは俺んトコが監視する。アゲハならヘルメスにゃヒケは取らねぇ。コガネはもう一人のコード持ち、『マルス』に付ける。他のヤツにゃウチからも手練れを出す……それでいいんだろ?」
「あぁ。頼む。じゃあ作戦……『フォックスハント』について詳しく説明するよ」
フォックスハント……狐狩りと称した、裏切り者をあぶり出すこの作戦。
それは、考案から下準備までがカクリとアオイによるモノだが、ここは敢えて俺の考案によるモノかのように口火をきる。
カブトのような古参メンバーであり、発言力がある男を動かすには、同じ立場である俺でなければならないからだ。
そして俺の言葉に神妙に頷く3人を見ながらも小さく溜め息をつく。
アカツキ──あの無責任な親友さえいれば、俺がここまで苦労する事もないのに。
そんな繰り言を内心で浮かべながら。
そして……
──カクリには悪いけど、『狐』をあぶり出すのは俺なりのやり方をさせてもらうよ。
ま、しばらくは君の手の平で踊っているけどね。
俺は君にアカツキの代わり……『班の戦力の調査も調整もさせるつもりはない』から。
そんな事を素面で考えながら、チラッと無表情な少女を見やる。
まだカリギュラを任せるには幼過ぎる少女を。
カブト……黒鉄第五班の班長にして、シャクナゲと並んで古い『黒鉄』。29才。
特殊な能力を持つ強力な変種達に混じり、唯一力を持たない側でありながら1つの班を束ねている。
小柄でありながら筋肉質。汚れの取れないツナギと作業ベルト、頭に巻いたタオルがトレードマーク。
大型機械や火器などの武器に詳しく、整備班としては実質一番役に立つ男。
シャクナゲ専用の超大型バイク(後の番外編に出ます)バルバトスや、数少ない装甲車なども専属で整備している。
またカリギュラの防衛や、内部の治安などを守る班の長でもある為、武器の扱いにも手慣れており、それの扱いの手ほどきをしたりもする。
実戦では主に副官である『アゲハ』率いる精鋭が前面に立ち、彼は後方からの支援砲撃を担当してはいるが、それはアゲハに『長は後ろでどっしりと構えているモノ』と言われている為。
『シャクナゲはガンガン表に出てるじゃねぇか』とブツブツこぼしながらもその言葉に従う辺り、副官である女性が怖いらしいというもっぱらの噂である。
また、二班副官であるカクリに見つめられると居心地が悪いらしく、苦手としているのも有名であり、『女性恐怖症なのでは?』という噂もある。
スキル
機械知識・A
火器取り扱い・B+(一般の黒鉄……武器など握った事のない人間に教えられるレベル。爆発物の取り扱いにも長ける)
運転・B(自転車からショベルカーまで。建設重機はノリと気合いで動かすモノらしい)
整備・A
豪快・A-(ただし押しが強いというわけではない。むしろ弱い)
腕力・D+(変種に比べれば低いが、普通よりは強いレベル)
女性恐怖症・B-(噂になるレベル)
仲間想い・A+(カクリやアゲハには甘いと言われがち)
思い込み・B+(仲間想いでプラス補正。独断専行を助長する)
独断専行・C+(思い込みでプラス補正。昔からの黒鉄には標準装備?)
秘密・A(古くからの黒鉄であるだけに、アカツキやシャクナゲの過去やカリギュラが出来るまでの事、他メンバーの秘密なども良く知っている。その為カクリに目を付けられた……とは本人談)
口の堅さ・A(頑固ともいう)