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11・フィフスリーダー

ちょっと更新が翌週にズレ込みました。

祭りとかで周りがバタバタしてたモノで。






 ヒナギクが緊張の面もちで病室を退室した後、俺とアオイは揃って大きな溜め息を漏らした。


『誰にも──スイレンやヨツバにもシャクナゲの事は他言しないように』


 そう念を押されたヒナギクは、きっと俺やアオイが思っているよりも大きな重圧を感じているだろう。

 そんな彼女の心情を思えば、溜め息くらいは漏れるというモノだ。

 そうして罪悪感からの溜め息を2人して漏らし合うと、お互いの心情を見透かすように顔を見合わせて小さく笑いあう。


「ヒナギクには悪い事をしたな」


「えぇ……ですが、仕方ありません」


 そう笑いつつも、そっと顔を伏せる辺りからアオイの心情が垣間見える。


 まだヒナギクを──彼女の幼さを利用するような手を打つ事を後悔しているのだろう。彼女が適任と決めた自分を責めているのかもしれない。

 なにせアオイは、ヒナギクを本当の妹のように可愛がっているのだ。


 アオイの関西事変以前の過去を俺は知らない。それを知っているのは、俺よりも古くからの付き合いであるアカツキくらいだろう。

 だが俺が思うに、ひょっとしたらヒナギクを誰かと重ね合わせて見ているのかもしれない。

 それは俺の邪推に過ぎないかもしれないが、そう思わせるほどにアオイはヒナギクを可愛がっているのだ。

 班の為、そして黒鉄の為と言い聞かせても納得なんか出来なくて当たり前だ。

 それでも俺に対して笑って見せる彼に、俺はなんの言葉もかけられず……


 ぼんやりと今回の作戦──『狐狩り』と銘打たれた、内通者をあぶり出す作戦について話し合った昨夜の出来事へと思いを馳せていた。








「シャクナゲがここにいる……つまり療養しているという期間を、敢えて内通者に突かせようってのぁ分かった。コイツが動けないと見れば、なんらかの行動を起こしたくなるのは間違いねぇだろうからな」


「…………」


 部屋には俺とアオイ、カクリとさらにもう1人、今作戦について説明を受けたばかりの男の4人がいた。


 黒鉄第五班『整備・警備班』リーダーのカブトである。

 筋骨隆々とした体躯を持ち、その顔付きも精悍そのものだ。

 だが上背だけはやや小柄で、カブト自身もそれをコンプレックスとしているらしいが、その存在感はそれを補って余りあるモノだと言えよう。

 またそんな見かけとは違い非常に手先が器用であり、機械弄りや日曜大工のような作業が趣味であり特技という、『整備班』の長らしいスキルも持っていたりする。

 病室でもいつもと変わらない一張羅のツナギを着ており、今日も様々な工具がぶら下げられたベルトを付けたままだ。


 その性格も容貌通りに豪放磊落を地でいくカブトではあるが、今はちょっと困ったかのように顔をしかめ、俺とカクリを交互に見やっている。

 巻かれたタオル越しに頭をボリボリ掻きながらも、なんと言ったモノか悩んでいるようなその表情は、ゴツい顔立ちのカブトには余り似合っておらず少し笑えた。


「笑ってんじゃねぇぞ、ったく。まぁた勝手な真似しやがって。一言俺に相談してからにすりゃいいだろうが」


 俺の笑みの意味を正確に理解したのか、カブトはそう言うとプイッと視線をあらぬ方向へとそらす。そんな様子もまた笑いを誘ったが、その笑みをなんとか堪えて小さく謝罪する。


「……悪いな。でも今回はいい機会だったんだよ。カブトが俺達の作戦を知らなかったなら、他の班の連中が知るワケもないだろう?」


「ふん、だからって大したケガでもねぇ事まで隠して、こんな場所で隠れてコソコソやってんのは気にくわねぇ。……心配しただろうが」


 そうそっぽを向くカブトには本当に深い安堵が見えて──俺は無言で小さく頭を下げた。

 カブトが本当に俺の身を案じてくれていた、と分かるからこそ俺は素直に頭を下げたのだ。



 五班のカブトは、黒鉄七班の班長では唯一力を持たない側の人間だ。

 だが、それを引け目にも対抗心にも感じておらず、誰にでも平等に接する事を旨とする男である。

 だからこそ他班の者からの評判も非常によく、コードフェンサー達からも一目置かれているのだろう。

 単に古くからの黒鉄だ、というだけで班の長にと推挙をされたワケではないのだ。


 またアカツキと俺が変種を、カブトが力を持たない人を纏めたからこそ、今の『2つの人間種が共存する黒鉄』があると言っても過言ではない。それは全黒鉄共通の認識であろう。


 そんな古くからの付き合いであるカブトが今の俺の現状を知らないという事は、そのまま他の班の者達も『三班のシャクナゲ』のケガの具合が分かっていない、という事の証明になる。


「でもよ、俺にはやっぱまだ信じらんねぇな。あいつが裏切り者だなんてよ」


 素直に謝られた事で機嫌を直したのか、あるいは元からそれほど怒っていなかったのか、カブトが首を捻りながらそう言うと、それまで黙っていたカクリがスッと一歩前に出た。


「……まだ決まったワケではない。……候補は他にもいる。……でもやはり彼女を外しては考えられない。……彼女は情報班の長。……六班の目をかいくぐって外と秘密にやり取り出来る者は……黒鉄にもそんなにいない」


「そうだな。最低でもコードフェンサークラスの力を持つか、六班の制限を受けない班長や副官でなければ難しいと思う」


 俺がそう続けると、カクリはコクっと頷いてみせてからカブトへとその視線を向けた。

 その視線を受け、カブトはやや怯んだかのように顔をひきつらせる。


 ……恐らくカブトはカクリが苦手なのだろう。直接聞いてみた事はないし聞いても否定するだろうが、その態度を見ただけでもそれが分かる。

 当然カクリにもそれが分かっているのか、スッとすり寄るようにカブトへと近付いていく。


「……でもコードフェンサーの中で怪しいと思える存在は……調査だけでは確信が持てなかったアゲハと七班の連中だけ。……カブトの所のアゲハは……裏切り者じゃないよね?」


「あ、当たり前だ。アゲハのヤツぁ昔っから俺の右腕なんだぞ?もう1人のコガネのヤツは左腕だ!!黒鉄がどんなキツい時でも一緒に頑張ってきたんだ。それに将軍の野郎にゃあいつも借りがある。関西軍につく事だけは絶対あり得ねぇ!」


 すり寄る──というよりは詰め寄る小柄なカクリに、筋肉質のカブトが押し寄られる様子は滑稽で、思わず笑いがこぼれそうになるが、俺もそのカブトの意見に同意するように頷いてみせる。


「昔から神杜──カリギュラで関西軍に抵抗している連中は、何かしら将軍に含むモノがあるからな。もちろんそれだけで全面的に信用しろとまでは言えないけど、アゲハに関して言えば信用してもいいと思う。俺は五班班長であるカブトの言葉を信じるよ」


「そうですね。私もアゲハさんは良く知ってますが外していいかと思います。となると七班の連中ですが……」


 俺に続いてアオイまでがそう言うと、カクリはカブトをジッと見やったまま口を開く。


「……七班は存在自体が謎。……スズカ以外のメンバーは私でも知らない。……黒鉄唯一の純正型であるスズカが……裏切っていたならコトだけど」


「ス、スズカは裏切らねぇよ。あいつはシャクナゲにでっけぇ借りがあるらしいんだ。あの堅物な性格からして、それを返すまで裏切りはあり得ねぇ!」


 何故かカブトがカクリに尋問されているように見えるのは気のせいだろうか?隣で苦笑するアオイにもそう見えていたのか、彼は大きく肩をすくめていた。


「七班には他にコードフェンサーが2人いるけど、スズカには絶対頭が上がらない連中だからな。それに黒鉄にも関西軍にも興味がないのか、あの2人は必要最低限の事しかやらないんだ。そんな2人がスズカを裏切ってまで将軍についたとは思いにくい」


 そう俺が言うと、興味を引かれたのかカクリが俺へと向き直った。

 その後ろでカブトが盛大に胸をなで下ろしていたけど……


「……七班。……本当に謎。……純正型にも興味あるけど……構成員すら分からない組織形態……そこに興味がわく」


「七班のメンバーについては、班長や副官クラスでも知る者は限られているみたいですからね。私もスズカさんと2人のコードフェンサーしか面識がありませんし」


 アオイは別段変わりなく、カクリはやや興味深そうな様子で見てくるが、それに対しては肩をすくめるだけで返した。

 スズカが表に出ない理由なんて他人が聞いて面白い話でもなんでもない。それを勝手に人に語るのは憚られるが、別にそれほど特別な理由があるワケでもない事を俺は知っている。


「スズカは純正型とか変種とかの前に女の子だからね」


 だからそれだけを返すと、話を本筋へと戻す。

 この『女の子だから』という言葉こそが、スズカが人前に出てきたがらない理由なのは語らないまま。


「アゲハではない。七班でもない。カーリアンは元から『クリシュナ潜入作戦』については知らなかったし、一班は今回の件で大ダメージを受けた。ナナシもコードフェンサー2人も大怪我だ。じゃあオリヒメの所か六班になるけど」


 元より今回の作戦に参加した3つの班は、疑いから外して考えてもいいだろうと俺は思っていた。

 一班だけがダメージを受けた形にはなったが、それは運が良かっただけに過ぎない。


 報告によれば一班のナナシはかなり注意深く進行していたらしい。

 強行班である一班は、犠牲を出す事を前提とした前衛部隊だが、ナナシなりの予感か何かがあったのだろう。今回の作戦時は予定よりもかなり注意深く先へと進んでいたようなのだ。

 結果的に、そのナナシの注意深さに二班と三班は救われた事になる。


 先行させていた一班の索敵チームが敵の待ち伏せを発見し、やむを得ず戦闘に移行した。

 その戦闘中に連絡手段を潰されはしたが、俺達後続は連絡の不通から進行をためらった為に、関西軍の待ち伏せの中に突っ込まずに済んだのだ。


 まぁそのせいで一班は半壊の憂き目を見たのだが、待ち伏せを悟れたからこそ即座に防戦・撤退を選べたワケだし、半壊で済んだとも言えるだろう。

 この状況からしても今回はまだ運が良かっただけなのは明らかで、ナナシの勘と判断に救われた感が大きい。


 ならば裏切り者はこの3つの班にはいないのでは?そう考えるのが当然だろう。

 一班内部にいたのなら今回も半壊程度で収まらなかっただろうし、二班はカクリ以外作戦を事前に知らなかった。そして我が三班は、クリシュナの一番奥まで入りこむ予定だった班である。待ち伏せされたなら乱戦となるのは必定の班に、裏切り者がいたとは思いにくい。

 俺なら、内通者はもっと安全な班に潜入させる。その方が結果的に長く役に立つと判断するからだ。


「まず四班のオリヒメさんですが、彼女は黒鉄を裏切る事はあっても、シャクナゲの事を裏切りはしないと私は判断します」


「……ムカつくけど……それには同意」


 思考に耽る俺に、2人の副官がなんらかの意志の疎通をしあうと、意味ありげなその視線をこちらへと向けてくる。

 カブトはそんな2人を脇から見ながらボリボリと頭を掻き


「モテる野郎は羨ましいね、えぇ!?色男?」


 などと言いながら、白い歯を見せて二カッと笑ってみせる。


 さすがに3人が何を言いたいかぐらいは分かったが、それでも俺は苦笑し


「ヒメは命を助けられた借りは、絶対返すっていつも言ってるからね」


 とだけ返す事にする。

 もちろん3人の言いたい事が分かった上で。

 そして3人が呆れるのを承知でそう返したのだ。


 それが『シャクナゲ』のスタイルだし、何よりオリヒメの為だと思っているからだ。


 ……もちろん多少、自分の弱さに対する言い訳が混ざっているのも否定はしないけど。


 3人の呆れたような表情には気付かないフリをしたまま、俺はそんな事を考えて小さな息をつく。


 シャクナゲとしての自分の立場に逃げている……そう知っていて、そんな弱さや滑稽さに一番呆れているのが俺自身だと知っていたから。


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